■「薬の飲み忘れ」を根本から解決!複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲルの開発に成功|東京農工大学
参考画像:「複数の薬を異なる速度で放出できるゲル」の開発に成功~ 「より効率的ながん治療」や「薬の飲み忘れがない在宅医療」の実現へ ~(2017/3/8、東京農工大学プレスリリース)|スクリーンショット
「複数の薬を異なる速度で放出できるゲル」の開発に成功~ 「より効率的ながん治療」や「薬の飲み忘れがない在宅医療」の実現へ ~
(2017/3/8、東京農工大学プレスリリース)
本研究グループでは、「『物質の放出速度が異なるミセル』をゲルの内部に固定化する」という材料設計での独自のアイデアによって、「複数の物質の放出挙動を自在に制御できるゲル」の開発に成功しました(図 1)。
東京農工大学大学院の村上義彦准教授の研究グループは、体内に薬を運ぶための入れ物である「薬物キャリア」として利用されている構造体(ミセル)に着目し、「物質の放出を制御できる機能」をゲルの内部に固定化するという新しい材料設計アプローチによって、「複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲル」の開発に成功しました。
■【背景】飲み忘れ問題
薬の飲み忘れには、解決しなければならない問題がいくつも隠されています。
●残薬(飲み残しの薬)
がんを薬で治療する際には、一種類の抗がん剤のみを投与することは少なく、複数の抗がん剤や補助薬を併用することで薬効の増大や副作用の軽減が図られています。このような「多剤併用療法」においては、使用する薬物の種類が増えるほど薬物の投与スケジュールが複雑になるという問題点があります。
高齢者宅には年475億円分の残薬(飲み残し・飲み忘れの薬)がある!?|解決する4つの方法によれば、厚労省がまとめた75歳以上の患者の薬剤費から推計すると、残薬の年総額は475億円になるそうです。
また、薬の飲み忘れ問題を解決する前に根本的に解決しないといけない問題もあります。
それは、「高齢者の薬のもらい過ぎ問題」です。
なぜ高齢者の薬のもらい過ぎという問題が起きるのか?によれば、次のような理由で高齢者の薬のもらい過ぎという問題が起きています。
- 高齢者になると複数の病気にかかることが多い
- 複数の医療機関・複数の薬局にかかる
- 薬剤師は「お薬手帳」で患者がどんな薬を飲んでいるか把握するが、薬の重複がわかっても、薬の整理までは手が及ばない
- 医療機関に問い合わせてもすぐに返事がもらえず、患者を待たせないため、処方箋通りに薬を渡せばよいと考える薬剤師がまだ多い
- 薬の情報が、医師や薬剤師間で共有されていない
個人と服薬情報をかかりつけ医・かかりつけ薬剤師が見れるようにすることができれば、高齢者の薬のもらい過ぎ問題の解決につながり、服薬忘れの防止につながると考えられます。
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●認知症などの人が飲み忘れてしまう
認知機能が低下すると、たくさんの薬が出ると、飲まない、飲めないことが起こりますが、この点を自力で解決する手段がありません。
→ 認知症の人への薬の提供方法の問題について考える|認知機能が低下すると、たくさんの薬が出ると、飲まない、飲めないことが起こる について詳しくはこちら
●治療の継続ができない
脳梗塞患者向けの薬の飲み忘れを知らせる「IoTピルケース」と専用アプリの開発へ|大塚製薬・NECによれば、脳梗塞の患者の場合、薬をうっかり飲み忘れたり、自己判断で止めたりすると、服薬率が半年で約5割まで下がる――という研究結果があり、服薬の継続が課題になっているそうです。
糖尿病患者の治療継続は半数にとどまるによれば、糖尿病の合併症に不安を感じ、糖尿病の治療の重要性を認識していても、治療を継続できている人は半数なのだそうです。
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どんなに治療が大事だと認識していても、何らかの理由で治療が継続できないことがあることで、処方された薬を適切に服用できずに、その結果、症状が悪化して薬が増えてしまい、また、その薬を飲み残してしまい、症状が更に悪くなっていく悪循環に陥ってしまうこともあるようです。
