「糖化した体は元に戻るのでしょうか?」
糖化について調べていると、
糖化は血糖値を急激に上げないようにして、十分なタンパク質やビタミン、ミネラルをとれば240日くらいで半減し、5年ほどでほとんど解消される
という趣旨の投稿を目にしました。
もし本当なら、「糖化対策を始めて何年くらいで変わってくるの?」という疑問に対する、とてもわかりやすい目安になります。
そこで、糖化やAGEsについて研究した論文を調べてみました。
結論からいうと、血糖の状態と糖化には関係がありますが、「糖化が240日で半減する」「5年でほとんど解消する」という具体的な期間を裏付ける論文は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。
ただ、調べていくともっと大切なことが見えてきました。
それは、
「糖化は何日で消えるのか?」ではなく、「糖化が進みやすい生活を少しずつ変えていくこと」が大切
ということです。
■そもそも「糖化」とは?
私たちの体の中では、糖とタンパク質などが反応することで、さまざまな糖化産物ができます。
その反応がさらに進むことでできる、さまざまな物質の総称が、
AGEs(終末糖化産物:Advanced Glycation End-products)
です。
■AGEsは一つの物質ではない
「AGEs(終末糖化産物)」という言葉を聞くと、一つの物質の名前のように思えますが、実際にはそうではありません。
糖とタンパク質などの反応が進むことで、さまざまな種類のAGEsが作られます。
研究では、例えば次のような物質が調べられています。
●CML(カルボキシメチルリジン)
AGEの代表的なものの一つです。タンパク質を構成するアミノ酸の一種「リジン」が糖化や酸化などの影響を受けてできる物質で、体内のAGEsを研究するときによく調べられています。
●ペントシジン(Pentosidine)
糖化によってできるAGEの一種です。特徴的なのは、タンパク質同士をつなぐ「架橋」に関係することです。コラーゲンのような長く体内に存在するタンパク質では、こうしたAGEsの蓄積が研究されています。
●グルコースパン(Glucosepane)
人の組織に蓄積するAGEによる架橋の一種です。特に皮膚のコラーゲンなど、長期間体内に残るタンパク質の糖化を研究するときに重要な物質として調べられています。
大切なのは、
「糖化」という一つの物質が体にたまるわけではなく、糖とタンパク質などの反応によって、性質の異なるさまざまなAGEsができる
ということです。
だからこそ、「糖化は240日で半分になる」と一律に考えることも難しくなります。
どのAGEなのか、どのタンパク質にできたのか、そのタンパク質がどのくらいの速さで入れ替わるのかによって話が変わってくるからです。
ここが、糖化を考える上で大事なポイントです。
■「240日で半分」ではなく、体の場所によって入れ替わる時間が違う
では、体の中にできたAGEsはいつまでも残るのでしょうか?
この問題を考えるときに興味深い研究があります。
2000年に学術誌『Journal of Biological Chemistry』に発表された研究では、人の皮膚や関節軟骨のコラーゲンについて、タンパク質がどのくらいの期間残るのかとAGEsの蓄積との関係が調べられました。
研究では、皮膚コラーゲンの半減期は約15年と推定されています。
ただし、ここでいう「約15年」は皮膚コラーゲンの半減期についての推定であり、「皮膚にあるAGEsが15年で半分になる」という意味ではありません。
さらに関節軟骨のコラーゲンは、それ以上に長く体内にとどまると推定されました。
つまり、体の中にあるタンパク質は、すべて同じスピードで入れ替わっているわけではありません。
比較的早く入れ替わるものもあれば、皮膚のコラーゲンのように非常に長く残るものもあります。
そして研究では、タンパク質の入れ替わりが遅い組織ほどAGEsが蓄積しやすいことが示されています。
ここから考えると、
「糖化は○日で半分になる」
と体全体について一つの数字で表すのは難しそうです。
■それなら糖化対策をしても意味がないの?
