「味のしない?のど飴」という商品を見かけました。
パッケージには「香り控えめ」「甘さ控えめ」「すーっと、体感だけ。」と書かれています。
最初に思ったのは、「味がしない飴って、何のために舐めるんだろう?」という疑問。
飴といえば、甘かったり、フルーツやハーブの味がしたりするもの。
「おいしい」ということが、飴の価値だと思っていたからです。
ところが調べてみると、「味がしない」という特徴そのものに意味があることがわかってきました。
■唾液には「口を濡らす」以外の重要な役割がある
そもそも唾液は、単に口の中を濡らしているだけではありません。
唾液には、口の中の食べかすなどを洗い流したり、細菌が作った酸を中和したり、歯の再石灰化を助けたり、口腔粘膜を守ったりする働きがあります。
そのため唾液の分泌量が減少すると、口の中が乾くだけでなく、虫歯や口腔内のトラブルが起こりやすくなります。
特にシェーグレン症候群などでは唾液の分泌が低下し、口腔乾燥、食べにくさ、味覚の変化、虫歯、口腔カンジダ症などにつながることがあります。
もちろん、この商品そのものにシェーグレン症候群の治療効果や虫歯予防効果があるという話ではありません。
ただ、ここで一つ分けて考えておきたいことがあります。
カンロがこの商品を「シェーグレン症候群の患者向け」として販売しているわけではありません。
カンロの商品説明は、「味や香りを極力感じずにのどを潤したい方へ向けた」ものです。
一方で、シェーグレン症候群のように唾液分泌の低下や口腔乾燥を伴う病気について調べてみると、「口の中の潤いを保つ」ということが、単なる好みや快適さだけの問題ではない人たちがいることがわかります。日本リウマチ学会「シェーグレン症候群診療ガイドライン2025年版」でも、口腔乾燥に対する治療が扱われています。
ここを知ると、「味がしない飴」の見え方が少し変わってきます。
■甘くておいしい飴が、すべての人に最適とは限らない
では、なぜ「あえて味を弱くする」ことが価値になるのでしょうか。
たまに飴を食べるのなら、甘くておいしい方がうれしいでしょう。
でも、口の乾燥などを理由に、長時間、あるいは繰り返し口にする人ならどうでしょう。
ずっと甘い。
ずっと同じ味がする。
ずっと強い香りがする。
普通なら商品の魅力になるはずの特徴が、人によっては逆に負担になる可能性があります。
カンロの商品開発担当者への取材でも、口が渇く症状のある利用者から「味や匂いがなく、口を潤すのに最適」といった声が寄せられたことが紹介されています。
ここまで知ると、「味がしない飴なんて、何のためにあるの?」という最初の疑問に対する答えが見えてきます。
味がないからこそ使いやすい人がいるのです。
■「味がしない」は欠点なのか、それとも機能なのか
ここからが、私には特に面白く感じたところです。
一般的な飴の商品開発なら、
・おいしくする
・甘くする
・香りをよくする
・また食べたくなる味にする
といった方向へ進みそうです。
ところがカンロは、この商品では甘さや香りを極力抑える方向へ進みました。
通常の砂糖・水飴ではなく、甘味の少ない食物繊維のポリデキストロースをベースにして、「味のしない?」という特徴を意図的に作っています。
つまり、普通の商品なら「足したくなるもの」を、あえて削っているという商品なんです。
面白いのは、同じ特徴でも人によって評価が逆転することです。
「味がしなくて物足りない」という人もいれば、「味がしないから使いやすい」という人もいる。
商品の特徴そのものは変わっていません。
変わっているのは、その商品を使う人と使用目的です。
■万人に好かれることが、本当に良い商品なのだろうか
ここから商品づくりそのものについて考えさせられました。
商品を作るとき、
「もっとおいしくしよう」
「もっと機能を増やそう」
「もっとたくさんの人に気に入ってもらおう」
と考えがちです。
でも、別の方向もあります。
特定の人にとって必要のないものを、徹底的に削っていく。
すると万人受けはしなくても、ある人にとっては、「まさにこういうものが欲しかった」という商品になるかもしれません。
「味のしない飴」は、そのことをとてもわかりやすく教えてくれる商品だと思います。
■「何のためにあるかわからない商品」が、誰かには「なくなると困る商品」かもしれない
SNSでは変わった商品を見つけると、
「まずい」
「意味がわからない」
「誰が買うの?」
という反応が起こることがあります。
もちろん、それ自体は率直な感想なのでしょう。
でも、そのとき一度だけ、「これは誰のための商品なんだろう?」と考えてみると、見え方が変わるかもしれません。
自分には必要がない。
だから用途が理解できない。
でもそれは、「誰にも必要がない」こととはまったく違います。
むしろ万人においしい商品を目指すのではなく、ある人にとって余計な機能を削っていった結果、その人にとって非常に価値の高い商品になることもある。
「なんのためにあるかわからない商品」が、別の誰かにとっては「なくなると困る商品」なのかもしれませんね。
【参考リンク】
■「味のしない?のど飴」について
カンロ「ノンシュガー 味のしない?のど飴」商品ページ
カンロ自身が「味や香りを極力感じずにのどを潤したい方へ向けた」商品と説明しています。原材料は食物繊維(ポリデキストロース)、エリスリトール、ハーブエキスなどで、砂糖ゼロ・糖類ゼロです。
カンロ「ノンシュガー味のしない?のど飴」発売プレスリリース
2022年の「味のしない?飴」のテスト販売から現在の商品に至った経緯が詳しく書かれています。テスト販売を通じて「甘いものが苦手」「香りが気になる場面」など、従来とは違うニーズが確認され、2025年の商品展開につながったことが分かります。
■シェーグレン症候群・口腔乾燥について
日本リウマチ学会「シェーグレン症候群診療ガイドライン2025年版」
2025年4月発刊の最新ガイドラインです。「診断・治療方針の決定に有用な口腔検査」「口腔乾燥症状の改善に有用な治療」などが独立したClinical Questionとして扱われています。
【「シェーグレン症候群」の芸能人・有名人】#和田アキ子 さんは涙腺と唾液腺が炎症を起こす病気(自己免疫性疾患)で「常に水がないと生きていけない」
「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」
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▶ 料理から見る健康
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