「虚弱体質」という言葉があります。
・昔から体が弱い。
・ 疲れやすい。
・ 風邪をひきやすい。
・ 無理がきかない。
・人より休まないと回復しない。
そんな人を見て、「もともと虚弱体質なんじゃない?」なんていうことがありますよね。
私自身、「虚弱体質」と聞けばなんとなくイメージはできるのですが、「じゃあ、虚弱体質って具体的に体の何が弱いの?」と聞かれると、よくわかっていないことに気づきました。
そこで「虚弱体質」の正体について調べてみることにしました。
調べていくと面白かったのが、昔からある東洋医学の「虚」という考え方と、現代医学にある「予備力」「余力」「回復力(レジリエンス)」という考え方です。
もしかすると私たちが昔から「体が強い」「体が弱い」と感覚的に表現してきたものを、別の角度から考えるヒントになるのかもしれません。
■東洋医学には「虚」という考え方がある
「虚弱体質」という言葉からイメージしやすいものの一つが漢方です。
漢方には「虚実」という重要な考え方があります。日本東洋医学会によると、現在の日本で広く受け入れられている虚実の捉え方では、その人の基本的な体力や体格、あるいは病気に対する反応などを見ます。
漢方では、体力や体格、病気に対する反応などをみながら「虚実」を判断します。そのため、日常的にいう「虚弱体質」と重なって見える部分があります。
ただし、「虚弱体質」と「虚証」が医学的に同じ意味というわけではありません。
ここが現代医学と比べると興味深いところです。
「食が細い」「疲れやすい」「冷えやすい」「病気のあとになかなか元気にならない」といった、その人に現れているさまざまな特徴を含めて捉えようとするところに、漢方的な見方の面白さがあります。
だから私たちが「虚弱体質」と聞いて、なんとなく漢方や養生をイメージするのも不思議ではありません。
■では、西洋医学に「虚弱体質」という病気があるの?
ここで考えてみたいのが現代医学です。
現代医学では、「疲れやすい」「体が弱い」という状態を一つの原因で説明するのは難しく、それぞれの身体機能や病気について考えていくことになります。
つまり、虚弱体質という一つの正体が体のどこかに隠れている、とは考えない方がよさそうです。
「疲れやすい」という症状だけを考えても、原因は一つとは限りません。
ところが、ここで興味深いのが、現代の老年医学にある「フレイル(Frailty)」という概念です。
Frailtyは以前「虚弱」などと訳されていましたが、日本老年医学会は2014年、その可逆性などを適切に伝えるため「フレイル」という表現を提唱しました。
フレイルは「生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が高まった状態」と説明されています。
身体だけでなく、認知機能や心理、社会的な問題まで含む概念です。
つまり、重要なのは単純に「筋力が弱い」といった話だけではありません。
ストレスがかかったときに耐えられる余力がどれくらい残っているか。
ここで「予備力」という考え方が出てきます。
■「予備力」って何?
以前、ハクライドウでもフレイルは「予備力の低下」が主要因として起こりやすい!?という記事を書きました。
そこでは予備力を、「健康を守る余力」のように考えました。
これは「虚弱体質」を考えるうえでも面白い考え方です。
私たちの体は、普段の生活をギリギリの能力で動かしているわけではありません。
しかし、年齢や病気などによって予備力が低下してくると、ちょっとしたストレスでも身体のバランスを崩しやすくなります。
実際、フレイルは「加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と説明されています。
ここで、
・余力
・予備力
・回復力(レジリエンス)
という言葉が一つにつながってきます。
■「体が強い」とは余力があることなのかもしれない
たとえば、同じように忙しい一日を過ごした二人がいたとします。
二人ともその日の夜は疲れています。
しかし、
Aさんは一晩寝たら翌朝には元気。
Bさんは翌日も疲れが残っていて、数日間調子が戻らない。
この違いを単純に「Aさんは体が強い」「Bさんは虚弱体質」と私たちは表現してきたのかもしれません。
でも「回復力」という視点から見れば、同じストレスを受けたとき、どれくらい耐えられるのか、そしてどのくらい元の状態へ戻れるのかという違いとして考えることもできます。
もちろん、これだけで虚弱体質を医学的に説明できるわけではありません。
ただ、「体が強い・弱い」という感覚を理解するための一つの考え方にはなりそうです。
■体力も一つの「予備力」?
