「鉄といかにうまく付き合うか」が健康長寿のカギ? 鉄不足だけではない鉄と健康の話

鉄というと、どんなイメージがありますか?

「鉄分が不足すると貧血になる」
「鉄分をしっかり摂った方がいい」

そんなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

私自身も鉄について調べるときは、これまで「鉄不足」という視点から見ることが多くありました。

ところが最近、京都大学「鉄蓄積が細胞老化を惹起する ―老化細胞の細胞死回避の一環としての鉄蓄積」という研究発表を読んでいて、非常に印象に残った言葉がありました。

岩井一宏特命教授の、

「鉄といかにうまく付き合うか」は、成長、健康長寿の両方の観点から今後の重要な課題である

というコメントです。

「鉄は不足しないように摂るもの」と考えていましたが、どうやらそれだけではないようです。

■老化した細胞に「鉄」がたまっていた

2026年、京都大学の研究グループは、老化細胞と鉄の関係について興味深い研究成果を発表しました。

研究グループが調べたところ、老化細胞では「リソソーム」と呼ばれる細胞内の小器官に、反応性の高い二価鉄(Fe2+)が蓄積していました。

さらに、このFe2+の蓄積を抑えると、細胞の大型化や炎症性因子の産生など、老化細胞に特徴的な性質が大きく抑えられました。

一方で、鉄が蓄積しているにもかかわらず、老化細胞は簡単には死にません。

研究では、リソソームへのコレステロール蓄積によって膜を守ったり、鉄によって酸化されやすい多価不飽和脂肪酸(PUFA)を脂肪滴に隔離したりすることで、鉄依存性の細胞死「フェロトーシス」を回避していることも示されました。

つまり老化細胞では、鉄を特定の場所に蓄積しながら、その鉄によるダメージを避けて生き延びる仕組みが働いているというのです。

今回の記事では詳しいメカニズムには深入りしませんが、興味深いのは、鉄の蓄積が単なる老化の結果ではなく、老化細胞らしい性質そのものに関わっている可能性が示されたことです。

■考えてみると「鉄過剰」の話は以前からあった

今回の研究を読んでいて思い出したのが、HAKURAIDOUでも以前、病気と鉄過剰の関係を取り上げたことがありました。

過去記事では、C型肝炎やNASHなどで鉄が過剰に蓄積する場合があり、肝臓に蓄積した鉄と酸化ストレスや炎症との関係について紹介していました。

過去記事:肝臓の健康(ウコン・脂肪肝・NASH)|#ためしてガッテン(#NHK)

ここで、鉄についての見方が少し変わってきます。

■不足しても困る。蓄積しすぎても困る

鉄は私たちの生命維持に欠かせない栄養素です。

不足すれば鉄欠乏になり、さらに進めば鉄欠乏性貧血につながることがあります。

一方、過去にHAKURAIDOUで紹介した肝臓の話では「鉄の過剰な蓄積」が問題になりました。そして今回の研究では、「老化した細胞のどこに鉄が蓄積し、それが細胞老化とどう関係するのか」が研究されています。

ここまで見てくると、鉄については単純に「多い方がいい」「少ない方がいい」と考えるものではなさそうです。

ただし今回の京都大学の研究が対象としているのは、単純な鉄の摂取量ではなく、老化細胞のリソソームに蓄積するFe2+です。したがって、この研究だけから「老化を防ぐために鉄を控えた方がいい」と考えることはできません。

→ 鉄分の多い食品・鉄分不足からくる症状 について詳しくはこちら

■だから「鉄といかにうまく付き合うか」

ここまで見てくると、最初に紹介した岩井一宏特命教授の、「鉄といかにうまく付き合うか」という言葉がとてもしっくりきます。

そう考えると、大切なのは、「鉄を摂るべきか、減らすべきか」ではなく、「鉄といかにうまく付き合うか」。

「鉄分不足」という言葉をよく耳にするため、鉄は「不足しないように摂るもの」だと思いがちです。

しかし今回の研究を知って、鉄は必要量だけでなく、どこに、どんな形で存在し、身体の中でどのように扱われるかまで研究されていることがわかりました。

私にとって今回最も興味深かったのは、まさにこの点でした。

そしてこれからは、単純に体内の鉄が「多い・少ない」だけでなく、

・どのような形の鉄なのか
・身体のどこに存在しているのか
・どのように貯蔵されているのか
・どのように利用されているのか
・年齢や健康状態によってどう変わるのか

といったところまで研究が進んでいくのでしょう。

そう考えると、大切なのは、

「鉄を摂るべきか、減らすべきか」ではなく、「鉄といかにうまく付き合うか」。

今回の研究で最も印象に残ったのは、まさにこの点でした。

■補足:栄養の「正解」は一生同じとは限らない

そして、この話は鉄だけに限らないのかもしれません。

例えば中高年では、肥満やメタボリックシンドロームを防ぐために「食べ過ぎないこと」が重視されます。

ところが高齢になって食が細くなれば、今度は低栄養やたんぱく質不足、筋肉量の減少、フレイルなどが問題になります。

同じ人でも、ライフステージが変われば栄養上の課題も変わることがあります。

さらに、性別、月経、妊娠・出産、病気などによっても必要な栄養や注意すべきことは変わってきます。

「○○は健康にいいからたくさん摂ろう」と一方向に考えるのではなく、今の身体に何が必要なのかを考える。

今回の研究を知って、「鉄といかにうまく付き合うか」という問いは、そんな栄養との向き合い方を考えるきっかけにもなるのではないかと思いました。

【参考文献・参考資料】

Yanatori I, et al. Safe lysosomal sequestration of ferrous iron is mediated via cholesterol shielding and drives senescence and ferroptosis resistance. The EMBO Journal. 2026.

京都大学「鉄蓄積が細胞老化を惹起する ―老化細胞の細胞死回避の一環としての鉄蓄積」. 2026年.
京都大学 研究発表資料

HAKURAIDOU「肝臓の健康(ウコン・脂肪肝・NASH)|#ためしてガッテン(#NHK)」.







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