【目次】
- 収入に関係なく高学歴ほど病気リスクが低い|なぜ高学歴ほど循環器疾患(心筋梗塞や脳卒中)の発症リスクが下がるのか、仮説を考えてみた
- 【仮説】高学歴の人ほど健康につながる生活習慣を選択しがちだからこそ病気のリスクが低い?
- 【仮説】高学歴の人はそもそも遺伝的に病気になるリスクが低い?
- まとめ
■収入に関係なく高学歴ほど病気リスクが低い|なぜ高学歴ほど循環器疾患(心筋梗塞や脳卒中)の発症リスクが下がるのか、仮説を考えてみた
by John Loo(画像:Creative Commons)
(2017/7/25、読売新聞)
学歴別にみると、最終学歴が高いほど循環器疾患の発症リスクは下がり、大学院卒が最も低かった。高校中退者の発症リスクは50・5%と2人に1人。高卒の41・7%に比べ約10ポイントも高く、高校教育を終えたかが健康格差の分かれ目となることがうかがわれた。
ミネソタ大学の久保田康彦・客員研究員(公衆衛生学)が行なった45~64歳の男女1万3948人を学歴や収入でグループ分けし、45~85歳までに心筋梗塞、心不全、脳卒中といった循環器疾患を発症するリスクを分析したところ、収入に関係なく、高学歴ほど心筋梗塞や脳卒中になるリスクが低いということがわかったそうです。
#健康格差 とは|所得や学歴など社会経済的な地位が低いと不健康が多くなる!?によれば、健康格差とは、所得や学歴など社会経済的な地位が低いと不健康が多くなるといわれている格差のことであると紹介しており、例えば、#健康格差 は収入・学歴などが要因?|WHO、社会的・経済的な格差が健康の格差を生んでいるで紹介した愛知県の高齢者約1万5000人を対象にした調査では、所得水準が低いほど精神疾患や脳卒中、肥満などの割合が高いとの結果が出ていたり、学歴が低いほどがんや外傷による死亡率が高いことや、収入が低い人ほど運動をしていない割合や喫煙率が高いとの研究もあることを紹介しました。
高学歴の妻、男性の死のリスク低減させる可能性=研究では、妻の教育レベルが、男性にとっての死のリスクを決定する要因となるという研究結果を紹介しましたが、仮説としては、高学歴の人ほど健康につながる生活習慣を選択しがちだからこそ病気のリスクが低いのか、高学歴の人はそもそも遺伝的に病気になるリスクが低いのか、などいろんな理由が考えられます。
■【仮説】高学歴の人ほど健康につながる生活習慣を選択しがちだからこそ病気のリスクが低い?
高学歴の人ほど健康につながる生活習慣を選択しがちだからこそ病気のリスクが低いという仮説については、理由としてなんとなく理解できると感じる人も多いでしょう。
(2017/5/19、東北大学)
健康格差は、保健医療の知識の差というよりも、知識を行動に移せるだけの時間的・経済的な生活の余裕の差から生まれている部分が大きいことが分かっています。
東北大学のプレスリリースによれば、健康格差のポイントは、知識の差ではなく、その知識を行動に移すだけの生活の余裕の差によるものが大きいそうです。
また、日本の「健康社会格差」の実態を知ろう|東京大学によれば、個人・家族の学歴、職業、所得などの社会階層が低いほど、次のような影響を与えることで、健康状態が悪化したり、寿命が短くなってしまうそうです。
物質的な制限がある
・低所得で物やサービスを購入できない
・医療へのアクセス抑制ストレスが大きい
・仕事の裁量と努力への報酬が小さい
・他人と比べた劣等感、相対的剥奪感人間関係が乏しい
・孤立しやすく、サポートが少ない健康に悪い生活習慣
胎児期・子供時代の低栄養、逆境体験によるストレスの長期的影響
ただ、これまで紹介してきた内容と今回の分析結果とは内容が違っています。
今回の分析結果が、仮に高学歴でなおかつ所得が多いほど病気になるリスクが低いというものであれば、高学歴の人は保健医療の知識を身につけていて、その知識を行動に移せるだけの時間的・経済的な余裕があるからこそ病気になりにくいというものになったでしょう。
しかし、今回の分析結果はそうではなく、収入に関係なく、高学歴ほど病気になるリスクが低いというものだったので、別の仮説があるのではないでしょうか?
