日本の子どもは本当にたんぱく質不足?平均身長の低下・学校給食・食事摂取基準から考える

日本人の若い世代の平均身長が低下していることをめぐって、SNSでは「子どものたんぱく質不足が原因ではないか」「学校給食の肉が少なすぎるのではないか」「そもそも日本の食事摂取基準に問題があるのではないか」といった意見を目にします。

「成長期なのだから、もっと肉や魚を食べさせたほうがいい」「身長を伸ばすために子ども用プロテインを飲ませたほうがいいのでは?」と考える人もいるかもしれません。

確かに、たんぱく質は成長期の子どもにとって欠かせない栄養素です。

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいと思います。

そもそも日本の子どもは、本当にたんぱく質が不足しているのでしょうか?

学校給食についても、単純に「肉が少ない」だけで評価することはできません。限られた給食費の中で、栄養士・管理栄養士が学校給食の栄養に関する基準などをもとに献立を考えています。

さらに、「日本人の身長」というところまで問題を広げるなら、子どもが現在食べているたんぱく質だけではなく、母親の妊娠前の体格や妊娠中の栄養、出生体重、そして子どもの成長期の栄養など、より長い時間軸で考える必要があります。

そこで今回は、「日本人の食事摂取基準」や「国民健康・栄養調査」などを手がかりに、日本の子どもは本当にたんぱく質不足なのかを考えてみます。さらに、日本のたんぱく質摂取基準は海外と比べて特殊なのか、という点についても確認します。

1. 日本人の食事摂取基準では、子どものたんぱく質はどれくらい必要?

まず、「日本の基準そのものが低いのでは?」という疑問から確認してみましょう。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、1歳以上のたんぱく質について、推定平均必要量(EAR)、推奨量(RDA)、目標量(DG)が設定されています。

子どもの1日当たりのたんぱく質推奨量は次のようになっています。

年齢  男子 女子
1~2歳  20g 20g
3~5歳  25g 25g
6~7歳  30g 30g
8~9歳  40g 40g
10~11歳 45g 50g
12~14歳 60g 55g
15~17歳 65g 55g

さらに1~17歳では、総エネルギー摂取量に占めるたんぱく質の目標量が13~20%エネルギーとされています。

ここで区別しておきたいのが「推定平均必要量」と「推奨量」です。

推定平均必要量は母集団の50%が必要量を満たすと推定される量なのに対し、推奨量はほとんどの人、97~98%が充足すると考えられる量です。

したがって、推奨量は「これだけ摂らないと身長が伸びない」という数字でも、「これを上回れば上回るほど成長に有利」という数字でもありません。

2. 子どもは実際にどれくらいたんぱく質を摂っている?

では、日本の子どもたちは実際にどれくらいのたんぱく質を摂っているのでしょうか。

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では、年齢階級別にエネルギーやたんぱく質などの摂取量が調査されています。

また、国立健康・栄養研究所では、国民健康・栄養調査の結果を再集計し、たんぱく質、動物性たんぱく質、植物性たんぱく質、たんぱく質エネルギー比などについて、性・年齢階級別の経年データを公開しています。

ここで知りたいのは、前章で紹介した「推奨量」と実際の摂取量との関係です。

ただし、この二つを比較するときには注意が必要です。

日本人の食事摂取基準(2025年版)の「推奨量(RDA)」は、ある集団について不足している人の割合をそのまま示すための数字ではありません。

そのため、

「平均摂取量が推奨量を上回っている」=「日本の子どもにはたんぱく質不足の問題がない」

と単純に判断することはできません。

逆に、SNSで学校給食の写真などを見て、

「肉が少ない」=「日本の子どもはたんぱく質不足」

と判断することもできません。

集団として本当にたんぱく質不足が問題になっているのかを考えるには、「平均して何g食べているか」だけではなく、必要量を満たしていない子どもがどのくらいいるのかを見る必要があります。

また、平均値では見えにくい個人差もあります。

食事量が少ない子、偏食のある子、朝食を欠食する子など、食生活は一人ひとり違います。

国民健康・栄養調査は、日本人全体の栄養摂取状況を把握する上で重要な資料ですが、集団の平均値だけから個々の子どもの習慣的な摂取量や栄養状態まで判断することはできません。

したがって、現時点では、

「日本の子どもはみんなたんぱく質が足りている」

とも、

「日本の子どもはたんぱく質不足になっている」

とも、平均摂取量だけから結論づけるべきではないでしょう。

大切なのは、日本の子どもを一括りにするのではなく、集団として必要量を満たせているのかという問題と、個々の子どもが十分に食べられているのかという問題を分けて考えることです。

3. 「給食の肉が少ない」だけで学校給食を評価していい?

