銀行口座を作る方法、ハンマーやクレジットカードの使い方、洗濯機の使い方など大人になる際に検索するようなフレーズの検索ボリュームがアメリカで年々上がっている。 pic.twitter.com/eywCBNwEuS
— Tetsuro Miyatake (@tmiyatake1) May 25, 2025
アメリカで「銀行口座を作る方法」「ハンマーやクレジットカードの使い方」「洗濯機の使い方」など、大人として必要な基本的なスキルの検索ボリュームが年々増加しているのはなぜなのか気になったので、Grokに尋ねてみたら、実は社会的な影響があるのではないかという回答が興味深かったので紹介します。
■家庭科教育の減少
アメリカの高校では、家庭科(ホームエコノミクス)の授業が減少しています。
American Association of Family & Consumer Sciencesのデータによると、現在高校生の3分の1未満しか家庭科を受講していません(Axios、2025年5月18日)。
家庭科では、料理、予算管理、裁縫など日常生活に必要なスキルが教えられていましたが、これがカリキュラムから外れたことで、若者が自分でこれらのスキルを学ぶ機会が減り、結果として大人になってから検索で調べる必要が出てきていると考えられます。
日本でも同様の調査がありました。
マッチで火をつけることができる小学生は20年前の約3分の1になっている!?で紹介した象印マホービンの調査によれば、マッチや缶切りを使えない小学生の割合が20年前の約20分の1になっているそうです。
マッチや缶切り、包丁でリンゴの皮をむくといった危険だけど誰もができることに子供をチャレンジさせない傾向にあるようです。
現代の幼児は、泳ぐことや靴紐を締めることよりも早く、ITスキルを覚えるや1歳児の74%がスマホを使用-YOUTUBE動画やLINEゲームを楽しむを以前取り上げましたが、子どもに与える道具が変わってきているということでしょうね。
日常生活に必要なスキルを親や学校で教わる機会がなくなり、それをYouTubeやTikToke、ChatGPT のような AI チャットボットに尋ねるようになっていると考えられます。
【参考リンク】
- Google is teaching American adults how to be adults
- Despite A Revamped Focus On Real-Life Skills, ‘Home Ec’ Classes Fade Away
■身近な大人に尋ねるよりもGoogleやYouTube、TikTok、ChatGPTで調べる
検索エンジンのデータによると、Googleでは今年、「浴室の換気口の掃除方法」「モップの使い方」「オイル交換の方法」などの検索が過去最高を記録した。
ピュー・リサーチ・センターのデータによると、2018年までに米国のYouTubeユーザーの半数以上が、このプラットフォームを「これまでやったことのないことをどうやってやるかを考える」ために使っていると答えていた。
あるいは、ある Reddit ユーザーが言ったように、私たちは「YouTube 大学」へと向かっています。
掃除のトレンドは、TikTok で最も人気のあるコンテンツ カテゴリーの 1 つです。
ChatGPT のような AI チャットボットは、ほぼあらゆることを説明するのに役立ちます。
親や親戚との生活する中で学んでいったことを自然とGoogleやYouTube、TikTok、ChatGPTで調べるようになっています。
これは身近な大人に尋ねるよりもGoogleやYouTube、TikTok、AIに尋ねる方がすぐれた回答があると思っているからなのか、それとも身近な大人とそういうことをやったりコミュニケーションを機会が失われているからなのかはわかりません。
■経済的・社会的圧力による「大人になる」ことの遅れ
2008年のリーマンショック以降、ミレニアル世代やその後の世代は、学生ローンの増加、住宅費の高騰、経済的不安定さなどの影響で、従来の「大人になるマイルストーン」(例えば、家を出る、経済的に自立する、結婚する、子供を持つなど)が遅れています(Lemonade Blog)。
不安定な経済状況から結婚よりも経済的な安定を優先すべきだと考えているのはミレニアム世代の4分の3なのだそうで、ミレニアル世代の40%は、成人の定義において経済的自立が第一の優先事項であると答えているそうです。
