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NHK「あしたが変わるトリセツショー」こんにゃくのトリセツまとめ

2026年11月5日放送のNHK「あしたが変わるトリセツショー」のテーマは「こんにゃくのトリセツ」。

こんにゃくというと、

・栄養がなさそう
・味がしみにくい
・レパートリーが少ない
・メイン料理になりにくい

といったイメージがあります。

ところが今回の番組を見てみると、こんにゃくは「栄養がない脇役」ではなく、食物繊維を含み、調理方法によって味のしみ方や食感まで大きく変わる面白い食材だということが見えてきました。

■家庭でこんにゃくを食べる量が減っている

番組では、家庭でのこんにゃくの消費量が減っていることが紹介されました。

一方、こんにゃく芋は収穫まで約3年かかり、栽培や加工にも手間がかかります。

「栄養がない」「味がない」「料理のレパートリーが少ない」と思われて、家庭では脇役になっているこんにゃく。

そこで番組では、こんにゃくの魅力を改めて見直していました。

■「こんにゃくには栄養がない」は本当?

番組で注目されたのが、こんにゃくの食物繊維です。

こんにゃくはそのほとんどが水分なので、「栄養がない食べ物」というイメージを持っている人もいるかもしれません。

しかし、市販の板こんにゃくは100gあたり5~8kcal程度と非常に低エネルギーである一方、精粉こんにゃくで食物繊維約2.2g、生いもこんにゃくでは約3.0g含まれます。板こんにゃく1枚を250g程度とすると、約5.5~7.5gの食物繊維を摂れる計算になります。

■グルコマンナンについて少し補足

こんにゃく芋の代表的な成分として知られているのがグルコマンナンです。

グルコマンナンは、マンノースとグルコースからなる多糖類で、水を吸収してゲルを形成する特徴があります。

ここは少し注意したいところです。

原料段階のグルコマンナンは水溶性食物繊維ですが、一般的な板こんにゃくは水酸化カルシウムなどの凝固剤を加えて固めて作ります。そのため、「グルコマンナン=水溶性食物繊維だから、板こんにゃくもそのまま水溶性食物繊維」と考えるのは正確ではありません。 市販の板こんにゃくでは食物繊維の性質が変わり、主に不溶性として扱われています。

つまり、「こんにゃくには栄養がない」というより、低エネルギーで、食物繊維を摂ることのできる食品と考える方がよさそうです。

たんぱく質や脂質、ビタミンなどを豊富に摂る食品ではないので、こんにゃくだけで必要な栄養をまかなえるわけではありません。食事の中での役割が違うと考えるとわかりやすいですね。

■味がしみないこんにゃくには「からいり」

■

今回、家庭でもすぐ試せそうだったのが「からいり(空炒り)」です。

油を使わず、こんにゃくを数分炒ります。

こんにゃくから水分が出て、「キューッ」という音がしてくるのが目安。

その後で味付けすると、味がなじみやすくなります。

ポイントは、最初から油を使わないこと。

油で表面をコーティングする前に、まずこんにゃくだけをからいりします。

番組では山形の玉こんにゃくの調理法が紹介され、しらたきなどにも応用していました。

いつもの煮物でも、こんにゃくを切る → からいりする → 味付けするというひと手間を加えるだけなので試しやすいですね。

昔から料理をしている人にとっては当たり前のひと手間かもしれませんが、昔ながらの調理法にはちゃんと意味があったというのも面白いところです。

→ かみなりこんにゃくの作り方/こんにゃくの常備菜レシピ/ばあちゃんの料理教室

■こんにゃくが「もちもち」に? 番組開発の「こんもっち」

もう一つ面白かったのが、番組で紹介された「こんもっち」。

こんにゃくを細かくして片栗粉を加え、電子レンジで加熱すると、「もちもち・のびのび」とした食感に変身します。

基本は、

板こんにゃく 250g
片栗粉 大さじ2

こんにゃくをサイコロ状に切って細かくし、片栗粉と混ぜて電子レンジで加熱します。

番組では、

・もちもちこんにゃくドーナツ
・タピオカ風ミルクティー
・もちもちもなか
・蒸し春巻き
・「こんにョッキ」

などにも展開していました。

ここは今回の特集でも特に興味深いところでした。

「こんにゃくを何の料理に入れるか」ではなく、「こんにゃくの食感そのものを料理の素材として利用する」発想になっています。

こんにゃく由来のグルコマンナン自体、水を取り込んでゲルを形成する特徴を持つ多糖類です。こんにゃく独特の食感を生み出す性質については研究も行われています。

「こんにゃく=煮物」という固定観念を外すと、一気にレパートリーが広がります。

■こんにゃくは時代ごとに再発見されてきた

番組では、こんにゃくが昔からさまざまな形で見直されてきたことも紹介されました。

江戸時代には「砂おろし」とも呼ばれ、戦後には腹持ちのよい食品として注目され、平成にはこんにゃくゼリーがブームになりました。

そして令和では、「低カロリーだから食べる」だけではなく、「もちもち食感を楽しむ食材」へ。

そんな新しいこんにゃくの楽しみ方が出てきているのかもしれません。

「健康にいいから食べる」だけではない、こんにゃくの面白さ

こんにゃくというと、

・「低カロリー」
・「ダイエット」
・「食物繊維」

といった健康面が注目されがちです。

もちろん、それもこんにゃくの特徴です。

でも今回の「あしたが変わるトリセツショー」を見て、もっと面白いと思ったのは、「こんにゃくは調理方法によって性格が変わる食材だった」ということです。

からいりすれば、味がなじみやすくなる。

細かくして片栗粉と組み合わせれば、もちもち食感を楽しめる。

もちろん、昔ながらの煮物やかみなりこんにゃくにしてもおいしい。

つまり、「こんにゃく=脇役の煮物食材」と思い込んでいたけれど、実は使い方次第でかなり面白い食材だった。

これが今回の番組での「こんにゃく再発見」だったのではないでしょうか。

■こんにゃくを使ったHAKURAIDOUのレシピ

HAKURAIDOUでも、これまでいろいろなこんにゃく料理を紹介しています。

かみなりこんにゃくの作り方/こんにゃくの常備菜レシピ/ばあちゃんの料理教室
ばあちゃん直伝!舞茸とこんにゃくの煮物の作り方(材料・手順・コツ付き)・レシピ/10年後の体をつくる、ばあちゃんの整える煮物/ばあちゃんの料理教室こんにゃくでダイエット|低カロリーで満腹感を味わうことができ、食事を改善できたことから、体重・コレステロール値・血糖値が下がる|ためしてガッテン(NHK)さつま揚げとこんにゃくの煮物の作り方・レシピ/ばあちゃんの料理教室
昔ながらのこんにゃく料理と、今回紹介された新しい食べ方。

両方を試してみると、こんにゃくという食材をもう一度見直すきっかけになりそうですね。







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

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単発の健康情報やレシピの話ではありません。

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「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。

