■低所得者層の子供はたんぱく質や鉄の摂取量が少ないなどの栄養面の格差がある|栄養格差は給食のない週末に生まれている!?
by David Mulder(画像:Creative Commons)
(2017/7/30、共同通信)
低所得層の子どもはそうでない子に比べ、成長に欠かせないタンパク質や鉄の摂取量が少ないなど栄養面の格差があることが、研究者による子どもの食事調査で30日までに分かった。差は主に給食のない週末に生まれ、栄養格差解消は給食頼みであることが示された。
新潟県立大の村山伸子教授らが、小学5年生を対象に実施した食事調査によれば、栄養面の格差は給食のない週末に生まれており、低所得者層の子供はそうでない子供に比べて、たんぱく質や鉄の摂取量が少ないなどの栄養面の格差があることがわかったそうです。
【参考リンク】
- 現代日本において家庭の経済状況は子どもの食生活と栄養状態に影響するか?|KAKEN
特に低所得(生活困窮)世帯の子どもの食事について、欠食が多く、主食に偏り、たんぱく質やビタミン、ミネラル等の栄養素摂取量が少ないという課題があることが示された。
■どのような対策が考えられるか?
●食品に栄養素添加を義務付ける
鉄分を強化した小麦粉で鉄欠乏症・貧血を予防している国がある!【#みんなの家庭の医学】によれば、アメリカでは鉄欠乏症を予防するためにも、鉄分を加えた強化小麦粉を義務付けており、アメリカのシリアルの中にはFDA(アメリカ食品医薬品局)が推奨する一日の鉄分摂取量を100%満たすものがあるなど、ほとんどのシリアルに鉄分が豊富に含まれているそうです。
また、そのほかのパスタや小麦粉、ベーグル、クッキー、ココア、ライ麦パンなど、アメリカの食品は鉄分豊富です。
「所得」「地域」「雇用形態」「家族構成」の4つが「#健康格差」の要因|#NHKスペシャルによれば、イギリスでは脳卒中や虚血性心疾患の死亡者数を8年間で4割減らすことに成功したそうですが、その理由としては、イギリス食品基準庁が塩分を減らすように食品の塩分量の目標値を設定したことにあるそうです。
NHKスペシャルの低所得者の疾病リスクに迫った「健康格差特集」に反響の声
(2016/9/21、マイナビニュース)
2006年に85品目の食品に塩分量の目標値を設定し、メーカーに自主的達成を求めた。その理由は、主食であるパンが国民の最大の塩分摂取源となっていたためだが、メーカー側は売れ行き減を懸念。見かねた医学や栄養学などを専門とする科学者団体「CASH(塩と健康国民運動)」がメーカー側に徐々に塩分を下げるように提言した。
この提言に大手パンメーカーによる業界団体も納得し、7年でパンを20%も減塩。こういった取り組みの結果、国民1人当たりの塩分摂取量を15%減らすことにつながり、年間で2,000億円の医療費削減につながったと考えられている。
このように国民の栄養状態を個人の責任だけに任せるのではなく、社会として栄養状態の改善を行なう取り組みを行なっていくことが必要なのではないでしょうか?
●完全栄養食を提供する
食事が不要になる完全栄養食「ソイレント」とは?では、飲むだけで1日に必要な栄養を全て摂取できるという「Soylent(ソイレント)」を紹介しました。
また、『WIRED』日本版VOL.17に掲載された「飲む完全食」ソイレントの記事をきっかけに、「BASE PASTA(ベース・パスタ)」という厚生労働省が定めた基準に従い、1食に必要とされる31種類の栄養素をすべて含むパスタを開発したBASE FOOD(ベースフード)という日本のスタートアップがあるそうです。
ソイレントは面白いアイデアですが、食習慣を変えるというのは大変であり、今までの食習慣を活かしながら、栄養バランスの改善を行なうことは重要だと思います。
【参考リンク】
- 主食2.0:「完全栄養生パスタ」は「忙しくてもちゃんと食べる」を実現するか(2016/11/2、Wired)
デザインとアイデアでカンボジアの人を鉄分不足・貧血から救った鉄製の魚「LUCKY IRON FISH」によれば、カンボジアでは鉄分不足による貧血によって極度の倦怠感やめまいで悩まされている人が多かったのですが、カンボジアの食生活は魚と米から成り立っていて、鉄分の摂取が不足していたそうです。
そこで、「Lucky Iron Fish」という鉄の塊を鍋に入れることにより、摂取する鉄分を増やすことができたそうです。
大事なことは、カンボジアの食習慣を活かしながら、改善したというところです。
【追記】
先ほどお子さんを持つお母さんにこの件についてインタビューをしました。
給食というのは、一人一人に差をつけることなく食事の栄養バランスを補うことができる良い仕組みです。
弁当だと家庭の事情によっては作れない/作らないといったことにより、必要な栄養を摂れないということが起こりえますが、給食はみんなが同じように食べることで栄養を摂取してもらうといったメッセージを包むことができます。
※ただ、給食にも個人個人のアレルギーの問題があり、アレルギーのために食べれないものがある場合は、その食品を取り除くために栄養不足になるといった問題もあるそうです。
夏休みに起こりうる子供の栄養危機を乗り越えるアイデアとして、このインタビューの中で生まれたのは、夏休みの宿題の中に1食完全栄養食を摂りいれて体調を観察するというものです。
大事なポイントは、誰かが特別にそうした食事を食べるのではなくて、みんなが同じようにすること。
子育ての負担をかけずに、社会で子供を守る仕組みを作るために、よいアイデアが生まれるといいですね。
■まとめ
現在民間の団体が「こども食堂」の取り組みで食の支援を行なっていますが、その仕組みに頼ることができない子供もいることでしょう。
だからこそ、栄養素を添加した食品に対して抵抗感を示す人ももちろんいるかとは思うのですが、アメリカでの取り組みのように、子供たちの栄養状態を守るために、食品メーカーに働きかけて、栄養を補給した食品を提供してもらうようにするというのも一つのアイデアだと思うのです。
健康格差の根本的な原因が、教育格差にあるのか、経済・社会的格差にあるのか、それとも全く違うところに原因があるのか、わかりません。
ただ、今回の調査研究によれば、たんぱく質や鉄の摂取量が少ない子供がいることは事実であり、原因究明と同時に、対策もおこなっていく必要があります。
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