米国や欧州で認知症の発症率が低下しているのはなぜ?2つの仮説

米国や欧州で認知症の発症率が低下しているのはなぜ?2つの仮説


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米国や欧州で認知症の発症率が低下しているのはなぜ?2つの仮説
米国や欧州で認知症の発症率が低下しているのはなぜ?2つの仮説

CDC|unsplash

認知症の発症率、欧米で下がり始めた 科学者が考えた「なぜ」(2020/10/21、朝日新聞)によれば、米国や欧州では認知症の発症率が低下傾向にあるそうです。

アメリカやヨーロッパで認知症の発症率が低下している理由の仮説としては2つあるそうです。

1つは、心血管疾患のリスク要因がコントロールされていること、もう1つは、良い教育を受けていること。

米欧における発症率低下の主な仮説の一つは、特に血圧やコレステロールといった心血管の危険因子の制御が改善されたこと。認知症患者のほぼ全員が、高血圧の結果とみられる血管損傷などの脳の異常も抱えている。

ホフマンによると、高血圧は中年期に最もダメージを招きやすい。若年期に血圧が低く、その後に血圧が高くなった人は認知症を発症する可能性が低くなる傾向がある。

血圧の大幅な変動は、どの年齢でもリスクがある。そうホフマンは付け加えた。

認知症の発症率が低下したもう一つの理由は、より良い教育にあるかもしれない。良質な教育は、たとえば過去に忘れたことのある言葉の同義語を増やした記憶領域など、脳により多くの容量を付与することで保護効果が得られると考えられている。

血圧やコレステロールの制御と同様、教育レベルは過去数十年間で徐々に改善されてきた。「教育は認知症の発症年齢を遅らせるとの仮説があるが、まだそのエビデンス(科学的根拠)は多くない」とホフマンは言う。

■心血管疾患のリスク要因がコントロールされていること

認知症の予防につながる9つのリスク要因によれば、中年期の聴力低下・中等教育の未修了・喫煙・うつ・運動不足・社会的孤立・高血圧・肥満・2型糖尿病が認知症のリスク要因と考えられています。

そのうちの喫煙・運動不足・高血圧・肥満・2型糖尿病の5つに共通するのは、心臓に良い生活習慣は脳にも良いということです。

国立長寿医療研究センターなどのチームによれば、脳卒中の経験がある人は、ない人に比べ、認知症のリスクが2・6倍高かったそうですが、脳卒中予防のためのガイドラインと認知症のリスク要因とマッチしている部分が多いです。

高血圧:定期的に血圧を測り、高血圧の人は治療をしましょう。
糖尿病:血糖値を測り、糖尿病または糖尿病予備軍の人は治療を受けましょう。
●不整脈:不整脈が見つかったら、病院に行きましょう。
●タバコ:禁煙しましょう。
●アルコール:飲酒は控えめにしましょう。
コレステロール脂質異常症高脂血症)と診断された人は治療を受けましょう。
●運動:運動することが脳卒中予防につながります。
●塩分・脂肪分:食事の塩分を控えめに、低脂肪の食事をしましょう。
肥満:太りすぎは糖尿病や脂肪肝などの生活習慣病のリスク要因です。
●脳卒中の症状があればすぐに受診。

より具体的に見ていくと、糖尿病と認知症には何らかの関係があるという研究は何度も取り上げてきました。

アルツハイマー患者の脳内、糖尿病と同じ状態に 九大の解剖で判明

(2013/5/7、日本経済新聞)

九州大の生体防御医学研究所によれば、アルツハイマー病患者は、脳内の遺伝子が糖尿病と同じ状態に変化することがわかったそうです。

【参考リンク】

糖尿病患者の半数でアルツハイマーの初期症状を確認で紹介した加古川市内の病院に勤務する医師らの臨床研究によれば、糖尿病の通院患者の半数以上に、「海馬傍回(かいばぼうかい)」と呼ばれる脳の部位が萎縮(いしゅく)するアルツハイマー病の初期症状がみられることがわかったそうです。