以前書いた青年期の心肺持久力(心肺機能)が低いと、将来(中年期)労働能力が低下し病欠が多くなる!?では、フィンランドの1,207人を対象にした研究で、青年期の心肺機能の高さが中年期の労働能力の高さや病欠の少なさと関連していました。
また、腕立て伏せの回数が多い人ほど、心血管疾患になるリスクが明らかに低い!で紹介した研究では、男性消防士1,104人を対象として、腕立て伏せ能力と将来の心血管疾患リスクとの関連が調べられています。
つまり、「体力」という漠然としたものも、
・心肺持久力
・筋力
・筋持久力
・身体機能
などに分ければ、ある程度客観的に見ることができます。
以前の成功する人は体力オバケが多い!?という記事で取り上げた「体力オバケ」という言葉も、今回改めて考えるとなかなか面白い表現です。
「体力がある」というのは、単に筋肉が大きいということではなく、日常生活で使ってもまだ余力が残るだけの身体能力があり、ストレスを受けても回復できるという見方もできそうです。
体力の高さは、いざというときに使える身体的な「余力」を考える一つの手がかりになるのではないでしょうか。
■「予備力」は体だけの話ではない
さらに面白いのは、予備力という考え方が身体だけに使われるわけではないことです。
脳には「認知的予備力(cognitive reserve)」という概念があります。
認知的予備力とは、脳が加齢や病理の影響を受けても、認知機能の低下を抑える個人の潜在能力を表す概念です。以前のハクライドウの記事でも紹介しています。
同じようなアルツハイマー病理があったとしても、現れる認知機能障害には個人差があります。そのような違いを説明する考え方の一つが認知的予備力です。
ここからは私なりの整理ですが、「身体にも余力があり、脳にも変化に耐える予備力がある」と考えるとイメージしやすくなります。
そしてそれぞれの余力が小さくなれば、同じストレスを受けても影響を受けやすくなる。
「虚弱」という昔からある言葉と、どこか通じるものを感じます。
■「虚弱体質=予備力が低い」と断定してはいけない
ただし、ここは大事です。
今回調べたことから、虚弱体質とは予備力が低い人のことであると医学的に定義できるわけではありません。
また、「自分は疲れやすいから虚弱体質なんだ」と自己判断して終わらせるのもよくありません。
「疲れやすい」「息切れする」「以前できていたことができなくなった」といった変化には、さまざまな健康上の問題が関係している可能性があります。
今回の「予備力」「余力」「回復力」という言葉は、病名や診断基準としてではなく、昔から私たちが「体が強い・弱い」と感じてきた違いを考えるための視点として捉えるのがよさそうです。
■東洋医学と現代医学、意外と見ている方向は近い?
今回一番面白いと思ったのがここです。
漢方では、身体機能などが不足・低下している状態を「虚証」という考え方で捉えます。
一方、現代の老年医学には、
予備能力が低下する
↓
ストレスに対して脆弱になる
↓
元の状態に戻る力も低下する
↓
こうした状態をフレイルという概念から捉える
という考え方があります。
もちろん「虚証」と「フレイル」や「予備力」は同じ概念ではありません。
ただ、その人には、困ったときに使える「余力」がどれくらい残されているのか?という視点から眺めると、不思議と重なる部分があります。
漢方医療でも、実際にフレイルという現代医学の概念と漢方医学の虚弱状態を関連づけた解説が行われています。
■もう一つ、「虚弱体質」という言葉について考えたこと
今回調べながら、もう一つ面白いと思ったことがあります。
それは、「虚弱体質」という言葉そのものが、いろいろな状態を一つにつなげて理解するための「概念」として役立ってきたのではないか、ということです。
疲れやすい。
食が細い。
無理がきかない。
体調を崩しやすい。
一度調子を崩すとなかなか元に戻らない。
一つ一つを見れば別々の現象です。
ところが、
「自分は虚弱体質なのかもしれない」
という一つの言葉で捉えると、それまでバラバラだったものが一つにつながって見えてきます。
もちろん、「昔の人がそのために虚弱体質という言葉を作った」という歴史的な事実を確認したわけではありません。これは今回調べながら私が考えた一つの仮説です。
