Xを見ていたら、ちょっと気になる投稿を見つけました。
内容を要約すると、
「アーモンドは普通に食べられるのに、アーモンドミルクを飲むと数時間後にひどいめまいが起こる」
というもの。
アレルギー検査では原因が分からず、「めまい」ではなく「天井と床が縦に回って前後左右が分からなくなる」と医師に説明したところ、話が伝わったそうです。
そして投稿では、
「アーモンドミルクはアーモンドより成分の吸収が速く、それが一気に血液に入り、内耳に影響しているらしい」
という説明が紹介されていました。
なるほど。
液体だから吸収されやすい。
一見すると、すごく納得できる話です。
でも、ここで一つ疑問が浮かびました。
アーモンドそのものを食べても大丈夫なのに、なぜアーモンドの量がずっと少なそうなアーモンドミルクではダメなのでしょうか?
気になったので、アーモンドの消化とめまいに関する論文を調べてみました。
すると、最初に考えていたほど単純な話ではありませんでした。
■丸ごとのアーモンドは確かに「吸収されにくい」
まず、「固形のアーモンドと加工したアーモンドでは吸収のされ方が違う」という部分。
ここには科学的な根拠があります。
アーモンドの脂質は細胞の中に閉じ込められています。
健康な人にアーモンドを噛んでもらって調べた研究では、噛んだ後でも多くのアーモンド細胞が壊れず、脂質が細胞壁の内側に残っていました。
研究で推定された、咀嚼直後に利用可能な脂質の割合は、生アーモンドで8.5%、ローストアーモンドで11.3%でした。
つまり私たちはアーモンドを食べたとき、
「口に入れた脂質が全部すぐに消化される」わけではない
ということです。
別の研究でも、丸ごとのアーモンドと粉砕したアーモンドでは粒子の大きさが異なり、粉砕したものの方が脂質を利用できる割合がわずかながら高くなると推定されています。
「同じ食品でも、そのまま食べるか、細かく加工するかで消化のされ方が変わる」。
これは面白いところです。
実際、アーモンドを噛む回数を変えただけでも、便中に排泄される脂肪やエネルギー量に違いが見られた研究があります。
ここまで調べると、
「だからアーモンドミルクでは吸収が速くなって、めまいが起きたのでは?」
と考えたくなります。
ところが、そう簡単ではありません。
■「吸収されやすい」と「大量に吸収される」は別の話
ここで今回の疑問の核心に戻ります。
丸ごとのアーモンドより、細かく加工したアーモンドの方が脂質を利用しやすくなる可能性はあります。
しかし、それだけでは、
アーモンドミルクを飲む
↓
アーモンド由来の特定成分が急激に血液へ入る
↓
その成分が内耳に作用する
↓
数時間後に激しい回転性めまいが起こる
というところまでは証明できません。
今回調べた範囲では、「アーモンドは食べられる人がアーモンドミルクを飲むと回転性めまいを起こす」という現象を直接検証した研究は確認できませんでした。
ここから先は、かなりの部分が仮説になってしまいます。
しかも商品によって原材料も違います。
「アーモンド」と「アーモンドミルク」は、私たちの感覚では同じアーモンド食品でも、身体から見れば全く同じ条件とは限りません。
このあたりから、話が一気に難しくなってきます。
■では「血糖」が原因?
もう一つ気になったのが、投稿にあった、
「飲んで数時間後に症状が出る」
というところです。
実は、めまいや内耳と糖代謝の関係を調べた研究があります。
末梢前庭障害が疑われ、4時間の糖・インスリン検査を受けた81人を後ろ向きに調べた研究では、87.7%で血糖またはインスリン曲線に何らかの異常が見られ、研究上の判定では61.7%が低血糖に分類されました。
なお、これは一般のめまい患者の87.7%に糖代謝異常があるという意味ではありません。
また、糖代謝の変化と難聴、耳鳴り、めまい、回転性めまいなどの関係について論じた研究もあります。
そうなると、
「もしかしてアーモンドではなく、アーモンドミルクを飲んだ後の血糖やインスリンの変化が関係している?」
という別の仮説も出てきます。
ただし、ここにも大きな注意点があります。
この81人の研究は、アーモンドミルクを飲んだ人を調べた研究ではありません。
しかも末梢前庭障害が疑われ、糖・インスリン検査を受けた患者を対象とした研究です。
したがって、
「数時間後にめまいが起きた。だから反応性低血糖だ」
とは言えません。
本人が症状を起こしたときの血糖やインスリンを測定したデータも、Xの投稿からは分かりません。
ここも「可能性は考えられるけれど、証拠が足りない」なのです。
■「天井と床が回る」と伝えたことは重要だったのか?