ここで、
「皮膚コラーゲンがそんなに長く残るなら、今から生活習慣を変えても意味がないの?」
と思ってしまうかもしれません。
ところが、そういうことではありません。
それを考えるうえで興味深いのが、1型糖尿病患者を対象としたDCCT関連の研究です。
1999年に発表された研究では、5年間の強化血糖管理を受けたグループでは従来療法のグループと比べて、皮膚コラーゲンの糖化関連指標であるfurosineが30~32%、pentosidineが9%、CMLが9~13%低かったことが報告されています。
ここで注目したいのは、5年間しっかり血糖を管理すれば「糖化がほとんど解消した」という結果ではないことです。
また別のDCCT関連研究では、glucosepaneやfructose-lysineと過去の平均HbA1cとの関連も報告されています。
つまり、長期的な血糖状態と皮膚コラーゲンの糖化には関連がある一方で、「○年間で糖化がすべてなくなる」という単純な話ではないことがわかります。
なお、これらは1型糖尿病患者を対象とした研究であり、糖尿病ではない一般の人にも同じ数値がそのまま当てはまることを示したものではありません。
だからこそ重要なのは、
「今までにできたAGEsを短期間ですべて消そう」
と考えることではなく、
「これからAGEsが蓄積しやすい状態をなるべく作らないようにする」
という考え方ではないでしょうか。
■糖化すると肌がくすむというのは本当?
糖化というと、
「肌の黄色み・肌のくすみ」
との関係を聞いたことがある人も多いと思います。
これにも興味深い研究があります。
2024年に発表された研究では、人の皮膚から黄色を呈するAGEの一種「AGEY」が同定され、皮膚の黄色みとの関連が報告されました。
つまり、少なくともAGEsの一部については、皮膚の黄色みとの関連を示す研究があります。
ただし、「糖化対策をすると2年半で肌が抜けるように白くなる」というところまで証明されたわけではありません。
今回調べた範囲では、「2年半」という期間を裏付けるヒトでの臨床研究は確認できませんでした。
また、肌の色にはメラニンや紫外線など、さまざまな要因が関係しています。
そのため、
「糖化を改善すれば肌が白くなる」
と単純に考えるより、
AGEsの蓄積は、肌の黄色みなど皮膚の色調に関係する要因の一つと考えられています。
■タンパク質やビタミン、ミネラルをとれば糖化は早く治る?
これについても少し注意が必要です。
タンパク質やビタミン、ミネラルを適切に摂取することは、健康な体を維持するために大切です。
しかし、
「十分なタンパク質・ビタミン・ミネラルを摂れば、AGEsが240日で半分になる」
ということを示す研究は、今回確認できませんでした。
栄養バランスのよい食生活が大切であることと、「AGEsが何日で減るか」という話は分けて考えたほうがよいでしょう。
■「何日で糖化が消える?」より大切なこと
糖化について調べてみると、少し意外な結論になりました。
私たちはつい、
「これを食べれば糖化を防げる」
「○カ月続ければ糖化が消える」
「何年で元に戻る」
という答えを探したくなります。
しかし、人間の体はそこまで単純ではありません。
AGEsにはさまざまな種類があり、AGEsができるタンパク質もそれぞれ違います。
そして、タンパク質によって体内で入れ替わるスピードも違います。
だから、
「糖化は240日で半減する」
と一つの数字で考えるより、
「今日から糖化が進みにくい生活を続けていく」
と考えるほうが、現在の研究に合った考え方ではないでしょうか。
■糖化をきっかけに、毎日の健康習慣を見直してみる
ここまで見てきたように、今回確認した研究からは「○○をすればAGEsが○日でなくなる」という単純な答えは見つかりませんでした。
だからこそ、「糖化を一気にリセットする方法」を探すのではなく、まずは毎日の健康習慣を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
・長期的に良好な血糖状態を保つことを意識する
・栄養バランスのよい食事
・適度に体を動かす習慣
・禁煙
・十分な睡眠
糖化だけのために特別な生活をするというより、日々の基本的な健康習慣を長く続けていく。
「糖化を一気にリセットする方法」を探すより、
・朝食をどうするか。
・今日は少し歩けるか。
・ちゃんと眠れているか。
・食生活が大きく偏っていないか。
そんな小さな健康習慣を積み重ねる。
糖化について調べていくと、結局はそんなシンプルなところに戻ってくるのかもしれません。
■まとめ
「糖化は240日で半減し、5年ほどでほとんど解消する」という情報について論文を調べてみましたが、この具体的な期間を直接裏付ける研究は確認できませんでした。
一方で、研究からわかっていることもあります。
・血糖状態と糖化には関係がある
・AGEsにはさまざまな種類がある
・AGEが蓄積するタンパク質によって入れ替わる速度が違う
・皮膚コラーゲンには非常に長く体内に存在するものがある
・皮膚のAGEsと肌の黄色みとの関係を示す研究もある
では、「糖化した体は元に戻るのでしょうか?」
今回調べた研究からは、「糖化した体が○年でもとに戻る」と一律に答えることはできません。
AGEsにはさまざまな種類があり、それが存在するタンパク質によって入れ替わる速度も違います。皮膚コラーゲンのように非常に長く体内に残るものもあります。
一方、1型糖尿病患者を対象とした研究では、長期的な血糖管理の違いと皮膚コラーゲンの糖化関連指標の違いが報告されています。
だからこそ、「今まで糖化してしまったから、もう遅い」と考える必要もなければ、「○年続ければ糖化をリセットできる」と考える必要もありません。
何年で元に戻るかを数えるよりも、
今日から糖化が進みやすい状態を避けることを意識し、毎日の健康習慣を一日ずつ積み重ねる。
