先日アトピーのお子さんをお持ちのママにどんな対策をされてるんですかと質問したところ、「グルテンフリーをしています」ということでした。
そこでグルテンとアトピーの関係について調べてみました。
ある研究によれば、アメリカの看護師を対象とした大規模な健康調査で、グルテンの摂取量が多いと、乾癬、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎にかかるリスクが高まるのか調べたところ、グルテンの摂取量が多い人と少ない人を比較しましたが、乾癬、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎のいずれとも明確な関連は見られなかったそうです。
つまり、グルテンを普通に食べていても、これらの皮膚疾患にかかる可能性が高まるわけではない、と考えられます。
【参考リンク】
- Gluten intake and risk of psoriasis, psoriatic arthritis, and atopic dermatitis among United States women
Drucker, Aaron M. et al.
Journal of the American Academy of Dermatology, Volume 82, Issue 3, 661 – 665
グルテンはなぜか悪いというイメージがついているんですよね。
52歳モデルがヴィーガン食で「死にかけた」慢性の消化器疾患「セリアック病」と診断!ヴィーガン食によりセリアック病を起こすことがあるの?によれば、セリアック病では、小麦や大麦などに含まれるたんぱく質グルテンを摂取することにより免疫系が小腸を攻撃し、栄養の吸収を阻害してしまうので、グルテンアレルギーやセリアック病の予防・改善のため、「グルテンフリー」小麦・大麦・ライ麦などに含まれる「グルテン」というたんぱく質を避ける食事法があります。
多くの人がグルテンフリーが健康に良いという時にはこの情報をベースにしたものを参考にしているのではないでしょうか?
グルテン・小麦=老化の原因!?グルテンフリーだとアンチエイジングになるって本当?調べてみた!でも書きましたが、グルテンフリー食が一部の人々にとって健康上のメリットをもたらす可能性はあり、また小麦製品の過剰摂取がAGEsを通じて老化に間接的に影響する可能性はありますが、誰もがグルテンフリーだからといって健康に良いわけではなく、グルテンがそもそも「悪」ではないんですよね。
もう一つ考えられるのは「アレルギーマーチ」という考え方です。
アトピー性皮膚炎は、保湿剤で乳児の発症率3割減少するによれば、アトピー性皮膚炎のある乳児は、食物アレルギーを持っていることが多く、また、国内では未就学児の10~30%がアトピー性皮膚炎を患っているそうです。
皮膚のバリアーを高めてアトピー予防|フィラグリンに変異があるとアトピー性皮膚炎を発症しやすくなる!?|アレルギーマーチを防ぐには?によれば、子どもの場合、成長とともに、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、ぜんそく、鼻炎と進む傾向があるため、「アレルギーマーチ」と呼ばれます。
乳児期に湿疹があると、さまざまな抗原が入りやすくなって、アレルギーマーチを引き起こすと考えているので、湿疹を放置せずに早く治療することが食物アレルギーやぜんそく、花粉症などの発症予防につながる可能性があるそうです。
食事前に子供の口の周りにワセリン(保湿剤)を塗ることで食物アレルギーを予防!なぜワセリン(保湿剤)を塗るとアレルギーが予防できるの?によれば、乳幼児はかぶれたら食事前にワセリンなどで保護するという方法がぜん息予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブックなどでも紹介されています。
1.乳幼児の皮膚はとても薄く、新生児の場合、大人の半分しかありません。また、皮脂分泌量が圧倒的に少ないため、乾燥しやすい、かぶれやすい、炎症を起こしやすい、という特徴がある。
2.特に、口まわりは、外からの刺激を受けやすく、特に炎症を起こしやすい場所である。
3.口周りがただれていると、つまり、口周りのバリア機能が低下していると、そこに付着した食べ物のアレルゲンが侵入し、食物アレルギーを発症してしまうことがある。
4.そこで、食事前に口の周りを清潔にしたうえで白色ワセリンなどの保湿剤を口周りに塗っておくことで食物アレルギーの発症を予防する。
つまり、今までの記事を含めて総合的に考えると、食物アレルギーのリスクになるような食品を取り除くことで、アレルゲンの侵入を防ぎ、食物アレルギーの発症を防ぐことで、アトピーの発症を防ぐまたは症状を軽減するという考えになっているのではないでしょうか?
そこで、グルテンフリーがアトピーに良いという考え方になっているのかもしれません。
最後にこの記事のまとめを2つ。
●グルテンを普通に食べていても、乾癬、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎の皮膚疾患にかかる可能性が高まるわけではない。
評価:このポイントは論文の結論と完全に一致しており、正確です。一般的なグルテン摂取がこれらの皮膚疾患のリスクを高める証拠はありません。
●グルテンフリーをすることで食物アレルギーのリスクを減らしてアレルギーマーチを防ぎ、アトピーの発症を防ぐまたは症状を軽減したいと考えているからこそグルテンフリーの食事を選ぶ人が増えているのでは?