もう一つ興味深かったのが、投稿者が医師に、
「めまいがする」
ではなく、
「天井と床とが縦に回りだして、前後左右が分からなくなる」
と具体的に伝えた途端、話が伝わったという部分です。
確かに「めまい」という日本語には、
ぐるぐる回る
ふらふらする
気が遠くなる
立ちくらみ
身体が揺れる
など、かなり違う感覚が含まれています。
ただ、ここも調べてみると意外でした。
現在のめまい診断では、「ぐるぐる回るから内耳」「ふらふらだから別の原因」と単純に分類する方法には限界があるとされています。
TiTrATEと呼ばれる診断アプローチでは、めまいの感じ方だけでなく、
Timing(いつ、どのくらい続くか)
Triggers(何で誘発されるか)
Targeted Examination(眼球運動などを含む、原因を絞り込むための診察)
を組み合わせて考える方法が提案されています。
つまり「天井と床が回る」という説明は重要な情報ではありますが、
それだけで「内耳が原因だ」と確定するわけではありません。
むしろ今回のケースなら、
「飲んで何時間後なのか」
「何分・何時間続くのか」
「同じ製品を飲むと毎回起きるのか」
「頭を動かすと症状が変わるのか」
「耳鳴りや難聴、頭痛などはあるのか」
といった情報も重要になってきます。
■調べるほど「原因候補」が増えてしまった
ここまで調べて、困りました。
最初は単純だったんです。
アーモンド → 大丈夫
アーモンドミルク → めまい
だったので、
「液体にすると吸収が速くなるからでは?」
という仮説を検証すれば答えが出ると思っていました。
でも論文を読んでいくと、
アーモンドの食品構造の違い
という話だけでは済まなくなりました。
糖代謝の可能性もある。
アーモンドミルクという製品に含まれる他の成分についても考えなければならない。
そもそも、めまいそのものにもいろいろな原因がある。
そして何より、
アーモンドミルク摂取と回転性めまいを直接結びつけたデータがない。
要素が増える一方なのに、肝心なデータは足りません。
だから、「本当の原因はこれです」と言えるところまではたどり着けませんでした。
■「もっともらしい説明」と「証明された説明」は違う
今回調べていて、ここが一番面白いところだと感じました。
最初に聞いた、
アーモンドミルクはアーモンドより吸収されやすく、一気に血液に入るから内耳に影響する
という説明は、決して突拍子もない話ではありません。
アーモンドの食品構造が脂質の利用可能性に影響すること自体には、人を対象とした研究があります。
糖やインスリンの代謝と前庭症状の関連を示唆する研究もあります。
それぞれの部品を見ると、ありそうに思えるのです。
しかし、
Aという研究結果とBという研究結果があるからといって、その間をつないだCまで証明されたことにはなりません。
今回なら、
「アーモンドは加工状態によって消化され方が違う」
「糖代謝異常とめまいには関連する研究がある」
という研究結果はあります。
でも、
「アーモンドミルクの急速な吸収が、この人の内耳に作用して回転性めまいを起こした」
という肝心な一本の線は、確認できませんでした。
■分からないという結論も、調べた成果なのかもしれない
Xの投稿を見たときは、
「アーモンドは大丈夫なのにアーモンドミルクはダメなんて、そんなことがあるの?」
という単純な疑問でした。
論文を探せば、何かきれいな答えが出てくると思っていました。
ところが実際には、
調べれば調べるほど、簡単には結論を出せなくなりました。
だから今回の結論は、
「原因は分からなかった」
です。
ただし、何も分からなかったわけではありません。
丸ごとのアーモンドでは脂質が細胞壁の中に残りやすいこと。
加工によって栄養素の利用可能性が変わること。
糖・インスリン代謝と前庭症状に関連を示す研究があること。
そして、めまいは「回るか、ふらつくか」だけでなく、発症時間や持続時間、誘因などを合わせて考える必要があること。
そこまでは分かりました。