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更年期は「坂」ではなく「崖」だった? 100万人・3億件の検査データから見えた、閉経前後の体の変化

更年期の体の変化は、ゆっくり進むものだと思っていませんか。

生理が少しずつ不規則になって、女性ホルモンが少しずつ減って、体も少しずつ変わっていく。

そんな「ゆるやかな坂」のようなイメージを持っている人は多いかもしれません。

ところが2026年10月、医学誌 Nature Medicine に発表された大規模研究から、少し違う姿が見えてきました。

更年期の変化は、ゆっくりした坂だけではなかったのです。

最終月経の前後には、骨、コレステロール、肝臓、腎臓など、さまざまな身体のシステムが「一段、跳ぶ」ように変化する時期がありました。

研究者たちは、この変化を「生理的な崖(physiological cliff)」と表現しています。

ただし、本当に興味深いのはここからです。

その「崖」は、何の前触れもなく突然現れるわけではありませんでした。

身体の中では、最終月経の10年以上前から、すでに長い助走が始まっていたのです。

■比べる「物差し」を変えたら、景色が変わった

今回の研究が面白いのは、単に大勢の女性の血液検査を調べたことではありません。

研究チームは、人を比べる物差しそのものを変えました。

これまでの研究では、「何歳なのか」を基準に身体の変化を見ることが一般的でした。

ところが、閉経する年齢は人によって違います。

48歳で最後の月経を迎える人もいれば、55歳で迎える人もいます。

すると、同じ50歳でも、「まだ最終月経の前にいる人」と「すでに最終月経を迎えた人」が混ざります。

それをすべて「50歳」という年齢で平均してしまえば、閉経前後に起きている変化がぼやけてしまう可能性があります。

そこで ワイツマン科学研究所などの研究チームは、米国とイスラエルの100万人を超える女性、3億件を超える臨床検査データを解析しました。

そして「何歳か」ではなく、「最終月経から何年前・何年後なのか」という軸に並べ直したのです。

実はこの方法、天文学からヒントを得ています。

望遠鏡で撮影した画像のゆがみやぼやけを数学的に補正して、より鮮明な像を得る。

それと似た考え方で、閉経年齢の個人差によってぼやけていた医学データを補正したのです。

すると、これまで「なだらか」に見えていた変化の中から、あるものが浮かび上がりました。

「段差」です。

■90項目中52項目に「一段、跳ぶ」ような変化

米国のデータでは、調べられた90種類の臨床検査のうち、52項目で最終月経付近に統計的に有意な急激な変化が確認されました。

変化は性ホルモンだけではありません。

骨の健康、肝機能、腎機能、血液生化学、血中脂質など、身体のさまざまなシステムに及んでいました。

そして重要なのは、同じ年代の男性には同様の急激な変化が認められなかったことです。

つまり、単純に「50歳くらいになると誰でもこうなる」という加齢だけの現象では説明できません。

最終月経という女性特有のライフイベントを中心に、全身の生理的な状態が切り替わる時期があるのではないか。

今回の研究は、そんな可能性を大規模なデータから示しました。

坂だと思っていたら、途中に階段があった。

今回の研究が描き出した更年期の姿は、そんなイメージに近いのかもしれません。

■ところが「崖」への助走は、10年以上前から始まっていた

ここが今回の研究で、さらに興味深いところです。

「最終月経のところに崖がある」と聞くと、それまで普通だった身体が、ある日を境に突然変わってしまうように感じます。

でも、そういう話ではありません。

性ホルモンを見ると、変化はずっと前から始まっていました。

研究では、

・AMH(抗ミュラー管ホルモン)は、最終月経の約15年前から減少が加速
・FSH(卵胞刺激ホルモン)は、約14年前から上昇が加速
・エストラジオールは、約12年前から低下が加速

していました。

つまり、「崖」と「長い助走」は、矛盾していません。

身体の変化は10年以上前から少しずつ加速していく。

そして最終月経付近になると、一部の検査値では、それまでの傾きだけでは説明できない「段差」のような変化が現れる。

これが、今回の研究から見えてきた更年期の姿です。

■40代は「まだ先」ではなく、助走の時期かもしれない

そう考えると、40代という時期の見え方も少し変わってきます。

閉経する年齢には個人差がありますから、「40歳になったら更年期が始まる」という意味ではありません。

一人ひとりに同じ変化が、同じタイミングで起きるわけでもありません。

ただ今回の研究では、最終月経より10年以上前から、一部のホルモンの変化が加速していました。

ですから40代は、「更年期はまだ先だから何もしなくていい時期」ではなく、将来の変化に向けて身体の状態を意識し始める時期と考えてもよさそうです。

ここで大切なのは、「もう更年期が始まっている」と怖がることではありません。

むしろ逆です。

10年以上の助走期間があるのだとすれば、私たちには準備する時間があるということだからです。

■「老化の波」の話と重ねてみると面白い

ハクライドウでは以前、「人の老化はずっと一定の速度で進むのではなく、特定の年代に大きな変化が現れるのではないか」という研究を紹介しました。

→ 加齢の急変点 についてはこちら

2019年の Nature Medicine の研究では、血液中のタンパク質を調べた結果、34歳、60歳、78歳付近に大きな変化の波があることが報告されました。

今回の研究は、それとは違う物差しを使っています。

以前の研究は「年齢」。

今回の研究は「最終月経」です。

ここから、とても面白い問いが生まれます。

年齢だけで人を並べると「ゆっくりした加齢」に見えていたものの中に、実は閉経などの人生の大きな生理的イベントに結びついた段差が隠れているのではないでしょうか。

もちろん、「60歳の老化の波の正体は更年期だった」という話ではありません。

平均的な閉経年齢とも一致しませんし、研究そのものも別のものです。

ただ、物差しを変えると、身体の変化の見え方そのものが変わる。

これは、今回の研究の非常に面白いところだと思います。

■骨やコレステロールの変化も「自分のせい」だけではない

この研究を生活者の立場から見ると、もう一つ大切な気づきがあります。

40代から50代になると、健康診断で、

「去年よりコレステロールが上がった」

「骨が気になるようになった」

「肝機能や腎機能の数字が少し変わってきた」

と感じることがあります。

すると、

「食生活が悪かったのかな」

「運動不足だからかな」

「年を取ったから仕方ないのかな」

と思いがちです。

もちろん、食事や運動、体重、飲酒、病気など、検査値に影響する要因はいろいろあります。

でも今回の研究を見ると、最終月経という生理的イベントそのものに合わせて、多くの検査値が動く可能性も考える必要があります。

「自分が何か悪いことをしたから数値が変わった」とだけ考えるのではなく、身体が大きな転換期を迎えている可能性もある。

そういう見方を持っておくことも大切なのではないでしょうか。

■フェリチンにも「段差」があった

今回の研究で変化がみられたものの一つが、体内に蓄えられた鉄の状態を知る手がかりになるフェリチンです。

実際、この論文ではフェリチンが、年齢だけで見る場合と最終月経を基準に見る場合の違いを示す代表的な例として使われています。

閉経すると月経による定期的な鉄の喪失がなくなるため、鉄の状態もそれまでとは変わってきます。

ただし、フェリチンは単純な「鉄の貯金メーター」ではなく、炎症などによっても高くなることがあります。

そのため、月経のある時期と閉経後では、同じフェリチンという数字でも、その背景を考えながら読むことが大切です。

2026年の American Society of Hematology(ASH) のガイドラインでは、成人などについて血清フェリチン30ng/mL以下を鉄欠乏の診断閾値としています。