■【仮説】高学歴の人はそもそも遺伝的に病気になるリスクが低い?
エピジェネティクスとは?人生は「生まれ」か「育ち」かだけで決まるわけではない!|What is Epigenetics? Life is not determined only by ‘Nature’ or ‘Nurture’!によれば、エピジェネティクスにおいて重要なポイントは、エピジェネティック・マークは環境により影響される可能性があるということです。
この場合における「環境」とは、神経細胞に周辺細胞が神経の形になれと命令するような細胞間の環境のみを意味しているのではなく、成長する赤ちゃんの外側の環境のことも含んでいます。
例えば、母親が食べたものや妊娠中に摂ったビタミン類、喫煙、家庭内や仕事場で受けたストレスは全て化学シグナルとして血流にのって発育中の胎児に到達するかもしれないそうです。
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マウスの実験では次のようなことがわかっているそうです。
- アグーティ遺伝子(マウスを太らせ黄色にする、がんや糖尿病のような病気を引き起こすのではないかといわれている)の特徴はDNAを介して世代から世代へと遺伝していくので、アグーティ遺伝子を持つ母親はその子が同じアグーティ遺伝子を持っているなら太った黄色の病気になる傾向のある子どものマウスを生むことになると考えられる。
- しかし、アグーティ遺伝子は不活性化エピジェネティック・マークが周囲に蓄積するとオフになる。
- アグーティ遺伝子を持っている母親がエピジェネティック・マークを不活性化する食事を与えられたなら、それらのマークは化学的に胎児のDNAに伝えられて、アグーティ遺伝子の周りに蓄積し、アグーティ遺伝子をオフにする。
- 胎児はその状態を保ち、そのマウスは成長しても、やせて茶色で健康
つまり、このことは、母親がDNAの全く同じ子供たちを持ったとしても、妊娠中に食べた食事や喫煙といった行動によって、子供たちの健康に違いが現れる可能性を示唆しています。
もう一つ、エピジェネティクスにおいて重要なポイントはエピジェネティック・マークが伝搬するのは妊娠中の母親から胎児へだけでなく、マークが卵子/精子の遺伝子に定着すると、孫、ひ孫というように世代から世代へと遺伝することです。
つまり、このことはライフスタイルが数世代先の子孫に影響するかもしれないと考えられます。
スウェーデンとイギリスで長期にわたって行われた研究では、若い男性が精子の発育する思春期よりも以前に食べ過ぎたり、タバコを吸い始めると、息子や孫(息子)の寿命が短いという結果があるそうです。
【参考リンク】
- Pembrey et al 2006, Eur. J. Hum. Genet 14: 159-166 Sex-specific, male-line transgenerational responses in humans.
これはエピジェネティック・マークが食事と喫煙行動によって変化し、次世代の将来の健康に影響したと考えられます。
こうしたことから考えられる仮説は、高学歴ほど健康的なライフスタイルを選んでいて、そのことが世代から世代へと影響を与えることで、自然と病気になるリスクを低くしているのではないかというものです。
■まとめ
これまで健康格差は所得や学歴など社会的・経済的な格差が要因と考えられてきましたが、今回の分析結果によれば、収入は関係なく高学歴ほど循環器疾患の発症リスクは低いという結果が出たことから、健康格差は学歴が大きな要因であり、これまで考えられてきたものを覆すものとなります。
豊かさと健康水準は直接相関せず、国内格差が影響=研究|英ケンブリッジ大学で紹介した英ケンブリッジ大学社会学科のチームによれば、経済的な豊かさと健康であることは相関性はないことがわかっています。
【参考リンク】
- Biggs B, King L, Basu S, Stuckler D. Is wealthier always healthier? The impact of national income level, inequality, and poverty on public health in Latin America. Soc Sci Med. 2010 Jul;71(2):266-73. doi: 10.1016/j.socscimed.2010.04.002. Epub 2010 Apr 24.
「高学歴であると、なぜ循環器疾患のリスクが低くなるのか」、そのメカニズムを解明してほしいですね。
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