あくびが出るのは脳を冷やすため?|「なぜ副鼻腔が存在するのか?」の謎を解決するヒントにも

Yawn

by Nathan LeClair(画像:Creative Commons)




あくびが出るのは脳を冷やすため?

(2011/11/16、ナショナルジオグラフィック)

これまであくびに関しては、疲労から酸素不足まで、さまざまな理由付けが科学者によってなされてきたが、詳細な調査を行った者は誰もいなかった。

今まで、あくびをするのは、眠気が襲ってきたときに脳を目覚めさせるための役割があると思っていましたが、今回の記事によれば、あくびは脳を冷やすための役割があるそうです。

今回ハック氏はプリンストン大学のアンドリュー・ギャラップ氏との共同研究で、あくびによって上顎洞(副鼻腔の1つ)の仕切り壁が動いて送風機のように拡大・縮小し、脳に空気を送り込んで温度を下げるという理論を発表した。

ハック氏によると人間の脳は、ちょうどコンピューターのように温度に対して非常に敏感で、効率よく機能するには低い温度を保たなければならないという。

今回の研究は、ハック氏が以前集めたデータをギャラップ氏のデータと組み合わせている。

メリーランド大学歯学部のゲイリー・ハックとプリンストン大学のアンドリュー・ギャラップの共同研究によれば、脳が効率よく機能するには低い温度を保つ必要があり、あくびによって上顎洞の仕切り壁が動いて送風機のように拡大・縮小し、脳に空気を送り込んで温度を下げるのだそうです。

この理論・研究によって、もう一つの謎を解き明かすことができるかもしれないそうです。

その謎とは、「なぜ副鼻腔が存在するのか?」ということ。

◆副鼻腔の役割とは?

両氏の研究は、あくびの謎を解く鍵を示すだけでなく、なぜ副鼻腔が存在するのか、その理由も解き明かす可能性を持つものだ。これまで副鼻腔の存在理由については、明解な答えが見つかっていなかった。

今回の研究結果についてハック氏は、「あくび・副鼻腔換気・脳の冷却の3つがとても簡潔にまとまった統一理論だ」と語った。

「正体があまり明確ではない2つ(あくびと副鼻腔)が、直接関係するかもしれないというこの仮説は、個人的にとても興味を覚える」と耳鼻咽喉科医ライアン・スーズ氏は話す。同氏はピッツバーグ大学医療センターの睡眠外科医局長でもある。

今回の理論が正しければ副鼻腔が存在する謎が解決されそうです。

◆解剖から得たヒント

ハック氏のチームは2002年に死体解剖を行い、副鼻腔の1つである上顎洞の仕切り壁が、多くの医学書にある説明よりもかなり薄く、柔軟性を持っていることを発見した。

チームは、あごを動かした際に上顎洞の仕切り壁がたわみ、副鼻腔内の換気を行うと仮定した。「あくびは過度に大きな顎の運動で、これまで説明されていない人体のポンプ活動に何らかの役割を持つだろうという点から、常に上顎洞のことが頭にあった」とハック氏は説明する。

その後ハック氏は、プリンストン大学のギャラップ氏が書いた博士論文に出会う。

ギャラップ氏は2007年に、あくびの役割は脳の冷却にあるとの理論を初めて提唱した。

以来ギャラップ氏は、動物(その多くがあくびをする)と人間の両方で持論の検証を進めてきた。例えば、ネズミの脳にセンサーを埋め込み、あくびの前と最中とその後で、脳の温度がどのように変化したか記録するといった研究だ。

ギャラップ氏のグループは、あくびの直前に脳の温度が急上昇し、それから温度が降下し始めて、最終的にはあくび前の脳温度に急降下することを発見した。

この観察結果についてギャラップ氏は、脳の温度上昇によってあくびが引き起こされ、「実際に脳の冷却を促進する」ことを示すものだと話す。

さらに同氏は、慢性的なあくびの多発に悩む2人の女性について調査した。その1人はあくびの予兆を捉えることができたので、あくびの前後で彼女の体温がどう変化するのかを計測させてもらった。

そして、あくびの前に上昇した体温が、あくびの後で降下するという結果が出た。これは「ネズミの脳温度計測とまったく同じ結果」だが、「研究の事例が2つだけという点に、われわれは慎重になるべきだ」とギャラップ氏は述べる。

実際にハック氏も、「われわれは十分理解されていない領域に踏み込もうとしており」、あくびで脳が冷えるという理論は「大いに議論の余地がある」だろうとの見方を示した。

あくびで脳が冷えるという理論には議論の余地がまだまだありそうですが、人体の謎が解けるかもしれないということで、とても面白いですよね。

そして、今回の理論は人体の不思議が解明されるかもしれないというだけでなく、病気を診断する上での手がかりとなるかもしれないそうです。

◆あくびの新理論は医療にも影響

総合的にみてあくびの解明は、てんかんや偏頭痛といった特定の病状を診断する上で役に立つ手がかりとなり得る。どちらの病気も前兆として過度のあくびが起きるという。

さらにピッツバーグ大学のスーズ氏は、いずれ今回の発見が、不眠症患者の治療に役立つだろうと付け加えた。同氏は不眠治療にかけては米国で最も著名な医師だ。不眠症患者は体温の制御が上手くできない。眠気を催すには、体温の降下が条件になる。

「副鼻腔をすすいだり冷やすことで不眠を治す、何らかの仕組みを思い描くことができる。今回の仮説は、今までと異なる形で不眠治療を助ける可能性を示した」とスーズ氏は語った。

不眠症やてんかん、偏頭痛といった病気の治療に役立つかもしれないということで、今後もこの研究には期待したいところです。