このため、20代後半や30代になって初めて「大人としてのスキル」を必要とし、検索を通じて学ぼうとしている可能性があります。
■ヘリコプターペアレントの影響
最近の親世代には、いわゆる「ヘリコプターペアレント」(過保護な親)が多く、子供が自立する前に親が多くのことを代わりにやってしまう傾向があります。
Why is Adulting Trending?によれば、ミレニアル世代は、以前の世代よりもずっと親に頼っており、経済的な援助だけでなく、親が料理や掃除、雑用を手伝ってくれるなど、完全に自立した大人になると感じるのは難しくなります。
例料理や家計管理、銀行手続きなどを親が代行することで、子供がこれらのスキルを学ぶ機会を失い、大人になってから基本的な生活スキルをゼロから学ぶ必要が出てきています(Lemonade Blog)。
これは、子供の自立を妨げる一因として、検索ボリュームの増加に繋がっている可能性があります。
■インスタントな満足を求める文化の影響
現代のアメリカ社会では、インターネットやアプリを活用して、基本的なニーズを即座に満たすことが一般的になっています。
例えば、食事はデリバリーサービスで済ませたり、掃除や洗濯も外部のサービスに頼ったりすることが増えています。
このような「インスタントな満足」を求める文化が広がる中で、日常生活のスキルが「必須ではない」と感じる若者が増え、結果としてこれらのスキルを学ぶタイミングが遅れている可能性があります(Sherwood News、2025年5月22日)。
生活をするというのは面倒なことで、それをお金で解決することにより、料理や洗濯、掃除といったスキルを身につける機会が遅れて、後になって調べているのかもしれません。
【参考リンク
■デジタルツールへの依存の増加
ChatGPTなどのAIツールが、アメリカで記録的な利用者数を記録しています(先月だけで7億8000万回の訪問、Sherwood News、2025年5月22日)。
特に、財務管理や日常生活のタスクに関する質問が増加しており、若者がデジタルツールを通じてこれらのスキルを学ぼうとしている傾向が見られます。
インターネットが身近な存在である現代では、わからないことはすぐに検索するという習慣が根付いており、これが検索ボリュームの増加に直結していると考えられます。
これまでもインターネットで学ぶ習慣というのは普通になってきましたが、生活に関することも親や学校を通じて学ぶのではなく、YouTubeやAIに尋ねることが主流と言えるのかもしれません。
■将来への不安とライフスタイルの変化
若い世代のアメリカ人の間では、将来に対する自信の低下や、住宅購入への希望が薄れている傾向が見られます(Sherwood News、2025年5月22日)。
これにより、以前は「いずれ必要になる」と先延ばしにしていたスキルを、今になって真剣に学ぼうとする動きが強まっている可能性があります。
例えば、経済的に自立する必要性が高まり、銀行口座の開設やクレジットカードの使い方など、実践的なスキルを検索する人が増えていると考えられます。
将来の自分や未来への希望に対するよいイメージを持てないからなのでしょうか、一日一日のことだけを考えるようになり、将来の自分がいずれ必要になるスキル(結婚や出産といった大きな節目を迎えた後必要になること)を身につけることを先延ばしする傾向があるのかもしれません。
つまりずっと10代を生きようとしているのです。
■まとめ
アメリカで大人としての基本的なスキルの検索ボリュームが増加している背景には、教育の変化(家庭科の減少)、経済的・社会的要因(大人になるタイミングの遅れ)、子育てスタイルの変化(ヘリコプターペアレント)、インスタントな満足を求める文化、デジタルツールへの依存、そして将来への不安といった複数の要因が絡み合っていると考えられます。
これらの要因が複合的に作用し、若者が「大人になる」プロセスで必要なスキルを後から学ぼうとする傾向が強まっているのでしょう。
Grokがまとめた回答は実に興味深いものでした。
家庭科教育の減少というような直接的なものからスタートしましたが、経済的・社会的要因で大人になるのを避けようとしていたり、親が過保護になって子供の自立を妨げていたり、社会が提供するサービスによってそもそもスキルを身につけようとしなくなったりとすると考えると、「大人」になることを先延ばしにしている(されられている)ともいえますし、むしろ「大人」の定義が変わっているのかもしれません。
あなたが考える「大人」ってどんな人ですか?