by Skaja Lee(画像:Creative Commons)
■Timebank(タイムバンク)を通じて考えた、時間(近代的時間)の概念の話
最初「Timebank(タイムバンク)」というサービスが出てきたときに面白い・新しいと感じていました。
「潤沢な世界において、唯一の希少性は人間のアテンションにある」
時間は希少でありながら貯めることができないもの。
時間取引所はこの考えを変えようということなのかな?
VALUっぽいところもある。IoA(INTERNET OF ABILITY)の一歩前の世界って感じ。 https://t.co/xBEa5a9OPI
— ハクライドウ (@hakuraidou) 2017年7月18日
ただ、「近代」について学ぶうちに、このサービスは本当に新しい価値観なのかなという疑問が浮かびました。
それは時間を切り売りするというのは「新しい」というよりも近現代らしい考え方から出てきたもので、時間で管理する時代の終わりを象徴するようなサービスなのではないかと感じたからです。(認識が違っていたら申し訳ありません。ただそう感じたのです。)
「Timebank(タイムバンク)」のミッションはこのように書かれています。
タイムバンクは様々な空き時間を有効活用できる「時間市場」の創出を通して、個人が主役の新たな経済システムの実現を目指しています。時間の価値を再認識してもらうことで、人々の働き方や生き方を変えていきたいと考えています。
時間を発行することで、時間の売り買い、使用、保有することができるというのは一見心惹かれるものがあります。
ミッションにもあるように空き時間を有効活用する働き方・生き方というのは、「ギグ・エコノミー(Gig Economy)」の考え方に近いものに感じます。
Gig Economyはインターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方によって成り立つ経済形態のことです。
【参考リンク】
- 拡大する「ギグ・エコノミー」の中で将来有望な10の仕事(2017/3/13、Forbes)
- ギグエコノミーの仕事、最高月収は「雑用か民泊ホスト」(2017/7/20、Forbes)
ただ、このギグ・エコノミーにも光と影の部分があり、ギグ・エコノミーが柔軟な働き方や収入の増加を可能にしている一方で、長時間労働や差別、社会との接触の欠如、そして賃金低下などをもたらすという「新たな貧困の種」を生み出しつつあるのです。
【参考リンク】
- ギグ・エコノミー、「新たな貧困の種」を生み出しつつあるその実態:調査結果(2017/4/4、Wired)
- The Risks and Rewards of Online Gig Work At the Global Margins(2017/3、Oxford Internet Institute, University of Oxford)
時間を提供するというのは、その時間に価値があるから成立するわけであり、労働としての時間が供給過多になった場合、大きく値崩れを起こし、その価値はどんどん目減りしていくことになります。
また、時間の仲介者も現れ、人の思い込み(例えば、裕福な国の労働者のほうが、低所得国や中所得国に在住する労働者たちよりも価値の高い労働を提供する)を利用した搾取も生まれるでしょう。(すでに起きているようですし、同じようなことは昔からもありますよね。)
時間を売り買いするという考え方は間違うとそうした問題を引き起こすきっかけとなってしまいかねません。(だからこそタイムバンク側は発行者を影響力のある人に限っているのかもしれません)
時間の概念について考えることは、その人自身が何を信じているか、信じ込まされてきたかを知ることができるため、大変面白いです。
例えば、近現代のように、時間規律が社会に定着しなければ、そもそも「遅刻」という概念自体も誕生することはなかったでしょう。
また、相手に電話をかける行為は、時間を一方的に奪う行為だという考え方もこうした時間の概念がなければ存在しなかったでしょう。
ある人がいうには、相手に電話をかける行為は、時間を一方的に奪う行為だという。全てのコミュニケーションは結果的に相手の時間を奪う行為と言えてしまうかもしれない。そうすると、心優しい人は、相手のことを思うあまり、誰とも触れ合わなくなるということを選択してしまうかもしれない。 pic.twitter.com/TUXkwELb7G
— ハクライドウ (@hakuraidou) 2017年5月20日
堀江貴文氏「電話してくる人とは仕事するな」📲
電話をすることで相手の時間を奪っていることを意識する。
「一緒にいてもスマホ」によれば、若者は電話が苦手になっているそうだ。理由はよく考えて送信するメールと違い、編集ができないから。電話に対する苦手意識を持っている人が多いともいえる。 https://t.co/S2uhMPueQy— ハクライドウ (@hakuraidou) 2017年6月5日
時間の社会学の展開. ―「近代的時間」観をめぐって(慶応義塾大学)では、時間の社会学が「近代的時間」を「計量可能性」「抽象性」そして「直線性」の3つの性格を持つものとして描いてきていると紹介されています。
こうした特徴を持つ「近代的時間」は人工的に、人為的に作られたものであるにもかかわらず、社会に浸透していき、これを基準として近代社会が作られていくことによって、時間という考え方は変えられないもの、というよりも変えるということさえも思いつかないものとなってきています。
近代的時間の考え方を画一的にするというのは、工業化時代に適した考え方であり、それはそれで成功してきた部分もあるでしょう。
「時間の概念とはこういうものだ」というのは時間で管理したい側による教育で刷り込みされてきたのでしょうが、本来であれば、それぞれの人にとって、いろんな時間の考え方があっていいはずです。
時間の社会学の展開. ―「近代的時間」観をめぐって(慶応義塾大学)で紹介されている真木悠介さんによる時間意識の類型論によれば、時間観には「反復的な時間」「線分的な時間」「円環的な時間」「直線的な時間」というものが紹介されています。
時間の再発明といった場合には、時間の概念の再発明という意味を含めて、時間に対する考え方・価値観をアップデートし、もっとその人らしい時間のとらえ方が許される時代が来るといいのではないでしょうか?
「長崎の11時2分はとても長い」 横浜高の4番打者https://t.co/xTJxQuAUN9
考え方・意識のとらえ方によって、時間の意味合い・長さが違うんだという例。毎分毎秒この気持ちでいることは難しいけど、そういう時間をたくさん持つことが大事なんじゃないかなと思う。
— ハクライドウ (@hakuraidou) 2017年8月9日
■まとめ
落合陽一「魔法使いの研究室」直方体型人類とタイムマネジメント時代の終わり(前編)(2017/6/6、ほぼ日刊惑星開発委員会)によれば、落合陽一さんはタイムマネジメントからストレスマネジメントの時代へという考え方を提案していましたが、これからは時間を売り買いするのではなく、その仕事をすることに対して、好きか嫌いかは別として、ストレスを感じる人とストレスを感じない人がいて、それを選択していくことや適材適所の考え方が重要になるのではないでしょうか。
ミハイ・チクセントミハイの「フロー体験」とは、時間を忘れるほどのめりこんで没頭する状態である。
フローは、挑戦(難易度)が平均よりも困難で、能力も平均以上のものが求められている時に体験できる。https://t.co/ZsTIcQoi3b pic.twitter.com/cNtXaCM2CS— ハクライドウ (@hakuraidou) 2017年2月11日
P.S.
『時というものは、それぞれの人間によって、それぞれの速さで走るものなのだよ』
Something as time runs by respective speed by the respective man.
シェークスピア「お気に召すまま」より
「時間 格言」で検索すると、偉人・有名人が様々な時間に関する格言を残しているものです。
自分がなりたい自分になるための時間の格言を見つけてみてはいかがですか?
【関連記事】