【目次】
■ニホンザルはなぜ毛づくろいをするのか?グルーミングの3つの意味とは?
by Kabacchi(画像:Creative Commons)
(2016/1/1、medley)
毛づくろいをする側のサルでは、相手が友好関係にあるとき、不安が和らいでいると見られました。また、毛づくろいを受けるときは、相手が友好関係にあってもなくても、不安が和らぐと見られました。
毛づくろいには不安を和らげるという心理的効果があるそうです。
なぜ毛づくろいには不安を和らげる効果があるのでしょうか。
毛づくろいを「触れる」ということに置き換えて考えてみます。
抱きしめられたい 心理|なぜ「抱きしめられたい」と思うのか?によれば、女性が男性に抱きしめられたいと思う4つの瞬間があります。
それは、1.淋しい時、2.好きな気持が高まった時、3.不安なとき、4.疲れている時です。
人は不安な時に抱きしめられたい(触れ合いたい)と思うものなのです。
それでは、触れることでどのような体の変化が起こるのでしょうか。
女の子はなぜ頭ぽんぽんに弱いの? そのメカニズムとは?によれば、抱きしめられたり、やさしくふれられると、オキシトシンの分泌が増加し、ストレスが軽減したり、愛情や信頼などの感情を呼び起こすそうです。
ハグをすると、幸せな気持ちになり、健康になり、若返る!?によれば、触れ合うことで、幸せホルモンとも呼ばれるオキシトシンが分泌され、幸せな気持ちになったり、ストレスが軽減されるそうです。
つまり、触れること(触れ合うこと)によって、オキシトシンが分泌されることにより、ストレスが軽減するのです。
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また、毛づくろいには社会的な側面もあります。
「天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界」(著:ダニエル・タメット)
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ロビン・ダンバーの「言葉の起源 猿の毛づくろい、人のゴシップ」という本で、多くの人は会話の3分の2近くをゴシップに当てていて、これは「社会生活の自然なリズム」だと指摘している。ダンバーによれば、ゴシップは霊長類の毛繕い(グルーミング)と同じ行為だという。集団生活が基本の霊長類には、共同体のつながりを強めるための毛繕いが不可欠だ。人間が毛づくろいではなく言語を使って絆を深めるのは、そのほうが時間がかからず、他のことをしながらでも出来るからだ、とダンバーはいう。
毛づくろい=人のゴシップであり、毛づくろいをすることによって、つながりを強めているのです。
つまり、毛づくろいをすることによって、社会的な絆を深めているわけです。
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■母親ラットから熱心に舐められ身づくろいされた子供のラットは成長したときにリラックスしている
Moshe Szyf(モシェ・シーフ):DNAへ人生初期の経験が刻まれる|TED
マギル大学マイケル・ミーニーによれば、人間同様にラットの子供の育て方(舐め方)もさまざまで、非常に熱心な母親もいればそうでない母親もいるそうです。
興味深いのは、母親ラットから熱心に舐められ身づくろいされた子供のラットは成長したときにリラックスしているということです。
子供のラットをよく舐める母親ラット(養母)とあまり舐めない母親ラット(養母)に交換哺育する実験をおこなった結果わかったことには、ラットの特性を決めているのは、生みの母親ではなく、育ての親だということです。
ここで考えられた仮説が「母親は行動(熱心に舐めて身づくろいする)を通じて子供の遺伝子をリプログラミングするのではないか?」というもので、母親によるグルーミングや子供を舐める行為が生化学的シグナルへと翻訳され、細胞核、DNAへと伝わってリプログラミングし直しているということです。
エピジェネティクスと遺伝子への影響 | コートニー・グリフィス | TEDxOUによれば、ラットは糖質コルチコイド受容体の遺伝子(ラットの脳の特定領域で読み取られ、これが発現されるとストレス状況への対応を促す)を持っており、ラットにこの受容体がたくさんあればあるほど上手くストレスに対処できるそうです。
生後一週間の母ラットが子ラットに対してどのような世話をしたかによって、子ラットが成長して脳の中に保持する糖質コルチコイド受容体の数が変わるか、つまり、子ラットがストレスにどれだけうまく対応するようになるか、長期的に影響する可能性があることを示した研究があります。
子ラットが生まれた時、糖質コルチコイド受容体遺伝子の周囲には多くの不活性化エピジェネティック・マークがある、つまりこの遺伝子をオフにしています。
もし母ラットが生後一週間に子ラットをよく舐めたり、手入れしたり、面倒見がよかったならば、子ラットの不活性化エピジェネティック・マークは取り除かれる可能性があります。
糖質コルチコイド受容体遺伝子はオンになり、この状態が生涯を通じて子ラットの脳に続き、その子ラットはストレス対処ができる適応力のある動物に育つと考えられます。
もしも母ラットが子ラットを無視すると、糖質コルチコイド受容体遺伝子は不活性化エピジェネティック・マークを保持したままになり、取り除かれず、子ラットの脳に生涯を通してとどまるため、子ラットはストレス状況に弱く育つと考えられます。
人間に近いサルでもラットと同様の実験をおこなったところ、 母親と育ったサルはアルコールに興味を示さず性的に攻撃的ではなかったのに対して、母親がいなかったサルは攻撃的で落ち着きがなくアルコール依存症になったそうです。
母親がいないことがどのように影響するか、子供のDNAに母親の印があるかどうかを出生後14日目のサルにおいて比較したところ、多くの遺伝子で変化が起きていることがわかったそうです。
このことが、人生の初期の経験がDNAに刻まれるという動画のタイトルにつながるわけです。
ちなみに、今回の研究は、細胞の中にあるDNAの配列は正常だが、DNAが巻き付いているタンパク質の性質の変化によって、通常とは違う遺伝子情報が現れることを指す「エピジェネティクス」に関係する研究です。
世界初・染色体の新しい構造ユニットの特殊な立体構造を解明 癌をターゲットとした創薬研究に重要な基盤情報を提供(2017/4/17、早稲田大学)によれば、エピジェネティクスの本質を「遺伝情報の収納様式の違いにある」と書かれています。
また、がんの研究などにも重要な意味を持つ「エピジェネティクス」|テルモ生命科学芸術財団の解説によれば、エピジェネティクス状態をコントロールすることによってDNAのメチル化を正常化することができれば、がん治療ができるのではないかと考えられるそうです。
■まとめ
毛づくろいには3つの意味がある。
1.シラミをとる(直接的)
2.不安を和らげる(心理的)
3.社会的な絆を深める(社会的)
人間も不安を和らげ、つながりを強めるためにも、直接的なコミュニケーションをとるほうがいいのではないでしょうか。
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- 「糖尿病白内障」を抑制する物質発見|エピジェネティクスの働きを阻害することで糖尿病による白内障を予防する点眼薬への期待|福井大
【参考リンク】
- Weaver, et al. (2004) Epigenetic programming by maternal behavior.
P.S.
オメガ3で心も変わる|オメガ3を摂っていないと母性の発動が遅れたり、産後うつになりやすいで紹介した麻布大学が行なった実験によれば、オメガ3を摂ったマウスと摂っていないマウスとでは、育児の積極性に差があり、オメガ3を摂っていないマウスは母性が発動しにくいという結果が出たそうです。
守口徹(麻布大学教授)によれば、子供に対して授乳しなきゃ、温めなきゃと母性が発動してくるはずなのですが、オメガ3を摂っていないと母性の発動が遅れ、子供にあまり興味を示さない、興味を示すまでに時間がかかると考えられるそうです。
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