なぜ人はSNSのフェイクニュースやデマ、陰謀論をシェアして拡散してしまうのか?





■なぜ人はSNSのデマや陰謀論をシェアして拡散してしまうのか?

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by micadew(画像:Creative Commons)

「見たいものだけを見て」疑わず拡散–2016年に注目を集めた英単語“Post-Truth”

(2016/12/29、cnet japan)

ソーシャルメディアの登場で「感情や個人的信念への訴え」が、さらにしやすくなり、「見たいものだけを見る」環境で感情が”増殖”されるようになった。

この文章の中にはソーシャルメディアの持つ特徴が2つ書かれています。

1.客観的事実や真実よりも感情が入ったニュースのほうが伝わりやすい

2.同じような考えを持つグループがSNS上でつながることで「見たいものだけを見る」環境になってしまう

1.客観的事実や真実よりも感情が入ったニュースのほうが伝わりやすい

2016年注目を集めた言葉に「post-truth」という言葉があります。

「post-truth」とは、真実を伝えるニュースよりも、感情に訴えかけて、人々の関心をあおりシェアされるニュースが求められるようになった時代になったことを形容した言葉で、オックスフォード英語辞典は「今年の単語(Word of the Year)」に、「post-truth」を選んでいます。

今年の英単語は「ポスト真実」(POST-TRUTH) 英オックスフォード大が選出

(2016/11/17、産経ニュース)

英オックスフォード大出版局は16日、今年注目を集めた英単語として「客観的な事実や真実が重視されない時代」を意味する形容詞「ポスト真実」(POST-TRUTH)を選んだと明らかにした。

あなたがネット(LINE・FACEBOOK・TWITTER)に書いた感情が伝染して世界を変えてしまうかもしれない!?で紹介したカリフォルニア大学サンディエゴ校、イェール大学、それにフェイスブックの研究者のチームが行なった米国の1億人以上の人々と、フェイスブックへ投稿した10億件のメッセージを対象にした新たな研究によると、ネット上で表わされた感情は人から人へと伝染する可能性があることが分かったそうです。

感情が人から人へと伝染することを「情動感染(じょうどうかんせん)」といいますが、直接会った人だけでなく、ネット上であらわされた感情も人から人へと伝染する可能性があります。

Facebookはこうした感情の伝染に対する影響がどれほどのものかを研究したいと思い、実験を行なったようですが、一部の人々からユーザーに無断でこのような実験を行なったことに対して批判があったようです。

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英国のEU離脱後の経済危機をインターネット・SNSが増幅してしまう!?で紹介したインディアナ大学情報科学・コンピューティング学科でソーシャルメディアとマーケットの研究をする科学者ヨハン・ボレンによれば、「マーケットが下落し始めるとすぐに、それは市場のムードに、そして大衆の心情に影響し、次いでそれがオンラインで増幅される」そうです。

恐慌や取り付け騒ぎというのは、人々が抱えている不安や本当かどうかわからない噂などによって、不安の感情が増幅され、社会全体が混乱を起こした状態のわかりやすい例ですが、インターネットやソーシャルメディアはそうした不安を増幅させる可能性があるということです。

『つながりすぎた世界 インターネットが広げる「思考感染」にどう立ち向かうか』(著:ウィリアム・H・ダビドウ)によれば、インターネットが推し進める環境では、物事は超高速で進展するため、問題はもっと早くに積み上がり、頻度も高くなるそうです。

つながりすぎた世界

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インターネットが物理的な結びつきをより強固で効率的なものにしている。

この21世紀の情報化社会の神経網は、情報を事実上ただで効率良く運び、かつて独立していたシステム同士を結びつけては相関関係を強めていく。

その結果、社会に存在する正のフィードバックは大幅に増幅される。事故が起きやすく、激しやすく、感染に対して脆弱な社会は、こうして生み出されるのである。

インターネット以前の社会では、情報の伝達スピードが遅いことが「ブレーキ」の役目を果たしていましたが、インターネット後の社会は情報の伝達スピードが速く、今出た情報もすぐに世界に広がってしまう可能性があります。

つまり、インターネットは情動感染・思考感染を促すのです。

ブレーキのような存在がなくなってしまった現代では、自らの判断力がそのブレーキの役目を果たす必要がありますが、世界的にパニックに陥った状況で、冷静な判断をするというのは大変難しいことだと思います。

そして、人々は無自覚に誤っているかもしれないフェイクニュースのような情報を拡散していることも分かっています。

現代人は読まない…。リンク先を見ずにリツイートしまくる人が大半であると判明

(2016/6/22、ギズモード)

