1. 「動の疲れ」と「静の疲れ」
多くの人が疲労を休息することでとろうとしますが、「動の疲れは静で取る。静の疲れは動で取る」といいのではないかという提案です。
疲労の種類を「身体的な疲労(動の疲れ)」と「精神的な疲労(静の疲れ)」に分けます。
動の疲れ: 身体的な活動(例: 運動、肉体労働)による筋肉やエネルギーの消耗。筋肉の微細な損傷やエネルギー枯渇が主な原因で、休息や睡眠による回復が効果的。
静の疲れ: 長時間のデスクワークや集中作業による精神的・神経的な疲労。座位行動(sedentary behavior)や認知的な負荷が原因で、血流の低下や脳の過剰な緊張が関与。
この分類は、疲労研究における「身体的疲労(physical fatigue)」と「認知的疲労(cognitive/mental fatigue)」の区別と一致します(Boksem & Tops, 2008)。
2. 背景
2.1 動の疲れと休息
身体的な疲労(動の疲れ)は、運動による筋肉の微小損傷やエネルギー代謝の消耗(例: グリコーゲンの枯渇)に関連します。
研究によれば、適切な休息や睡眠は筋肉の修復を促進し、ホルモンバランスを整えることで回復を助けます(Dattilo et al., 2011)。
例えば、睡眠中に成長ホルモンが分泌され、筋組織の修復やエネルギー回復が促進されることがわかっています。
2.2 静の疲れと運動
一方、静の疲れは、長時間の座位行動や認知的な負荷によるストレスが原因で発生します。
座位時間が長いと、血流が低下し、脳への酸素供給が不足することで認知機能が低下します(Carter et al., 2018)。
また、長時間のデスクワークは筋肉の硬直やコリを引き起こし、身体的な不調にもつながります。
軽い有酸素運動の効果: ウォーキングやストレッチなどの低強度運動は、血流を改善し、脳への酸素供給を増加させる。これにより、認知疲労が軽減され、気分が向上する(Hillman et al., 2008)。
ストレッチとリラクゼーション: ストレッチは筋肉の緊張を緩和し、副交感神経を活性化することでリラクゼーション効果をもたらす(Montero-Odasso et al., 2020)。
深呼吸の効果: 深呼吸は自律神経系を調整し、心拍変動(HRV)を改善することでストレスを軽減する(Zaccaro et al., 2018)。
2.3 現代社会と静の疲れの増加
現代社会の便利さにより「体を動かす機会が減った」ことが指摘されています。
これは、座位行動の増加に関する研究と一致します。
世界保健機関(WHO)は、長時間の座位が健康リスク(例: 心血管疾患、認知機能低下)を高めると報告しています(Bull et al., 2020)。
特に、8時間以上の座位時間は、血流停滞や代謝異常を引き起こし、「体が重い」「頭がぼんやりする」といった症状につながる可能性があります。
3. 疲れの種類の見極めと実践的アプローチ
動の疲れへの対処:休息と睡眠: 十分な睡眠(7-9時間)を確保し、筋肉の回復を促す。
栄養補給: タンパク質や炭水化物を摂取し、筋グリコーゲンの補充を支援(Burke et al., 2011)。
静の疲れへの対処:軽い運動: 1日20-30分のウォーキングやストレッチを行う。研究では、10分間の軽い運動でも認知機能が改善することが示されている(Yanagisawa et al., 2010)。
マインドフルネスと深呼吸: 5分間の深呼吸や瞑想で副交感神経を活性化し、ストレスを軽減。
座位行動の中断: 1時間ごとに5-10分の軽い活動(例: 立ち上がって歩く)を取り入れることで、血流を改善(Dunstan et al., 2012)。
■まとめ
「動の疲れ」には休息が、「静の疲れ」には軽い運動が効果的であるという考えは、現代の疲労研究や健康科学の知見と一致します。
特に、現代社会における座位行動の増加は「静の疲れ」を蓄積させ、軽い運動による回復の必要性を高めています。
自分の疲れを見極めて、デスクワーク中心の日はウォーキングやストレッチを、体を使った日は栄養補給と睡眠を重視しましょう。
【参考文献】
Boksem, M. A., & Tops, M. (2008). Mental fatigue: Costs and benefits. Brain Research Reviews, 59(1), 125-139.
Bull, F. C., et al. (2020). World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. British Journal of Sports Medicine, 54(24), 1451-1462.
Burke, L. M., et al. (2011). Carbohydrates for training and competition. Journal of Sports Sciences, 29(sup1), S17-S27.
Carter, S. E., et al. (2018). Sedentary behavior and cardiovascular disease risk: Mediating mechanisms. Exercise and Sport Sciences Reviews, 46(2), 80-86.
Dattilo, M., et al. (2011). Sleep and muscle recovery: Endocrinological and molecular basis for a new and promising hypothesis. Medical Hypotheses, 77(2), 220-222.
Dunstan, D. W., et al. (2012). Breaking up prolonged sitting reduces postprandial glucose and insulin responses. Diabetes Care, 35(5), 976-983.
Hillman, C. H., et al. (2008). Be smart, exercise your heart: Exercise effects on brain and cognition. Nature Reviews Neuroscience, 9(1), 58-65.
Montero-Odasso, M., et al. (2020). The interplay between gait and cognition: Can exercise help? Nature Reviews Neurology, 16(6), 305-317.
Yanagisawa, H., et al. (2010). Acute moderate exercise elicits increased dorsolateral prefrontal activation and improves cognitive performance with Stroop test. NeuroImage, 50(4), 1702-1710.
Zaccaro, A., et al. (2018). How breath-control can change your life: A systematic review on psycho-physiological correlates of slow breathing. Frontiers in Human Neuroscience, 12, 353.