【目次】
- NFL(アメフト)では「Concussion(脳震とう)」問題が起きている!?
- 脳震盪のメカニズムとは?
- 米アメフト選手の4割以上が脳に障害を抱えている!?
- 脳震とう対策にどのような対策が行なわれているのか?
- 脳震とう問題はサッカー界にも
■NFL(アメフト)では「Concussion(脳震とう)」問題が起きている!?
by Christopher Brown(画像:Creative Commons)
スポーツにおける「脳震盪(のうしんとう)」問題について興味を持ったのはこちらの記事が最初です。
(2016/6/5、NewsPicks)
その将来を嘱望された彼が、引退を表明した理由は、【concussion (コンカッション) = 脳しんとう】である。
24歳のアメフト選手、脳疾患を恐れて現役引退を決意(2015/3/17、AFPBB)によれば、米NFLのSan Francisco 49ersのクリス・ボーランド(Chris Borland)が24歳の若さで現役引退を決意したその理由は度重なる衝撃で頭部に悪影響が及ぶこと、「concussion(脳震とう)」でした。
選手としてプレーし始めたときからカウントして、3回、もしくは4回目のコンカッションがあった時点で、医師から引退の勧告、もしくは引退の勧めを受ける
現在アメリカのフットボール界においては「Concussion(コンカッション)」を3、4回あった時点で医師から引退勧告を受けるのだという事実を知って驚きました。
日本では脳震とうのニュースをたまに目にする機会はありますが、脳震盪に対してそれほど厳しく考えられているというのはこの記事を目にするまで知りませんでした。
日本選手でいえば、米MLBの青木宣親選手が試合中に死球を受け、長期間にわたって脳震盪の影響に苦しんでいたことを知っている方も多いのではないでしょうか。
アメリカにおける「Concussion(脳震とう)」への関心の高さは映画がつくられていることからもわかります。
【参考リンク】
- ウィル・スミス、渾身のドラマ「Concussion」(12月25日公開)(2016/1/6、US Frontline)
■脳震盪のメカニズムとは?
What Is A Concussion?|Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が提供している脳震盪における脳の動きを説明している動画をみると、脳が遅れて動くことで頭蓋骨に衝突し、衝突した場所である脳の表層がダメージを受けているように感じます。
しかし、元アメフト選手であり生物工学者のデイビッド・カマリロさんによれば、この動画には正しい点と間違っている点があるそうです。
デイビッド・カマリロ: なぜヘルメットでは脳震盪を防げないのか―何で防げばよいのか|TED
脳は頭がい骨の動きから遅れをとり 頭がい骨の動きに追いついた後 前後に動き そして振動もする この動きは本当だと思います しかし この動画で見られる 脳の動きの程度は おそらく 全く正しくありません 頭蓋内には ほとんど余分な空間はありません たった数ミリの空間に 満たされている脳髄液が 外傷から守る役割を果たしています そして 脳は恐らく 頭蓋骨の中で ほんの少ししか動いていません
脳がこのような動きをするのは正しくても、その脳の動きの程度には間違いがあり、頭蓋内には脳髄液が満たされていてほとんど余分な空間がないため、脳はほんの少ししか動いていないと考えられるそうです。
では、脳震盪はどのようなメカニズムで起きていると考えられるのでしょうか?
お伝えしたいのは 私達や他の研究者が見つけたのは 頭がこの方向で回転する時に 脳震盪が起きる可能性が高いということです この動きはアメフトのようなスポーツで よく起こり― この動きはそれより危険に見えますが いったい何が起きているのでしょうか 一つ気づくことは 人間の脳は― 他の動物と異なり このように大きな半球が二つあります 右脳と左脳です この図で見て頂きたいポイントは 右脳と左脳の間に 脳の深部にまで達する 大きな溝があります この溝の中に この図では見えないのですが 信じて想像してください 線維性のシート状組織があります 鎌(かま)と呼ばれるものです これが前頭から後頭まで 続いています 大変強固なものです こんな構造であるので 衝突で 頭が左右に動いた時 その力が すぐに 脳の中心まで届きます
さて 溝の底はどうなっているのでしょうか これは脳の接続部であり― 実は 溝の底にあるこの赤い神経線維束は 最大の神経線維束で― 右脳と左脳のつながりなのです これを脳梁(のうりょう)といいます 私達は これが 脳震盪のメカニズムで 起こりうる可能性が最も高く 力は下の方に伝わって 脳梁に達し 右脳と左脳間での解離が起こると 考えられます これで いくつかの脳震盪の症状が説明できます
脳震盪は衝突によって頭が左右に動いたときに起こる可能性が高く、脳震盪が起きた時に右脳と左脳をつなぐ脳梁に力が伝わって、右脳と左脳間でのかい離が起こることにより、脳震盪の症状が現れると考えられるそうです。
■米アメフト選手の4割以上が脳に障害を抱えている!?