→ フェリチンと鉄不足 について詳しくはこちら

今回の記事ではフェリチンそのものを深掘りするより、「検査値は単独の数字だけでなく、人生のどの時期にいるのかという文脈と一緒に見る必要がある」ということを覚えておきたいと思います。

■ホルモン療法を受けていた人では「段差」が小さかった

今回の研究には、もう一つ興味深い結果があります。

更年期のホルモン療法(MHT)を受けていた女性では、こうした変化が全体として小さく、特に骨、肝機能、腎機能に関連する測定項目で変化幅が小さい傾向が認められました。

ただし、ここは慎重に読む必要があります。

今回の研究は、「ホルモン療法をするグループ」と「ホルモン療法をしないグループ」に研究者が無作為に振り分けて比較した試験ではありません。

そのため、「ホルモン療法をすれば更年期の崖を防げる」とまで言うことはできません。

Nature Portfolioの解説でも、ホルモン療法の影響については今後さらに研究による確認が必要だとされています。

治療が必要かどうかは症状や既往歴などによっても変わるため、医師と相談して判断するものです。

■この研究だけでは分からないこと

100万人以上、3億件以上という数字を見ると、ものすごく確かな研究のように感じます。

ただし、大規模だからといって、何でも分かるわけではありません。

今回の研究には注意点もあります。

・一人の女性を10年、20年、30年と追跡して身体の変化を記録した研究ではなく、大規模な横断データから最終月経前後の軌跡を計算によって再構築しています
・最終月経について自己申告された情報なども利用されています
・集団全体として見つかった「段差」であり、すべての女性に同じ変化が同じ大きさで起こるわけではありません
・ホルモン療法と変化の小ささに関連はみられましたが、今回の研究だけで因果関係までは証明できません

Nature Portfolioの解説でも、遡及的データや自己申告による閉経情報を利用した研究であることなどが注意点として挙げられています。

だから、「更年期には必ず大きな崖が来る」と考える必要はありません。

研究によって見えてきたのは、集団全体を眺めたときの新しい地図です。

一人ひとりの人生が、その地図どおりになるという意味ではありません。

■「崖」が見つかったことは、怖い話なのだろうか?

「更年期の崖」。

言葉だけを見ると、少し怖く感じます。

身体が突然悪くなるようにも聞こえます。

でも今回の研究を、反対側から見てみるとどうでしょう。

変化が集中しやすい時期が分かった。

そして、「その10年以上前から助走が始まっていることも分かった。」ということでもあります。

ワイツマン科学研究所のUri Alon教授も、今回の研究によって予防的なケアを考えられる期間が、閉経のほぼ10年前まで広がる可能性を指摘しています。

そう考えると「崖」は、恐れるべきものというより、「このあたりで身体が大きく切り替わる可能性がありますよ」と教えてくれる目印なのかもしれません。

■40代から、何を準備すればいい?

●骨

骨に関係する変化は閉経付近で大きく動きます。

閉経してから突然骨を意識するのではなく、その前から運動や栄養、必要に応じた骨密度検査について考える意味があります。

→ エクオールと骨・血管 についてはこちら

●コレステロール

閉経前後の脂質の変化には、食生活や運動だけでなく、ホルモン環境も関係します。

健診の数値を前年と比較しながら、必要であれば医療機関で相談することが大切です。

●肝臓・腎臓

今回の研究では肝機能、腎機能に関係する項目にも変化がみられました。

一つの数字だけを見るのではなく、毎年の健診結果を残し、自分自身の変化を時系列で見ることが役立ちます。

●鉄・フェリチン

月経がある時期には、鉄不足を見逃さないことが大切です。

一方、閉経後は月経による鉄の喪失がなくなるため、鉄を取り巻く環境そのものが変わります。

同じ検査値でも「今、自分がどのライフステージにいるのか」を含めて考えることが大切です。

■まとめ 「崖」があるなら、助走の間に準備できる

今回の研究で一番興味深いのは、「更年期は急激に変わる」ということだけではありません。

むしろ、「ゆっくりした坂」と「急な段差」が、一つの身体の中に同時に存在していたということではないでしょうか。

今回の研究から見えてきたことをまとめると、

・更年期の身体の変化は、緩やかに続くだけではない
・最終月経付近では、全身のさまざまな検査値に「一段、跳ぶ」ような変化がみられた
・しかし、その変化の助走は10年以上前から始まっていた
・年齢ではなく「最終月経」という物差しで見ることで、これまでぼやけていた変化が見えてきた
・だから40代は、更年期を怖がる時期ではなく、これからの身体について考え、備え始める時期と捉えることもできる

ということになります。

更年期は、ゆっくり下っていく坂だけではなかった。

長い助走があり、その途中に身体が大きく切り替わる「段差」がある。

その場所が少しずつ見えるようになってきたのが、今回の研究なのだと思います。

崖があることを知るのは、怖がるためではありません。

どこに変化が起きやすいのかが分かれば、その前から準備ができる。

40代は「更年期はまだ先」と何もしない時期ではなく、これから長く付き合っていく自分の身体を、一度見直してみる時期なのかもしれません。

→ 更年期障害の症状・原因・チェック について詳しくはこちら

【参考文献】
Pridham G, Hayut Y, et al. Population-scale reconstruction of menopause dynamics reveals a physiological cliff at the final menstrual period. Nature Medicine. 2026;32(10):3823-3831. doi:10.1038/s41591-026-04614-0. 2026年10月12日オンライン公開。
ワイツマン科学研究所「Menopause: More Than a Slow Change, It’s a Sudden Shift Across the Body」. Published October 12, 2026.
Lehallier B, et al. Undulating changes in human plasma proteome profiles across the lifespan. Nature Medicine. 2019;25(12):1843-1850. doi:10.1038/s41591-019-0673-2.
Powers JM, Lim MY, et al. American Society of Hematology 2026 guidelines for diagnosis of iron deficiency. Blood Advances. 2026;10(21):7353-7374. doi:10.1182/bloodadvances.2025015950.

【関連記事】
エストロゲンには抗炎症作用があり、閉経でそれが失われると慢性炎症が広がり、病気のリスクが高まる!







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痩せ型脂肪肝(lean MASLD)とは?肝臓の線維化が進んでいる人では、死亡のリスクが約2倍、重い肝臓病のリスクが約4倍に!