リツイートがリツイートをよんでニュースは拡散しても、そもそもツイートに含まれているリンクから元のニュース記事へジャンプして内容を確かめたりしない人が、全体の59%にも達することが示されています。

米国のコロンビア大学、フランスのFrench National Instituteのコンピュータ・サイエンス共同研究チーが、Twitterで拡散されていく、CNN、New York Times、Huffington Post、BBC、Fox Newsへのリンク(短縮URL)が含まれたツイートを分析し、どのようにニュースがSNSの力で拡散されていくかの研究調査を実施したところ、元記事のリンクを読まずにリツイートしている人が全体の59%をしめていることがわかったそうです。

同研究チームのArnaud Legoutさんはこのようなコメントを発表しています。

記事を読むよりもシェアするだけで満足する人が増えている。これこそが現代の情報活用の典型的なかたちだ。ただ要約か、その要約の要約を見ただけで、それ以上は深く調べようともせず、人々の思考が形成されていく。

無自覚にシェアした記事で無意識のうちに思考が形成されていくというのは怖いことですね。

また、悪いニュースは、悲観的になるという感情をもたらすだけでなく、ストレスや不安、抑うつ症状を引き起こす!?によれば、ネガティブで暴力的な報道は、悲観的になる、または非難するといった感情をもたらすだけでなく、メディアの暴力と心理的影響を専門とするイギリス人心理学者デイヴィ・グラハム(Graham Davey)博士によると、ストレスや不安、抑うつ症状を引き起こす要因になるそうです。

2.同じような考えを持つグループがSNS上でつながることで「見たいものだけを見る」環境になってしまう

参考画像:不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~|経済産業省PDF

「見たいものだけを見て」疑わず拡散–2016年に注目を集めた英単語“Post-Truth”

(2016/12/29、cnet japan)

考え方が似た人が集まったFacebookの友達の輪では、情報拡散のスピードが速いという実験結果もある。「見たいものだけを見る」環境では、同意しない内容のものは無視するが、自分の信条と一致するものであれば、デマかもしれなくても疑うことなく拡散するのだ。

 そして同じような考えの人が集まったグループでは、メンバーの賛同を得ることで、自信を得て意見がどんどん極端になっていくともいう。

同じような考えを持つ人とSNS上でつながることがありますが、この状況下では「見たいものだけを見る」環境となることで、自分の考えと一致するものであれば、それが真実かどうかを疑うことなく拡散してしまう恐れがあります。

また、そうしたグループにいることによって、意見が極端になっていくこともあるようです。

IMTルッカ高等研究所のウォルター・クアトロチョッキさんが情報がSNS上(Facebook)でどのようなパターンで伝播するのかを調査した結果があるのですが、WIREDでは、その情報伝播に大きく影響するカギとして、「同質性」、「エコーチェンバー」、「確証バイアス」を挙げています。

●同質性

なぜネット上にはデマや陰謀論がはびこり、科学の知見は消えていくのか:研究結果

(2016/10/16、wired)

クアトロチョッキの研究では、科学的知見も、陰謀論やデマといった情報も、どちらも「同質性」をもつプラットフォーム内でしか伝播しないことがわかっている。

こちらの記事から自分なりに解釈すると、SNSでの人間関係は同じような価値観を持つ同士がコミュニティが作られており、その中で「情報」とはお互いの共感が得られる「媒体」としての役割を持っているそうです。

情報が事実かどうかが重要ではなく、その情報がコミュニティの連帯感を強化する道具としての役目を果たしているのです。

●エコーチェンバー(共鳴室)

なぜネット上にはデマや陰謀論がはびこり、科学の知見は消えていくのか:研究結果

(2016/10/16、wired)

クアトロチョッキが言うには、大多数の人々は、自分のオンラインアイデンティティからかけ離れた情報をSNS上でシェアしたり、“いいね”を付けたりすることはないという。つまり、いかに膨大な情報がオンライン上にあふれていても、目にとまり、読んでみる情報とは、個人のアイデンティティ、または人格にある程度沿ったものであるということだ。

また、「自分の価値観を否定するもの」や「目にしたくないもの」は、アンフォローなどで自主的に排斥される。このようにして、SNSプラットフォームは、あたかも自分自身の声が反響しているかのような“類友同士”の場となる。これが「エコーチェンバー(共鳴室)」と呼ばれる空間だ。

自分の行動を振り返ってみてもわかりますが、どんなにインターネット上に情報があふれているといっても、自分に関わりがある情報以外に対しては、シェアをすることはありませんよね。

