ドーパミン不足がアルツハイマー病の記憶障害を引き起こすことを発見/アルツハイマー病研究から考える記憶と脳の健康

最近、「ドパガキ」という言葉をSNSで見かけるようになりました。

ショート動画やSNS、ゲームなど次々に現れる刺激に慣れ、「もっと刺激がほしい」と感じる状態を表すネットスラングです。

こうした文脈では、ドーパミンはしばしば「快楽をもたらす物質」のように語られます。

ところが、2026年4月に東北大学が発表した研究から、ドーパミンにはそれとはまったく違う重要な側面があることが見えてきました。

「記憶をつくる」という働きです。

アルツハイマー病モデルマウスでは、記憶に重要な「嗅内皮質」のドーパミンが減少しており、その働きを回復させると記憶が改善したというのです。

ドーパミン不足がアルツハイマー病の記憶障害を引き起こすことを発見-ドーパミンを用いた新たな治療法の開発を目指す-

(2026年4月24日、東北大)

東北大学の五十嵐啓教授・中川達貴助教らの研究チームが、アルツハイマー病モデルマウスで、「嗅内皮質におけるドーパミン不足が記憶障害を引き起こしている」ことを発見し、既存の薬で記憶が改善する可能性を示しました。

■背景

アルツハイマー病は認知症の中で最も多く、記憶障害が主な症状です。

アルツハイマー病に関係するアミロイドβなどを標的とした治療が研究されていますが、発症後はなかなか記憶が戻らないのが課題でした。

研究チームは2021年に、「嗅内皮質(きゅうないひしつ)」という脳の領域で、ドーパミンが記憶を作るのに重要だと発見していました。

嗅内皮質は海馬の隣にあり、記憶の形成に関わり、アルツハイマー病で早くからダメージを受ける場所です。

■今回の発見

アルツハイマー病のマウスを使った実験で、以下のことがわかりました。

・匂いを覚えるテストで、健康なマウスは簡単に覚えられるのに、アルツハイマー病マウスは覚えられない。
・匂いを嗅いでいるときの嗅内皮質のドーパミン量が、健康なマウスの5分の1以下に減っていた。
・その結果、嗅内皮質の神経活動が乱れ、記憶が形成できなくなっていた。

つまり、「嗅内皮質にドーパミンを届ける神経細胞の機能低下 → 嗅内皮質のドーパミン不足 → 神経活動の乱れ → 記憶障害」という流れが明らかになりました。

治療実験では、既存のパーキンソン病治療薬「レボドパ」(脳内でドーパミンに変わる薬)などを使って、嗅内皮質のドーパミン量を増やしたところ、神経活動が正常に近づき、マウスの記憶も改善しました。

光でドーパミンを増やす方法でも同様の効果がありました。

■まとめ

この成果は、ドーパミンを増やすアプローチがアルツハイマー病の新たな治療戦略になる可能性を示しています。

現時点ではマウスでの結果ですが、人のアルツハイマー病患者でもドーパミンの働きが低下している示唆があり、今後の研究が期待されます。

■【補足】生活習慣でドーパミンを増やせば記憶を守れる?

今回の研究を読むと、「普段の生活でもドーパミンを増やせば、記憶を守ることにつながるのでは?」と思うかもしれません。

しかし、ここは注意が必要です。

今回確認されたのは、アルツハイマー病モデルマウスの「嗅内皮質」という記憶に関わる特定の脳領域でドーパミンが不足していたことです。

そして、レボドパなどによってこのドーパミン量を増やすことで、神経活動や記憶が改善しました。

つまり、「脳全体のドーパミンをたくさん出せばよい」という研究ではありません。

ドーパミンは単なる「快楽物質」ではなく、運動、意欲、報酬、学習、記憶などさまざまな脳機能に関係する神経伝達物質です。

そのため健康な人が「ドーパミンを増やすこと」そのものを生活の目標にする必要はありません。

一方で、身体活動とドーパミン系との関係については研究されており、運動がドーパミン系に影響する可能性が報告されています。

ただし、人での「運動→ドーパミン→認知機能」という仕組みについては、まだ十分に解明されていません。

むしろ日常生活では、

・適度に体を動かす
・十分な睡眠をとる
・バランスのよい食事をする
・人と交流する
・新しいことを学ぶ
・趣味や好きなことを楽しむ

など、脳と体の健康を支える生活習慣を続けることを意識するのがよいでしょう。

今回の研究は「生活習慣でドーパミンを増やせばアルツハイマー病を予防・治療できる」と示したものではありません。

アルツハイマー病の治療や、レボドパなどの使用については自己判断せず、医師に相談する必要があります。

今回の研究からわかるのは、「ドーパミンは多ければ多いほどよい」という単純な話ではなく、記憶に関わる特定の脳回路でドーパミンが適切に働くことが重要だということです。

私たちの日常生活では、「ドーパミンを増やそう」と考えるよりも、運動、睡眠、食事、人との交流、学びや趣味など、脳と体の健康を支える基本的な生活習慣を無理なく続けていくことが大切なのではないでしょうか。







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