東京医科大の女子受験生一律減点疑惑問題は、性差に対する考えの偏り、試験制度のアップデート、女性医師が働きやすい環境づくりを考えるチャンスにしよう!





■東京医科大の女子受験生一律減点疑惑問題は性差に対する考えの偏り、試験制度のアップデート、女性医師が働きやすい環境づくりを考えるチャンスにしよう!

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by Walt Stoneburner(画像:Creative Commons)

東京医大、女子受験生を一律減点…合格者数抑制

(2018/8/2、読売新聞)

東京医科大(東京)が今年2月に行った医学部医学科の一般入試で、女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが関係者の話でわかった。

西川史子 東京医科大の女子受験者一律減点は「当たり前。女性と男性の比率は考えないと」

(28018/8/5、スポニチアネックス)

「だって、(成績の)上から取っていったら、女性ばっかりになっちゃうんです。女の子のほうが優秀なんで」と続けた。

このニュースを見る前の前提として、関係者談であり、実際にそうしたとされる証拠が出ていないということを忘れてはいけません。

そのうえで、もしそうであるとすれば、今後どうしていくのがよいのかについて話し合っていく必要があります。

考えるポイントはいくつか考えられます。

  • 成績が優秀な順に選んだ際に女性ばかりになると本当に回らなくなるのか。
  • 女性ばかりの現場になった際にはテクノロジーと仕組みを変えて、より効果的な医療になるという可能性はないのか。
  • 医師に必要な能力はテストの成績なのか。
  • もし総合的な評価が医師に求められるのであれば、なぜそうした試験制度にならないのか。

こうしたことから必要とされるのは、私たちが持つ性差に対する考えの偏りについて考えること、試験制度のアップデート、女性医師が働きやすい環境づくりです。

●性差に対する考えの偏りについて考えること

「しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する」(著:レナード・ムロディナウ)

自分のことをアジア系アメリカ人として考えるよう仕向けられた女性は、対照群よりも成績がよく、逆に、自分が女性という内集団に属していることを気づかされた女性は、対照群よりも成績が悪かった。自分がどの内集団に属すると考えるかは、他人に対する判断に影響を与えるだけでなく、自分自身に対する感じ方、自分の振る舞い方、そしてときには自分の能力にさえも影響を与えるのだ。

女性ということを意識させられることで成績が悪くなってしまうというのは、私たちが無意識にそう捉えてしまっている「何か」があるはずです。

きっとそれが「偏見」なのでしょう。

●試験制度のアップデート

医師に必要な能力は試験の成績だけなのでしょうか?

そう質問すると、多くの人は違うと答えるでしょう。

しかし、現状ではそういう試験制度になっています。

IBMの「WATSON」によってがん治療がスピードアップする!?によれば、医療従事者は、膨大な数の情報(最新の医療研究、論文、医療データ、患者の医療記録)を取り扱っていて、すでに人の頭脳では把握することができないほどなのだそうです。

テクノロジーと医療分野のトレンド|ウェアラブルデバイス・健康アプリ・医学研究|メアリー・ミーカー(MARY MEEKER)レポートで紹介したレポート(スライド300)によれば、インプットのデジタル化の増加によって、医療データは年間成長率は48%となっているそうです。

また、レポート(スライド302)によれば、インプットされるデータ量が増えていくことで、科学論文引用が増加しており、医学研究・知識は3.5年ごとに倍増しているそうです。

つまり、すでに医師では把握することのできないほどの情報量があり、試験でそれを判断するよりも、データをどう活かすのかという能力のほうが求められる時代になりつつあります。

ということは、試験制度自体に問題があり、現実に沿った試験制度へのアップデートが必要になるはずです。

例えば、医師という職業に対するモチベーションが仮に重要だとするならば、入口を広く、つまり合格者を増やし、実際に学びながら、その道を目指していけるのかどうかを判断してもらい、モチベーションが続かない場合には他の大学や学部への転入を可能な制度にすることはできないものでしょうか。

