「たくさん歩いた日やライブ・遠征の夜にクエン酸飲料を飲むと、翌朝の体が全然違う」
そんな投稿がSNSで話題になっています。
紹介されていたのは、クエン酸を2,700mg含む機能性表示食品のレモン飲料。投稿者は、よく歩いた日の寝る前に飲む習慣を続けたところ、翌日の疲労感がかなり違うと感じているそうです。
では、本当にクエン酸には「疲労をとる」働きがあるのでしょうか。
論文や機能性表示食品の科学的根拠をもとに、現在わかっていることを整理します。
■クエン酸とは?
クエン酸は、レモンや梅などに含まれる酸味成分です。
また、私たちの細胞が糖質や脂質などからエネルギーを取り出す過程には「クエン酸回路」という仕組みがあり、クエン酸はその代謝経路に登場する物質の一つです。
ただし、
クエン酸回路にクエン酸が登場する
=クエン酸を飲めばエネルギーがどんどん作られる
と単純に説明することはできません。
食べたクエン酸が、そのまま細胞内のクエン酸回路を加速させると考えるのは単純化しすぎです。「クエン酸回路に必要だから疲労回復に効く」という説明だけでは、効果の根拠として不十分です。
一方、クエン酸とエネルギー代謝の関係については研究されており、クエン酸摂取による疲労感への影響を調べたヒト試験もあります。そのため、「クエン酸回路とは無関係」ということでもありません。
重要なのは、「クエン酸回路にクエン酸が登場する」という生化学的な説明と、「クエン酸を摂取すると人の疲労感が軽減する」という臨床的な効果を分けて考えることです。
■ヒトを対象とした研究ではどうだった?
1.軽い運動前にクエン酸1,000mgを摂取した研究
2017年に発表された研究では、21~34歳の成人男性11人を対象に、軽い運動の前にクエン酸1,000mgを摂取する場合と、水を飲む場合が比較されました。
その結果、クエン酸を摂取した条件では、運動後の疲労感が低く、利き手の握力が高い結果となりました。また、体調アンケートでは「眠い」「全身がだるい」という回答も少なくなりました。
一方で、翌朝の疲労感については、クエン酸と水の間に有意差がありませんでした。今回のSNS投稿を考えるうえで、この点は重要です。
この研究からは「運動後すぐの疲労感を抑える可能性」は示唆されますが、「寝る前に飲めば翌朝の疲れが取れる」とまではいえません。
2.運動後のレモン果汁・クエン酸を調べた研究
2001年の研究では、運動経験のある健康な成人男性6人が、1時間の自転車運動をした後に、次のいずれかを摂取しました。
レモン果汁+グルコース
クエン酸+グルコース
グルコースのみ
・クエン酸は体重1kg当たり0.4gと、市販品1本よりかなり多い量だった
・クエン酸群、レモン果汁群、対照群のいずれも体重1kg当たり1.5gのグルコースを含む条件だった
・市販のクエン酸飲料をそのまま検証した試験ではない
レモン果汁またはクエン酸を摂取した場合、運動後に上昇した血中乳酸濃度の低下が早くなりました。
ただし、この研究には注意点があります。
・対象者が6人と非常に少ない
・市販品1本よりかなり多い量のクエン酸を使用している
・クエン酸だけでなく、多量のグルコースも一緒に摂取している
・調べたのは運動後60分までの血液成分である
・主観的な疲労感や翌朝の回復を中心に調べた試験ではない
そのため、「血中乳酸が早く低下した」という結果を、そのまま「翌日の疲労が取れた」と読み替えることはできません。
3.クエン酸2,700mgを継続摂取した研究
クエン酸の「継続摂取」について調べた研究もあります。
2007年に『薬理と治療』に掲載された研究では、疲労を自覚する人を対象として、レモンクエン酸を含む飲料を継続して摂取した場合の疲労感などへの影響が調べられました。
この研究について紹介する二次資料では、疲労を自覚している24人がレモンクエン酸2,700mgを含む飲料を8日間継続摂取し、主観的な疲労感の軽減傾向がみられたほか、作業効率に関する評価にも変化が認められたとされています。
ただし、対象者数が24人と小規模な研究であることには注意が必要です。また、この研究は「疲れた日の寝る前に1回飲んだら、翌朝どうなるか」を調べたものではありません。
むしろ、現在の機能性表示食品の届出表示にある「継続的な飲用で日常生活や運動後の疲労感を軽減する」という考え方に近い研究です。
したがって、この研究も「寝る前にクエン酸を飲めば翌朝の疲れが取れる」というSNS上の体験談を直接証明するものではありません。
4.625人を対象にしたプラセボ対照WEB調査もある
同じ2007年には、より多くの人を対象にした研究も報告されています。
『薬理と治療』35巻7号には、「レモンクエン酸の疲労感軽減効果―疲労感を自覚する625名を解析対象としたプラセボ対照WEB調査―」という研究が掲載されています。疲労感を自覚する625人を解析対象としたプラセボ対照WEB調査です。
なお、この研究には大阪市立大学大学院医学研究科の研究者に加え、ポッカコーポレーションなどに所属する研究者も参加しています。研究結果を読む際には、研究規模や試験方法とともに、こうした研究者の所属についても確認しておくことが大切です。
J-GLOBALの文献情報では、この研究の目的として、レモンクエン酸による疲労感軽減作用の再現性などを検討したことが確認できます。
ただし、今回確認できた公開情報では抄録の全文が表示されておらず、摂取したクエン酸量、摂取期間、具体的な疲労感の変化や統計解析結果までは確認できませんでした。したがって、公開情報だけから「625人を対象とした研究でクエン酸の疲労感軽減効果が確認された」と断定することはできません。
また、この研究も「疲れた日の寝る前にクエン酸を1回飲むと、翌朝の疲労が軽減する」というSNS上の体験談を直接検証した研究とは確認できません。
■乳酸は「疲労物質」なの?