米アメフット選手の4割以上が脳に障害 最大人気スポーツを揺るがす「危険な証拠」
(2016/5/17、J-castニュース)
その結果、17人(43%)が「外傷性脳損傷」と診断された。これは、交通事故や転落事故などで脳に強い衝撃を受ける場合と同じだ。脳が傷ついて出血し、半身まひ、感覚・記憶・注意力障害などが起こる。さらに、12人(30%)にはもっと深刻な軸索損傷がみられた。これは、脳深部にある軸索がねじれて断裂する症状で、半身まひや記憶障害の後遺症から回復することが非常に難しくなる。
また、記憶力や思考力のテストでは、遂行機能障害が50%、学習・記憶障害が45%、注意力低下が42%に認められた。
米フロリダ州立大のチームがNFL選手の脳について調べたところ、40人の元選手のうち43%にあたる17人が「外傷性脳損傷」と診断されたそうです。
「外傷性脳損傷(がいしょうせいのうそんしょう)」とは、交通事故や転落事故などで脳に強い衝撃を受ける場合と同じで、脳が傷ついて出血し、半身まひ、感覚・記憶・注意力障害などの症状が起こるそうです。
さらに、30%にあたる12人にはさらに深刻な軸索損傷がみられたそうです。
「軸索損傷(じくさくそんしょう)」とは、脳深部にある軸索がねじれて断裂する症状で、半身まひや記憶障害の後遺症から回復することが非常に難しくなるそうです。
今回調査を受けた元選手のデータがこちら。
NFLでの在籍期間は2~17年(平均7年)で、現役中の脳しんとうの発症回数は平均で8.1回だった。
今回調査を受けた元選手たちは脳震盪を平均して約8回ほど受けており、43%が脳に損傷を受けています。
現在では、その状態を改善するためにも、3,4回の脳震とうで医師から引退をすすめるようにしたのだと考えられます。
(2017/7/26、時事通信)
CTEは、記憶障害、めまい、うつ病、認知症などの症状を引き起こす。こうした症状は、選手が引退してから何年も経った後に現れる可能性がある。
米ボストン大学(Boston University)の研究チームが米国医師会雑誌(JAMA)に発表した論文によれば、研究のために元NFL選手111人から死後提供された脳のうち、110人の脳、パーセンテージで表すと99%に慢性外傷性脳症(CTE)の徴候が認められたそうです。
【参考リンク】
- Jesse Mez, MD, MS, Daniel H. Daneshvar, MD, PhD, Patrick T. Kiernan, BA, et al. CTE Found in 99 Percent of Former NFL Players Studied. JAMA. 2017;318(4):360-370. doi:10.1001/jama.2017.8334
- Clinicopathological Evaluation of Chronic Traumatic Encephalopathy in Players of American Football(2017/7/24、Boston University)
■脳震とう対策にどのような対策が行なわれているのか?
■ヘルメットへの追加機能
(2015/3/12、m3.com)
米国神経学会(AAN)は2月25日、外側のソフトシェル層やスプレー処理、ヘルメットパッド、ファイバーシートなどのフットボール用ヘルメットの追加機能は、選手の脳震盪リスクをそれほど軽減しないという研究結果を紹介した。
米国神経学会(AAN)によれば、アメフト用ヘルメットに追加された機能は選手の脳震とうリスクを軽減しないという研究結果が出たそうです。
今回の改善(追加機能)では脳震とうリスクの軽減はできなかったそうですが、今後新しいテクノロジーによって、脳震とうリスクを軽減できるヘルメットができるかもしれません。
■ヘルメットやマウスピースにセンサーを取り付ける
(2016/5/20、スポーツイノベイターズオンライン)
NFLは2013年3月、米GeneralElectric(GE)と共同で脳震盪問題の解決を目指すオープンイノベーション型のプロジェクト「Head Health Challenge」を立ち上げた。
<中略>
例えば、ヘルメットやマウスピースに重力加速度を測定するセンサーを取り付けるなどして頭部への衝撃を計測し、脳震盪に対するリスクが高まったと判断した時には選手を強制的にフィールド外に出すような運用がなされ始めている。
ヘルメットやマウスピースにセンサーを装着し、頭部への衝撃を計測したうえで、脳震とうリスクが高まったと判断された場合には、選手をフィールド外に出すようにするそうです。
■リモコンで動くロボットタックルダミーを用いてトレーニング
(2016/5/20、スポーツイノベイターズオンライン)
米国東海岸の名門8校からなるアイビーリーグでは、ダートマス大学フットボール部が2010年ごろに「練習における対人フルコンタクトを全面禁止」とし、その代わりに「リモコンで動くロボットタックルダミーを用いてトレーニングする」という衝撃的な方針転換を図った。
トレーニング方法の変更が行われると、テクニックの低下が心配されるところですが、「練習における対人フルコンタクトを全面禁止」とし、「リモコンで動くロボットタックルダミーを用いてトレーニングする」という方針に変更したダートマス大学は2015年シーズンにアイビーリーグで優勝したそうで、技術力の低下に関しては問題ないといえるのではないでしょうか。