SNSでは学校給食の写真を見て、

「肉がこれだけしかない」

「これではたんぱく質が足りないのでは?」

といった意見が出ることがあります。

しかし、学校給食には「学校給食摂取基準」があります。

文部科学省は、学校給食摂取基準について、日本人の食事摂取基準の考え方に加えて、児童生徒の実際の食事調査などを勘案して、学校給食として望ましい栄養量を算出したものと説明しています。

たんぱく質については、給食による摂取エネルギー全体の**13~20%**が基準です。

また文部科学省は、肉だけではなく、穀類、野菜、豆類、魚介類、肉類、卵類、乳類など、多様な食品を適切に組み合わせることを求めています。

つまり、

肉の大きさ=給食のたんぱく質量

ではありません。

魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳、そのほかの食品からもたんぱく質を摂取します。

また学校給食摂取基準は「全国的な平均値」であり、児童生徒の健康状態、生活活動、地域の実情などを考慮して弾力的に運用するものとされています。

もちろん、給食費や食材価格など現場の問題については別途検討する必要があります。

しかし、給食の写真で肉が小さく見えることだけから「栄養基準が間違っている」「子どものたんぱく質が不足している」と結論づけるのは難しいでしょう。

4. 日本人の平均身長低下を「たんぱく質不足」だけで説明できる?

ここが今回の問題の中心です。

日本人の平均身長が低下しているという話自体には、研究による裏付けがあります。

国立成育医療研究センターなどの研究では、1969~1996年生まれの成人身長を大規模に解析した結果、平均成人身長は1978~79年生まれで男性171.5cm、女性158.5cmをピークとして、その後20年間低下していました。

では、それは子どものたんぱく質不足が原因なのでしょうか?

この研究から直接その結論を出すことはできません。

むしろ研究チームが注目したのは出生体重でした。

低出生体重児の割合と、その年に生まれた子どもの平均成人身長には強い逆相関がみられ、研究チームは低出生体重児の増加が、日本人の平均身長低下の一因になっている可能性を示しています。

これは非常に重要なポイントです。

「最近の日本人が小さくなった → 子どものたんぱく質が足りない」

という一直線の因果関係だけで説明するのではなく、もっと前から考える必要があるわけです。

5. 母親の体格、妊娠期、出生体重まで遡って考える

子どもの身体の成長は、小中学生になってから始まるわけではありません。

厚生労働省の食事摂取基準も、ライフステージ初期について、胎内での栄養状態、乳児期の栄養状態、成長期の栄養状態に特段の配慮が必要としています。

国立成育医療研究センターの研究によると、日本では低出生体重児の割合が1970年代後半の5.1%から2007年には9.7%に増加しました。さらに、早産や胎児発育不全などによって低出生体重で生まれた子どもは、成人身長が低くなりやすいことが国内外の研究で示されているとしています。

したがって、日本人の平均身長の変化を考えるなら、

妊娠前 → 妊娠中 → 胎児期 → 出生 → 乳幼児期 → 成長期

という長い時間軸で考える必要があります。

少なくとも現在利用できる研究からは、日本人の平均身長低下を「学校給食の肉が少ないから」と一つの要因だけで説明するのは難しいと言えます。

6. 成長スパート期こそ「たんぱく質だけ」に注目しない

子どもの成長を考える上で、もう一つ重要なのが成長スパートです。

食事摂取基準を見ると、年齢とともに必要な栄養量も変化します。

例えば12~14歳のたんぱく質推奨量は男子60g、女子55gで、参照体重は男子49.0kg、女子47.5kgです。

ただし、身体を成長させるためにはたんぱく質だけを摂ればよいわけではありません。

食事摂取基準では、たんぱく質だけでなく、エネルギー、脂質、炭水化物、カルシウム、鉄、亜鉛、ビタミンなど、それぞれについて基準が設けられています。

つまり成長期の問題を考える場合、

「肉を増やすべきか?」

だけを見るのではなく、

「成長に必要なエネルギーと栄養素を食事全体として確保できているか?」

という視点が必要になります。

7. 日本のたんぱく質基準は海外より低い?

ではSNSで出てくるもう一つの疑問、

「そもそも日本の食事摂取基準が低すぎるのではないか?」

について海外と比較してみましょう。

欧州食品安全機関(EFSA)は、乳児・子ども・青少年について、年齢に応じて体重1kg当たり1日0.83~1.31gのたんぱく質をPopulation Reference Intake(PRI)として設定しています。

より細かく見ると、EFSAの値は3歳0.90g/kg/日、8歳0.92g/kg/日、男子12歳0.90g/kg/日、女子12歳0.89g/kg/日など、年齢・性別によって設定されています。WHO/FAO/UNUの基準も併記されており、同程度の範囲です。

米国のDRIも、年齢・性別によってたんぱく質の基準を設定しています。NIHはRDAを「ほぼすべて(97~98%)の健康な人の必要量を満たす1日平均摂取量」と説明しています。

子どもの基準値の算出方法については議論もあり、あるレビューでは、現在の米国DRIは4~13歳0.95g/kg/日、14~18歳0.85g/kg/日としながら、新しい測定方法による研究ではより多い必要量を示唆するものもあると紹介しています。一方で、現時点では既存の推定値を覆すだけの公表データは十分ではないとも結論づけています。

このように、日本と海外では年齢区分や表示方法などに違いがあります。

したがって、

「海外より日本の基準が低いから、日本の子どもが小さくなっている」

と現時点の比較だけから結論づけることはできません。

むしろ、日本の基準そのものが特殊なのかという疑問については、海外基準と同じ土俵にそろえて慎重に比較する必要があります。

これは、今回の記事から出てくる重要な論点だと思います。

8. 子ども用プロテインを追加する必要はある?