健康診断の結果を見て、こんなふうに思ったことはありませんか。

「体重は標準なのに、なぜ脂肪肝?」
「お酒も飲まないし、太ってもいないのに……」

脂肪肝というと、「太っている人」「お酒を飲む人」の病気というイメージが強いと思います。

実際、テレビでも「やせ型で規則正しい食生活を送っていた40代女性が脂肪肝と診断された」という事例が紹介され、ハクライドウでも以前、隠れ脂肪肝の記事で取り上げました。

→ 【隠れ脂肪肝/純烈リーダー酒井さん脂肪肝と診断された過去/やせ型で規則正しい食生活の40代女性も脂肪肝と診断】 についてはこちら

では、痩せている人の脂肪肝は、太っている人の脂肪肝より「軽い」のでしょうか。

2026年9月、この疑問を考えるうえで非常に大きな研究が発表されました。

■痩せ型脂肪肝(lean MASLD)とは?

脂肪肝のうち、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症などの代謝の異常を伴うものを「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」と呼びます。

2023年に脂肪性肝疾患の新しい分類が提唱され、従来NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていた病気の多くは、現在「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」という新しい概念で整理されるようになっています。

そのMASLDの中で、肥満ではない人に起こるものを「lean MASLD(痩せ型MASLD)」と呼びます。

アジア人ではBMIが低くても内臓脂肪や代謝異常がみられることがあり、体重やBMIだけでは肝臓の状態を判断できません。

そのため、「見た目は痩せているのに肝臓に脂肪がたまっている」ということが、日本人では珍しくありません。

■世界41か国、18,326人を調べた研究

2026年9月30日、米国医師会の学術誌「JAMA」に、世界41か国で肝生検(肝臓の組織を採取して調べる検査)により診断されたMASLD患者18,326人のデータを解析した国際共同研究が掲載されました。

横浜市立大学の小林貴助教、中島淳名誉教授らが参加しています。

この研究で分かったことは、次の3つです。

1.痩せ型は全体の6.7%、糖尿病や線維化は少なかった

肥満でない人は全体の6.7%でした。肥満の人に比べて、2型糖尿病は少なく、肝臓の線維化(炎症が続いて肝臓が硬くなっていく変化)が進んだ人の割合も低いという結果でした。

ここまで聞くと、「やっぱり痩せ型の方が軽いのか」と思うかもしれません。

2.しかし、死亡や重い肝臓病のリスクは肥満の人と差がなかった

ところが、死亡や、肝がんなどの重い肝臓病を起こすリスクについては、肥満の人との間に統計的に意味のある差がありませんでした。

つまり、「痩せているから安心」とは言えないのです。

3.分かれ目は体型ではなく「線維化」だった

さらに、肥満でない人の中でも、肝臓の線維化が進んでいる人では、死亡のリスクが約2倍、重い肝臓病のリスクが約4倍に高まっていました。

ここが今回の研究の一番大切なポイントです。

リスクを分けるのは「太っているか、痩せているか」ではなく、「肝臓の線維化が進んでいるかどうか」でした。

■なぜ痩せていても肝臓に脂肪がたまるのか?

では、なぜ痩せていても脂肪肝になるのでしょうか。

ハクライドウの隠れ脂肪肝の記事でも触れたように、痩せ型の脂肪肝には、次のような要因が関係すると考えられています。

・糖質に偏った食事(ご飯や麺、甘い飲み物が中心で、たんぱく質が少ない食事)
・運動不足による筋肉量の低下(サルコペニア)
・見た目では分からない内臓脂肪の蓄積
・体質や遺伝的な要因
・過度なダイエットによるたんぱく質不足(極端な食事制限が、かえって肝臓の代謝異常を招くことがあります)

「痩せている=肝臓に脂肪がない」ではなく、「脂肪をどこに蓄えているか」「筋肉がどれくらいあるか」が関係しているのです。

■健診で気をつけたい「FIB-4」の話

今回の研究では、検査についての大切な発見もありました。

肝臓の線維化の進み具合を調べる方法の一つに、「FIB-4」という指標があります。年齢と血液検査の値(AST、ALT、血小板数)から計算できるため、健康診断や日常の診療でもよく使われます。

この研究では、そのFIB-4の精度が、肥満でない人ではやや低かったことが分かりました。

一方で、体の外から肝臓に振動を加えて硬さを測る検査(肝硬度測定、エラストグラフィ)の精度は、肥満でない人でむしろ高かったと報告されています。

FIB-4は線維化リスクを調べるうえで有用な第一段階の指標ですが、今回の研究では、肥満でないMASLD患者ではその判別精度がやや低いことも示されました。そのため、FIB-4だけで判断するのではなく、必要に応じてエラストグラフィなどによる追加評価を検討することが重要です。

脂肪肝を指摘されたら、体型にかかわらず、線維化が進んでいないかどうかを医療機関で確認することが大切です。必要に応じて、肝臓の硬さを測る検査を受けられるかどうかも相談してみてください。

■痩せ型脂肪肝と言われたら、何をすればいい?

研究が示したのは「線維化を見逃さないこと」の大切さですが、日々の暮らしでできることもあります。

隠れ脂肪肝の記事で紹介したポイントと重なりますが、痩せ型の場合は特に、次の点を意識したいところです。

●「痩せる」より「筋肉を落とさない」

痩せ型の人では「さらに体重を落とすこと」だけを目標にするのではなく、運動習慣や筋肉量、食事内容なども含めて生活習慣を見直すことが大切です。

ウォーキングなどの有酸素運動に、スクワットなどの筋トレを組み合わせましょう。

●たんぱく質を不足させない

極端な食事制限でたんぱく質まで不足させないようにし、魚、肉、卵、大豆製品などをバランスよく摂ることを意識しましょう。

●甘い飲み物と糖質の偏りを見直す

清涼飲料水や甘い飲み物に含まれる果糖は、肝臓で中性脂肪に変わりやすい性質があります。「太らないから大丈夫」と甘い飲み物を日常的に飲んでいないか、振り返ってみてください。

●寝る前の食事を控える

不規則な時間の食事は、肝臓の体内時計(時計遺伝子)のリズムを乱し、代謝異常につながるという研究もあります。

■まとめ:「痩せているから大丈夫」を卒業する

2026年に発表された世界41か国、18,326人を対象とした大規模研究では、肥満でないMASLD患者は糖尿病や進行した線維化の割合こそ低いものの、死亡や重い肝疾患のリスクは過体重・肥満のMASLD患者と大きな差がありませんでした。

そして肥満でない人でも、線維化が進んでいる場合には、死亡や重い肝疾患のリスクが大きく上昇していました。

つまり大切なのは、

「太っているか、痩せているか」だけで脂肪肝のリスクを判断しないこと。

むしろ、

「肝臓の線維化が進んでいないか」

を見ることが重要だと考えられます。

2026年の日本のMASLD診療ガイドラインでも、進行した肝線維化は肝臓に関連する病気や死亡を予測する重要な因子とされ、FIB-4などを使ったリスク評価と、必要に応じたエラストグラフィなどによる追加評価が重視されています。