■キツツキにヒントを得たカラー(えり)
参考画像:Preventing Brain Injuries | Cincinnati Children’s|YouTubeスクリーンショット
キツツキがヒントの「えり」、アメフト選手を脳損傷から守れるかも
(2016/7/3、Gizmode)
Q Collarは頸静脈を柔らかく包み、いわば「ホースをつまむ」ことで、脳の中の血液量を増加させます。それによって脳がグラつくゆとりがなくなり、脳損傷のリスクが減るというわけです。
Q30 InnovationsのDavid Smithさんらが開発したカラー「Q Collar」は、頸静脈を柔らかく包むことで、脳の中の血液量を増加させるによって脳を守る緩衝材のような役割を果たすそうですが、そのアイデアのきっかけがユニークです。
●ヘルメットは頭蓋骨の損傷から守る働きはあっても、脳損傷を予防する効果はわずかしかない
ヘルメットによって頭蓋骨の損傷は防げるものの、脳しんとうやそれに関連する脳損傷を予防する効果はわずかです。というのは、上記2つの論文を書いたシンシナティ小児病院のGreg Myerさんによると、かさばるヘルメットによって慣性が増すからです。つまり脳が頭蓋骨の中でより大きく揺れて、脳組織や神経を損傷する可能性がかえって高まるんです。
ヘルメットによって、脳が頭蓋骨の中でより大きく揺れることにより、脳損傷する可能性がかえって高まるそうです。
●キツツキの頭には衝撃を吸収する仕組みが内蔵されている
キツツキは繁殖期になると1日1万2000回、1秒あたり18〜22回も木をつつきます。頭を激しく前後させることで、1200Gもの力が頭にかかっています。
それでもキツツキが脳しんとうで倒れないのは、頭に衝撃を吸収する仕組みが内蔵されているからです。CTスキャンを使った過去の研究では、キツツキの筋肉は厚く、骨はスポンジ状で、第3の内まぶたがあり、それらが脳脊髄液とともに、木をつつく衝撃を吸収していることがわかっています。
またキツツキの舌はとても長く、それによって自分の頭を巻き、頸静脈をつまむこともできます。これによって頭蓋骨内の血液量を増やしてクッションにし、頭蓋骨の中を保護しているんです。
キツツキの頭には衝撃を吸収する仕組みが内蔵されているそうです。
1.キツツキの筋肉は厚く、骨はスポンジ状で、第3の内まぶたがあり、それらが脳脊髄液とともに、木をつつく衝撃を吸収している
2.キツツキは舌で自分の頭を巻き、頸静脈をつまむことによって頭蓋骨内の血液量を増やしてクッションにし、頭蓋骨の中を保護している
(2018/2/6、ロイター)
キツツキは、昆虫や樹液の餌を得たり、つがい相手を呼び寄せたりするためにつつき行動をしており、その際、最大1400Gという大きな重力加速度を受けている。人間は、60─100Gで脳震盪を起こす可能性があるが、キツツキには、くちばしや頭蓋骨、舌、脳と頭蓋骨の間にある隙間など、つつき行動による影響を緩和する機能が備わっている。
論文誌「PLoS ONE」に掲載されたボストン大学医学部の研究によれば、キツツキの木の幹をつつく「つつき行動」によって脳が損傷を受けている可能性があるそうです。
これまでキツツキの頭には進化の過程で衝撃を吸収する仕組みが内蔵されているという仮定を基に、安全なアメフト用ヘルメットの開発にキツツキがモデルとして選ばれていましたが、この仮定が崩れる可能性があるかもしれません。
【参考リンク】
- Farah G, Siwek D, Cummings P (2018) Tau accumulations in the brains of woodpeckers. PLoS ONE 13(2): e0191526. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0191526
●高地では脳震とうが少ない
高地の試合では、高校生で30%、プロで32%、脳しんとうが少なかったんです。
【参考リンク】
- Can Animals Help Limit Concussions?(2014/1/2、ニューヨークタイムズ)
この研究はスポーツだけでなく、自動車の安全面も解決するアイデアとなるかもしれません。
Preventing Brain Injuries | Cincinnati Children’s|YouTube
■脳震とう問題はサッカー界にも
(2016/5/20、スポーツイノベイターズオンライン)
例えば、サッカーでは2015年、米サッカー協会が医事委員会の勧告に基づき、10歳以下の子供はヘディングを禁止、11歳~13歳の子供にはヘディング回数を制限する規定を発表している。
アメリカサッカー協会では、10歳以下の子供はヘディングを禁止、11歳~13歳の子供にはヘディング回数を制限する規定を設けたそうです。
日本でも最近話題になった「コリジョンルール」ですが、あらゆる「コリジョン(衝突型)スポーツ」で脳震とう問題は取り上げられていくのではないでしょうか。
【関連記事】
■まとめ
「Concussion(脳震とう)」問題は日本でも話題になっていくことと思います。
ぜひこの問題を医学やテクノロジー、デザインといった力で解決できるといいですね。
【関連記事】