大豆に含まれる「イソフラボン」は、女性ホルモンのエストロゲンと似た構造を持つことから、「植物エストロゲン(フィトエストロゲン)」と呼ばれることがあります。
乳がんには女性ホルモンが深く関係するタイプがあります。
そこで、こんな疑問が浮かびます。
「女性ホルモンに似ているなら、大豆イソフラボンをたくさん摂ると、かえって乳がんリスクが高くなるのでは?」
ところが、大豆食品やイソフラボンの摂取量が多い女性では、むしろ乳がんリスクが低い可能性を示した研究があります。
いったい、どういうことなのでしょうか?
■日本人女性ではイソフラボン摂取量が多いほど乳がんリスクが低かった
国立がん研究センターのJPHC研究では、40~59歳の女性約2万人を対象に、大豆食品やイソフラボンの摂取と乳がんとの関係が調べられました。
その結果、イソフラボンの摂取量が多いほど乳がんの発生率が低くなる関連がみられました。
また、みそ汁を1日1杯未満飲む女性と比較すると、1日3杯以上飲む女性では乳がん発生率が0.6倍でした。
この傾向は、特に閉経後の女性で顕著だったと報告されています。
関連記事:
みそ汁の摂取が多いほど、乳がんになりにくい|国立がん研究センター
■女性ホルモンに似ているのに、なぜ乳がんリスクを上げないの?
ここが今回最も興味深いところです。
イソフラボンには「ゲニステイン」や「ダイゼイン」などがあり、エストロゲンと構造が似ています。
しかし、
「エストロゲンと構造が似ている」=「エストロゲンとまったく同じ働きをする」
というわけではありません。
国立がん研究センターは、イソフラボンが女性ホルモンの働きを邪魔することで、乳がんを予防する作用がある可能性を説明しています。
日本乳癌学会も、大豆に含まれるイソフラボンには抗エストロゲン作用があることなどから、乳がん発症リスクを減らす可能性が考えられてきたと説明しています。
ただし、イソフラボンの体内での作用は単純ではなく、「エストロゲンに似ているから同じ働きをする」「エストロゲンの作用を邪魔するから乳がんを防ぐ」と一方向だけで説明できるものではありません。
つまり、
エストロゲンに似ている
↓
だからエストロゲンと同じように作用する
と単純に考えることはできないのです。
これが「女性ホルモンに似た成分なのに、なぜ乳がんリスクを下げる可能性があるのか?」を理解する一つのポイントになります。
■ただし「大豆を食べれば乳がんを予防できる」とは言えない
ここは非常に重要です。
その後、国立がん研究センターが45~74歳の女性約4万8,000人を対象に行った別のJPHC研究では、
総大豆食品
発酵性大豆食品
非発酵性大豆食品
のいずれについても、乳がん全体の罹患との関連はみられませんでした。
一方、この研究では発酵性大豆食品の摂取量が多いグループほど、進行乳がんの罹患リスクが低い関連がみられました。ただし、研究者らはさらなる研究結果の蓄積が必要としています。
つまり、
「大豆を食べると乳がんになりにくい」
と単純に結論づけられるほど、研究結果は一貫しているわけではありません。
■日本乳癌学会の評価は「リスクを下げる可能性がある」
では、研究全体ではどのように評価されているのでしょうか?
日本乳癌学会の診療ガイドラインでは、
大豆食品や大豆食品に含まれるイソフラボンの摂取が、乳がん発症リスクを減少させる可能性がある
としています。
一方、エビデンスについては「Limited-suggestive(可能性あり)」という評価であり、「大豆食品を食べれば乳がんを予防できる」と断定できる段階ではありません。
国立がん研究センターによる日本人を対象とした研究の評価でも、大豆摂取による乳がん予防については「可能性あり」と評価されています。
したがって現時点では、
「大豆イソフラボンには乳がんリスクを下げる可能性がある」
くらいの表現が適切でしょう。
■大豆食品とイソフラボンサプリは分けて考える
もう一つ注意したいのが、「大豆食品」と「高用量のイソフラボンサプリメント」を同じものとして考えないことです。
日本乳癌学会によると、通常の食事から摂取する程度のイソフラボンによって乳がん発症リスクが増加することは、現時点では確認されていません。
一方、高用量のイソフラボンをサプリメントとして摂取することについては、乳がん予防効果も安全性も証明されていません。
つまり、
「大豆食品と乳がんリスクの研究で良い関連がみられた」
↓
「ならばイソフラボンサプリを大量に摂ればもっといい」
とは言えません。
普段の食事として豆腐、納豆、みそなどを食べることと、高濃度の成分をサプリメントとして摂取することは分けて考える必要があります。
■では「大豆はがん予防によい食品」と考えていいの?
ここでも話は単純ではありません。
HAKURAIDOUでは以前、国立がん研究センターの研究をもとに、大豆食品の摂取と膵がんとの関係についても紹介しています。
その研究では、総大豆食品の摂取量が多いことと膵がん罹患リスク上昇との関連がみられました。
さらに詳しく調べると、非発酵性大豆食品では同様の関連がみられましたが、発酵性大豆食品では関連がみられませんでした。研究者らもメカニズムについてはよく分かっていないとし、さらなる研究が必要としています。
関連記事:
これは非常に興味深い結果です。
乳がんについてはリスク低下の可能性が示される一方、膵がんについては逆方向の関連を示す研究もある。
ただし、これは「大豆が乳がんを防ぐ一方で、膵がんを引き起こす」という意味ではありません。
それぞれ別の疾患について行われた観察研究であり、対象となった大豆食品や摂取量、評価方法なども異なります。
むしろ重要なのは、一つの研究結果から「大豆=がん予防食品」「大豆=危険な食品」と食品そのものを単純に評価することはできないという点です。
だからこそ、
「大豆=健康によい」
「大豆=がん予防」
「大豆=がんリスクを高める」
のいずれか一つに決めてしまうのは適切ではありません。
どの病気を対象としているのか、大豆食品なのかイソフラボンなのか、発酵食品なのか非発酵食品なのか、通常の食品なのかサプリメントなのか、といった条件を分けて研究結果を見る必要があります。
■まとめ
大豆に含まれるイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンと似た構造を持っています。
しかし、エストロゲンとまったく同じ働きをするわけではなく、抗エストロゲン作用などが乳がんリスク低下に関係している可能性が考えられています。
実際、日本人を対象とした研究でも、大豆イソフラボンの摂取量が多い女性で乳がんリスクが低い関連が報告されています。
ただし、その後の研究では大豆食品と乳がん全体との関連が認められなかったものもあり、研究結果が完全に一致しているわけではありません。
そのため、現在のエビデンスからは、
「大豆イソフラボンは乳がんリスクを下げる可能性がある。しかし、大豆を食べれば乳がんを予防できるとまではいえない」
という理解がよさそうです。
また、通常の大豆食品についての研究結果を根拠に、高用量のイソフラボンサプリメントを乳がん予防目的で摂取することも勧められません。
「女性ホルモンに似ているから危険」「大豆だから健康に良い」と単純化せず、同じ食品でも、成分、摂取形態、対象となる病気によって研究結果が違うことまで含めて見ていくことが大切なのではないでしょうか。
国立がん研究センター JPHC Study「大豆・イソフラボン摂取と乳がん発生率との関係について」
国立がん研究センター JPHC Study「大豆食品、発酵性大豆食品の摂取量と乳がん罹患の関連」
日本乳癌学会「大豆食品・イソフラボンの摂取は乳癌発症リスクを減少させるか」
国立がん研究センター「日本人における大豆・イソフラボン摂取と乳がんリスク」
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