糖尿病をもつ方の “将来の筋力低下リスク” を予測――新たな指標「尿中タイチン」発見(2025年9月8日、神戸大学)によれば、2型糖尿病をもつ方の「尿中タイチン」が、将来のサルコペニアの発症を予測する新たなバイオマーカーであることがわかりました。
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■尿中タイチンとは?
今回の研究で注目された「尿中タイチン」は、筋線維の構造を支えるタンパク質で、筋損傷が生じると血液中に放出され、尿中に排出されます。
■サルコペニアとは
サルコペニアは、加齢や生活習慣病、がんなどの慢性疾患に伴って筋肉量・筋力・身体機能が低下する状態で、フレイル(虚弱)、転倒、要介護など、健康長寿をおびやかすことから注目されています。
2016年、疾病として認定されてから(国際疾病分類ICD-10に登録)、世界中でサルコペニアの予防、治療の方法が模索されています。
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■研究の背景
1)糖尿病をもつ方は、特にサルコペニアが進行しやすいことが知られていますが、その発症を早期に予測できる信頼性の高いバイオマーカーはこれまで存在しませんでした。
2)これまで、筋ジストロフィーや拡張型心筋症など比較的まれな疾患のバイオマーカーとして知られており、研究チームは、糖尿病の方でも、筋肉の慢性的な損傷がおこり「尿中タイチン」が上昇していると仮説を立てて研究を開始しました。
【補足1】
〇握力と糖尿病
・握力や閉眼片足立ちの成績が悪いと2型糖尿病リスクは高くなる|簡単な体力テストで糖尿病のチェックができる!|東北大学【論文・エビデンス】によれば、握力テストおよび閉眼片足立ちテストの成績が2型糖尿病の発症リスクと関連することを明らかにしました。
・心肺持久力と握力の両方が低い中学生は代謝異常リスクが高い!|心肺持久力が低いと血圧やNON-HDLコレステロールは高い!|新潟大学で取り上げた新潟大学と新潟県阿賀野市による共同研究によれば、体力テストで心肺持久力を測るシャトルランと上肢筋力を測る握力の両方が低い中学生は代謝異常(メタボまたは生活習慣病)リスクが高いことがわかっています。
・痩せた女性で筋肉量が少ない人ほど高血糖のリスクが高い|糖尿病予防には食事と運動で筋肉の量と質を高めよう!|順天堂大学によれば、痩せた閉経後女性で、どのような人がより高血糖になりやすいかを詳しく解析したところ、インスリン分泌が低いことに加え、除脂肪体重(全身の筋肉の量を反映)が少ない人、筋細胞内に脂肪が蓄積(脂肪筋)している人ほど、血糖値が高いことが明らかになっています。
・【たけしの家庭の医学】握力を鍛えて血管年齢若返り|NO分泌入浴法のやり方によれば、握力を維持できていない人は心血管疾患による死亡リスクが高いと考えられ、反対に握力が維持できている人は心血管疾患による死亡リスクが低いそうです。
・握力が強いほど長生き?|循環器病の発症リスクも低い|厚生労働省研究班(2012/2/20)で紹介した厚生労働省研究班の約20年間にわたる追跡調査によれば、握力が強いほど長生きする傾向があり、死亡リスクだけでなく、心臓病や脳卒中といった循環器病の発症リスクも下がっていたことがわかったことで、健康状態を表す指標として、握力が使える可能性があるそうです。
・握力は健康のバロメーター!?|握力低下は心臓発作・脳卒中リスク増加に関連(2015/5/15)で紹介したカナダ・マクマスター大学(McMaster University)が主導した国際研究チームは、握力が健康のバロメーターになる可能性についての研究を行ない、その結果、握力が低下すると、心臓発作や脳卒中の発症リスクの増加に関係していることがわかったそうです。
具体的には、握力が5キロ低下するごとに、何らかの原因による死亡リスクが16%増加する関連性が認められ、この握力低下は、心臓発作リスクの7%増、脳卒中リスクの9%増にそれぞれ関連していたそうです。
