■果物摂取量の現状
日本人の果物摂取量は少ないといわれています。
健康日本21(第二次)の最終評価によれば、果物摂取量は200g/日を目標値として設定していますが、果物摂取量100g未満の人の割合は悪化しており、若い人ほど果物を食べていないということがわかります。
■果物摂取量が少ない理由
なぜ日本では果物摂取量が少ないのでしょうか?
1)イメージと認識の問題
●価格の高さ:果物と健康(農林水産省)を参考にすると、日本・フランス・ドイツにおいて果物のイメージ調査をしたところ、「おいしい」という面では共通していますが、フランス、ドイツでは「健康によい」、「バランスが良い食生活になる」、「抗酸化成分が豊富」、「ダイエットに適している」、「手軽に食べられる」が比較的多い一方、日本では「値段が高い」や「食べるまでが面倒」が多いのが特徴です。
つまり、日本ではおいしいものというイメージはあっても健康に良いものとしてのイメージは少なく、値段が高いもの、食べるのが面倒なものというイメージを持っているために果物を食べる機会が少ないと考えられます。
●「果物=太る」という誤解: もう一つ考えられるのは果物=太るというイメージがあるからではないでしょうか?
果物は甘く、「甘い=糖分が多く高エネルギー」といったイメージがあるため、いまだに、果物は太ると思っている人がいますが、これは大きな誤解です。
<中略>
近年、みかんやりんごは技術革新により甘さの指標である糖度が高くなっています。糖度が1度上がるとかなり甘くなったと感じるのですが、1度の糖度上昇にともなうエネルギー増加量は100gあたりわずかに4kcal程度なのです。
果物と菓子類のエネルギー量の比較(100g当たり)を参考にすると、菓子類のエネルギー量と比較すると、果物のエネルギー量が低いことがわかります。
食事全体の総エネルギー摂取量に変化がなければ、果物の摂取量を増やしても肥満になることはないということなんですね。
2)ライフスタイルと経済的要因
可処分所得の低さ:果物を子供に食べさせたいと思っていても、経済的余裕のなさが購入を妨げていたり、日本では果物の価格が諸外国に比べて高く、日常的な消費が難しい。
食べる手間の問題: 果物の皮むきや切り分けの手間が、忙しい現代人にとって敬遠される要因。特に若年層は手軽なスナック菓子や加工食品を選ぶ傾向が強い。
3)健康効果の認知不足
欧米に比べ、日本では果物の健康効果(抗酸化作用、ビタミン・ミネラル供給、疾病予防など)に対する認知が低い。農林水産省の資料では、果物摂取ががん(口腔・咽頭・喉頭がん、肺がん)、心臓病、脳卒中、2型糖尿病、骨粗しょう症、フレイルなどのリスクを低減することが科学的に示されているが、この情報が一般に浸透していない
■果物の健康効果
果物と健康(農林水産省)では果物の健康効果についてもたくさん紹介されています。
●果物によるがん予防は、口腔・咽頭・喉頭がんと肺がんで「ほぼ確実」と評価されています。
●みかんに多く含まれているβ–クリプトキサンチンについては、国内のコホート研究において、血中濃度が高い者ほど肝機能低下の発症リスクが低くなること、また脂質異常症や2型糖尿病の発症リスクも有意に低下することが明らかにされています。
●果物の摂取によって血液中のコレステロールや中性脂肪が低下し、「心臓病」と「脳卒中」などの循環器疾患の発症リスクが低下することが報告されています。
●食物繊維には、コレステロールや脂質の吸収を抑制することや、ビフィズス菌等の有用菌を増やす働きがあることが知られています。また、ファイトケミカルには抗酸化作用や、体脂肪の蓄積抑制などの生体調節機能が報告されています
●世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO) が2003年 に 発 表 し た 報 告 書「Diet,Nutrition and the prevention of chronic diseases」では、動物性タンパクの過剰摂取による含硫アミノ酸が酸性血症とも呼ばれる代謝性アシドーシス(血液や他の体液の酸塩基平衡が酸性側に傾く状態)を誘発し、その結果、骨吸収が盛んになり骨に悪影響を及ぼすとしています。これを防ぐためには、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の摂取が重要と考えられています。果物にはカリウム等のミネラル類が豊富に含まれており、代謝性アシドーシスを平衡化すると考えられています。
●果物は、骨基質の重要な成分であるコラーゲンを生合成する上で必須な栄養素となるビタミンCの重要な供給源でもあります。
●血中βクリプトキサンチン濃度が高い閉経女性では骨粗しょう症の発症リスクが低下することがコホート研究で示されています。β-クリプトキサンチンは骨形成を促し、破骨細胞による骨吸収を抑えることが明らかにされています。
●疫学研究の結果は、地中海食、魚、果物や野菜の摂取がフレイルの予防に有効である可能性を示唆しています。フレイルには、抑うつや軽度認知障害も含まれるのですが、果物や野菜の摂取はこれらの発症を抑える可能性が示されています。
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健康日本 21(第三次)推進のための説明資料(令和5年5月)
高血圧 16)、肥満 17)及び2型糖尿病 18)の発症リスクとの関連を検討したメタアナリシスによると、果物摂取量について、200g/日まではリスクが減少することが報告されている。また、冠動脈疾患、脳卒中及び全死亡のリスクと果物摂取量を検討したメタアナリシスでは、200g/日程度で相対リスクが低くなることが報告されている 21)。
- 16) Schwingshackl L, Schwedhelm C, Hoffmann G et al. Food Groups and Risk of Hypertension: A
Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of Prospective Studies. Adv Nutr. 2017
Nov;8(6):793-803. - 17) Schlesinger S, Neuenschwander M, Schwedhelm C et al. Food Groups and Risk of Overweight,
Obesity, and Weight Gain: A Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of
Prospective Studies. Adv Nutr. 2019 Mar;10(2):205-218. - 18) Schwingshackl L, Hoffmann G, Lampousi AM et al. Food groups and risk of type 2 diabetes
mellitus: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Eur J Epidemiol.
2017 May;32(5):363-375. - 21) Aune D, Giovannucci E, Boffetta P et al. Fruit and vegetable intake and the risk of
cardiovascular disease, total cancer and all-cause mortality-a systematic review and doseresponse meta-analysis of prospective studies. Int J Epidemiol. 2017 Jun;46(3):1029-1056.
■まとめ
日本人の果物摂取量が少ない主な理由は、高価格、食べる手間、健康効果の認知不足、そして「太る」という誤解にあると考えられます。
健康効果を認知させることや「太る」という誤解を解くこと、手軽な提供方法を普及していくことが日本人の果物摂取量の増加に役立つのではないでしょうか?