「野菜から先に食べると血糖値が上がりにくい」
いわゆる「ベジファースト」という食べ方を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?
一時期は「食べる順番ダイエット」として紹介されることもありました。
しかしその後、ベジファーストについては、
「野菜から食べれば痩せる」
「とにかく野菜を最初に食べればいい」
といった形で、本来の研究結果よりも単純化されて広まってしまったという指摘も出ています。
ハクライドウでも以前、糖尿病診療ガイドライン2024や食事摂取基準から削除された!?ベジファーストは本当に意味がないの?という記事で、この問題を取り上げました。
では「食べる順番」そのものには意味がないのでしょうか?
実はそう単純ではなさそうです。
2026年10月、京都大学などの共同研究グループが、脂質を糖質より先に摂るとなぜ食後血糖の上昇が緩やかになるのかについて、その仕組みをマウスで詳しく調べた研究を発表しました。
ポイントになったのは「野菜」ではなく、
胃から腸へ食べ物を送り出すスピード
でした。
■「ベジファースト」から「炭水化物を最後に」へ
そもそも「ベジファースト」という言葉からは、
野菜を最初に食べることが重要
という印象を受けます。
ところが、話はもう少し複雑です。
以前の記事で紹介した2020年版「日本人の食事摂取基準」では、食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑えたという報告が紹介される一方、野菜だけではなく、タンパク質などの主菜を先に摂り、その後に炭水化物を食べることでも食後血糖上昇が抑制されたという報告が紹介されていました。
つまり、
「野菜を最初に食べる」
という見方だけではなく、
「炭水化物を最後に食べる」
という見方もできるわけです。
■魚や肉を先に食べても血糖値の上昇が緩やかになる?
ハクライドウでは以前、魚や肉を米より先に食べる研究についても紹介しています。
この研究では、魚や肉を米より先に食べることで、食後血糖の上昇が抑えられました。
興味深いのは、すでにこの段階で「胃排出」が重要なポイントとして登場していることです。
食べる順番によってGLP-1やGIPといったインクレチンの分泌が促され、胃の運動が緩やかになり、胃で消化された米飯が小腸へ移動するまでの時間が延長したことが報告されています。
ここから考えると、
「野菜に特別な力があるから」ということだけでなく、炭水化物より先に一定の食品を食べることで、胃腸やホルモンが反応し、その後に入ってくる糖質の吸収のされ方が変わるのではないか?
という疑問が出てきます。
■「脂質を先に食べる」という考え方
さらにハクライドウでは、脂質起動とは?/脂質を先に摂ることで血糖値の上昇を抑える/脂質をとる食事ほど、逆に血中中性脂肪が下がりやすくなる!?という記事でも、「脂質を糖質より先に摂る」という考え方を取り上げています。
ここで一つ面白い疑問が出てきます。
サラダを食べるとき、野菜だけを食べる人ばかりではありません。
たとえば、
野菜+オリーブオイルを使ったドレッシング
を食べてから、ご飯やパンを食べることがあります。
そう考えると、「ベジファースト」で観察される現象のすべてを野菜だけに帰属させるのではなく、一緒に食べる食品や栄養素、その後に炭水化物を食べることなどを含めて考える必要がありそうです。
以前の記事でも、この「脂質を先に摂る」可能性について触れていました。
そして今回、その疑問を考えるうえで非常に興味深い研究が発表されました。
■オリーブ油をブドウ糖より先に与えるとどうなる?
京都大学などの研究グループは、マウスを使って、
オリーブ油 → ブドウ糖
という順番で与えた場合と、
ブドウ糖 → オリーブ油
の場合などを比較しました。
すると、オリーブ油をブドウ糖より先に与えたマウスでは、胃から腸へ内容物を送り出す「胃排出」が遅くなり、糖負荷後早期の血糖上昇が抑えられました。
またこのとき、グルカゴン、GIP、GLP-1の分泌増加も観察されています。
これを一般の人にもわかりやすくすると、
オリーブ油を先に摂る
↓
体が脂質を感知してホルモンなどが反応
↓
胃から腸へ送り出すスピードが遅くなる
↓
後から入ってきた糖が一気に腸へ届きにくくなる
↓
糖負荷後早期の血糖上昇が緩やかになる
というイメージです。
つまり今回の研究で注目したいのは、
血糖値は「糖を処理する能力」だけでなく、「糖がどのくらいのスピードで腸へ到達するか」によっても変わる
という点です。
■カギを握っていた「グルカゴン」と「GLP-1」
ここから研究者は、さらに詳しく仕組みを調べました。
オリーブ油を先に与えることで増加したホルモンのうち、特に研究されたのが、
グルカゴンとGLP-1
です。
GLP-1は糖尿病や肥満症の治療薬との関連から、耳にする機会が増えたホルモンです。
一方のグルカゴンは一般的に、
「血糖値を上げるホルモン」
と説明されます。
そのため、
「グルカゴンが増えたら血糖値が上がるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし今回のマウス研究では、グルカゴンとGLP-1が胃排出の調節にも関係することが示されました。
■グルカゴンとGLP-1はお互いを補っていた
さらに興味深い実験があります。
GLP-1受容体を欠損したマウスでは、オリーブ油を先に与える効果は大部分が保たれました。
また、グルカゴンまたはGLP-1の受容体のどちらか一方だけを遮断した場合でも、効果はおおむね保たれました。
ところが、両者の受容体シグナルを同時に遮断すると、血糖上昇を抑える効果が弱まり、胃排出を遅らせる効果が検出されなくなりました。
研究者らは、この結果から両者が部分的にお互いを補いながら働いていると考えています。
つまり、
GLP-1だけ
あるいは、
グルカゴンだけ
という単純な仕組みではなかったわけです。
■さらに「迷走神経」も関わっていた
話はホルモンだけでは終わりません。
研究者がマウスの横隔膜下の迷走神経を両側で結紮(けっさつ;管をしばって内容物が通らないようにすること。)したところ、グルカゴンやGLP-1の分泌は維持または増強されたにもかかわらず、オリーブ油による胃排出の遅延と血糖上昇の抑制効果は弱くなりました。
つまり今回見えてきたのは、
脂質
↓
グルカゴン・GLP-1など
↓
迷走神経も関与
↓
胃排出を調節
↓
食後血糖の上がり方が変わる
という、ホルモンと神経が連携した仕組みです。
食べ物は単に「カロリー」や「糖質○g」として体に入っているわけではありません。
何をどの順番で食べたかによって、胃、腸、ホルモン、神経の反応まで変わる可能性があるというところが、この研究の面白いところではないでしょうか。
■では「ベジファースト」は間違いだったの?