今回の研究から考えたいことをまとめると、

・痩せ型の脂肪肝(lean MASLD)は、MASLD全体の6.7%を占める
・糖尿病や進んだ線維化は肥満の人より少ない
・しかし、死亡や重い肝臓病のリスクは肥満の人と差がなかった
・リスクを分けるのは体型ではなく、肝臓の線維化が進んでいるかどうか
・血液検査の指標FIB-4は、痩せ型では精度がやや低く、見逃しにつながる可能性がある

ということになります。

「痩せているから大丈夫」

この思い込みこそが、痩せ型脂肪肝の一番の落とし穴なのかもしれません。

健康診断で脂肪肝を指摘されたら、体型にかかわらず、「線維化は進んでいないか」を確認する。そして日々の食事と運動で、筋肉と肝臓の両方を守っていく。

痩せ型の人にとっての脂肪肝対策は、「もっと痩せること」ではなく、「正しく知って、見逃さないこと」から始まるのではないでしょうか。

→ 脂肪肝とは|脂肪肝の症状・原因・治し方 について詳しくはこちら

→ 脂肪肝の改善方法 についてはこちら

【参考文献・参考リンク】
– de Avila L, AlNaamani KM, et al. Histologic Features and Clinical Outcomes of Lean Metabolic Dysfunction–Associated Steatotic Liver Disease. JAMA. 2026(2026年9月30日オンライン掲載). doi:10.1001/jama.2026.18491
– 横浜市立大学プレスリリース「肥満でなくても脂肪肝は要注意、カギは『肝臓の線維化』」(2026年10月19日)

【関連記事】
– ハクライドウ隠れ脂肪肝/純烈リーダー酒井さん脂肪肝と診断された過去/やせ型で規則正しい食生活の40代女性も脂肪肝と診断







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

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「鉄といかにうまく付き合うか」が健康長寿のカギ? 鉄不足だけではない鉄と健康の話

鉄というと、どんなイメージがありますか?

「鉄分が不足すると貧血になる」
「鉄分をしっかり摂った方がいい」

そんなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

私自身も鉄について調べるときは、これまで「鉄不足」という視点から見ることが多くありました。

ところが最近、京都大学「鉄蓄積が細胞老化を惹起する ―老化細胞の細胞死回避の一環としての鉄蓄積」という研究発表を読んでいて、非常に印象に残った言葉がありました。

岩井一宏特命教授の、

「鉄といかにうまく付き合うか」は、成長、健康長寿の両方の観点から今後の重要な課題である

というコメントです。

「鉄は不足しないように摂るもの」と考えていましたが、どうやらそれだけではないようです。

■老化した細胞に「鉄」がたまっていた

2026年、京都大学の研究グループは、老化細胞と鉄の関係について興味深い研究成果を発表しました。

研究グループが調べたところ、老化細胞では「リソソーム」と呼ばれる細胞内の小器官に、反応性の高い二価鉄(Fe2+)が蓄積していました。

さらに、このFe2+の蓄積を抑えると、細胞の大型化や炎症性因子の産生など、老化細胞に特徴的な性質が大きく抑えられました。

一方で、鉄が蓄積しているにもかかわらず、老化細胞は簡単には死にません。

研究では、リソソームへのコレステロール蓄積によって膜を守ったり、鉄によって酸化されやすい多価不飽和脂肪酸(PUFA)を脂肪滴に隔離したりすることで、鉄依存性の細胞死「フェロトーシス」を回避していることも示されました。

つまり老化細胞では、鉄を特定の場所に蓄積しながら、その鉄によるダメージを避けて生き延びる仕組みが働いているというのです。

今回の記事では詳しいメカニズムには深入りしませんが、興味深いのは、鉄の蓄積が単なる老化の結果ではなく、老化細胞らしい性質そのものに関わっている可能性が示されたことです。

■考えてみると「鉄過剰」の話は以前からあった

今回の研究を読んでいて思い出したのが、HAKURAIDOUでも以前、病気と鉄過剰の関係を取り上げたことがありました。

過去記事では、C型肝炎やNASHなどで鉄が過剰に蓄積する場合があり、肝臓に蓄積した鉄と酸化ストレスや炎症との関係について紹介していました。

過去記事:肝臓の健康(ウコン・脂肪肝・NASH)|#ためしてガッテン(#NHK)

ここで、鉄についての見方が少し変わってきます。

■不足しても困る。蓄積しすぎても困る

鉄は私たちの生命維持に欠かせない栄養素です。

不足すれば鉄欠乏になり、さらに進めば鉄欠乏性貧血につながることがあります。

一方、過去にHAKURAIDOUで紹介した肝臓の話では「鉄の過剰な蓄積」が問題になりました。そして今回の研究では、「老化した細胞のどこに鉄が蓄積し、それが細胞老化とどう関係するのか」が研究されています。

ここまで見てくると、鉄については単純に「多い方がいい」「少ない方がいい」と考えるものではなさそうです。

ただし今回の京都大学の研究が対象としているのは、単純な鉄の摂取量ではなく、老化細胞のリソソームに蓄積するFe2+です。したがって、この研究だけから「老化を防ぐために鉄を控えた方がいい」と考えることはできません。

→ 鉄分の多い食品・鉄分不足からくる症状 について詳しくはこちら

■だから「鉄といかにうまく付き合うか」

ここまで見てくると、最初に紹介した岩井一宏特命教授の、「鉄といかにうまく付き合うか」という言葉がとてもしっくりきます。

そう考えると、大切なのは、「鉄を摂るべきか、減らすべきか」ではなく、「鉄といかにうまく付き合うか」。

「鉄分不足」という言葉をよく耳にするため、鉄は「不足しないように摂るもの」だと思いがちです。

しかし今回の研究を知って、鉄は必要量だけでなく、どこに、どんな形で存在し、身体の中でどのように扱われるかまで研究されていることがわかりました。

私にとって今回最も興味深かったのは、まさにこの点でした。

そしてこれからは、単純に体内の鉄が「多い・少ない」だけでなく、

・どのような形の鉄なのか
・身体のどこに存在しているのか
・どのように貯蔵されているのか
・どのように利用されているのか
・年齢や健康状態によってどう変わるのか

といったところまで研究が進んでいくのでしょう。

そう考えると、大切なのは、

「鉄を摂るべきか、減らすべきか」ではなく、「鉄といかにうまく付き合うか」。

今回の研究で最も印象に残ったのは、まさにこの点でした。

■補足:栄養の「正解」は一生同じとは限らない

そして、この話は鉄だけに限らないのかもしれません。

例えば中高年では、肥満やメタボリックシンドロームを防ぐために「食べ過ぎないこと」が重視されます。

ところが高齢になって食が細くなれば、今度は低栄養やたんぱく質不足、筋肉量の減少、フレイルなどが問題になります。

同じ人でも、ライフステージが変われば栄養上の課題も変わることがあります。

さらに、性別、月経、妊娠・出産、病気などによっても必要な栄養や注意すべきことは変わってきます。

「○○は健康にいいからたくさん摂ろう」と一方向に考えるのではなく、今の身体に何が必要なのかを考える。

今回の研究を知って、「鉄といかにうまく付き合うか」という問いは、そんな栄養との向き合い方を考えるきっかけにもなるのではないかと思いました。

【参考文献・参考資料】

Yanatori I, et al. Safe lysosomal sequestration of ferrous iron is mediated via cholesterol shielding and drives senescence and ferroptosis resistance. The EMBO Journal. 2026.