糖化について知ることは、特別な「抗糖化法」を探すことではなく、自分の毎日の健康習慣を見直すきっかけになるのではないでしょうか。
糖化とは|糖化の症状・原因・チェック・糖化を防ぐ方法 について詳しくはこちら
【参考文献】
- Verzijl N, DeGroot J, Thorpe SR, et al. Effect of collagen turnover on the accumulation of advanced glycation end products. Journal of Biological Chemistry. 2000;275(50):39027-39031. doi:10.1074/jbc.M006700200.
PubMedで論文情報を見る
※皮膚コラーゲンの半減期を約15年、関節軟骨コラーゲンを約117年と推定し、タンパク質のターンオーバーがAGEs蓄積の重要な決定要因になることを示した研究です。 - Monnier VM, Bautista O, Kenny D, et al. Skin collagen glycation, glycoxidation, and crosslinking are lower in subjects with long-term intensive versus conventional therapy of type 1 diabetes: relevance of glycated collagen products versus HbA1c as markers of diabetic complications. Diabetes. 1999;48(4):870-880. doi:10.2337/diabetes.48.4.870.
PubMedで論文情報を見る
※DCCT参加者216人を調べ、5年間の強化療法群では従来療法群に比べ、furosine、pentosidine、CMLなどの皮膚コラーゲン糖化関連指標が低かったことを報告しています。 - Monnier VM, Sell DR, Strauch C, et al. The association between skin collagen glucosepane and past progression of microvascular and neuropathic complications in type 1 diabetes. Journal of Diabetes and its Complications. 2013;27(2):141-149. doi:10.1016/j.jdiacomp.2012.10.004.
PubMed Centralで全文を見る
※皮膚コラーゲン中のglucosepaneなどを測定し、glucosepaneとfructose-lysineが過去の平均A1cと関連していたことなどを報告した研究です。 - Genuth S, Sun W, Cleary P, et al. Glycation and carboxymethyllysine levels in skin collagen predict the risk of future 10-year progression of diabetic retinopathy and nephropathy in the Diabetes Control and Complications Trial and Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications participants with type 1 diabetes. Diabetes. 2005;54(11):3103-3111. doi:10.2337/diabetes.54.11.3103.
PubMedで論文情報を見る
※DCCT参加者211人の皮膚コラーゲンに含まれる糖化産物を調べ、その後の網膜症・腎症の進行との関連を検討した研究です。 - Fang B, Li L, Winget J, Laughlin T, Hakozaki T. Identification of Yellow Advanced Glycation End Products in Human Skin. International Journal of Molecular Sciences. 2024;25(11):5596. doi:10.3390/ijms25115596.
論文全文を見る
※人の皮膚試料から黄色を呈する糖化物質AGEYを同定し、AGEY量と皮膚の黄色みとの強い相関を報告した研究です。なお、ヒトに抗糖化介入をして肌色の変化を追跡した臨床試験ではありません。 - Monnier VM, Genuth S, Sell DR. The Pecking Order of Skin Advanced Glycation Endproducts (AGEs) as Long-term Markers of Glycemic Damage and Risk Factors for Micro- and Subclinical Macrovascular Disease Progression in Type 1 Diabetes. Glycoconjugate Journal. 2016;33(4):569-579. doi:10.1007/s10719-016-9702-2.
PubMed Centralで全文を見る
※皮膚AGEsに関する約30年間の研究を整理した総説で、人の不溶性皮膚コラーゲンから多数の糖化産物が同定されていることや、furosine/fructose-lysine、glucosepane、MG-H1などについてまとめています。
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