【目次】
■年齢が若い医師のほうが患者の死亡率が低い!
参考画像:Physician age and outcomes in elderly patients in hospital in the US: observational study(2017/5/16、bmj)
若い医師の方が担当患者の死亡率が低いことが最新の研究で明らかに
(2017/5/17、医療政策学×医療経済学)
その結果、担当医師の年齢が若い方が患者が入院30日以内に死亡する確率(30日死亡率)が低いことが明らかになりました。
Physician age and outcomes in elderly patients in hospital in the US: observational study
(2017/5/16、bmj)
Patients in hospital treated by older hospitalists have higher mortality than patients cared for by younger hospitalists, except for hospitalist physicians with high volumes of patients.
BMJ(英国医師会雑誌)に掲載された研究によれば、年齢が若い医師のほうが患者の死亡率が低いということが分かったそうです。
過去の研究においても同様のことが示唆されていました。
Systematic review: the relationship between clinical experience and quality of health care.
(2005/2/15、NCBI)
Physicians with more experience are generally believed to have accumulated knowledge and skills during years in practice and therefore to deliver high-quality care.However, evidence suggests that there is an inverse relationship between the number of years that a physician has been in practice and the quality of care that the physician provides.
「超一流になるのは才能か努力か?」(著:アンダース・エリクソン)
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医者と、遊びでテニスをしている人たちとのこうした類似点を指摘したのは2005年にハーバードメディカルスクールの研究チームが発表した論考だ。彼らは医師が提供する治療の質が時間とともにどのように変化するかに関する研究を幅広く調べている。医者としての活動年数が長いほど能力が高まるのであれば治療の質も経験が豊富になるほど高まるはずである。しかし結果まさにその逆だった。論考の対象となった60あまりの研究のほぼ全てにおいて医師の技能は時間とともに劣化するか良くても同じレベルにとどまっていた。年長の医師のほうがはるかに経験年数の少ない医師と比べて知識も乏しく適切な治療の提供能力も低く研究チームは年長の医師の患者はこのために不利益を被っている可能性が高いと結論づけている。p184
簡単にまとめると、長年経験を積んだ医師のほうが知識も技能が蓄積されていると期待している人が多いと思いますが、60ほどの研究によれば、医師の技能は時間とともに劣化してしまうものであり、また年長の医師のほうが経験年数の少ない医師に比べて医学的知識が少なく、ガイドラインに合わせた治療を行わない傾向になるため、年長の医師の患者は質の低い医療を受けている可能性があるというものです。
■まとめ
by Paul Hudson(画像:Creative Commons)
経験年数の少ない若手医師の方が経験年数の長い医師に比べると、患者の死亡率が低い!
「超一流になるのは才能か努力か?」(著:アンダース・エリクソン)
特に複雑な症例の診断を下す医師は患者の状態について膨大な情報集めそれを吸収し適切な医学知識と結びつけて結論を導き出さなければならない。その過程では少なくとも3つの異なる作業が必要になる。それは患者についての情報を集めること、関連する医学知識を思い出すこと、そして情報と医学知識を総合して「おそらくこれだろう」と思われる症例を絞り込み想定される診断を特定して適切なものを選ぶことである。p108
病気を診断するにあたって、患者のデータと医学知識を組み合わせて適切なものを選択する必要がありますが、医師は、常に新しい知識をアップデートしていかなければ、患者にとって質の低い治療を行なってしまう恐れがあるのです。
C型肝炎の治療薬は劇的に進歩し、今では90%近くの患者が治る!によれば、C型肝炎治療薬は劇的に進歩し、今では90%近くの患者が治るようになっているそうですが、その一方で、10年20年以上前の知識を持った医師たちによって、治療が勧められないというケースもあるそうです。
人工知能(AI)のようなテクノロジーによるサポートなどが解決策の一つになるのではないでしょうか。
そして、患者の立場としては、年齢や経験、性別といった先入観にとらわれることなく、腕の高さの指標となるデータで判断できるようにしていく必要がありますね。
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■会話がキーワード?
年長の医師のほうが若手医師よりも患者からの期待があるという点については、「会話」がキーワードの一つにあるのではないでしょうか?
「一緒にいてもスマホ」(著:シェリー・タークル)
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指導する学生たちが診察を嫌がっていると思うと、教授は嘆かわしくなる。
彼らは、会話に出てくること、患者の病歴全体から分かることに責任をとろうとしません。患者の不安、憂鬱、恐れの声を聞こうとしません。医師というのは、そういうことを聞こうとする存在だったはずです。病気をかかえているのは一個人だと心得、一個人としての病人が治療を必要としているんだと考えていました。ところが今の若い医者は、そういう会話をしたがらないんです。うちの学生たちは、電子カルテシステムが導入されて喜んでますよ。患者から顔を背けて、関連する詳細データとやり取りしていればいいんだって言われてるも同然ですからね。もっとややこしい役割に踏み込んでいこうとはしないんです。
「一緒にいてもスマホ」(著:シェリー・タークル)の中には、若手医師の中には患者と話をしたがらないというケースが紹介されていますが、患者は病気を治してほしいという気持ちと、不安や恐れといった気持ちに寄り添い、共感してほしいという気持ちを持っていると思います。
女性医師の治療を受けた患者は生存率が高い!?|医師の患者に対する共感・コミュニケーションが重要な役割を果たしている?で紹介したトーマスジェファーソン大学のM・ホジャット氏によれば、医師による共感が、患者の治療結果に影響を与えるそうです。
コミュニケーションをとることによって、医師と患者間での信頼関係が生まれ、その後のケアやマネジメントが良好になると考えられます。
「スマホのチラ見」をすると、親密度が下がり、話を聞いてくれていないと思われてしまう!?によれば、会話中に相手にスマホを気にしている仕草をされると、「面白くない(興味ない・関心がない)のかな?」とか「誰かほかに気になる人がいるのかな?」など自分のことが大事にされていないことが伝わります。
同様に、スクリーンばかりを見て、患者の目を見ない、つまりアイコンタクトがないと、無意識のうちに患者は医師に大事にされていない、共感されていないと感じるものではないでしょうか。
そのため、実際には若手医師のほうが知識や技能が優れていたとしても、会話をすることがなければ患者との信頼感が生まれず、結果年長の医師を選ぶ患者が多いのかもしれません。