なぜ「正確」とされたコンテンツよりも「誤解を生む」コンテンツのほうが拡散されやすいのか?

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by Kamyar Adl(画像:Creative Commons)




デマや嘘ほど拡散される ネット健康情報の実態が明らかに

(2016/12/12、Yahoo!ニュース(市川衛))

調査の結果わかったのは、「誤解を生む」コンテンツのほうが、正確なコンテンツよりはるかに多く拡散されているということです。

調査した200のコンテンツの中で、もっとも拡散されていたのは「10 reasons why Zika virus fear is a fraudulent medical hoax(ジカウイルスの恐怖が不正なでっちあげである10の理由)」という、ジカ熱は大企業によるでっちあげであると主張する動画でした。研究によれば、この不確かな情報を含む動画はフェイスブック上で53万回以上再生され、19万6千人によってシェアされていました。

いっぽうで「正確」とされたコンテンツで最も拡散されたのは、WHO(世界保健機構)によるプレスリリースでした。ところがアクセス数は4万3千程度、シェアも964にすぎなかったといいます。

ウィスコンシン医科大学のメガ・シャルマ医師らの研究グループが行なったFacebookなどSNSを通じて、どのような医療健康記事や動画が拡散されやすいかを確かめようとした論文によれば、「正確」とされたコンテンツよりも「誤解を生む」コンテンツのほうが多く拡散されていることがわかったそうです。

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なぜ「正確」とされたコンテンツよりも「誤解を生む」コンテンツのほうが拡散されやすいのでしょうか?

一つは、情報活用の仕方が変化しているから、もう一つは、感情は感染して影響を受けやすいから、だと考えられます。

1.情報活用の仕方が変化しているから

現代人は読まない…。リンク先を見ずにリツイートしまくる人が大半であると判明

(2016/6/22、GIZMODE)

リツイートがリツイートをよんでニュースは拡散しても、そもそもツイートに含まれているリンクから元のニュース記事へジャンプして内容を確かめたりしない人が、全体の59%にも達することが示されています。つまり、ほとんどのTwitterユーザーは、ヘッドラインくらいしか読まず、すぐにリツイートボタンを押して、ほかの人に記事を拡散するだけで終わってしまっているんだとか。

コロンビア大学、French National Instituteのコンピュータ・サイエンス共同研究チームがTwitterで拡散されていく、CNN、New York Times、Huffington Post、BBC、Fox Newsへのリンク(短縮URL)が含まれたツイートを分析したところ、ほとんどのTwitterユーザーはタイトルだけをチェックして、内容を確かめずにリツイートしていることがわかったそうです。

ニュースや記事の中身に興味があるのではなく、シェアすることで満足してしまっている人が多いことが一つの理由として考えられます。

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2.感情は感染して影響を受けやすいから

そのヒントは今年注目を集めた英単語として選ばれた「post-trush」という言葉にあると考えられます。

今年の英単語は「ポスト真実」(POST-TRUTH) 英オックスフォード大が選出

(2016/11/17、産経ニュース)

英オックスフォード大出版局は16日、今年注目を集めた英単語として「客観的な事実や真実が重視されない時代」を意味する形容詞「ポスト真実」(POST-TRUTH)を選んだと明らかにした。

真実を伝えるニュースよりも、感情に訴えかけて、人々の関心をあおりシェアされるニュースが求められるようになった時代を形容した「post-truth」という言葉が注目されています。

他人がまき散らすストレスに“感染”しない4つの方法

(2015/12/2、dhbr)

ネガティブな感情やストレス、不安なども、まるで副流煙のように取り込んでしまうのだ。カリフォルニア大学リバーサイド校の研究者ハワード・フリードマンとロナルド・リジオは、次の発見を報告している。みずからの不安を言葉や非言語的態度で強く表現している人が視界に入ったとき、自分も同様の感情を経験する可能性が高く、それによって脳のパフォーマンスが悪影響を受けてしまうという(英語論文)。