・”#血圧サージ”が危ない~命を縮める血圧の高波~|タオルグリップ法(ハンドグリップ法)|#NHKスペシャル #ガッテンで取り上げたカナダ・マクマスター大学の研究者によれば、8週間のアイソメトリックハンドグリップ(IHG)トレーニングをしてもらったところ、血圧が低下し、動脈の拡張能力が増加することがわかったそうです。
高血圧の代替療法として効果的なのはウォーキングなどの「有酸素運動」と「ハンドグリップ法」であるとして、その理由として、有酸素運動やハンドグリップ法をすると、血管の内皮細胞から血管の壁を柔らかくして血管を広げる作用がある一酸化窒素が出てくるためと紹介されています。
〇片足立ち
・ロコモティブシンドロームになると要介護のリスクが高くなる?ロコモの原因・予防のためのトレーニング方法によれば、片脚立ちは両脚立ちに比べ2.75倍の負荷がかかり、一日3回、左右1分間の片脚立ちは、約53分間の歩行に相当するそうです。
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■結果
「尿中タイチン」濃度が高い方ほどサルコペニアを発症しやすく、特に「握力低下」と関連することが明らかになりました。「尿中タイチン」の予測精度は、年齢・性別や体格、血糖コントロール状態、腎機能の違いにかかわらず、一貫していることも示されました。
■まとめ
大事なポイントは、非侵襲的(体への負担が少ない)で簡便な尿検査によって糖尿病の筋力低下のサインを捉えることができるということですね。
尿中タイチンを測定することで事前に予測を立てて個別化した予防や治療をすることにより、要介護にならないように予防したり、健康寿命を延ばすことが期待されます。
【補足2】
高齢者の筋内脂肪の蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する|名古屋大学【論文・エビデンス】によれば、高齢者の筋肉内に霜降り上に蓄積する脂肪(筋肉脂肪)が、加齢に伴う筋力の減少(サルコペニア)や運動機能低下と関係していることがわかりました。
加齢に伴ってサルコペニア(筋量の減少)が生じることはよく知られていますが、それと同時に筋肉の中に脂肪が蓄積し、量的な変化だけでなく、筋肉の”質的な変化”も生じていることが明らかとなりました。
高齢者は、定期的に運動をすることによって、加齢による筋肉量の減少と運動機能低下を軽減し、筋内脂肪の蓄積の抑制をすることが期待されます。
【補足3】
隠れ糖尿病の原因となる脂肪肝と脂肪筋の簡単改善法のやり方!|#ためしてガッテン(#NHK)によれば、体の中には、肝臓と同じように糖を取り込んでくれるものがあります。
それは「筋肉」です。
筋肉は、体を動かすために必要なエネルギーとして糖や脂肪を取り込んでいるのですが、脂肪が多くなりすぎると、脂肪筋となってしまいます。
脂肪筋も脂肪肝と同じで、糖を取り込むスペースがなくなってしまい、高血糖の原因、つまり糖尿病の原因となります。
今回の研究では、「尿中タイチン」濃度が高い方ほどサルコペニアを発症しやすいことがわかりましたが、例えば、それが筋内の質の変化のサインだとしたら興味深いですよね。
もしかすると、若いうちから尿を調べて、そのサインが現れた場合、しっかりと予防を行うようにするというようになるかもしれません。
【参考リンク】
- Tanabe H, Takiguchi Y, Tsutsumi R, Shiroma K, Hyodo M, Izumi-Mishima Y, Nomura K, Matsuo M, Sakaue H, Shimabukuro M. Prediction of Sarcopenia Onset in Type 2 Diabetes Using Urinary Titin Levels: A Japanese Prospective Cohort Study. Diabetes Care. 2025 Aug 25:dc251067. doi: 10.2337/dc25-1067. Epub ahead of print. PMID: 40854208.