以前歯茎が腫れて膿が出てくるようになって、歯医者さんで治療を受けた際に、3日分の抗生物質をもらったんですけど、全然効かずに、ずっと腫れが続いていました。
それとは別に「食いしばりがあるようなので注意してください」と言われていたので、自分自身を観察してみると、日ごろから上下の歯同士が接触する機会が多いことに気づきました(TCH)。
そこで、歯を触れないように心掛けていたところ、そういえば、歯茎の腫れ・膿が治っていることに気づきました。
そして、こんなXの投稿を見かけたんです。
首の痛みや側頭部の痛みの原因が食いしばり・TCHかな?と上下の歯が当たらないように意識していたんですけど、そういえばニキビができなくなったんですよね。それって血流が滞って酸素や栄養が届くようになって炎症が減ったからかも。https://t.co/fhmAB740Oc
— ばあちゃんの料理教室【70代おばあちゃんの旬の料理】舶来堂🍳💓 (@hakuraidou) September 3, 2026
それが食いしばりやTCHといった噛み締め癖によって、あごの「咬筋」や、頭の横の「側頭筋」がガチガチに固まってしまっていると、血流がシャットアウトされ、酸素や栄養が届かなくなり、老廃物や炎症物質が滞り、慢性的な炎症につながるというもの。
そこで生まれたのが「食いしばりがあると慢性的な炎症で歯茎が不健康な状態になるのではないか?」という仮説です。
この仮説について論文ベースで調べてみることにしました。
結論から言うと、食いしばり(咬合性外傷/機械的ストレス)は歯茎の炎症や膿を引き起こす・悪化させる大きな要因となりうるそうです。
■ 歯の食いしばりやブラキシズムが炎症(膿)を招く理由(咬合性外傷)
歯の食いしばりやブラキシズムによって、歯に過度な力が加わり続けると、歯と骨をつなぐ「歯根膜(しこんまく)」という組織に強い機械的ストレス(圧力・歪み)がかかります。
これを「咬合性外傷」と呼びます。
歯根膜細胞に物理的な負荷(機械的ストレス)がかかると、細菌がいなくても、または細菌刺激と相まって、IL-6やIL-8、TNF-αなどの「炎症性サイトカイン(炎症物質)」が過剰に放出されることが報告されています(Yamamotoら、2006年・2011年など)。
力の負荷によって歯根膜の微小血管が圧迫されて血流障害が起き、組織が一部損傷することで、強い炎症反応や組織の分解が進みます。
すでに歯周組織に軽い炎症(歯周炎)や細菌(プラーク)が存在する場合、食いしばりの力が加わることで破壊のスピードが加速し、急性化して膿(歯周膿瘍)を形成することが症例報告などで示されています。
重要なポイントは、咬合性外傷は歯周炎の「原因」そのものではない(プラーク・細菌が主因)のですが、悪化要因(修飾因子)として強く働き、炎症がある部位で膿を誘発・増悪させた可能性が高いと考えられます。
※ブラキシズムとは、睡眠中や日中に無意識で歯を強く噛みしめたり、こすり合わせたりする癖や運動のことです。一般には「歯ぎしり」や「食いしばり」と呼ばれています。
■ なぜ抗生物質が効かなかったのか?
その理由は、原因が「細菌の増殖」だけではなく「機械的な破壊(力)」も大きく関わっていたためだと考えられます。
抗生物質(抗菌薬)は「細菌を殺す・増殖を抑える」ための薬です。
標準的な歯周膿瘍の治療は排膿と機械的清掃(デブライドメント)が中心で、抗生物質は全身症状(発熱など)がある場合や免疫低下時の補助的な使用に限られることが多いです。
通常の歯周病や感染症であれば細菌を抑えることで膿や腫れが引きますが、今回の膿の主因に「食いしばりによる物理的な組織破壊と血流障害」が含まれていた場合、原因である「力(圧迫)」がかかり続けている以上、抗生物質を飲んでも炎症物質の放出や組織の損傷は止まらないため、「抗生物質が効かない(効果を感じられない)」という現象が起こり得ます。
■ 食いしばりを意識したら膿が消えた理由:物理的ストレスの除去による組織のリモデリング(修復)
食いしばりに気をつけて減らしたことで、「炎症の元凶の一つ(機械的ストレス)」が取り除かれたため、膿が消えたと考えられます。
歯根膜への圧迫が解除されると、途絶えていた微小血流が再開します。
血流が戻ることで、体自身の免疫細胞や栄養が届くようになり、溜まっていた炎症物質が洗い流され、壊れた組織の修復(自己治癒)が進みます。
歯周病治療の領域でも、「歯周病治療(清掃)だけを行うより、咬合調整(噛み合わせや過度な力を減らすこと)を併用した方が、炎症の大幅な改善とポケットの縮小が得られる」という臨床的知見が報告されています。
■ まとめ
この解説はあくまでも「そういう可能性がある」というもので、正確に診断するものではありません。
ただ、食いしばりが間接的に歯茎の炎症を悪化させる要因になりうるということがわかったことから、一つの対策として覚えておいて損はないようです。
もちろん他の問題(ポケットの残存、噛み合わせの異常、根の破折など)があることも考えられますので、詳しくは専門の歯科医(できれば歯周病専門医)に診てもらうことを強くお勧めします。
【参考文献】
- Yamamoto T, et al. Mechanical stress induces expression of cytokines in human periodontal ligament cells. Oral Diseases. 2006;12(2):171-177.
- Yamamoto T, et al. Mechanical stress enhances production of cytokines in human periodontal ligament cells induced by Porphyromonas gingivalis. Archives of Oral Biology. 2011;56(3):251-257.
- Fan J, Caton JG. Occlusal trauma and excessive occlusal forces: Narrative review, case definitions, and diagnostic considerations. Journal of Periodontology. 2018;89(Suppl 1):S214-S222. / Journal of Clinical Periodontology. 2018;45(Suppl 20):S199-S206.
- Leone et al. (または関連するスコープレビュー) Occlusal Overload and Periodontitis: Integrating Mechanisms, Clinical Evidence, and Emerging Perspectives—A Scoping Review. International Journal of Dentistry. 2026.
- Yegin Z, et al. Treatment of periodontal abscess caused by occlusal trauma: A case report. Journal of Pediatric Dentistry. 2013;1(2):50-52.
- Mascarenhas R, et al. Management of occlusal trauma-related periodontal abscess: A case report and mini-review of the literature. World Academy of Sciences Journal. 2025;7:23.
- 日本歯周病学会. 歯周治療のガイドライン2022.
- 日本歯周病学会. 歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020.
「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」
この街を初めて訪れた方へ
この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。
この街には、生活・料理・健康についての記事が、
同じ考え方のもとで並んでいます。
ここまで書いてきた内容は、
単発の健康情報やレシピの話ではありません。
この街では、
「何を食べるか」よりも
「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。
もし、
なぜこういう考え方になるのか
他の記事はどんな視点で書かれているのか
この話が、全体の中でどこに位置づくのか
が少しでも気になったら、
この街の歩き方をまとめたページがあります。
▶ はじめての方は
👉 この街の歩き方ガイドから全体を見渡すのがおすすめです。
▶ この街の地図を見る(全体像を把握したい方へ)
※ 無理に読まなくて大丈夫です。
気になったときに、いつでも戻ってきてください。
この考え方の全体像(意味のハブ)
この記事で触れた内容は、以下の概念記事の一部として位置づけられています。
▶ 料理から見る健康
この街の考え方について
この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。
▶ この街の中心に置いている憲法を読む