■飲み忘れ問題を解決するアプローチ
●IoTを活用した飲み忘れ防止システム
その問題を解決する方法の一つとして注目されているのが、いま注目のIoT(モノのインターネット)を利用して、アプリや薬剤ケース・ボトルを連動させて薬を飲むタイミングを通知する飲み忘れ防止システムです。
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以前高齢者宅には年475億円分の残薬(飲み残し・飲み忘れの薬)がある!?|解決する4つの方法では、さらに発展させて、服薬を一定期間忘れると、薬を処方・提供した薬剤師(薬局・病院)から一度連絡をするようにすると良いのではないかと提案しましたが、脳梗塞患者向けの薬の飲み忘れを知らせる「IoTピルケース」と専用アプリの開発へ|大塚製薬・NECによれば、今回大塚製薬とNECが開発するIot錠剤入れと専用アプリには、薬剤師が残りの薬を管理したりできる機能が付くそうです。
ただ、飲み忘れ防止システムの問題は、認知機能が低下した患者さんの場合には、活用が難しい点です。
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●センサーで検知し、必要なタイミングで薬を投与するデバイス
肥満の人への減量指導効果は2年で失われる!?-筑波大(2014/12/9)によれば、肥満の人に半年間、専門家が集団での減量指導をした効果は2年で失われることがわかっています。
治療の継続についての問題を先程紹介しましたが、やはり治療を継続するのは負担がかかります。
治療を家族や医療スタッフがサポートする必要性もあるでしょうが、これから重要なのはもっと簡単に治療を継続するできる方法を考えることではないでしょうか。
生体工学で健康管理|緑内障を調べるスマ―ト・コンタクトレンズ(2014/4/23)で、このブログでは、定期的にインシュリンを注射しなければならない糖尿病患者の皮膚に超薄型で伸縮自在の電子装置を貼り付け、自動的に注射できるような仕組みというアイデアを考えてみました。
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チップを埋め込むというアイデアには抵抗がある人も多いかと思いますが、妊娠をコントロールする避妊チップの開発に成功ービル・ゲイツ財団出資の企業によれば、海外では腕の内側などにホルモン剤を含んだ細長いプラスチック製の容器を埋め込む「避妊インプラント」もすでにあるということで、あってもおかしくないアイデアだと思います。
糖尿病治療用「スマート・インスリンパッチ」が開発される(2015/6/24)によれば、米ノースカロライナ大学とノースカロライナ州立大学の研究チームは、血糖値の上昇を検知し、糖尿病患者に適量のインスリンを自動的に投与できるパッチ状の治療器具を開発したそうです。
糖尿病患者に朗報!?グラフェンを使った血糖値測定と薬の投与を行なう一体型アームバンドによれば、韓国の基礎科学研究院の研究者たちは、ユーザーの汗をモニターして、血糖値を測定し、血糖値が下がってきている場合には、極小の針で薬を注射するという血糖値の測定と薬の投与の一体型デバイスを糖尿病患者のためにデザインを行なったそうです。
今回の調査結果からも、現状の方法では治療を継続していくのは難しいということがわかっているのですから、継続しやすい新しい治療方法を考える必要があるのは間違いなく、すでに世界的にも自動で数値を検知して、適量の薬を投与するという方向に進んでおり、今後はこうした研究がどんどん出てくるのではないでしょうか。
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■まとめ
ゲルだけではなく、皮膚に貼付するパッチ材料の中に複数の高分子ミセルを固定化することによって、高齢者でも簡単に使える「投薬スケジュール通りに複数の薬が放出されるゲル状のシート」が実現する可能性があります。
「複数の薬を異なる速度で自在に放出できる」というアイデアが実現することになれば、「残薬(飲み残しの薬)が減ることによって医療費削減」「認知症などの人が飲み忘れることがなくなる」「治療継続の負担がなくなる」といったことが期待されます。
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