ここで再びベジファーストに戻ってみましょう。
ベジファーストをめぐっては、
「ガイドラインなどから消えたのだから意味がなかった」
と理解してしまうのも、
「野菜を最初に食べれば痩せられる」
と理解してしまうのも、どちらも話を単純化しすぎています。
ハクライドウの過去記事で確認したように、2020年版「日本人の食事摂取基準」ではベジファーストに関連する研究は「推奨」というより研究報告として紹介されていました。
その後の2025年版では「2-9 食事摂取パターン(eating pattern)とシフトワーカー」の章立て自体が削除されています。
したがって、「ベジファーストが間違いと判明したため削除された」と解釈するのは適切ではありません。
一方で、
食べる順番によって食後血糖が変わる現象
について研究が終わったわけでもありません。
今回の研究はむしろ、その先にある
なぜ順番によって血糖値が変わるのか?
を掘り下げています。
■「ベジファースト」より「カーボラスト」?
ここまでの研究を並べてみると、見方が少し変わってきます。
野菜を先に食べる
ということだけに注目するより、
炭水化物の前に何を食べるか
あるいは、
炭水化物を食事のどこに配置するか
という視点です。
たとえば、
サラダ+オリーブオイル
→ 肉や魚などのおかず
→ ご飯
という普通の食事を考えてみます。
ここには、
野菜
食物繊維
脂質
タンパク質
炭水化物を後にする
という複数の要素があります。
だから「ベジファースト」という一言だけでは、この食べ方によって体内で起こっていることを全部説明できないのかもしれません。
■「オリーブオイルを食前に飲もう」という研究ではありません
ただし、ここは非常に重要です。
今回の研究はマウスを使った実験です。
したがって、
「人間も食事の前にオリーブオイルを飲めば血糖値が下がる」
と今回の研究だけから結論づけることはできません。
論文でも、今回の知見を踏まえて人間における食事の順序を評価していくことが示されています。
まして、
オリーブオイルを飲めば痩せる
という研究でもありません。
ここは、かつて「食後血糖」という話だったベジファーストが「ダイエット法」として独り歩きしたことを考えても、注意したいところです。
■まとめ 「○○ファースト」から「食事全体の順番」へ
ベジファーストの話を振り返ってみると、私たちの「食べる順番」に対する理解は少しずつ変わってきたように見えます。
最初は、
「野菜を先に食べよう」
という非常にわかりやすいメッセージでした。
しかし研究を見ると、
野菜 → 炭水化物
だけではなく、
肉・魚 → 炭水化物
や、
脂質 → 炭水化物
についても研究されています。
そして今回のマウス研究では、その背景の一つとして、
グルカゴン・GLP-1・迷走神経
→ 胃排出の調節
→ 食後早期の血糖上昇の変化
というメカニズムが示されました。
大切なのは「野菜が最初」「油が最初」という新しいルールを作ることではないのかもしれません。
むしろ、
食事は「何を食べるか」だけではなく、「何と組み合わせ、どの順番で食べるか」によっても体の反応が変わりうる。
そんなふうに「食べる」という行為全体を考えることが、これからますます重要になってくるのではないでしょうか。
【参考文献・参考記事】
- Liu Y, et al. Olive Oil Before Oral Glucose Delays Gastric Emptying and Lowers Glycemia Through Partially Redundant Glucagon and GLP-1 Signaling in Mice. Diabetes. 2026. DOI: 10.2337/db26-0531.
- 京都大学「『食べる順番』が食後血糖を左右する仕組みを解明」
- ハクライドウ「脂質起動とは?」
- ハクライドウ「ベジファーストの誤解」
「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」
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