ただ、複数の現象に一つの名前が付くことで、
「自分はいま、どういう状態にあるのか」
を理解しやすくなることはあるのではないでしょうか。
ここで思い出したのが、以前書いた「魔法の世紀」(#落合陽一)を読んで考えたこと|西洋と東洋の考え方の違いです。
この記事では、西洋的な分析思考と東洋的な包括思考という違いについて考えました。
私には、東洋的な考え方には、物事を個別に切り離すよりも、さまざまな物事の関係も含めて全体を見るイメージがあります。
一方、西洋の科学には、複雑な現象を細かく分けて、「何が起きているのか」を分析していくイメージがあります。
もちろん、実際の東洋医学と西洋医学を、そんなに単純に二分することはできません。
実際、現代医学のフレイルも、身体だけでなく認知・心理・社会的な問題まで含めて考える包括的な概念です。
それでも「虚弱体質」について、
包括してみる → 分解してみる → もう一度つなげてみる
という二つの見方を行き来するのは面白いと思います。
最初に、
疲れやすい・食が細い・無理がきかない・回復が遅い
という状態を、「虚弱体質」という大きな概念で捉えてみる。
次に現代医学の視点から、心肺機能、筋力、栄養状態、睡眠、病気、予備力、回復力などに分けて考えてみる。
そして最後にもう一度、
「この人には、どのくらい余力があるのだろう?」
「ストレスがかかったとき、どのくらい耐えられるのだろう?」
「その後、どのくらい元の状態に戻れるのだろう?」
と全体を眺めてみる。
包括する → 分解する → もう一度つなげる。
そうやって違ったレンズから眺めてみると、「虚弱体質」という昔からある曖昧な言葉が、少し違って見えてきます。
■まとめ:「虚弱体質」の正体は一つではない
「虚弱体質って何だろう?」
そんな素朴な疑問から調べ始めました。
調べてみると、どうやら「虚弱体質の正体はこれです」と一つの原因に決める話ではなさそうです。
東洋医学には昔から「虚」という身体全体を捉える考え方があります。
一方、現代医学では、筋力、心肺機能、栄養状態、認知機能などを個別に評価しながら、フレイルのように「予備力が低下し、ストレスに対して脆弱になっている状態」を捉える考え方があります。
そこで今回、私が一番しっくりきたのが、余力・予備力・回復力(レジリエンス)という言葉でした。
元気なときには違いが見えなくても、忙しくなったり、病気になったり、年齢を重ねたりしたときに「余力」の違いが現れる。
私たちはそんな個人差を昔から、
「体が丈夫だね」
「昔から虚弱体質なんだよね」
と表現してきたのかもしれません。
もちろん、これは「虚弱体質」という言葉に新しい医学的定義を与えるものではありません。
ただ、漠然とした「体が弱い」という言葉を、
何の予備力が小さいのか?
どれくらい余力があるのか?
ストレスを受けたあと、どのくらい回復できるのか?
と考え直してみる。
今回調べてみて、「虚弱体質」の正体が一つ見つかったわけではありません。
むしろ面白かったのは、「虚弱体質」という一つの概念があることで、疲れやすい、食が細い、無理がきかない、回復が遅いといったバラバラの状態を、一つにつなげて理解しやすくなるのではないかと気づいたことでした。
そして現代では、それを心肺機能、筋力、栄養状態、睡眠、病気、予備力、回復力などにいったん分解して考えることができます。
包括する。分解する。そして、もう一度つなげてみる。
そうやって違う角度から眺めてみると、「虚弱体質」という昔からの言葉が、少し違って見えてくるのではないでしょうか。
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※本記事は「虚弱体質」という言葉について、東洋医学・現代医学の考え方を一般向けに整理したものです。「虚弱体質」を医学的な診断名として扱ったり、「予備力の低下」と同一視したりするものではありません。強い疲労や体力低下などが続く場合は、体質だけで判断せず医療機関に相談してください。
「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」
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