以前は、運動で乳酸がたまることが疲労の原因だと説明されることがありました。
しかし現在では、乳酸を単純な「疲労物質」とみなす説明は適切ではありません。乳酸は運動時のエネルギー代謝によって生じ、別の組織でエネルギー源として再利用される物質でもあります。
2001年研究では「血中乳酸濃度の低下が促進された」と報告されています。しかし、血液中の乳酸濃度が早く低下することと、本人が感じる疲労や翌朝の回復が改善することは同じではありません。
「血中乳酸の変化」と、本人が感じる「疲労感」、筋肉の損傷、睡眠不足、脱水、エネルギー不足は、それぞれ分けて考える必要があります。
【クロ現プラス】乳酸革命|乳酸は”エネルギー源”|乳酸トレーニングを取り入れた競泳・萩野公介選手の肉体の秘密とは?【論文・エビデンス】
■機能性表示食品ではどう評価されている?
SNS投稿で紹介されていた「キレートレモン クエン酸2700(155ml)」は、クエン酸2,700mgを含む機能性表示食品です。なお、この155mlびんの商品はメーカー公式サイトでは2026年8月の終了商品と案内されています。
公式の届出表示は、
クエン酸は継続的な飲用で日常生活や運動後の疲労感を軽減することが報告されています
という内容です。1本にはクエン酸2,700mg、ビタミンC1,350mgが含まれています。
ここで注目したいのが、「継続的な飲用」という部分です。
商品の表示は「疲れた日の寝る前に1回飲めば、翌朝の疲れが取れる」とするものではありません。したがって、「よく歩いた日の就寝前に1本だけ飲み、翌朝の疲労感を軽くする」というSNS上の飲み方は、届出表示が直接示している摂取条件・効果とは異なります。
届出資料の研究レビューでは、無作為化比較試験4報が評価され、4報中3報でVAS(Visual Analog Scale:視覚的アナログスケール)による疲労感への肯定的な結果が認められました。このうち、クエン酸2,700mgを継続摂取したヒト試験も報告されています。
一方、評価対象が4報と少ないこと、研究方法に偏りが生じる可能性、VAS以外の評価指標が十分でないことなども限界として記載されています。
また、機能性表示食品は国が個別に効果を審査して認定する制度ではありません。事業者が安全性と機能性の根拠を消費者庁へ届け出て、自らの責任で表示する制度です。
なお、この商品の機能性は、商品そのものを使った臨床試験ではなく、機能性関与成分であるクエン酸に関する研究レビューによって評価されています。
■「翌朝が楽」という体感は否定すべき?
体感を「気のせい」と切り捨てる必要はありません。
今回の体験談について、次の要因が実際にどの程度影響したかはわかりません。ただし、クエン酸以外にも、体感に影響し得る条件があります。
・水分を補給した
・糖質を摂取した
・酸味や炭酸でリフレッシュした
・「これを飲めば回復できる」という期待があった
・飲んだ後にしっかり睡眠を取った
・その日の運動量や疲れ方が普段と違った
実際、「キレートレモン クエン酸2700」にはクエン酸だけでなく、砂糖、レモン果汁、ビタミンC、炭酸なども含まれています。1本のエネルギーは35kcal、炭水化物は9.5gです。
したがって、製品を飲んだ体験と「純粋なクエン酸単独の作用」は分けて考える必要があります。
■梅干しやサプリでも代用できる?