京都大学「鉄蓄積が細胞老化を惹起する ―老化細胞の細胞死回避の一環としての鉄蓄積」. 2026年.
京都大学 研究発表資料

HAKURAIDOU「肝臓の健康(ウコン・脂肪肝・NASH)|#ためしてガッテン(#NHK)」.







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健康診断で「貧血なし」でも鉄不足? 原因不明の不調とフェリチンの関係を最新研究から考える

SNSで「フェリチン」についての投稿が話題になっていました。

「健康診断ではいつも異常なしだったのに、フェリチンを調べたら一桁だった」

「ヘモグロビンは正常に戻ったのに、疲労感などの不調が残っている」

「うつのような気分の落ち込みがあり、調べてみたらフェリチンが低かった」

「妊娠前や妊娠中こそフェリチンを調べた方がいいのでは?」

といった体験談です。

私が興味を持ったのは、「原因不明の不調が続いている人の中に、ヘモグロビンだけを調べていたため、鉄不足を見つけられていない人がいるのではないか?」という可能性です。

そこで今回は、フェリチンとは何なのか、気分や疲労、妊娠との関係、そして「健康診断では異常なし」という人でもフェリチンを調べる意味があるのかについて、国内外の研究や最新の診療指針から調べてみました。

■そもそもフェリチンとは?

鉄というと、多くの人が「血液を作る栄養素」というイメージを持っていると思います。

確かに鉄はヘモグロビンを作るために必要で、ヘモグロビンは全身へ酸素を運ぶ重要な役割を担っています。

しかし、私たちの身体には、すぐに使っている鉄だけでなく、必要になったときのために蓄えている鉄があります。

ここで関係してくるのがフェリチンです。

フェリチンは鉄を貯蔵するタンパク質で、血清フェリチンを測ることで、身体にどれくらい鉄が蓄えられているのかを推定できます。

いわば、

・ヘモグロビン=鉄を使って作られ、酸素を運ぶタンパク質
・フェリチン=身体に蓄えられている鉄の量を知る手がかり

と考えるとイメージしやすいかもしれません。

WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populationsでも、血清・血漿フェリチンは鉄の貯蔵状態を調べる重要な指標とされています。

■鉄不足はいきなり「貧血」になるわけではない

ここが今回の話の大きなポイントです。

鉄が不足すると、最初からヘモグロビンが低下するとは限りません。

日本の鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断・診断基準では、鉄不足が進んでいく流れを、

身体に蓄えている鉄(貯蔵鉄)が減る
↓
血清鉄が減る
↓
さらに進むとヘモグロビンが低下する
↓
鉄欠乏性貧血として表面化する

と説明しています。

つまり、ヘモグロビンが低下して「貧血」と診断される前に、身体に蓄えている鉄がすでに減少している時期があるのです。

これを「潜在性鉄欠乏」などと呼びます。

そう考えると、「健康診断で貧血ではなかった」と「身体に十分な鉄が蓄えられている」は必ずしも同じ意味ではないことがわかります。

■日本にも「貧血のない鉄欠乏」という考え方がある

これは海外だけの話ではありません。

日本鉄バイオサイエンス学会の鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針では、

「貧血なし+血清フェリチン12ng/mL未満」

を潜在性鉄欠乏の診断基準としています。

同学会は、貯蔵鉄欠乏を調べる指標として最も重要なのが血清フェリチンであるとしています。

一方、WHOのフェリチンガイドラインでは、健康な成人について15µg/L(ng/mL)未満を鉄欠乏のカットオフ値としています。

さらに日本の診療指針でも、30ng/mL未満を使う研究について紹介されています。

つまり、「12」「15」「30」など複数の数字が出てくるのは、単純にどれかが間違っているというより、目的や対象によって鉄欠乏を拾う基準について議論が続いているためです。

■貧血ではなくても、疲労感と関係する可能性がある

では、ヘモグロビンが正常なら身体には何も起こらないのでしょうか?

興味深い研究があります。

貧血にはなっていないものの鉄欠乏がある成人を対象とした鉄補充と疲労・身体能力についてのシステマティックレビューでは、18のランダム化比較試験、合計1,170人が分析されています。

結果として、鉄補充によって主観的な疲労感が改善する可能性が示されました。一方、身体能力などすべての指標が改善したわけではありません。

ここから考えられるのは、「貧血になる前の鉄不足でも、人によっては体調に影響している可能性がある」ということです。

これは今回SNSで多く見られた、「Hbは正常だけど、なんとなく調子が悪い」という体験談を考えるうえでも興味深いポイントです。

■鉄は「血液」だけでなく脳でも使われている

SNSでは、フェリチンとうつ症状との関係についても多く語られていました。

鉄はヘモグロビンを作るだけの栄養素ではありません。

脳では髄鞘形成やエネルギー代謝にも関係し、さらにセロトニンやドーパミンなどのモノアミン系神経伝達物質の合成にも関係しています。2026年のIron deficiency and depression: evidence of critical risk periodsでも、こうした生物学的なつながりが整理されています。

そのため、「鉄不足 → 脳機能への影響 → 気分や認知機能への影響」という可能性が研究されています。

実際、鉄欠乏とうつ症状の関連を示している研究もあります。

「鉄不足の人は必ずうつになる」というような単純な関係ではありませんが、気分の落ち込みや強い疲労などを考える際の身体的要因の一つとして鉄の状態を見るという考え方には興味深いものがあります。

■フェリチンと妊娠の関係は特に重要

そしてSNSの話は、妊娠前、妊娠中、産後の女性へと広がっていました。

これは医学的にも重要なテーマです。

妊娠すると、

・母体の血液量が増える
・胎児が成長する
・胎盤が作られる
・出産時に出血する

などによって鉄の需要が大きくなります。

日本産婦人科医会の「妊産婦の鉄欠乏性貧血」によると、妊娠期間全体で追加される鉄需要は約1,000mgに達します。

ここでも重要なのがフェリチンです。

妊娠初期にはHbが正常でも、すでに貯蔵鉄が少なくなっている女性がいます。そのまま妊娠が進むと、胎児や胎盤、母体の血液量増加に必要な鉄需要に追いつけず、妊娠後期になって貧血が表面化する可能性があります。

このため日本産婦人科医会も、「Hbだけでは判断しにくい場合に、フェリチンを調べて鉄欠乏状態を把握するアプローチが有用」と説明しています。

■産後の疲労や気分と鉄不足

産後についても興味深い研究があります。

日本産婦人科医会の解説では、産褥期の貧血と、

・産後うつ
・疲労
・育児意欲の低下
・母乳哺育の問題

との関連を示した研究が紹介されています。

さらに、産後の鉄欠乏に治療介入することで、うつ症状や疲労、育児への意欲が改善したとするランダム化比較試験も紹介されています。

2025年の周産期うつと微量栄養素についてのシステマティックレビューでも、鉄、ビタミンB12、亜鉛などと周産期うつとの関連が研究されています。現時点では鉄についての結果は完全には一致していませんが、研究が続けられている分野です。

つまり産後の心身の不調を考える際には、心理社会的な支援とともに、鉄欠乏など身体側の要因について確認する視点も持っておくということです。

■「海外ではフェリチン40以下では妊娠してはいけない」はどう考える?