評価:この考えは部分的に妥当ですが、以下の補足が必要です:
グルテンフリーがアトピー予防やアレルギーマーチ抑制に効果的なのは、グルテン関連のアレルギー(小麦アレルギー、セリアック病)を持つ人に限られる可能性が高いです。
一般の人がグルテンフリーにすることでアトピーやアレルギーマーチを予防できるという科学的証拠は不足しています。
グルテンフリー食の人気は、セリアック病や健康トレンドの影響で「グルテンが悪」と誤解された結果とも言えます。
Q&A
Q1: グルテンフリーにするとアトピーが良くなるの?
A: 小麦アレルギーやセリアック病がある人には効果がある場合がありますが、普通の人にはアトピー予防や改善の効果は科学的にはっきりしていません。無理にグルテンを避けると栄養不足になるリスクもあるので、医師や栄養士に相談するのがおすすめです。
Q2: アレルギーマーチって何?
A: 乳幼児期にアトピー性皮膚炎が始まり、食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎へと進行するパターンのこと。皮膚のバリアを保つ(保湿剤を使うなど)ことで、アレルゲンの侵入を防ぎ、進行を抑えられる可能性があります。
Q3: グルテンが「悪」って本当?
A: グルテンはセリアック病や小麦アレルギーの人には問題ですが、健康な人には悪影響の証拠は少ないです。グルテンフリーが流行しているのは、一部の病気の情報が広まりすぎた誤解が原因かもしれません。
■結論
グルテンフリーがアトピーやアレルギーマーチの予防に役立つ可能性は、特定のグルテン関連アレルギーを持つ人に限られます。
論文の結果からも、一般的なグルテン摂取がアトピー性皮膚炎のリスクを高めるわけではないことがわかります。
グルテンフリー食を選ぶ人が増えている背景には、健康トレンドや誤解が影響していますが、科学的根拠に基づいた食事選択が重要です。
アレルギーマーチの予防には、乳幼児期のスキンケアや湿疹の早期治療がより効果的と考えられます。
→ アトピー性皮膚炎とは|アトピーの症状・原因・改善方法・予防 について詳しくはこちら
【補足】 他の関連論文・情報のまとめ
論文1: The Link between the Clinical Features of Atopic Dermatitis and Gluten-related Disorders(Sur et al., 2019)
概要: グルテン関連疾患(セリアック病、小麦アレルギー、非セリアックグルテン過敏症:NCGS)とADの関連を症例報告で検討。
内容: 32歳の女性とその娘2人(6歳、9歳)がADとグルテン関連疾患を併発。グルテンフリー食(GFD)を導入後、ADの症状が大幅に改善した。特に、母親は4か月齢でADと診断され、12歳でセリアック病(CD)と診断後、GFDで皮膚症状が軽減。娘もグルテン再導入で症状が悪化した。
結論: グルテン関連疾患を持つAD患者では、GFDが症状改善に有効な場合があるが、因果関係は不明で、さらなる研究が必要。
限界: 症例報告(3人)に基づくため、広く一般化できない。
ポイント: セリアック病やNCGSを持つ特定のAD患者では、GFDが効果的かもしれないが、症例規模が小さく、科学的証拠としては限定的。
論文2: Gluten Intolerance and Its Association With Skin Disorders: A Narrative Review(2023)
概要: グルテン不耐症(特にセリアック病)と皮膚疾患(AD、乾癬、蕁麻疹など)の関連をレビュー。
内容:
セリアック病(CD)はグルテン不耐症の代表で、皮膚症状(特に蕁麻疹様皮膚炎:DH)を伴う。ADとの関連は一貫しない。
169人の横断研究では、AD患者の51%がGFDで症状改善を報告(出典84)。また、Sur et al.の症例報告(上記)を引用し、GFDでAD改善の例を提示。
セリアック病患者の約60%がADを含む皮膚症状を有し、GFDで改善する傾向がある。
結論: ADとグルテン不耐症の関連は一部の患者で認められるが、GFDの効果は個人差が大きく、さらなる臨床試験が必要。
限界: 多くのデータが症例報告や小規模研究に基づくため、因果関係の証明は不十分。
ポイント: グルテン不耐症(特にCD)がある場合、GFDがADの症状を軽減する可能性があるが、普遍的な効果は未確立。
論文3: Atopic Dermatitis and Celiac Disease: A Cross-Sectional Study of 116,815 Patients(Shalom et al., 2020)
概要: AD患者におけるセリアック病(CD)の有病率を調査。
内容:
AD患者は非AD対照群と比べ、セリアック病の有病率が1.6倍高い(0.6% vs 低率)。重症AD患者ではCDの有病率が約3倍。
セリアック病患者はADや蕁麻疹様皮膚炎(DH)を合併しやすい。
結論: ADとセリアック病には関連があるが、AD患者全体でのCD有病率は低い(0.6%)。グルテンがADの直接的原因とは考えにくい。
限界: グルテンフリー食の効果は直接評価していない。