そして何より分かったのは、
「科学的にありそうな説明」と「その人の症状の原因として証明されたこと」は別物だ
ということです。
SNSでは、きれいに一本の線でつながった説明ほど理解しやすく、納得もしやすいものです。
でも実際の身体は、そんなに単純ではないのかもしれません。
今回については、「アーモンドミルクはめまいを起こす」とも、「この説明は間違っている」とも言えません。
現時点のデータだけでは、分からない。
少し物足りない結論ですが、論文を追いかけた結果としては、それが一番正直な答えでした。
■めまいが起きた「状況」を記録しておくことが手がかりになるかもしれない
今回の記事では「アーモンドは大丈夫なのに、なぜアーモンドミルクではめまいが起きるのだろう?」という疑問から調べ始めました。
しかし、調べれば調べるほど、アーモンドミルクそのものが原因とは限らないことも見えてきました。
HAKURAIDOUではこれまで、めまいについてさまざまな記事を取り上げてきましたが、めまいを引き起こす可能性のある原因は一つではありません。
今回のXの投稿についても、本当にアーモンドミルクの成分や吸収速度が原因なのか、それとも別の要因が関係しているのか、投稿されている情報だけでは判断できません。
これは、今回、母が検査入院した経験からも改めて感じたことです。
だからこそ大切なのは、「めまいが起きた」ということだけでなく、めまいが起きたときの状況を記録しておくことではないでしょうか。
以前紹介した「頭痛の症状を伝える際の8つのポイントとは?」でも、
いつ頃から起きているのか
どのくらいの頻度なのか
どのくらい続くのか
どんな感じなのか
どの程度重いのか
他にどんな症状があるのか
何をきっかけに起きるのか
といった情報を伝えることが、診療の手がかりになるという内容を紹介しています。
これはめまいについて考えるときにも参考になりそうです。
たとえば、
「アーモンドミルクを飲んだ」
だけではなく、
「何を・どれくらい摂ったのか」「何時間後に始まったのか」「どんなふうに回ったのか」「何分続いたのか」「頭痛・耳鳴り・吐き気などはなかったか」
といった情報を残しておけば、後から「毎回似た条件で起きている」といったパターンが見えてくる可能性があります。
今回のX投稿でも、「めまい」ではなく「天井と床が縦に回る」と表現したことで、症状の具体像が伝わったという点が印象的でした。
ただ、現在のめまい診療では症状の表現だけから原因を決めるのではなく、いつ起きたか(Timing)、何がきっかけか(Triggers)、診察所見(Targeted Examination)などを組み合わせて考えるTiTrATEという考え方も提唱されています。
つまり、
「原因を自分で決めるために記録する」のではなく、「医師が原因を探すための材料を残しておく」。
そんな考え方がいいのかもしれません。
アーモンドミルクが原因だったのか。
糖代謝だったのか。
それともまったく別の原因だったのか。
今回、論文を調べてもそこまでは分かりませんでした。
でも、だからこそ、
「症状が起きたときのデータを残す」こと自体が、次に同じことが起きたときの手がかりになる。
今回の「アーモンドは大丈夫なのにアーモンドミルクではめまいが起こるのはなぜ?」という疑問を調べて、一番実用的だった答えは、意外にもそこなのかもしれません。
【参考文献】
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International Archives of Otorhinolaryngology. 2016;20(3):261-270.
DOI: 10.1055/s-0035-1558450
「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」
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