カリフォルニア大学リバーサイド校の研究者ハワード・フリードマンとロナルド・リジオによれば、自らの不安を言葉やしぐさといったノンバーバルコミュニケーションで強く表現している人がいると、自分自身もネガティブな感情やストレス、不安などを取り込んでしまい、影響を受けてしまうそうです。

この研究は直接会った人からネガティブな感情が感染するというものですが、あなたがネット(LINE・FACEBOOK・TWITTER)に書いた感情が伝染して世界を変えてしまうかもしれない!?で紹介したカリフォルニア大学サンディエゴ校、イェール大学、フェイスブックの研究者のチームが米国の1億人以上の人々とフェイスブックへ投稿した10億件のメッセージを対象にした新たな研究によると、ネット上で表わされた感情は人から人へと伝染する可能性があるそうです。

Facebookは以前、感情の伝染に対する影響がどれほどのものかを調べるために、情動感染実験を行ないました。

Facebook、ユーザー約70万人のニュースフィードを操作した実験結果論文を発表

(2014/6/29、itmediaニュース)

実験の結果、Facebook上でも情動感染があることが証明されたとしている。下の画像は、ニュースフィードでポジティブなコンテンツの表示を減らされたユーザーのステータスアップデートの多くにネガティブな言葉が含まれ、ネガティブなコンテンツの表示を減らされたユーザーのステータスアップデートにはポジティブな言葉が多く含まれていたことを示す。

でFacebookのデータサイエンティスト、アダム・クレイマー氏らが米国科学アカデミーの機関誌PNASで公開した約70万人のユーザーのニュースフィードに表示する投稿を操作した実験によれば、論文によれば、Facebook上でも情動感染があることが証明されたそうです。

その後、ユーザーに無断でこのような実験を行なったことに対して一部の人から批判がありましたが、現在の状況を考えると、その時に実験を行なっていれば避けられたようなこともあったかもしれません。

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感情的で、扇情的な言葉は伝染しやすいという事実をみんなが知ることで、自分自身がどんな情報源から情報を得ているかをもう一度見直してみる必要があるのではないでしょうか?

そして、情報をそのまま鵜呑みにすることなく自分で考える習慣を持つことが重要なのではないでしょうか。

「魔王」(著:伊坂幸太郎)の中に

『おまえ達のやっていることは検索であって、思索ではない-。』

という台詞があります。

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この台詞を読んだ後、何かわからないことがあったらすぐに検索してしまい、その情報が本当にあっているのかどうか考えることなくわかったような気になっているなと思わされたことを覚えています。

情報を仕入れることは大事ですが、それを自分の考えにするのには、長い時間がかかります。

90年代格闘ゲームがジャンプ作家に与えた衝撃。『るろ剣』再開の和月伸宏が語るその影響

(2016/12/27、電ファミ記事置き場)

ただ、さっきの話に戻すと、やはり作家は影響を自分の中でいかに消化するかなんです。よそから影響を受けるのは仕方ないし、世にあるアイデアは常に何かと何かの組み合わせです。「俺は何の影響も受けてないぞー!」って奴は、絶対に嘘つき。それも事実です。

 でも、本当は自分で元ネタを言うまで悟られないくらいに、自分の中で飲み込んで消化しなければいけないんです。そうでなきゃ、いつか通用しなくなる。

「るろうに剣心」の作者である和月伸宏さんがほかの作品からの影響をいかに消化することが大事なのかについてインタビューに答えているのですが、このことは情報の受け手となる私たちにとっても重要なことではないのでしょうか。

今の私たちは、受けた情報を自分の中でいかに「消化」して、自分の考えにしていくかという作業がおろそかになっているのかもしれません。

今の時代を私たちが一度口に入れたものを咀嚼して飲み込み、消化して、栄養とし、いらないものを排泄するという一連の体の機能にたとえて言えば、少し汚い表現になりますが、口に入れたものをそのまま吐き出しているだけのように感じます。

