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【#蜜蜂と遠雷(#恩田陸)】生物の進化の話|閉じ込められた音楽を元いた場所に返すという話




by hakuraidou

「蜜蜂と遠雷」(著:恩田陸)に対する感想・レビューはたくさんあると思ったので、ここでは気になった話を2つ考えてみたいと思います。

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■生物の進化の話

生物でもなんでも、進化というのは爆発的に起きるらしい。ある日突然、進化の大爆発が起きて、多種多様かつ「オリジナル」なものがいっぺんに現れる。徐々に、ではなく、同時期にすべて出揃うのだ。

「蜜蜂と遠雷」は音楽・ピアニストのお話なので、ピアノの進化から始めてみたいと思います。

ピアノの進化がベートーヴェンの音楽に変化を与えた|テクノロジーがアートを進化させるによれば、4オクターブから5オクターブ出せるようになったというピアノの進化によって、ベートーヴェンの音楽に変化を与えたそうです。

ピアノという道具の進化によって、つまり、テクノロジーの進化が先で、次にアートが進化するということです。

また、同様のことは絵画においても起きていて、絵の具を入れるためのチューブが開発されたことによって、絵の具を持ち運びできるようになり、屋外に出ての写生が可能になったのです。

話がテクノロジーに移ったところで、テクノロジーも実は同じように突然進化するのです。

「イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則」(著:スティーブン・ジョンソン)

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知の歴史全体の中でも目立つあるパターンを見ると、隣接可能性の跡をたどることができる。学者は今、それを「多重発生」と呼ぶ。世界のどこかの科学者や発明家に優れたアイデアが浮かび、本人がそれをひっさげて世に出ると、すでに三人の人物が、それぞれ別個に同じアイデアに達していたことがわかる。

科学者のスチュワート・カウフマンが呼んだ「隣接可能性(adjacent possible)」は、開けられないドアのようなもの。

どんなにすごい天才が未来のモノを想像したとしてもこのドアが開かなければ次の部屋には進めない、つまり発明・イノベーションは起こらないのです。

逆に言えば、この「開けられないドア」さえ開いてしまえば、次々と新しいものを生み出すことができる可能性があるということです。

つまり、テクノロジーにおける進化は「開けられないドア」を開くことによって起こり、進化が爆発的に起こるというのは、この「開けられないドア」というこれまでの限界を超えることができたから起こるのです。

生命の進化でも同じようなことが起きています。

人間の先祖が進化して他の指と向かい合う親指をもつようになると、それはまったく別の、精巧に工作された道具や武器を作って使用するという、文化へと進む枝分けれにつながる隣接可能性を開いた。

他の指と向かい合う親指をもつという進化がなければ、ピアノという道具は生み出されなかったかもしれないのです。




■閉じ込められた音楽を元いた場所に返すという話

今の世界は、いろんな音に溢れているけど、音楽は箱の中に閉じ込められている。本当は、昔は世界中が音楽で満ちていたのにって。

ああ、分かるわ。自然の中から音楽を聞き取って書きとめていたのに、今は誰も自然の中に音楽を聞かなくなって、自分たちの耳の中に閉じ込めているのね。それが音楽だと思っているのよね。

「風間塵」という少年は先生と「閉じ込められた音楽を元いた場所に返す」という約束をしています。

閉じ込められた音楽というのはどういう意味なのでしょうか?

【BARKS編集部コラム】大事なものが抜けていた…CDサウンドのどでかい落とし穴

(2014/6/26、BARKS)

音楽そのものは低い音から高い音まで広帯域の音で成り立っているわけだが、周波数で言えばおおよそ20Hzから楽器や人の声によっては100KHz、時には200KHzくらいまでの広帯域にわたっている。アナログレコードにもごく当たり前のように50KHzを超えるような高周波が刻み込まれている。だがCDは、高い音は22.05kHzまでしか記録されていない。そもそも人間の可聴域が20KHz程度であり、受け皿としては十分と考えられたからだ。

大げさに言えば、人間が音を聞くことができる限界は20khzぐらいであり、それ以外の音は聞こえないわけだから、CDはその人間の限界に合わせて規格を作ってしまったのです。

しかし、その切り取ってしまった音にこそ人間の心を揺さぶるものがあるのではないかという研究がおこなわれているそうです。

聞こえない音からの影響|TOA

一般に人に聞こえる周波数の範囲(可聴域)は、低い音で20Hz、高い音で20kHzくらいまでの間。こうした人に聞こえる音を「可聴音」と呼び、人の耳に聞こえないほど高い音を「超音波」、人の耳に聞こえないほど低い音を「超低周波音」といいます。

<中略>

最近では音楽などに含まれる超音波の音が人間の心を癒す作用を持っているという説もあり、可聴域より高い周波数の音が実際に聞こえている音を、より心地よく感じさせる働きがあることがわかってきています。

【BARKS編集部コラム】大事なものが抜けていた…CDサウンドのどでかい落とし穴

(2014/6/26、BARKS)

我々は音楽を聴くことで、心地よさや安らぎを感じたり活力を得たりするわけだが、時には感動を呼び起こして涙を流したり、ハイテンションの興奮状態になったりすることもある。この現象は、音楽が脳内の情動神経系、とりわけ報酬系と言われるドーパミン神経系を刺激し、強い快感や興奮を誘起することから起こる現象だと言われている。

私たちは人間に聞こえる音だけを切り取ってしまえば音楽を聞くことができると思っていますが、実は切り取ってしまった中にこそ、感動したり、興奮したりするときに刺激される報酬系を刺激するようなものが隠されていたのではないでしょうか?

【参考リンク】

世界が注目する落合陽一の考え。これまでの「標準」をどう壊す?

(2017/7/21、CINRA)

落合:僕、幾原邦彦監督のファンなんですけど、アニメ『輪るピングドラム』に「世界は幾つもの箱だよ。人は体を折り曲げて、自分の箱に入るんだ。ずっと一生そのまま。(中略)だからさ、僕は箱から出るんだ」というセリフがあります。いますべきことは、標準化という「箱」を壊していくことなんです。かつては、根性論によって「箱」を壊していましたが、今はテクノロジーの力によって、「箱」を壊していくことができる時代に突入しているんです。

音楽を人間が聞こえる領域という「箱」に閉じ込めてしまったことで、人間が本来は音楽から得られるはずだったものを失ってしまったのです。

だからこそ、次は人間が音楽を解放する番なのです。







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