飲酒で深刻な肝障害リスクが倍以上に、肥満や糖尿病の場合 新研究(2025年2月10日、CNN)によれば、腹囲の大きい人や糖尿病の人がアルコールを摂取すると、深刻な肝障害のリスクが倍以上になり、高血圧の人の場合はほぼ倍になることがわかったそうです。
【参考リンク】
- Lee BP, Molina J, Kim S, Dodge JL, Terrault NA. Association of Alcohol and Incremental Cardiometabolic Risk Factors with Liver Disease: A National Cross-Sectional Study. Clin Gastroenterol Hepatol. 2025 Feb 3:S1542-3565(25)00081-3. doi: 10.1016/j.cgh.2025.01.003. Epub ahead of print. PMID: 39909281.
「飲み過ぎ」減へ数値目標|アルコールによる健康障害とは?では、飲み過ぎにより高血圧、糖尿病やがんのリスクが高くなると紹介しましたが、今回の研究は肥満や糖尿病、高血圧の人がアルコールを摂取すると肝障害のリスクが高まると紹介されています。
今回の研究で気になったのは実は別のポイントにあります。
先日脂肪肝/NAFLD/NASHの名称が脂肪性肝疾患(SLD)/MASLD(マッスルディー)/MASH(マッシュ)に変わっていたの知ってましたか?では、NAFLDがMASLD(マッスルディー)に変わったと紹介しました。
MASLDとは「代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD、Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Disease)」のことで、これまでの名称は、”alcohol”や”fatty”という言葉が入った病名が誤解を招きやすく、不適切であるということから名称が変更されています。
代謝機能障害関連脂肪肝疾患 (MASLD) は、高血圧、高血糖、高トリグリセリド血症、高密度リポタンパク質コレステロール (HDL-C) の低値、過体重/肥満を含む5つの心血管代謝リスク因子 (CMRF) のいずれかが診断の前提条件となる、新たに提案された命名法です。
代謝機能不全に関連した脂肪性肝疾患 (MASLD) は、脂肪肝に以下の心臓代謝危険因子 (CMRF;Cardiometabolic risk factors) の少なくとも 1 つが存在する場合に診断されます。
体格指数(BMI):BMI 25 kg/m2 以上、または腹囲が男性 94 cm、女性 80 cm 以上
空腹時血糖値:空腹時血糖値5.6mmol/L以上、または負荷2時間後血糖値7.8mmol/L以上
ヘモグロビンA1c(HbA1c):HbA1c 5.7%以上
血圧:血圧130/85mmHg以上
血漿中トリグリセリド:血漿中トリグリセリド1.70mmol/L以上
血漿高密度リポタンパク質コレステロール(HDL):血漿HDLが男性で1.0mmol/L以下、女性で1.3mmol/L以下
代謝異常が生じている場合とは、過体重や肥満、2型糖尿病がある場合のほかに、体重が基準範囲以下であったとしても、腹部肥満、中性脂肪高値/善玉コレステロール(HDL-C)低値、血圧高値、インスリン抵抗性、全身性炎症などが複数あてはまる場合も該当します。
MASLD以外で1週間あたりのアルコール摂取量が多い(女性:140~350g/週、男性:210~420g/週)場合は『MetALD』(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)と呼ばれるようになりました。
【参考リンク】
- G Zeng, P Z Wang, J Q Yuan, impact of different cardiometabolic risk factors in MASLD: rethinking overweight/obesity criteria, European Journal of Preventive Cardiology, Volume 31, Issue Supplement_1, June 2024, zwae175.380, https://doi.org/10.1093/eurjpc/zwae175.380
- Li M, Chen W, Deng Y, Xie W. Impacts of cardiometabolic risk factors and alcohol consumption on all-cause mortality among MASLD and its subgroups. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2024 Sep;34(9):2085-2094. doi: 10.1016/j.numecd.2024.05.018. Epub 2024 May 22. PMID: 38902191.
これからの流れはここがポイントになると思います。
まずはMASLDは代謝異常に着目し、これまでのNAFLDという考え方からアルコールを切り離して考える、そしてMASLDの中にいる、これまでは見過ごされてきた中等量の飲酒を伴う患者さんに対してMetALDと名付けて、そこにどんな治療のアプローチをすべきかを考えていこうとしているのだと思います。
新しい命名法は、これまで見過ごされてきた中等度の飲酒患者群に注目を集め、新しいサブカテゴリーであるMetALD [6]を導入しています。MetALDは、女性で20〜50 g/日、男性で30〜60 g/日の高アルコール消費を示すMASLD患者と定義されています[6]。以前の研究では、アルコール消費と心血管代謝リスク因子の共存は、付加的または相乗的な結果をもたらすことが示されています[7,8]。
別の研究によれば、1)糖尿病または高血圧の存在は、MASLD における全死亡率と有意に関連していること、2)心臓代謝因子が 1 つ増えるごとに、純粋 MASLD および MetALD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD and increased alcohol intake;代謝機能の障害とアルコール摂取が重なって起こる脂肪肝の病名で、MASLDに分類され、中等量の飲酒を伴う脂肪肝を指します。) における死亡率が上昇すること、3)アルコール摂取量の増加は、特にMetALDにおける全死亡率の上昇と関連している、ということが分かったそうです。
そこで、もう一度「腹囲の大きい人や糖尿病の人がアルコールを摂取すると、深刻な肝障害のリスクが倍以上になり、高血圧の人の場合はほぼ倍になる」という最初の記事に戻って考えてみると、少し見え方が変わってきませんか?
腹囲の大きい人や糖尿病の人というのが、代謝異常の状態にある人であり、その状態にある人でアルコールの摂取量が増加してしまうと、心血管代謝リスク因子 (CMRF) に影響を与えてしまい、肝臓の病気のリスクが高くなるというのはわかりやすいですよね。
代謝異常を抱えている人は、お酒を飲む量が増えるとリスクを抱えてしまうので、気を付けてくださいね。