ある研究論文によれば、腸内細菌の加齢が年を取ると記憶力が落ちる(認知低下)の原因になる可能性があるようです。
よく詳しく言えば、物忘れは脳だけが原因ではなく、腸も超重要で、腸内細菌(マイクロバイオーム)の変化が、腸から脳への信号を弱めて、記憶を司る海馬の働きを悪くしていると考えられます。
■実験
老齢マウス(18〜24ヶ月齢)の腸内細菌を若いマウス(2〜3ヶ月齢)に移したところ、若いマウスなのに急に記憶テストの成績が悪くなりました。
反対に老齢マウスに抗生物質で腸内細菌をほぼゼロにすると記憶力低下がかなり防ぐことができました。
このことから、腸内細菌の加齢変化が認知低下の引き金になっていることがわかりました。
加齢で特に増える細菌は「Parabacteroides goldsteinii」でこの細菌は中鎖脂肪酸(MCFA)(特に3-ヒドロキシオクタン酸など)を作り、MCFAが腸の近くの免疫細胞(マクロファージなど)のGPR84という受容体を刺激し、炎症物質(IL-1β、TNFなど)が出て、これが迷走神経(腸と脳をつなぐ大事な神経)の感覚部分を邪魔した結果、脳の海馬に「ちゃんと信号が届かなくなる」=海馬の神経細胞が活性化しにくくなり、新しい記憶が作れなくなると考えられます。
そこで、1)特定の悪い細菌だけを減らすファージ(細菌を攻撃するウイルス)を使う、2)GPR84をブロックする薬、3)迷走神経を刺激する物質(カプサイシンやCCKなど)を使うことによって、老齢マウスの記憶力が若返るレベルで回復したそうです。
■さらに詳しく!
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)自体を老齢マウスに1回腹腔内投与 → 記憶テスト(Novel Object Recognition: 新規物体認識テスト)の成績が有意に改善。
GLP-1受容体作動薬のリラグルチド(liraglutide)を同じく老齢マウスに投与 → 記憶機能が回復(Extended Data Fig. 6o)。
リラグルチドは、まさに「糖尿病・肥満で使われているGLP-1受容体作動薬」の代表格(Victoza®)。
オゼンペック(セマグルチド)と同じクラスです。
つまり、腸から脳への迷走神経信号を直接刺激する物質として、GLP-1やその作動薬が使われて、これで海馬の神経活性が回復し、老齢マウスの記憶低下が改善しました。
内因性GLP-1の量自体は加齢で変わっていないのに、外から投与すると効果が出る(=信号伝達が弱まっているのが原因)ことがわかりました。
この研究を参考にすると、腸を整える、具体的には腸内細菌を若返らせる(良い菌を増やす、悪い菌を減らす)、GPR84阻害薬、迷走神経を刺激することによって、認知症や物忘れの改善につながる可能性があるのではないでしょうか?
【参考文献】
- Cox, T.O., Devason, A.S., de Araujo, A. et al. Intestinal interoceptive dysfunction drives age-associated cognitive decline. Nature (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10191-6
■まとめ
今回の研究で面白いポイントは3つ。
1)腸内細菌の加齢が記憶力の低下・物忘れ・認知症の原因の一つの可能性があること
2)その治療が糖尿病・肥満で使われているGLP-1受容体作動薬でできる可能性があること
3)腸を整えて腸内細菌を若くすることが老化予防になる可能性があること
【モーニングショー】糖尿病治療薬SGLT2阻害薬を使って老化細胞の除去ができる!?では、「新薬」で「直接」老化細胞を除去をするのではなく、「すでに実績がある薬」で「人間に備わっている免疫システム」を活用して老化細胞除去を促進している研究があることを紹介しました。
新薬に比べて、すでにある程度の実績がある薬を応用することは安全性やコストの面でメリットが大きいですね。
もう一つ言えることは、この研究を参考にすれば、糖尿病と老化が密接に関係していて、糖尿病にならないような生活習慣をすることが老化予防につながるのではないかと考えられます。
→ 糖尿病の症状・初期症状|糖尿病とは について詳しくはこちら
【補足】
これまでフルーツが認知症やうつ病の予防に役立つとする場合に、フルーツの持つ栄養素が脳に直接効果があると考えていましたが、実は腸内細菌叢のバランスを改善することが間接的に認知症予防やうつ病リスクの軽減につながっていたのではないでしょうか?
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