SNSでは、

「アメリカではフェリチン40以下では妊娠してはいけない」

「フェリチン50以下は鉄欠乏性貧血」

といった数字も紹介されていました。

これを調べると、少し違った景色が見えてきます。

例えば米国産科婦人科学会(ACOG)のAnemia in Pregnancyは、妊娠に伴って鉄需要が増加することや妊娠中の貧血のスクリーニング・管理を扱っていますが、「40未満では妊娠してはいけない」という基準ではありません。

重要なのは「妊娠禁止になる数字」を探すことよりも、「妊娠すると大量の鉄が必要になるため、妊娠する前や妊娠初期から鉄の状態を把握しておく意味がある」という点なのだと思います。

■そして2026年、ASHが鉄欠乏の診断基準を見直した

ここで非常に興味深い動きがありました。

2026年、米国血液学会(ASH)がAmerican Society of Hematology 2026 guidelines for diagnosis of iron deficiencyを発表しました。

ASHは、鉄欠乏がありながら何カ月、何年も診断されずに過ごしている人がいることを問題として挙げています。

症状として、

・疲労
・脱力感
・めまい
・集中困難

なども示しています。

そして今回のガイドラインでは、これまでより高いフェリチン値を診断基準に使う方向が示されました。

ASHのガイドライン概要では、成人、月経のある人、妊娠中の人について、フェリチン30ng/mL以下を鉄欠乏の診断基準とし、高リスクの場合には50ng/mL以下という閾値を検討できるとしています。

これは今回のSNSで出てきた疑問を考えるうえで非常に興味深い変化です。

日本では日本鉄バイオサイエンス学会が潜在性鉄欠乏をフェリチン12ng/mL未満としています。一方、WHOは健康な成人について15ng/mL未満、2026年のASHは成人、月経のある人、妊婦について30ng/mL以下を採用しています。

「正常値は一体いくつなの?(鉄欠乏と判断するフェリチン値はいくつなの?)」と感じますが、この違いそのものが、鉄欠乏をどの段階で見つけるかという医学上の議論が動いていることを示しているともいえそうです。

■健康診断で異常なし。でもなんとなく調子が悪い

ここまで調べて、最初の疑問に戻ります。

今回SNSでの体験談を読んで、私たちが最も興味を持ったのは、

原因不明の不調が続いている人の中に、ヘモグロビンだけを見ていたため、貧血になる前の鉄不足を見つけられていない人がいるのではないか?

という点でした。

日本でも「貧血になる前の潜在性鉄欠乏」という状態が明確に示されています。

貧血ではない鉄欠乏の人を対象とした臨床試験でも、鉄補充によって疲労感が改善する人がいることが報告されています。

そしてASHが2026年に新しい鉄欠乏診断ガイドラインを作り、より早く正確に鉄欠乏を見つける方向を打ち出したことも、この問題を考える材料になります。

そこで、「健康診断では異常なし。でも原因の分からない不調が続いている」という場合、特に月経量が多い人、月経のある女性、妊娠を希望している人、妊娠中・産後の人など鉄不足の可能性が考えられるケースでは、医療機関で相談してフェリチンを含めた鉄の状態を確認することが、原因を探る一つの手がかりになる可能性があります。

■フェリチンだけでは判断できない場合もある

フェリチンには一つ特徴があります。

身体に炎症や感染症があると、鉄の貯蔵量とは別にフェリチンが上昇することがあります。

そのためWHOは、感染や炎症がある場合、炎症マーカーも併せて評価することを推奨しています。

日本の鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針でも、フェリチンに加えてTIBCやTSATなどを鉄欠乏の評価に利用できるとしています。特に炎症などによってフェリチンの解釈が難しい場合、TSATが参考になります。

つまり、「フェリチンだけを調べればいい」という話というより、これまでヘモグロビンだけでは見えていなかった鉄の状態を、フェリチンなどを加えることでより詳しく見てみるという考え方です。

■■では、フェリチンが低かったらどうすればいい?

フェリチンが低いということは、身体に蓄えられている鉄が少なくなっている可能性があります。

では、フェリチンを改善するにはどうしたらよいのでしょうか。

基本的な考え方は、

1.鉄を補う
2.鉄を吸収しやすくする
3.なぜ鉄が減ったのか原因を探す

の3つです。

■鉄を含む食品を意識する

日本鉄バイオサイエンス学会の食事療法の指針では、鉄の摂取量を増やす場合の目安として1日13~15mgを挙げています。

鉄には、肉や魚などに多く含まれる「ヘム鉄」と、野菜、豆類などに含まれる「非ヘム鉄」があります。

同学会の指針では、赤身の肉や魚などのヘム鉄は比較的吸収されやすく、植物性食品などに含まれる非ヘム鉄は、ビタミンCなどと一緒に摂ることで吸収を高められると説明しています。

例えば、

・赤身肉
・魚
・大豆・豆類
・緑黄色野菜
・ナッツ・種子類
・鉄を強化した食品

などを普段の食事に取り入れる方法があります。

Kingston and Richmond NHS Foundation Trustも、肉、豆類、緑色野菜、ナッツ・種子類、豆腐、鉄強化シリアルなどを鉄の供給源として紹介しています。

→ 鉄分の多い食品・鉄分不足からくる症状 について詳しくはこちら

■「何を食べるか」と同時に「どう吸収するか」

鉄は食べればすべて吸収されるわけではありません。

ビタミンCは特に非ヘム鉄の吸収を助けます。一方、お茶などに含まれるポリフェノール・タンニンなどは食事中の鉄の吸収を低下させることがあります。

つまり、鉄を含む食品+ビタミンCを含む野菜や果物という組み合わせも一つの方法です。

以前ハクライドウで紹介した「海外では小麦粉やシリアルなどを鉄強化している」という話も、ここにつながってきます。

■鉄欠乏が確認された場合には鉄剤という方法もある

食事だけで十分に回復できない鉄欠乏性貧血では、医療機関で鉄剤による治療が行われます。

日本鉄バイオサイエンス学会は基本的に経口鉄剤を第一選択とし、経口鉄剤が飲めない場合などには静注鉄剤という選択肢も示しています。

American Gastroenterological Associationの2024年のClinical Practice Updateでも、経口鉄は1日1回までとし、人によっては隔日投与の方が耐えやすく、吸収も同程度になる可能性があること、経口鉄でフェリチンが改善しない場合や吸収が期待できない場合には静注鉄を検討するとしています。