ここまで見てくると、

「だったら念のためプロテインを飲ませておけばいいのでは?」

という疑問も出てきます。

しかし、ここでも順序が重要です。

まず確認すべきなのは、その子の普段の食事です。

肉だけでなく、

魚
卵
牛乳・乳製品
大豆・大豆製品
穀類

などさまざまな食品から、私たちはたんぱく質を摂取しています。学校給食についても、文部科学省は多様な食品を適切に組み合わせることを求めています。

また、「推奨量」は「摂れば摂るほど成長する量」ではありません。

子どもの食事を考えるときには、単一の栄養素だけを増やすより、

エネルギーを十分に摂れているか、食事全体のバランスはどうか

を見ることが先になります。

偏食や食事量の少なさなどで栄養状態に心配がある場合や、成長について具体的な懸念がある場合は、「身長のためにプロテインを追加する」と自己判断するのではなく、小児科医や管理栄養士などに相談して、その子の成長や食生活全体から考えた方がよいでしょう。

9.個人の努力だけでなく「自然と栄養をとれる環境」も大切

ここまで、子どもの成長を「たんぱく質」という一つの栄養素だけで考えるのではなく、食事全体や出生前からの長い時間軸で考えてきました。

しかし、もう一つ考えておきたいのが、健康を個人や家庭の努力だけに任せない仕組みです。

例えばアメリカでは、小麦粉など日常的に食べる食品に鉄や葉酸などを加える「栄養強化」という考え方があります。以前ハクライドウでも「鉄分を強化した小麦粉で鉄欠乏症・貧血を予防している国がある!」という記事で取り上げました。

こうした考え方の興味深いところは、「鉄を摂らなければ」と一人ひとりが意識し続けなくても、普段食べる食品を通じて必要な栄養素を摂取しやすくすることです。

子どもの健康や成長を考える場合も、「何を食べさせるべきか」という家庭への働きかけだけでなく、普通に生活していても必要な栄養素を摂りやすい食品環境をどうつくるか、という視点があってもいいのではないでしょうか。

子どもの成長を支えるには、家庭の食事だけでなく、学校給食や食品の栄養強化など、社会全体で栄養を支える仕組みについて考えることも必要なのかもしれません。

まとめ|「給食の肉が少ない→日本人の身長が低下」は一度立ち止まって考えたい

今回、SNSで出ている疑問を一つずつ確認していくと、かなり違った景色が見えてきます。

日本の子どもには、年齢・性別に応じたたんぱく質の推奨量が設定されています。学校給食についても食事摂取基準や児童生徒の食事調査などを考慮した「学校給食摂取基準」があり、たんぱく質を含めて栄養管理する仕組みがあります。

一方、日本人の平均成人身長が1970年代末生まれをピークに低下したことを示す研究はありますが、その研究が示した重要な関連要因の一つは低出生体重児の増加でした。

ですから、

日本人の平均身長が低下している
↓
子どものたんぱく質が不足している
↓
学校給食の肉が少ない
↓
もっと肉やプロテインを増やせばいい

というストーリーは、現段階では単純化しすぎているように見えます。

だからといって、「子どものたんぱく質について何も問題がない」と結論づけるのも早計です。

平均値が十分でも、個々の子どもには食事量や食生活、活動量などの違いがあります。また、子どもの成長を考えるなら、妊娠前・胎児期・出生時・乳幼児期・思春期までを連続したものとして見る必要があります。厚生労働省の食事摂取基準も、ライフステージ初期について胎内、乳児期、成長期の栄養状態への配慮を求めています。

今回の問題から見えてくるのは、

「たんぱく質が足りているか?」という一つの数字だけではなく、日本の子どもが成長するために必要な栄養とエネルギーを、胎児期から成長期まで十分に確保できているのか

という、もっと大きな問いなのかもしれません。

健康を支えるのは、本人の生活習慣だけではなく、健康的な選択をしやすい環境でもあるんですよね。

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【参考資料】
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査報告」
文部科学省「学校給食摂取基準の策定について(報告)」
文部科学省「学校給食実施基準の一部改正について」
国立成育医療研究センター「日本人の平均身長は低下傾向―低出生体重児増加が影響している可能性あり―」
European Food Safety Authority(EFSA), Population Reference Intakes for Protein
NIH Office of Dietary Supplements, Dietary Reference Intakes
Hudson JL, et al. Dietary Protein Requirements in Children: Methods for Consideration. Nutrients. 2021.







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