また、自分の価値観とは違うものは自然と排除してしまいます。

つまり、自分がつながっているSNSというのは、ある種自分自身であるといえるかもしれません。

しかし、そのこと自体が偏った考え方を蔓延させてしまう原因になってしまいます。

まるで自分の声のように反響する意見は、そのコミュニティーの価値観を鋭利化し、同時に異論には抵抗を示すようになる。

かくしてSNSにおけるエコーチェンバー構造は、偏った思考や誤った情報を強化する役割を果たしてしまう。それがさらなるコミュニティーの分極化を促す結果となってしまうのだ。

自分が存在するコミュニティーの価値観を批判する声というのは、まるで自分自身の価値観が批判されていると感じてしまうかもしれません。

コミュニティーの価値観に対する異論に対して抵抗を示すということは、偏った考え方を強化してしまう恐れがあります。

クアトロチョッキが2015年に行った実験では、サイエンスコミュニティーにいる人たちは、あまり情報の拡散に活動的ではなく、積極的に「いいね」を付けたりシェアしたりはしなかったという。逆に陰謀論のコミュニティーで極性化した人たちは、より積極的に情報の拡散を行い、「いいね」やシェアをする傾向にあった。

今回「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表された論文によると、サイエンスニュースと陰謀論は、両方とも伝わる範囲が同質性の高いコミュニティー内であり、公開から約2時間前後に情報伝播速度のピークを迎え、そのあと沈静化するというパターンは変わらない。しかし、各情報が読まれ続ける期間に焦点をおくと、それぞれのエコーチェンバー内での伝わり方において、決定的な違いがみられたという。

サイエンスニュースに対しては、情報の拡散に積極的でなく、沈静化するのも早いのに対して、陰謀論に対しては、積極的に情報拡散を行い、時間とともに広まっていくそうです。

●確証バイアス

人々が、ある情報の真偽に対するリサーチをする目的は、すでに自分のなかで決まっている“答え”を確認する行為でしかない。ゆえに、最初から信念に反論する情報には目を通すことをしない。これが「確証バイアス」であり、偏った思考をつくり出してしまうものだ。

初めから結論ありきで情報を調べてしまうということは誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。

そもそも自分が期待する答えを覆してしまうようなことを調べるようなことをしないということが偏った思考を生んでしまう恐れがあります。

Walter il matematico e le bufale su Internet – Walter the mathematician and the Internet hoaxes

情報の妥当性の判断には、個人の内面的な部分、つまり育った環境や経験が大きくかかわってくる。陰謀論者が信じる情報が内包する社会的価値観とは、個人のアイデンティティというコアな部分に触れるものであり、自分が生きるための指標としてきた「世界観」を揺るがす“事実”を、人は簡単には受け入れることができないからだ。

情報に含まれている価値観というのは、自分自身の世界観に触れる存在であるため、その世界観を揺るがすような情報に対しては、人は簡単に受け入れることができないそうです。

観察を行うときには、人は自分が見たいように物事を見てしまうものなので、いかに自分自身を分離させるかが重要となります。

「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実」(シャーロック・ホームズ)

そして、観察し、あらゆる可能性を消去していって、最後に得られた結果がどんなに自分の考えと違ったとしても、それが真実なのです。

■まとめ

私たちは知らず知らずの間に間違っているかもしれない情報を拡散してしまい、その情報をもとに判断してしまう人もいるのかもしれません。

真実を見極める目を持つことが重要だといわれますが、これほど情報にあふれた世界では大変難しいことだと思います。

「魔王」(著:伊坂幸太郎)の中に

『おまえ達のやっていることは検索であって、思索ではない-。』

という台詞があります。

自分自身もこの台詞を読んだ後、何かわからないことがあったらすぐに検索してしまい、その情報が本当にあっているのかどうか考えることなくわかったような気になっているなと思わされました。

情報を知ることは大事ですが、その情報を選別し、そして自分の考えにまでするのには、長い時間がかかります。

「自分の中に毒を持て」(著:岡本太郎)ではこのように書かれています。

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人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。ぼくは逆に、積みへらすべきだと思う。財産も知識も、蓄えれば蓄えるほど、かえって人間は自在さを失ってしまう。過去の蓄積にこだわると、いつの間にか堆積物に埋もれて身動きができなくなる。

情報にあふれる世の中だからこそ、情報を収集することに追われるのではなくて、反対に情報を捨てていくことがこれからの時代を生きる上では大事なことなのではないでしょうか。

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【参考リンク】

  • 流言蜚語|寺田寅彦

    最初の火花に相当する流言の「源」がなければ、流言蜚語は成立しない事は勿論であるが、もしもそれを次へ次へと受け次ぎ取り次ぐべき媒質が存在しなければ「伝播」は起らない。従っていわゆる流言が流言として成立し得ないで、その場限りに立ち消えになってしまう事も明白である。







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