人間は「感覚追加」を行うことで新しい世界を見ることができるかもしれない!?|デイヴィッド・イーグルマン「人間に新たな感覚を作り出すことは可能か?」より




■人間は「感覚追加」を行うことで新しい世界を見ることができるかもしれない!?|デイヴィッド・イーグルマン「人間に新たな感覚を作り出すことは可能か?」より

Future Interfaces 2014

by NYC Media Lab(画像:Creative Commons)

私たちは目で見えている世界が全てであると思っていますが、神経学者デイヴィッド・イーグルマンのTEDトークによれば、実は違っていることがわかります。

デイヴィッド・イーグルマン:人間に新たな感覚を作り出すことは可能か?|TED

たとえば世界の色を 例に取って見ましょう これは光波で 物に反射した電磁波が 目の後方にある専用の受容体に 当たることで認識されますが 私たちはすべての波長を 見ているわけではありません 実際私たちが 見ているのは 全体のほんの10兆分の1に すぎません だから電波や マイクロ波や X線やガンマ線が 今まさに 体を通り抜けているにも関わらず まったく気付かないのです それを捕らえられる 感覚受容体が 備わっていないからです

私たち自身はそういったものを 感じ取ることができません 少なくとも今のところは そのためのセンサーを 備えていないからです

それが意味するのは 私たちの体験する現実は 生物としての肉体に 制約されているということです 私たちの目や耳や指先は 客観的な現実を 伝えているという 思い込みに反して 実際には私たちの脳は 世界のほんの一部を サンプリングしているに過ぎないのです

私たちが見ているように見えるものはすべてではなく、デビッド・イーグルマンによれば、人間が感じ取れる光は全体の10兆分の1に過ぎず、私たちが体験している現実というのは、実はその肉体に制約されているのだそうです。

世界をあるがままに見ているようでいて、実は世界のほんの一部を見ているにすぎず、まるで動画のサムネイル画像を見ているようなものなのかもしれません。

生き物の世界を 見渡してみれば 異なる生き物は世界の異なる部分を 見ているのが分かります 視覚も聴覚も欠く ダニの世界で 重要となるシグナルは 温度や酪酸です ブラック・ゴースト・ナイフフィッシュの 感覚世界は 電場で豊かに彩られています エコーロケーションする コウモリにとっての現実は 空気圧縮波から 構成されています それが彼らに捕らえられる 世界の断片なんです 科学でそれを指す 言葉があって Umwelt (環世界)と言います 「周りの世界」という意味の ドイツ語です どの生き物もきっと 自分の環世界が客観的現実のすべてだと 思っていることでしょう 立ち止まって 自分の感覚を越えた世界が あるかもしれないなどと 考えはしません 自分に与えられた現実を みんなただ受け入れるのです

異なる生き物は人間とは違う世界を見ていて、それぞれの生き物が捕えられる世界の断片=Umwelt (環世界)が現実のすべてとして受け入れています。

しかし、ほかの生き物が持つ感覚を取り込むことによって、自分の感覚を超えた世界を感じられるようになるかもしれません。

私たちは感覚代行での結果に 強く勇気づけられ 「感覚追加」について 考えるようになりました このような技術を使って まったく新しい感覚を 人間の環世界に付け加えることは できないでしょうか? たとえばインターネットから リアルタイムデータを 直接人の脳に送り込んで 直接的な認知経験を発達させることは できないでしょうか?

ビッグデータを解析して、その解析データをどのように生かすかということが話題になっていますよね。

デビッド・イーグルマンはその先に行っていて、データを肌で感じることができないかという発想を持っています。

人間の地平を拡張することの 可能性には 本当に限りがないと思います たとえば 宇宙飛行士が 国際宇宙ステーション全体の状態を 感じ取れるというのを 想像してみてください あるいは自分の体の血糖値や マイクロバイオームの状態といった 見えない健康状態を 感じ取れるというのを あるいは360度の視覚や 赤外線や紫外線の視覚を持つというのを

例えば、血糖値を計測して、数値で血糖値が〇〇と出たとしても、人によっては生活習慣を改善しようとまでは思わない人もいると思います。

しかし、新しい感覚を追加して、血糖値の高さを別の形で表現するとしたら、どうでしょうか。

「<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則」(著:ケヴィン・ケリー)ではこのような提案がされています。

シリコンバレーではいくつかのスタートアップが、非侵襲性で針などを使わずに、血液の状態を毎日計測してくれる装置を作っている。いずれあなたも身に着けるようになるだろう。そうしたデバイスが集めた情報を数値ではなくわれわれが感じられる形-手首での振動や腰のプッシュなど-で提供してくれれば、われわれの体は新しい感覚を身に着けることになる。

血糖値の高さを「痛み」として表現したら、痛いという感覚で改善をしようと思うかもしれません。

血糖値の高さを「怖さ」として表現して、例えば「ホラー映画でいうとこのくらい怖い」というのを表現すれば生活習慣を改善しようと思うかもしれません。(この考え方があっているのかどうかはわかりませんが)

デイヴィッド・イーグルマンはある感覚を別の感覚に変えるという方法をすでに試しています。

「<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則」(著:ケヴィン・ケリー)

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

テキサスにあるベイラー医科大学の神経学者デビッド・イーグルマンは、ある感覚をほかの感覚に翻訳する超スマートなウェアラブルベストを発明した。その感覚置換ベスト[Sensory Substitution Vest]は、中に入った極小マイクが拾った音を網目状の振動に変換して、それを着ている聾啞者が感じることができるようにした。何か月かかけて訓練すれば、聾啞者の脳が再構成され、ベストの振動を音として聞くようになる。つまりインタラクティブな服を着れば聾唖者は音を聞けるのだ。

