by Ronnie Macdonald(画像:Creative Commons)
■プロとアマチュアの違いは脳にも現れる!?|ネイマール選手の足を動かす際の脳の活動範囲はアマチュア選手の1割以下
<ネイマール選手>脳の活動も超人的 負荷はアマの1割以下
(2014/7/24、毎日新聞)
サッカーブラジル代表のFWネイマール選手(22)が足を動かす際、脳の活動範囲がアマチュア選手の1割以下であるとの研究結果を、独立行政法人・情報通信研究機構の研究チームが明らかにした。
独立行政法人・情報通信研究機構の研究チームによれば、ブラジル代表のネイマール選手の足を動かす際の脳の活動範囲はアマチュア選手の1割以下だったそうです。
そのことがプレーにどのようなメリットを生み出すのでしょうか?
同機構脳情報通信融合研究センター(大阪府吹田市)の内藤栄一研究マネジャーは「脳の活動範囲が小さくて負荷が少ない分、別の複雑な動きも同時にできるため、多彩なフェイントにつながっているのではないか」と分析する。
負荷が少ない分、その他の動きも同時に出来るために、多彩なフェイントができているのではないかと分析されています。
従来の研究で、プロのピアニストと素人が同じフレーズをピアノで弾いた場合、プロの方が脳の活動が少ないとの報告があるという。
「ピアニストの脳を科学する」(著:古屋晋一)では、ピアニストとそうでない人との脳の使い方に違いがあるという研究について紹介されています。
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チューリッヒ大学のヤンケ教授らは、複雑な指の運動をしているとき、運動野の神経細胞がどれだけ多く働いているかを調べました。その結果、同じ速さで同じ指の動きをしているにもかかわらず、活動している神経細胞の数はピアニストのほうが、音楽家ではない人よりも少ないということがわかったのです。
【参考リンク】
- L. Jancke , N.J. Shah , M. Peters Cortical activations in primary and secondary motor areas for complex bimanual movements in professional pianists. Brain Res Cogn Brain Res. 2000 Sep;10(1-2):177-83.
つまり、ピアニストの脳は、そうではない人に比べて、たくさんの神経細胞を働かせなくても、複雑な指の動きができるように、「省エネ」しながら演奏ができるようになっているということです。
また、その他の研究でも、ピアニストは高次運動野の神経細胞をあまり働かせなくても複雑な指の動きが可能であることやピアニストの指を動かす神経細胞は長年の練習によって複雑な指の動きをしやすいような特殊な変化を起こしているということもわかっているそうです。
【参考リンク】
- Meister I, Krings T, Foltys H, Boroojerdi B, Müller M, Töpper R, Thron A. Effects of long-term practice and task complexity in musicians and nonmusicians performing simple and complex motor tasks: implications for cortical motor organization. Hum Brain Mapp. 2005 Jul;25(3):345-52.
- Gentner R, Gorges S, Weise D, aufm Kampe K, Buttmann M, Classen J. Encoding of motor skill in the corticomuscular system of musicians. Curr Biol. 2010 Oct 26;20(20):1869-74. doi: 10.1016/j.cub.2010.09.045. Epub 2010 Oct 14.
気になることがひとつ。
今回のことが、才能の違いなのか、それとも、長年の練習によって脳がそうした動作をすることに慣れたことによって起きていることなのか、興味があります。
10000時間の法則であなたも「本物」になれる?やIQの高さより自己鍛錬が大事で「天才!成功する人々の法則」(著:マルコム・グラッドウェル)で「一万時間の法則」を紹介しました。
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簡単に言うと、「一万時間の法則」とは、現在活躍している人々は、生まれつきの才能だけで成功を収めたのではなく、練習に1万時間を費やしたことにより、さらにその才能が開花しているという内容です。
子供の頃の脳の活動と今とを比較できれば、元々の才能によるものか、それとも努力したことによって脳までも磨きをかけたのか、その答えの一端がわかるような気がします。
研究によれば、ピアノのレッスンを受けた子供は手指を動かす脳部位の体積が大きくなっており、素早く指を動かせるようになっていて、神経細胞の数が増えた子供ほど、指を速く動かすことができるようになったそうです。
【参考リンク】
- Hyde KL1, Lerch J, Norton A, Forgeard M, Winner E, Evans AC, Schlaug G. Musical training shapes structural brain development. J Neurosci. 2009 Mar 11;29(10):3019-25. doi: 10.1523/JNEUROSCI.5118-08.2009.
脳の神経細胞同士が情報のやり取りをするために必要なケーブルが詰まった部分である「白質」は鞘(ミエリン)に包まれていて、発達の仕方が運動能力や認知機能に影響を及ぼすことがわかっているそうです。
【参考リンク】
- Jan Scholz, Miriam C. Klein, Timothy E.J. Behrens, and Heidi Johansen-Berg Training induces changes in white matter architecture Nat Neurosci. 2009 Nov; 12(11): 1370–1371. Published online 2009 Oct 11. doi: 10.1038/nn.2412
- Taubert M1, Draganski B, Anwander A, Müller K, Horstmann A, Villringer A, Ragert P. Dynamic properties of human brain structure: learning-related changes in cortical areas and associated fiber connections. J Neurosci. 2010 Sep 1;30(35):11670-7. doi: 10.1523/JNEUROSCI.2567-10.2010.
プロのピアニストと、音楽家ではない人の脳とで、幼少期の練習時間と、ケーブルを包む鞘(ミエリン)の発達との関係について調べたところ、11歳までに行う練習によって鞘は発達するものの、12歳以降は練習すればするほど鞘が発達するわけではなかったということがわかったそうです。
【参考リンク】
- Bengtsson SL, Nagy Z, Skare S, Forsman L, Forssberg H, Ullén F. Extensive piano practicing has regionally specific effects on white matter development. Nat Neurosci. 2005 Sep;8(9):1148-50. Epub 2005 Aug 7.
こうした研究を総合すると、小さいころからピアノを練習すると、複雑な指の動きを可能にするための、脳の神経細胞を増やすことにつながると考えられます。
ただ、複雑な指の動きをすることだけが、ピアニストにとっての重要な要素ではなく、また、大人になっても脳の神経細胞は増えることから、小さいうちから練習することがピアニストに必要な要素であるというわけではありません。
先程紹介した研究からは、「才能か、努力か」について明らかにはできませんでしたが、練習をすることによって、脳は変化するということだけはわかったのですから、プロになるためには努力は欠かせないということは言えるのではないでしょうか?
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