「クエン酸が含まれていれば、梅干しやサプリでも同じ」とは限りません。
研究や機能性表示食品では、
クエン酸の摂取量
飲む期間
飲むタイミング
対象者
運動条件
一緒に含まれる成分
などが決められています。
梅干しの場合は製品ごとにクエン酸量が異なるうえ、塩分も含まれます。サプリメントやゼリーについても、クエン酸量と摂取目安を確認する必要があります。
「梅干し1個なら同じ」「どのレモン飲料でも同じ」とは断定できません。
■以前の「梅に疲労軽減効果」という研究との関係は?
以前のハクライドウ記事では、2010年の報道をもとに、和歌山県の産学官共同研究で梅果実成分の肉体疲労軽減効果が示され、梅由来のクエン酸と梅酢ポリフェノールを併用すると効果が高まったと発表されたことを紹介しています。
ただし、過去記事には試験方法や対象人数、摂取量、原著論文などの詳細が掲載されていないため、今回取り上げたクエン酸単独の臨床試験と同列には扱えません。
■寝る前にクエン酸飲料を飲む場合に注意したいこと
機能性表示食品は、商品に書かれた1日の摂取目安量を守ることが基本です。
ただし、酸味の強い飲料を寝る直前に飲む習慣には別の注意点があります。
・酸性飲料を口の中に長時間残さない
・飲んだ後は水で口をすすぐ
・酸味で胃に不快感が出る人は、空腹時を避けるなど自分の体調に合わせる
・糖質やカロリーも確認する
・疲労感が長期間続く場合は、飲料だけで対処しない
特に、強い疲労が続く、休んでも改善しない、発熱、息切れ、動悸、体重減少などを伴う場合は、単なる運動後の疲労とは限りません。
■まとめ
現時点では、クエン酸の継続摂取や運動前の摂取によって、日常生活や運動後に感じる主観的な疲労感が軽減する可能性はあります。
ただし、研究数は少なく、小規模な試験も含まれています。
また、「たくさん歩いた日の就寝前に1回飲めば、翌朝の疲れが大きく軽減する」という摂取方法と効果は、今回確認した研究からは判断できません。
SNSの体験談は、クエン酸を試すきっかけにはなります。しかし、その体感がクエン酸そのものによるものか、水分、糖質、睡眠、期待感なども含めた結果なのかは、体験談だけでは判断できません。
疲れた日の基本は、食事、水分、睡眠、休養です。クエン酸についても、「飲めば疲労そのものが取れる」と考えるのではなく、疲労感を軽減する可能性のある選択肢の一つとして捉えるのがよさそうです。
【参考文献・資料】
河野良平ほか「低負荷運動直前のクエン酸摂取が血中乳酸値および疲労感へ及ぼす効果:無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験」薬理と治療 45巻3号、395-403、2017年。成人男性11人の試験で、運動後の疲労感には差が認められた一方、翌朝の疲労感には有意差が認められませんでした。
三宅義明ほか「ヒトにおけるレモン果汁およびクエン酸摂取が運動後の血中乳酸濃度に及ぼす影響」日本栄養・食糧学会誌 54巻1号、29-33、2001年。成人男性6人を対象とした運動試験です。なお、この研究には当時のポッカコーポレーションの研究者が参加しています。
消費者庁「https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/」届出番号D591
「届出番号D591の機能性・研究レビュー要約」
ポッカサッポロフード&ビバレッジ「キレートレモン クエン酸2700」。紹介されていたのは、クエン酸を2,700mg含む機能性表示食品「キレートレモン クエン酸2700」です。なお、今回参照した155mlびんの商品は、メーカー公式サイトで2026年8月の終了商品と案内されています。
消費者庁届出番号D591に関する研究レビュー。無作為化比較試験4報のうち3報でVASによる肯定的結果が報告される一方、論文数の少なさなどが限界として挙げられています。
梶本修身ほか「『レモンクエン酸配合飲料』の疲労を感じやすい健常者における抗疲労作用」『薬理と治療』35巻7号、809-819、2007年。
梶本修身ほか「レモンクエン酸の疲労感軽減効果―疲労感を自覚する625名を解析対象としたプラセボ対照WEB調査―」『薬理と治療』35巻7号、821-828、2007年。疲労感を自覚する625人を解析対象としたプラセボ対照WEB調査。
「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」
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この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。
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▶ 料理から見る健康
この街の考え方について
この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。
▶ この街の中心に置いている憲法を読む
投稿日: 2026年10月11日 09:10