聾啞者(ろうあしゃ)とは、耳が聞こえず言葉を発声できないことをいいますが、マイクが拾った音を振動に変換する感覚置換ベストを着て訓練を行うと、振動を音として感じることができるようになるそうです。

The VEST: A Sensory Substitution Neuroscience Project (Kickstarter Preview)

「<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則」(著:ケヴィン・ケリー)ではテクノロジーによって新たな感覚を身に着けたケースを紹介されています。

ある方角を示すと振動するベルトを着けることによって、位置情報の知覚を身に着けたケースです。

ベルトの北の方向を向いている部分が常に振動するようにしたのだ。ベルトを着けていると、北の方角を腰で感じられる。ウドが北を指すそのベルトを1週間もしないうちに、「北」という確かな近くを持つようになった。

<中略>

何週間かすると、さらに高度な位置情報の近くが加わり、街のどこにいるのかが、まるで地図が頭の中にあるかのように分かるようになった。ここにきて、デジタル・トラッキングによる定量化が、まったく新しい身体感覚に取り込まれたのだ。

また、次の動画では「The North Sense」という北の方角を感じられるデバイスを体につけた人が登場します。

Why would you expand your senses using technology – The Answer

電子アイをつけたNeil Harbissonさんは、色覚異常で色が認識できなかったのですが、カラーセンサーで色の周波数を認識し、頭の後ろにあるチップに送って、骨伝導で色を聴くことができるようになったそうです。

Neil Harbisson: I listen to color

今では人間の視覚と同じカラーホイールのすべての角度、つまり360色を認識できるようになったそうです。

さらには、人間の目では認識できない色である赤外線・紫外線を認識できるようになったそうです。

これからの未来は現在人間が持っている感覚器官だけでなく、新しい感覚器官を追加して、見えている世界が大きく変わるかもしれません。




■まとめ

ザッカーバーグ夫妻、人類の病気を予防・治療するプロジェクトで30億ドルを投資でも紹介しましたが、顕微鏡や望遠鏡のような新しいツールが発明されたことによって世界は新しい発見をしてきました。

人間は見えないものを見えるようにしたことで次々と新しい発見をしています。

顕微鏡が発明されたことで、医学が進歩したように。

天体望遠鏡が進歩されたことで、宇宙に新しい発見があったように。

つまり、見えていなかった世界が見えるようになる道具が発明されることによって科学は進歩してきたといえるのです。

ピアノの進化がベートーヴェンの音楽に変化を与えた|テクノロジーがアートを進化させるで紹介した2015年12月27日放送のBSフジ「辻井伸行×オーストリア」の中で、ピアノの進化によって、4オクターブから5オクターブ出せるようになったことで、ベートーヴェンの音楽に変化を与えたというエピソードがありましたが、これは、ピアノという道具が進化することによって、音楽が進化をしたといえるのではないでしょうか。

同様のことは絵画においても起きています。

グラフィックアートの新たな可能性を探る 森俊夫教授 京都文教大学

実は、アートと技術革新は非常に密接な関係を持っています。例えば、屋外に出ての写生が可能となったのは、「絵の具を入れるためのチューブ」が開発されたから。絵の具が乾くことなく持ち運べるようになったことで、印象派と呼ばれる画家たちの作品も生まれたのです。

絵の具を入れるためのチューブが開発されたことによって、絵の具を持ち運びできるようになり、屋外に出ての写生が可能になったのです。

「感覚追加」に関連するテクノロジーやツールが開発されることができれば、今まで感じることができなかったものが感じられるようになり、Umwelt (環世界)が広がることで、また世界は新しいものを見ることができるようになるかもしれません。







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  • P.S.

    デビッド・イーグルマンは、感覚追加に対して、問題を解決する道具を開発することで世界に問いを投げかけていますが、アートというアプローチもできるのではないでしょうか。

    落合陽一「あらゆる体験は多次元になる」×猪子寿之「高次元で考える」|これからの未来とは

    今の時代は「アートをどうやって作るか」っていうことと、「テクノロジーをどうやって作るか」っていうことが近しい世の中になってきている。

    <中略>

    つまり、アーティストは昔はメディア(油絵・彫刻)の上で表現技法を発明するだけでよかったんですけど、今はあるメディアの上で通用する表現技法だけでなくて、メディアそのもの、つまり発明も同時に行っていかないとそれは芸術表現にならない時代です。

    ONE OK ROCK新曲を体感する「着る試聴会」、音響デザインは落合陽一

    (2017/1/6、CINRA)

    試聴会に使用されるジャケットの音響デザインは、メディアアーティストの落合陽一(筑波大学助教)が担当。洋服として着ることができるような軽い音響装置を用い、周波数や音圧を調整して「着る音楽」を実現したという。

    ONE OK ROCKによるニューアルバムの試聴会『WEARABLE ONE OK ROCK』では、20のスピーカーを実装したMA-1ジャケットを着用し、収録曲「We are」を体感することができる「着る試聴会」が行なわれました。

    音楽をシャワーのように感じることができるそうです。

    「音」と「着る」という視点でも研究によっては違ったアプローチがされるもので、「感覚追加」という新しい考え方を問いかける上で、アートという表現方法をとるのもいいのではないでしょうか。

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