【関連記事】

●女性医師が働きやすい環境づくり

看護師・看護職員の離職理由とは|看護師の離職率を改善するための提案によれば、看護職員の離職理由として、妊娠・出産・結婚・子育て・配偶者の転勤といった人生の転機が挙げられています。

本来であれば、妊娠・出産・結婚・子育てと離職とは結び付いてはいません。

働きたくなくなったという理由以外で、働きづらくなるからというものであるならば、それは仕組み・環境の問題です。

女性医師が結婚や出産で職場を抜けられるリスクがあるという理由であるならば、女性医師が結婚や出産で職場を抜けることを前提にした仕組み作りに取り掛かることが時代を一歩前に進めることにつながります。

■まとめ

女性医師の治療を受けた患者は生存率が高い!?|医師の患者に対する共感・コミュニケーションが重要な役割を果たしている?で紹介した米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の研究によれば、女性医師による治療を受けた患者は、男性医師の治療を受けた患者に比べて、入院してから30日以内に死亡する確率や退院後の再入院する確率が低かったそうです。

その理由としては、主たる病気が生活習慣病へ移行したことで、ケア(care)やマネジメント(management)が大きな位置を占めるようになったことにより、患者への共感といったコミュニケーションが重要な要素となってきていることが挙げられます。

このように書くと、女性医師だけの現場のほうがよいのではないかとおもうかもしれませんが、私はその意見の立場ではありません。

なぜ企業はジェンダーダイバーシティ(男女の多様性)を重要視するようになったのか?|ACCENTUREやGOOGLEは社内男女比「50対50」を目指すで紹介した社会学者のセドリック・ヘリングによれば、人種のダイバーシティと売上高、顧客数、市場シェア、利益の増加には相関があることを発見しています。

職場の均質性は悪い結果を招きやすく、視点の多様性で会社が近視眼的になるのを防ぐと考えられます。

「だから、男と女はすれ違う」によれば、NASAの男女混成チームのほうが、男性だけ、女性だけのチームよりも良い結果を生んでいるそうです。

NASAの男女混成チームを見ると、成功の要因はチームのコミュニケーションがとれていること。

コミュニケーションを円滑にする女性特有の能力。

そして、目標を達成しようという男性が得意な能力。

それらがうまく組み合わさるとき、最強の力を発揮するチームが生まれるのではないか。

男性だけだと、競争が優先されるため、より遠くまで探査できるが、人命救助がおろそかに。

女性だけだと、お互いを気遣うあまり、探査が思うように進まない。

だから、男と女はすれ違う―最新科学が解き明かす「性」の謎

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なぜ企業はジェンダーダイバーシティ(男女の多様性)を重要視するようになったのか?|ACCENTUREやGOOGLEは社内男女比「50対50」を目指すで書いたように、男女比をフィフティフィフティにしようという考え方は標準化しようという考え方であり、あるところでは男女比が9:1のところがあったほうがよいところもあるはずです。

重要なのは、その時々によってその割合のバランスを変えられるということです。

問題をフィフティフィフティで解決しようとすると、かえって無駄が多い社会になってしまう可能性があるというのが落合陽一さんの意見です。

企業を評価する人たちは「社員の男女比50対50」というような数字はわかりやすくて評価しやすいのだと思いますし、私もそのうちの一人でした。

多様性(ダイバーシティ)を考える際には、何が標準かを決める考え方(この場合には「社員の男女比50対50」)によって多様化を目指すのではなく、その時々によってその割合のバランスを常に変え続けるようにすることで、本来の意味での多様性が実現するのではないでしょうか。

恣意的にではなく、”自然と”男女比が50:50になったとしたら、それは問題ないことだと思いますが、男女比が50:50であることが平等だから制度としてやらなければならないというのはゆがみが出てきてしまうのではないでしょうか。

企業側は適材適所でその人を選んだことをしっかりと説明できるようにすることのほうが重要なのかもしれません。

そう大事なことは「適材適所」で選ぶ仕組みづくりなのです。