ポイント: AD患者の一部にセリアック病が関与する可能性があるが、グルテンがADの主要な引き金ではない。
その他の情報源
Healthline: Does Eating Gluten Worsen Eczema Symptoms?(2025)
グルテンがADの原因ではないが、セリアック病やNCGSを持つ人では、グルテン摂取がADの症状悪化を引き起こす可能性がある。
2018年のレビューでは、NCGS患者の18%がAD様の皮膚症状を報告。GFDで改善する場合がある。
推奨:グルテンが引き金と疑う場合、1週間GFDを試し、症状を記録。栄養士の指導が必要。
National Eczema Association: Gluten-Free and AD(2016)
セリアック病患者の30%がADに関連する抗グリアジン抗体を持つ(1985年の小規模研究)。しかし、2001年の研究では、セリアック病児と非セリアック児でAD有病率に差がない。
GFDは重症AD患者で試す価値があるが、4~8週間で効果がなければ継続の必要性は低い。
Medical News Today: The Gluten-Eczema Connection(2022)
グルテンがADの原因ではないが、セリアック病患者ではDH(ADと類似)が頻発。GFDでDHは改善するが、ADへの効果は証拠が不足。
グルテンが引き金と疑う場合、食品日誌で症状を追跡し、医師と相談。
ポイント: セリアック病やNCGS患者ではGFDがAD症状を軽減する可能性があるが、一般のAD患者への効果は限定的で、科学的証拠は不十分。
■グルテンフリーとアトピー性皮膚炎の関係:総合的な考察
(1) グルテンフリー食の効果が期待できるケース
セリアック病(CD): セリアック病患者の10~25%が蕁麻疹様皮膚炎(DH)を合併し、GFDで改善する。AD患者でもCDが関与する場合、GFDが有効な可能性がある(例:Sur et al.の症例)。
非セリアックグルテン過敏症(NCGS): NCGS患者の18%がAD様症状を報告し、GFDで改善する場合がある。
小麦アレルギー: 小麦(グルテン含有)がアレルゲンの場合、GFDがAD症状を軽減する可能性がある。
(2) グルテンフリー食の効果が限定的なケース
一般のAD患者: 提供された論文(Drucker et al.)や他の研究(Shalom et al.)では、通常のグルテン摂取がAD発症のリスクを高めないことが示されている。GFDの普遍的な効果は証明されていない。
アレルギーマーチとの関連: 乳幼児期のADが食物アレルギーやアレルギーマーチ(喘息、鼻炎への進行)を引き起こす可能性があるが、グルテン特異的なアレルギーがない場合、GFDは予防効果が低い。
(3) グルテンフリー食のリスクと注意点
栄養不足: GFDはビタミンB群、鉄、食物繊維の不足リスクを高める。特に小児では成長に影響する可能性がある。
コストと負担: グルテンフリー食品は高価で、厳格な食事管理が必要。
誤診のリスク: DH(セリアック病関連)がADと誤診される場合がある。セリアック病の検査(血液検査、腸生検)が推奨される。
(4) アレルギーマーチとグルテンフリーの視点
「アレルギーマーチ」(AD→食物アレルギー→喘息・鼻炎の進行)は重要です。乳幼児の薄い皮膚はアレルゲン侵入のリスクが高く、湿疹の早期治療や保湿(例:ワセリン)がアレルギーマーチ予防に有効です。グルテンフリー食は、小麦アレルギーがある場合にアレルゲン除去として役立つ可能性がありますが、グルテン非特異的なADでは効果が期待できません。
■全体のまとめ
主要な結論
グルテン摂取とADのリスク:
一般的なグルテン摂取はADの発症リスクを高めない(Drucker et al., 2019)。通常の食事でグルテンを避ける必要はない。
グルテンフリー食の効果:
セリアック病(CD)、非セリアックグルテン過敏症(NCGS)、または小麦アレルギーを持つAD患者では、GFDが症状を軽減する可能性がある(Sur et al., 2019; 2023レビュー)。
しかし、AD患者全体でのGFDの効果は一貫せず、科学的証拠は限定的。
アレルギーマーチとの関連:
乳幼児期のADはアレルギーマーチの起点となり得るが、グルテンフリー食が予防に有効なのは小麦アレルギーなどの特定の場合に限られる。スキンケア(保湿、湿疹治療)がより効果的。
実践的なアドバイス:
グルテンがADの引き金と疑う場合、医師や栄養士の指導のもと、1~3か月のGFDを試し、食品日誌で症状を記録。
セリアック病やグルテン過敏症の検査(血液検査、腸生検)を検討。
無闇なGFDは栄養不足やコスト負担を招くため、慎重に判断。
グルテンフリー食は、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症、小麦アレルギーを持つアトピー性皮膚炎患者で症状改善の可能性がありますが、一般のAD患者への効果は限定的で、科学的証拠は不十分です。アレルギーマーチの予防には、乳幼児期のスキンケアがより重要です。グルテンフリーを検討する場合、医師や栄養士の指導のもと、短期間の試行と症状記録を行い、栄養バランスに注意しましょう。グルテンの「悪」のイメージは誤解に基づく部分が多く、バランスの取れた食事選択が大切です。