だから、その食べ物(ニュースや情報)の甘い、苦いといった味しか記憶に残らず、自分の体の中には何も残っていないような状態になっているような感じがします。

「機能的非識字者」が増えている!?|文字は書けても、社会構造が把握できない人たちによれば、読み書きはできるけれど、社会構造を解釈し、把握することができない「機能的非識字」の人がいるそうです。

新たな「非識字者」が増えている:Facebookを読めても、現実は理解できない人たち

(2014/5/11、WIRED)

”機能的非識字者は自分で文字を書けるのだから、一見、自立しているように思える。しかし彼らは、例えば保険の約款を理解できない。新聞に掲載されている記事の意味も分からないし、文章の要点をつかんだり、感動したりすることができない。図表を読み取ることができない。したがって、自分が生きている社会の構造を解釈し、把握することができない。”

このような分析能力では、複雑さを忌避するのみならず、複雑な出来事(経済危機、戦争、国内もしくは国際政治、金融取引のスプレッド)を前にしても基本的な理解すら得ることができない。

したがって、機能的非識字者は、自身の直接的経験と比較することによってのみ、世界を解釈する(例:経済危機は自身の購買力の減少でしかない。ウクライナにおける紛争は、ガスの料金が増加して初めて問題となる。税金のカットは(それが公的サーヴィスのカットにつながるとしても)正しい)。

OECD(経済協力開発機構)のPIAAC(国際成人力調査)の結果によれば、読み書きはできるけれど、ニュース記事の内容を理解できない、文章の要点を掴んだり感動することができない、図表が読み取れない、などといった「機能的非識字」が存在するそうです。

つまり、「機能的非識字」の人というのは、社会構造を解釈し、把握することができないということです。

この記事で興味深いと思ったのがこの部分です。

したがって、機能的非識字者は、自身の直接的経験と比較することによってのみ、世界を解釈する

自分が直接関わりあることだけで世界を解釈しているということですよね。

文字の読み書きができて、Facebookで近況の投稿はできても、世界は自分の腕を伸ばした範囲しかないということなのでしょう。

自分が生きている世界を広げる方法のひとつとしては、「読書」が挙げられます。

つながっていても孤独?|つながりすぎることで失ったものとは何か?で紹介した「マリアビートル」(著:伊坂幸太郎)では、読書が生きる上でどのように役立つかが書かれています。

「本を読み、内容を噛み砕く事で、語彙が増え、知識が増え、いっそう読解力が増した。本を読む事は、人の感情や抽象的な概念を言語化する力に繋がり、複雑な、客観的な思考を可能にした。」

本を読むことを通じて、他人の感情を慮ることや自分にはこんな感情があるんだということに気づき、そして、様々なことを脳の中で疑似体験をすることができます。

「機能的非識字」の人がいる原因が、読書する時間が減り、スマホ(インターネット・ゲーム・SNS)と触れ合う時間が増えたことと関係あるのかどうかはわかりませんが、複雑で客観的な思考をするトレーニングとして読書は最適なものなのではないかと思います。

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もう1つは、考えること・想像することでしょう。

「何でも自分が経験したことでないとわからない」という人がいます。

でも、人間の想像力の可能性というものはもっとすごいものだと思うのです。

自分が経験したことでないことであっても、こういうことなんじゃないかな、こういう感情ではないかなということを想像することができるはずです。

もちろん、経験できるに越したことはありません。

しかし、できないことだってあります。

経験したことがないことを想像してみるというのは、人間に備わった素晴らしい能力のはずです。

もっと自分に備わっている能力を信じてみてもいいのではないでしょうか。

読書すること、考える事・想像することによって、社会構造を解釈し、自分の世界を広げて、正確なコンテンツを見定める目を持ちましょう。

【おすすめする本】

  • 「フライ、ダディ、フライ」(著:金城一紀)

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