興味深いのは、鉄剤を使った場合、ヘモグロビンとフェリチンが同じ速度で回復するとは限らないことです。

日本鉄バイオサイエンス学会によると、経口鉄剤ではヘモグロビンは通常6~8週間で正常化することが多い一方、フェリチンはそれより後から徐々に上昇します。そして鉄剤を終了する時期について「貧血が治癒し、かつ血清フェリチン値が正常化したとき」としています。

これは今回SNSにあった、「鉄剤でHbは正常になったけれどフェリチンが低いままだった」という体験談を考えるうえでも興味深いポイントです。

■もう一つ大切なのが「なぜ鉄が減ったのか」

鉄を補給すると同時に考えたいのが、そもそもなぜ鉄が不足したのかという原因です。

鉄欠乏の背景には、

・月経、特に過多月経
・妊娠・出産
・食事からの鉄摂取不足
・消化管からの出血
・消化管での鉄吸収の低下

などがあります。British Society of Gastroenterologyも、鉄補充と同時に原因を調べることが重要だとしています。特に男性や閉経後女性で原因不明の鉄欠乏性貧血がある場合には、消化管疾患を含めて原因検索が重要になります。

つまり、「フェリチンを上げることそのものを目的にするのではなく、「なぜ鉄の貯金が減ったのか」を考えながら、必要な鉄を補っていく。」という考え方が大切です。

食生活を整えることで改善できる人もいれば、鉄剤による治療が必要な人もいます。そして出血などが続いている場合には、その原因への対応も必要になります。

だからこそ、まずフェリチンを測ることで、「自分には鉄の貯金がどれくらい残っているのか」を知ることが、次に何をするかを考える一つの出発点になるのではないでしょうか。

■実はハクライドウでは10年以上前からフェリチンを追っていた

今回SNSでフェリチンが話題になったことをきっかけに、ハクライドウの過去記事を調べ直してみました。

すると私たちは、10年以上前から、

・隠れ貧血
・フェリチン不足
・疲労や不眠
・気分との関係
・スポーツパフォーマンス
・鉄を含む食品
・海外の鉄強化食品

などについて記事を書いていました。

関連記事:

疲れ・頭痛・不眠など原因不明の体調不良の原因は鉄不足?/隠れ貧血/フェリチン(貯蔵鉄)不足チェック/鉄不足解消法
NHK「あさイチ」「ためしてガッテン」新型鉄不足(フェリチン不足)で肌荒れ、不眠、うつ状態、疲労感?
血液中のフェリチン値が低い「貧血」と診断されたスポーツ選手は、入賞の可能性が低くなる|愛媛県体育協会
フェリチンを多く含む食品・食べ物・サプリ
鉄分を強化した小麦粉で鉄欠乏症・貧血を予防している国がある!|#たけしの家庭の医学
当時は「隠れ貧血」としてテレビ番組などで紹介されていたものが、10年以上経ってSNS上で、「健康診断では問題がなかったのに、フェリチンを測ったら非常に低かった」という当事者の体験として、再び注目されているように見えます。

そして、そのタイミングで2026年のASHの新しいガイドラインが発表されました。

10年以上前から追ってきたテーマと現在の医学の動きが、ここでつながったのは非常に興味深いところです。

■まとめ 「フェリチンを測る」という選択肢を知っておく

今回調べて分かったことをまとめると、

・ヘモグロビンが正常でも、鉄の貯蔵量が減っている「潜在性鉄欠乏」は存在する
・フェリチンは身体に蓄えられている鉄を把握する重要な指標になる
・貧血のない鉄欠乏でも、鉄補充によって疲労感が改善する人がいることが研究で示されている
・鉄は脳機能や神経伝達物質にも関係しており、鉄欠乏と気分・うつ症状との関係について研究が続けられている
・妊娠では鉄需要が大きく増えるため、妊娠前・妊娠中・産後の鉄の状態を考えることは重要
・日本でもHbが正常な段階の「潜在性鉄欠乏」という考え方がある
・2026年のASHガイドラインでは、成人、月経のある人、妊婦の鉄欠乏についてフェリチン30ng/mL以下という新しい診断基準が示された

疲労、頭痛、不眠、気分の落ち込み、集中力低下などには、さまざまな原因があります。

フェリチンがそのすべてを説明するわけではありません。

ただ、「健康診断では異常なし。でも、なぜか調子が悪い」というとき、原因を探すための選択肢として、「フェリチンを含めて鉄の状態を調べる必要はありませんか?」と医療機関で相談することは、一つの手段になりそうです。

これまで見ていなかった情報を一つ加えることで、原因を探す手がかりが増えるかもしれない。

フェリチンを測る意味は、「すべての答えを見つけること」ではなく、「原因を探すための窓を一つ増やすこと」なのではないでしょうか。

【参考文献・資料】

World Health Organization. WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations. Geneva: WHO; 2020.

日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断・診断基準」。潜在性鉄欠乏を「貧血なし・血清フェリチン12ng/mL未満」と定義。

Powers JM, et al. American Society of Hematology 2026 guidelines for diagnosis of iron deficiency. Blood Advances. 2026. doi:10.1182/bloodadvances.2025015950.

American Society of Hematology. Diagnosis of Iron Deficiency: What You Should Know. 2026. 成人、月経のある人、妊婦についてフェリチン30ng/mL以下を診断基準とし、高リスク集団では50ng/mL以下を考慮できるとする概要資料。

Houston BL, et al. Efficacy of iron supplementation on fatigue and physical capacity in non-anaemic iron-deficient adults: a systematic review of randomised controlled trials. BMJ Open. 2018;8:e019240. doi:10.1136/bmjopen-2017-019240.

日本産婦人科医会「妊産婦の鉄欠乏性貧血 -産科編-知識のアップデートとより良い診療を目指して」。

Ubom AE, et al. FIGO good practice recommendations on anemia in pregnancy, to reduce the incidence and impact of postpartum hemorrhage. Int J Gynaecol Obstet. 2025;171(3):993-1007. doi:10.1002/ijgo.70529.

American College of Obstetricians and Gynecologists. Anemia in Pregnancy. Practice Bulletin No.233. Obstet Gynecol. 2021, reaffirmed 2024.

Islam N, et al. A Systematic Review of the Correlation Between Micronutrient Levels and Perinatal Depression. Nutrients. 2025;17(21):3479. doi:10.3390/nu17213479.

Rajkumar RP. Iron deficiency and depression: evidence of critical risk periods. Front Psychiatry. 2026;17. doi:10.3389/fpsyt.2026.1770460.







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