インスリンには記憶、学習機能を高める作用もあり、糖尿病でインスリン反応性が低下することが、アルツハイマー病発症につながっている可能性があるようです。

インスリン抵抗性を伴った2 型糖尿病にアルツハイマーのリスク|九大研究によれば、インスリン抵抗性を伴った2型糖尿病の場合、アルツハイマーの発症に関係があるとされるプラークが形成されるリスクが高くなるという研究結果が発表されたそうです。

九州大学の研究によれば、血糖値の異常が認められた患者にはプラークが形成されるリスクが高いという結果がでたそうです。

九州大学(Kyushu University)の研究チームは福岡県久山(Hisayama)町の135人(平均年齢67歳)を対象に研究を行った。

対象者に血糖値の検査を行い、その後10~15年間にわたってアルツハイマーの兆候がないか観察した。

研究期間中に対象者の約16%がアルツハイマーを発症した。

対象者の死後に研究チームが脳を調べたところ、65%にプラークが見られたという。

研究チームは、血糖値の異常が認められた患者には、プラークが形成されるリスクが高いとの結果をまとめた。

論文を執筆した九州大学の佐々木健介さんによれば、インスリン抵抗性がプラーク形成の原因と結論するにはさらに研究を進める必要があるものの、糖尿病をコントロールすることによってアルツハイマーを予防できる可能性があるとしています。

糖尿病になると、認知症の発症リスクが2倍高くなる!?で紹介した東京大の植木浩二郎特任教授によれば、糖尿病になると認知症の発症リスクが2倍高くなるそうです。

駆け込みドクター 5月17日|認知症|認知症チェック・認知症予防にアマニ油・デジタル認知症によれば、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病のリスクの高さと認知症(アルツハイマー病)には関係があり、アルツハイマー病の発症リスクは、糖尿病だと2倍、高血圧だと2倍、脂質異常症だと3倍になると紹介していました。

糖尿病がアルツハイマーのリスク高める?

(2015/5/26、WSJ)

ワシントン大学の研究者らは、マウスの実験で血糖値を異常に高い値に引き上げたところ、脳内のアミロイドベータの生産も増加し、双方に何らかの相関性があることを突き止めた。

ピッツバーグ大学で実施された約180人の中年の成人を対象とした試験では インスリン依存型(1型)糖尿病の患者は、この疾患を持たない被験者と比べ、はるかに多くの脳内病変が認められ、認知機能は低下していた。

血糖値の高さが脳に影響を及ぼす可能性があることが、2つの研究で示されています。

なぜ血糖値が高いとアミロイドβが生産されアルツハイマーのリスクが高まるのでしょうか。

インスリンはアミロイドから脳を守り、ニューロン(神経単位)と記憶の形成のつながりを改善するとされる。

<中略>

セントルイスのワシントン大学のマウスの実験で医師のデビッド・ホルツマン氏は、糖が脳内のニューロンに刺激を与え、さらにアミロイドが作られると示唆している。

インスリンには血液中のブドウ糖(血糖)の濃度を調節する働きがありますが、今回の記事によれば、インスリンはアミロイドから脳を守る働きもあるそうです。

アルツハイマー病は、アミロイドβタンパクが脳にたまることで、神経細胞が死滅し、萎縮し、認知機能が低下することから起きると考えられています。

つまり、インスリンの分泌が低下したり、生成されなくなるということは、アミロイドから脳を守ることができなくなり、認知機能が低下してしまうと考えられます。

このように心血管疾患のリスク要因をコントロールすることは脳の健康を守ることにもつながり、生活習慣を改善していることが認知症の発症率低下にもつながっているのではないかと考えられます。

■よい教育

若い時によく勉強した人はアルツハイマー型認知症になりにくい?で紹介したジョンズ・ホプキンス医科大学の研究によれば、高齢になっても認知機能にまったく問題がない修道女は、脳にアルツハイマー型認知症と同じ変化が確認されているにも関わらず、病気の症状が表れにくいことが分かったそうです。

なぜ高い言語技能を習得していることが認知機能の低下を防いでくれるのかはわかっていないものの、結果として認知症を防ぐことにつながっているというのはすごいことです。

実際にはまだエビデンスの段階にまではいっていないものの、良い食事をすること、運動をすること、社会的交流を持つこと、血圧コントロールをすることが認知症予防につながるのではないかと考えられますので、ぜひやっていきましょう!