人間の脳には「速い知覚」と「遅い思考」のギャップがある!イーロン・マスクが夢見る「脳をコンピューターにつなげば高速で思考を伝えられる!」は幻想となるのか?




1. 研究の背景

私たちは日々、頭の中でたくさんのことを考えたり感じたりしていますが、それを言葉や行動で瞬時に表現するのは難しいですよね。

この「思考の遅さ」にイライラした経験がある人も多いはず。

起業家のイーロン・マスクもこの問題に注目し、脳をコンピューターに直接つなぐ技術(ブレイン・コンピューター・インターフェース)で思考を高速に伝えようとしています。

でも、最新の研究によると、たとえそんな技術ができたとしても、脳の処理速度には限界があるんです。

この研究は、カリフォルニア工科大学のチームが「Neuron」という科学誌に発表したもので、人間の脳の「速い知覚」と「遅い思考」のギャップを明らかにしました。

2. 研究のポイント:感覚は速いけど、思考は超遅い

この研究では、脳の情報処理速度を「ビット/秒」という単位で測定しました。

主な発見は以下の通り:

感覚系は超高速

目や耳、鼻などの感覚器官は、毎秒約10億ビット(10億バイトに相当!)もの情報を処理します。

たとえば、目で見る景色や耳で聞く音をリアルタイムでキャッチしているのはこのため。

感覚系はものすごく速く、たくさんの情報を一気に取り込んでいます。

思考はめっちゃ遅い

一方、記憶を思い出したり、決断したり、想像したりする「認知処理」の速度は、毎秒たったの5〜20ビット(平均約10ビット)。

これは、感覚系の1億分の1くらいの遅さ!

たとえば、USBメモリー1本(数ギガバイト)に、人が一生で学習する情報が全部収まってしまうほど少ないんです。

このギャップが、脳が「めっちゃ忙しくいろんなことを考えてる!」という錯覚(研究チームはこれを「マスク幻想」と命名)を生み出している原因だと考えられています。

【補足】速い知覚と遅い思考の違いをたとえるならこんなイメージ

速い知覚と遅い思考の違いを例えるなら、こんなイメージがわかりやすいよ:

速い知覚(毎秒約10億ビット):

まるで新幹線!目や耳などの感覚系は、ものすごいスピードで情報をキャッチする。例えば、街を歩いていて看板の色や車の音、人の声を一瞬で全部取り込む感じ。新幹線みたいに、大量の情報をスムーズかつ超高速で運ぶんだ。

遅い思考(毎秒約10ビット):

一方、思考は手押し車で砂利道を進むくらいのスローさ。

例えば、「あの看板に何て書いてあったっけ?」とか「この音、どこかで聞いたことあるな」と考えるときは、脳が情報を一つずつ丁寧に処理する。砂利道でガタガタ揺れながら、ゆっくり進む手押し車みたいに、限られた情報しか一度に運べないんだ。

このギャップがあるから、新幹線で大量の情報が届いても、それをじっくり整理して言葉にするのは手押し車レベルの遅さになる。これが「頭ではわかってるのに、うまく説明できない!」ってモヤモヤの原因だよ。

3. どうやって調べたの?

研究チーム(カリフォルニア工科大学のチャンさんとマイスター教授)は、心理学や神経科学、技術などいろんな分野の過去のデータを集めて分析しました。

たとえば:

単一のニューロン(脳の神経細胞)の処理速度

記憶力チャンピオンのような人の認知能力

人間がどれくらいの情報を意識的に処理できるか

これらのデータを統合し、共通の基準(ビット/秒)で比較できるように計算。

結果、認知処理の遅さが浮き彫りになりました。

4. なんでこんなに差があるの?

感覚系が速いのは、生存のために必要だから。

たとえば、危険な動物が近づいてきたら、すぐに気づいて反応しないと命に関わりますよね。

だから、目や耳は大量の情報を高速で処理できるように進化しました。

でも、認知処理(考えること)は、じっくりと正確に判断する必要があるので、ゆっくり慎重に進むんです。

たとえば、「このメールどうやって返そう?」とか「テストの答え何だっけ?」って考えるとき、脳は限られた情報だけを意識的に処理して、優先順位をつけています。

この「選ぶ」作業が、処理速度を遅くしている一因です。

5. 「マスク幻想」とは?

研究チームが名付けた「マスク幻想」は、脳がたくさんのことを同時にやってるように感じるけど、実は1つずつ、ゆっくり処理してるってこと。

イーロン・マスクが夢見る「脳をコンピューターにつなげば高速で思考を伝えられる!」というアイデアも、脳の認知処理の遅さの壁にぶち当たる可能性が高いんです。

たとえ脳とコンピューターがつながっても、電話で話すくらいのスピードでしか情報を送れないかもしれない、って研究者は指摘しています。

6. この研究の意義

この「速い知覚と遅い思考」のパラドックスは、脳の仕組みを理解する上で大きなヒントになります。

たとえば:

教育や学習の改善:脳が一度に処理できる情報が少ないなら、効率的に学ぶ方法を考えるヒントになる。

テクノロジーの開発:脳とコンピューターをつなぐ技術を考えるとき、脳の限界をどう克服するかが課題。

心理学や神経科学の進歩:このギャップを埋める研究が進めば、脳の意識や記憶の仕組みがもっと解明されるかも。

7. まとめ

人間の脳は、感覚系で毎秒10億ビットの情報をキャッチする一方、思考や記憶の処理は毎秒10ビットと超スロー。

このギャップが、私たちが「頭の中ではいっぱい考えてるのに、うまく表現できない!」と感じる理由です。

イーロン・マスクの夢も、この脳の「速度制限」によって限界があるかもしれない。

でも、この発見は脳の仕組みを理解し、学習や技術開発に活かすための大事な一歩になるのではないでしょうか?

【参考リンク】