『多動性』『移動する知性』|「アイデアと移動距離は比例する」(高城剛)をダニエル・ゴールマンと猪子寿之を参考に考えてみる。





■『移動する知性』|「アイデアと移動距離は比例する」(高城剛)をダニエル・ゴールマンと猪子寿之を参考に考えてみる。

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by fdecomite(画像:Creative Commons)

高城剛さんが言った「アイデアと移動距離は比例する」という言葉は、移動することによって、新しいものや文化を見て、経験したことからアイデアは生まれるというように解釈していた。

多分その考え方は間違っていない。

ただ、ダニエル・ゴールマンさんと猪子寿之さんの考え方を読んで、その言葉の印象は少し変わった。

フォーカス(著:ダニエル・ゴールマン)

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「新しいアイデアは、自分自身の内面で発想を許可しないと生まれてこないものです」と、セールスフォース社のCEOマーク・ベニオフから聞いたことがある。「わたしはオラクルの副社長をしていたとき、ハワイに行って、一か月間とにかくリラックスしたんです。そして、その時に自分のキャリアを変える新しいアイデアや展望や方向が見えてきたんですよ」

単純に読めば、「新しい土地でリラックスした生活を送ることで、アイデアや展望や方向が見えた」と読める。

この行動の中には変化がきっと起きているのだ。

何かを生み出すためには集中することが大事だ。

しかし、その前に様々な可能性をキャッチする「開かれた意識性」(フォーカスではこの言葉を使っている)を持つことによって、批判や決めつけをせず、ただ頭に浮かんだことを受け入れるということが欠かせない。

つまり、移動することによって、自分の内面の受け取り方が開かれたとも考えられるのだ。

もう一つ刺激を受けた考え方は、猪子寿之さんの考え方。

猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉第6回「もう一つの“体育”で、『身体的知』(身体を固定しない“知性”)を鍛えたい」

(2016/3/1、ほぼ日刊惑星開発委員会)

これまでの学校や知的な訓練って、身体を固定して、もっと具体的に言えば椅子に座って働かせる知性なんだと思うんだよ。

<中略>

「図書室は静かに」というじゃない。この言葉に象徴されるように、従来の知性というのは、まさに美術館でパースペクティブのある絵画を見るときのように身体を固定して、他者も意識していなくて、インプットの情報量がほとんどない中で大脳をフル回転させる知性なんだよね。そもそも文章や記号というもの自体が、情報量としてはバイト数のほとんどないものだしね。でもさ、一方でたとえば、「IQよりも社会性のほうが社会的成功には関連性がある」みたいな主張の論文なんかがあるんだよ。
 それって、「社会性」がバズワードになっているだけで、要は椅子に座っていなくて、図書館みたいな特殊な状況ではない――外部からのインプット情報が極めて多くて、目も耳も感覚を全て使っているような――状態での、人間の能力のことなんじゃないかな。

猪子寿之さんの考え方を自分なりに解釈すれば、次のようになる。

従来の知性というのは、身体を固定して働かせる知性が重視されていたが、その状態というのは、自分自身が固定されていた状態で、相手も意識していない状態のため、インプットされる情報量が限られている。

『身体的知』(身体を固定しない知性)というのは、自ら移動しながら(身体が固定されておらず)、相手を意識した状態であるため、そこには五感をフルに働かせたことでおびただしい量のデータのインプットが得られる。

つまり、自らが移動することで視点を変えることによって、アイデアのもととなるひらめきが生まれるのだ。

ほとんど誰もが同じ情報にアクセスできる先進社会においては、新しい価値は、独創的な統合、アイデアの斬新な組み合わせ、手つかずの可能性を開く鋭い問いかけ、などから生まれる。
創造的なひらめきによって、様々な要素が有用かつ新鮮な形で結びつけられた結果である。

フォーカス(著:ダニエル・ゴールマン)

新しいものを生み出すには、開かれた意識性をもって、移動し、人やモノと触れ合うことで、様々な可能性を探ることが重要なのだ。

この言葉を短い言葉にするときっと「アイデアと移動距離は比例する」ということになるのではないか。

そして、もう一つの視点として、「移動距離」についてはこのようにとらえることもできるのではないか。

例えば、経営に関するアイデアを経営書から出すのではなく、アイデアの源泉となるものとして古典のような離れたところからもってくることも「移動距離」に当てはまるのではないだろうか。







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■少し動くだけでも空間的な概念が海馬に刺激を与える

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海馬にとって一番の刺激になるのが、「空間の情報」。

少し動くだけでも空間的な概念が海馬に刺激を与える。

実際に動かなくても頭の中で移動を想像するだけでも刺激になる。

インターネットを見ていても海馬の刺激にはなる。

しかし、インターネットの欠点は、人間には五感があるけれども、インターネットでは眼と耳だけの刺激の世界になってしまう。

創造に限界が生じてしまうのがそこ。

インターネットを見ているだけでも、海馬は刺激されます。

ただ、インターネットの限界は、眼と耳の刺激だけに限られていることです。

自分の持つ五感すべてで感じることで、今までの創造の限界を超えることになるのです。

■場所は思考に作用する

「シャーロック・ホームズの思考術」(著:マリア・コニコヴァ)にはこのように書かれている文章がある。

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場所は思考に作用する。言うなれば、場所の変化が違う考え方へのきっかけになるのだ。深く染み込んだ関連を消してわたしたちを開放し、新しい関係を作ったり、以前には抱かなかった考え方や思考経路を探求できるようにする。

主人公は行動することによって、本来の自分を取り戻す・変わっていくように見えた。

しかし、実は、それは「場所の変化」が影響しているのかもしれない。

場所が変化したことによって、想像力が開放され、精神的は変化をもたらしたのではないか。

だからこそ、もし、非生産的な思考パターンに陥っていると感じたら、一度その場所から離れて違う場所に行ってみるといいのかもしれない。

■移動する知性

創造的なひらめきが浮かぶ直前、マインド・ワンダリングに関係する脳の領域が活発になることがわかっている。そして、興味深いことに、注意欠如障害を持つ人たちの脳を調べてみると、この部分が非常に活発なのである。注意欠如障害を持つ成人の場合、そうでない人に比べて独創的思考のレベルが高く、実際に創造的な成果を達成するケースも多い。ヴァージン・グループを築き上げた実業家リチャード・ブランソンは、自らを注意欠如障害を持ちながらも成功した例であると公表している。

アメリカ疾病予防管理センターの統計では、子どもの10パーセント近くに多動性に関連した何らかの障害がみられるという。成人になると、多動性は消失し、注意欠如障害が残る。成人の4パーセント前後がこうした障害を持つと思われる。レンガの新しい用途を見つける、というような創造的課題を与えられると、注意欠如障害を持つ人たちは、集中力が続かないにもかかわらず(あるいは、集中力が続かないからこそ、というべきかもしれない)、優れた結果を出す。

※マインド・ワンダリング(心の徘徊)とは精神活動の対象から注意がそれて徘徊する心の動きのこと。

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多動性を持つ人の中には、創造的なひらめきを持ち、様々な分野で成功した人が多い。

多動性がある人のことを障害を持つとあるが、なぜ人間には多動性という性質が遺伝されているのか。

それは、本来人間は移動する生き物=移動する知性だからなのではないだろうか。

つまり、そもそも人間は移動する知性なのだから、多動性という性質を持っていて当然なのだ。




【追記(2016/4/5)】

【追記(2016/5/16)】

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公開日時: 2018年12月7日 @ 16:43