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中国の芝麻信用のような信用評価システムの世界では「ほんとうの私」と「誠実だと思われるために演技する私」とで葛藤が生まれて個人が不安定化してしまう!?




【目次】

■中国では「芝麻信用」というクレジットスコアシステムが始まっている

中国の芝麻信用のような信用評価システムの世界では「ほんとうの私」と「誠実だと思われるために演技する私」とで葛藤が生まれて個人が不安定化してしまう!?
中国の芝麻信用のような信用評価システムの世界では「ほんとうの私」と「誠実だと思われるために演技する私」とで葛藤が生まれて個人が不安定化してしまう!?

unsplash-logoSarah Diniz Outeiro

人の信頼度を評価するシステムによって信頼自体がお金(通貨)のような価値をもつ時代になる!?で取り上げている、中国の芝麻信用のような信用評価システムは未来的だと当初は感じました。

中国の芝麻信用のような信用評価システムとはどのようなものか、おさらいします。

「信用」が中国人を変える スマホ時代の中国版信用情報システムの「凄み」

(2017/4/11、wisdom nec)

物販や飲食などリアル店舗やネットショッピングでの支払いのみならず、納税や年金授受、電話料金など各種公共料金の支払い、ローンの返済、列車や飛行機、ホテルなどの予約・支払い(デポジット機能も含む)、個人間の中国版お年玉「紅包(ホンバオ)」や慶弔金などの授受、金銭の貸し借りなどあらゆる決済の中核を担う。個人の余裕資金の運用商品や日本でいう消費者金融のような仕組みもある。

「芝麻信用」はアリペイでの支払い履歴(ホワイトおよびブラック情報)のほか、個人の学歴や職歴、マイカーや住宅など資産の保有状況、交遊関係などをポイント化。信用度を350~950点の範囲で格付けし、その点数を与信や金利優遇などの判断材料にするほか、本人にも公開している。

中国では現金決済ではなくスマホ決済が日常生活に浸透していることにより、お金のやり取りに関わることのほとんどがデータ化されていると考えられます。

支払い履歴だけでなく、学歴や資産情報、人脈関係などによって信用度が格付けされる仕組みとなっているそうです。

すでに中国ではこの信用点数の評価によって、ホテルに泊まれない人がいたり、結婚や就職に影響しているということが起きているそうです。

例えば、中国のレンタルマンション大手「自如友家(北京市)」は2016年7月、自社の過去の顧客75万人の利用履歴と「芝麻信用」の信用評価点数の連結を開始し、そのことをホームページなどで利用客に積極的に告知している。信用点数の高い顧客には優先予約や料金の優遇などを行う一方、ポイントの低い客は最悪の場合、予約を断る。

それまでの信用度によってホテルの予約ができないということが起きていたり、毎回の客室の利用状況も記録されることで、顧客の評価がアップデートされるようになっているそうです。

全国に約9000万人の登録者を持つ中国最大の結婚情報サイト「百合網」は同社の提供するマッチングサービスに「芝麻信用」の信用点数を利用している。

記事によれば、”女性が男性の信用点数を重視する傾向が強い”ため、ポイントが高い登録者にお見合い希望が集まることから、男性は信用ポイントが高くする必要があるそうです。

新卒学生に対しても『芝麻信用』の評価点数を参考にする」と明言した。

日本でもSNSの情報を新卒採用の参考にしているということを目にしたことがありましたが、印象度ではなく、数値として現れるという面でいえば、中国の採用事情はさらに進んでいるといえそうです。

その他にも信用点数が高ければ受けられるサービスもあるそうです。

これは信用点数が600点以上あれば、街の各所に設けられたレンタル拠点で、雨傘やスマホのモバイルバッテリーなどが無料で借りられるというものだ。

【参考リンク】

「これが未来だ」というような感じでした。

ただ、少し視点を変えてみると、窮屈な生き方を強いられる人が出てくるのではないかという心配が出てきました。

■中国の芝麻信用のような信用評価システムの世界では「ほんとうの私」と「誠実だと思われるために演技する私」とで葛藤が生まれて個人が不安定化してしまう!?

信用評価システムを、罪の文化・恥の文化と言う視点から見ると、恥ずかしいことだからしないのではなく、罪になるからしないという考え方をベースにしているものです。

「西欧近代を問い直す」(著:佐伯啓思)

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誠実さと言うのは社会的な評判ですから、結局、誠実であると言う社会的評価を得ることが自己目的になってしまうでしょう。誠実であるとみなされるために、誠実さの演技をすることになってしまいます。その人が本当に「誠実」かどうかとは無関係に、社会的な評価ととしての誠実さを求めるようになっていきます。p270

「西欧近代を問い直す」(著:佐伯啓思)を参考にすれば、自分自らが自主的に誠実な行動をする場合は問題ありませんが、誠実ではないにもかかわらず社会的評価のために誠実な行動をする場合は、「ほんとうの自分」との乖離が生まれて、ほんとうの自分とは何か、ほんとうの自分は社会に居場所がないというようになってしまいかねないのではないでしょうか?

そうなると、この世界は「ほんとうの自分」を受け入れてくれるものではないということに苛まれて、ますます個人は不安定化するでしょう。

個人が不安定になる中、求められるのは何かに所属しているという意識です。

Kinfolk japan edition volume nineより

所有物を意味する”belonging”と帰属を意味する”belonging”。

幸せで健康的な生活を送るために欠かせない最も基本的なものは、食料、水、そして住居。
しかし、豊かな社会のために必要な要素は別にある。それは、属しているということ。

グローバリゼーションによって世界が狭くなり、情報を即座にシェアすることができ、スピーディな技術が存在し、世界のどこにいても仕事をすることができる。とはいえ、こうしたことは、必ずしも帰属意識を生み出さない。関係性や様々な情報、多様な意見をもたらすが、そこから繋がりが生まれることはない。感情的に、精神的に、心理的に、仲間である場に満ちた安心感を得られるような、絆を生み出すことはない。

衣食住が全て満たされていても、人は何か足らないのです。

その何かとは、「属している」ということや「つながっている」ということでしょう。

属するということは、自分が誰かとつながっているということであり、自分が存在しているということでもあるのです。

そのことが精神的に安心感をもたらしてくれるのです。

これからの時代に必要なのは、信用評価システムよりも西欧近代の文化を受け入れる中で失われた共同体のような受け皿が必要なのではないでしょうか。

そう考えた際に浮かんできたのは、落語の中にいる人の世界のようにどんなにだらしない人でも社会が受け入れている世界です。

「人間の業を肯定してくれるのは落語だけだよ。一生懸命やれって言わないでしょ。一生懸命やったけど、やっぱり駄目だったってね」…「立川談志さん死去」の報に接して思い出した、あの至言。

(2011/11/24、病床軟弱)

「人間の業を肯定してくれるのは落語だけだよ。一生懸命やれって言わないでしょ。一生懸命やったけど、やっぱり駄目だったってね。人生って失敗と恥ずかしさの連続よ。そう言わないと、俺の所業も説明がつかないけどね。だから疲れたら落語を聞いているのがいいよ。落語っていうのは慰めてくれるから」

立川談志さんは「落語とは、人間の業の肯定である」といったそうです。

人生には成功もあって、失敗もあって、ほとんどの人は一生懸命努力しても失敗続きの人生かもしれません。

落語の中に生きている人々はそんな人たちでも受け入れてくれています。

誰かから評価された世界で生きるのではなく、偽らずに自分らしく生きても受け入れてくれる人がいる世界のほうが楽しいのではないでしょうか。







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