SNSで「アルツハイマー病の脳内プラークを、手術や薬を使わず10分ほどで排出する方法が見つかった」という興味深い情報を見かけました。
メガネを超音波洗浄機できれいにするように、脳に超音波を当てて老廃物を洗い流す。そんなイメージを持ってしまいそうですが、原論文を確認すると少し違います。
研究で使われたのは超音波(ultrasound)ではなく、40.68MHzの超短波(ultrashort wave:USW)です。
また「10分」というのも、アルツハイマー病のプラークが10分で消えたという意味ではありません。健康なマウスに超短波を照射したところ、10分以内にグリンパティック系の液体の流れが増強したという結果です。
では、この研究の何が興味深いのでしょうか。
■脳には老廃物の排出にかかわる仕組みがある
私たちの脳では、脳脊髄液などが循環しながら、代謝によって生じた老廃物の排出にかかわっています。
その仕組みの一つとして注目されているのが「グリンパティック系(glymphatic system)」です。
脳脊髄液が脳組織へ入り、組織の間にある液体と物質を交換しながら、代謝によって生じた老廃物の排出にかかわっています。この働きには、アストロサイトに存在する「AQP4(アクアポリン4)」という水チャネルが関係しています。
アルツハイマー病との関係では、この排出機能の低下によって、アミロイドβやタウといったタンパク質が病的に蓄積することとの関連が研究されています。
■この「排出システム」を外から動かせないか?
今回の研究の面白さはここにあります。
研究者らがマウスに40.68MHzの超短波を照射したところ、グリンパティック系への液体の流入と流出が促進されました。
その際、脳ではデルタ波の神経活動の同期が増え、さらにAQP4の働きにかかわる変化が確認されました。AQP4を薬理学的に阻害すると、この効果はみられなくなりました。
つまり単純に、「外から刺激して脳の汚れを洗い流した」という話ではありません。
脳がもともと持っている老廃物の排出システムの働きを、外部からの刺激によって高められる可能性が示されたというところが重要です。
■アルツハイマー病モデルマウスでも研究
さらに研究者らは、アルツハイマー病モデルマウスでも実験を行いました。
その結果、グリンパティック機能が改善し、認知機能の低下も改善したと報告しています。
ただし、これはあくまでマウスを使った前臨床研究です。人のアルツハイマー病を超短波で治療できることが確認されたわけではありません。
■「老廃物を取り除く」から「排出する仕組みを動かす」へ
最初は「10分で脳内プラークを取り除く」という情報に目を引かれました。
しかし原論文を確認してみると、この研究の興味深さは別のところにありました。
脳に蓄積した物質を直接取り除くのではなく、脳が本来持っている老廃物排出システムの働きを外部から調節する。
そんなアプローチの可能性が動物実験で示されたことです。
以前、「脳のゴミ捨てルートが鼻にあった?Cell論文から考える嗅覚と認知症」という記事で、脳脊髄液が嗅球周辺から硬膜リンパ管、鼻腔リンパ管などを経て排出される経路について紹介しました。
前回が「脳の老廃物はどこを通って排出されるのか」という研究だとすれば、今回は「その排出システムの働きを外から高めることはできないか」という研究です。
まだ人のアルツハイマー病治療につながるかどうかは分かりません。
それでも、こうした研究を続けて見ていくと、「脳にはどのような老廃物排出の仕組みがあり、その働きをどう維持・調節できるのか」というテーマが、アルツハイマー病などの神経疾患を考えるうえで注目されていることが見えてきます。
→「脳のゴミ捨てルートが鼻にあった?Cell論文から考える嗅覚と認知症」
【参考文献】
Noninvasive ultrashort wave neuromodulation enhances glymphatic clearance to alleviate traumatic brain edema and Alzheimer’s pathology. Science Advances. 2026;12(42):eaeh8870. DOI: 10.1126/sciadv.aeh8870.