乳がんのリスクについて調べていると、「初潮が早い女性」「閉経が遅い女性」は乳がんリスクが高くなるという話を目にすることがあります。
初潮や閉経の時期は自分でコントロールできるものではありません。
では、なぜ初潮と閉経の時期が乳がんと関係するのでしょうか?
その背景を考えるうえで重要なのが、卵巣の働きと女性ホルモンです。
■初潮が早いほど、閉経が遅いほど乳がんリスクが高い
国立がん研究センターの「多目的コホート研究(JPHC Study)」では、40~69歳の女性55,537人を対象に、生理・生殖にかかわる要因と乳がんとの関係が調べられました。
その結果、閉経前の女性では、初潮年齢が遅くなるほど乳がんリスクが低くなる傾向がみられました。
初潮が14歳未満だったグループと比較すると、16歳以上だったグループの乳がんリスクは約4分の1でした。
一方、自然閉経の年齢については、48歳未満で閉経したグループと比較して、54歳以上で閉経したグループでは、乳がんリスクが2.0倍高くなっていました。
つまり、
初潮が早い
+
閉経が遅い
↓
乳がんリスクが高くなる
という関係がみられたのです。
ただし、この数字を「16歳まで初潮が来なければ乳がんリスクが4分の1になる」「54歳を過ぎると2倍になる」という個人の予測として読むことはできません。あくまで研究対象となった集団を比較した結果です。
■海外の大規模研究でも同じ傾向
この関係は日本人だけにみられるものではありません。
世界117件の疫学研究から、浸潤性乳がんの女性118,964人と乳がんではない女性306,091人を解析した大規模研究では、
初潮が1年早いごとに乳がんリスクが約5%上昇
閉経が1年遅いごとに乳がんリスクが約2.9%上昇
という関連が示されました。
比較的最近の2026年のシステマティックレビュー・メタ解析でも、13歳未満では乳がんとの関連がみられ、特に12歳未満では、12歳以上と比べて乳がんのオッズが1.27倍でした。
そのため、「初潮が早い」「閉経が遅い」という生殖に関係する要因と乳がんリスクとの関連は、さまざまな研究で確認されています。
ただし、日本人女性だけに絞ると、結果は少し複雑です。
2021年に発表された日本の9つのコホート研究、計187,999人を統合した解析では、初潮年齢(初経年齢)ついては閉経前・閉経後とも乳がん罹患との有意な関連が認められませんでした。一方、閉経年齢については50歳以上の女性では44歳以下の女性と比較して乳がんリスクが有意に高くなっていました。
日本乳癌学会は、日本人の研究にはまだ限界があるものの、国際的な大規模研究のエビデンスまで踏まえると、初経年齢や閉経年齢は乳がん発症リスクに関連する因子として確立したものとしています。
つまり、「初経が早いほど必ず乳がんリスクが高くなる」と個人レベルで単純に考えるのではなく、複数の研究を合わせてリスク因子の一つとして捉える必要があります。
■なぜ初潮と閉経が乳がんと関係するの?
初潮と閉経は、卵巣の生殖に関係する活動の開始と終了にあたります。
ここで重要になるのが女性ホルモンの影響です。
乳がんには女性ホルモンが深く関係するタイプがあります。
そのため、
初潮が早い
→ 卵巣の活動が早く始まる
閉経が遅い
→ 卵巣の活動が長く続く
という違いが、乳がんリスクに関係していると考えられます。
ただし、ホルモン受容体別の結果については研究によって違いがあります。
日本人女性を対象としたJPHC研究では、初潮・閉経年齢と乳がんリスクとの関連について、エストロゲン受容体(ER)による違いはみられませんでした。一方、世界117件の疫学研究を統合した大規模解析では、閉経年齢と乳がんリスクとの関連はER陰性乳がんよりER陽性乳がんで強くみられました。
こうした研究結果からも、初潮や閉経と乳がんとの関係を、単純に一つのホルモン受容体だけで説明することは難しいと考えられます。
■「女性ホルモンにさらされた年数が長いから」だけではない?
日本乳癌学会は、乳がんの発生・増殖にはエストロゲンへの曝露が深く関係しており、初経が早い、あるいは閉経が遅い女性では、月経周期に伴うエストロゲンへの曝露期間が長くなることがリスク増加の一つの理由と考えられると説明しています。
ただし、これだけですべてを説明できるわけではありません。
世界117件の疫学研究を統合した大規模解析では、初経・閉経の影響について、「生殖可能な年数が延びることだけでは説明できない可能性」が指摘されています。
つまり、
「初経が早い・閉経が遅い」
→ エストロゲンなど内因性ホルモンの影響を受ける期間が長くなる
→ 乳がんリスクに関係する
というのが基本的な考え方ですが、それだけでは説明できない別の生物学的要因も関係している可能性があります。
■出産回数と乳がんの関係ともつながっている
ここで興味深いのが、以前紹介した「出産」と乳がんとの関係です。
同じ日本人女性を対象にしたJPHC研究では、
出産経験がない女性は、出産経験がある女性より乳がんリスクが高い
出産回数が多いほどリスクが低い
閉経後では初産年齢が高いほど乳がんリスクが高い
という結果も報告されています。
つまり、
初潮
閉経
出産経験
出産回数
初産年齢
といった一見別々に見える要因が、いずれも女性の生殖・ホルモン環境と乳がんとの関係を考える手がかりになっています。
関連記事:
出産したことがない女性は乳がんリスクが高くなる!出産回数が多くなるほど乳がんリスクが低く抑えられる!
■初潮や閉経の時期は自分では変えられない
大切なのは、
「初潮が早かったから乳がんになる」
「閉経が遅かったから乳がんになる」
という話ではないことです。
今回紹介したのは、集団を追跡して比較したときにみられたリスクとの関連です。
しかも初潮や自然閉経の時期は、飲酒や運動などとは違い、自分の意思で変えられるものではありません。
国立がん研究センターも、こうした生理・生殖要因について「コントロールできるものではない」としたうえで、リスクが高いグループでは乳がん検診の定期的な受診を勧めています。
だからこそ、
「リスク要因を知ること」と「自分を責めること」はまったく別
と考えることが大切です。
■まとめ
初潮が早いことや自然閉経が遅いことは、乳がんリスクに関連する要因として多くの研究で報告されています。
ただし、日本人女性を対象とした研究では、初潮年齢との関連が明確に示されなかった解析もあります。
背景には卵巣の活動や女性ホルモンとの関係があると考えられていますが、単純に「女性ホルモンにさらされた年数」だけですべてを説明できるわけではありません。
そして乳がんリスクは初潮や閉経だけで決まるわけでもありません。
出産、体重、運動、飲酒などさまざまな要因と合わせて考えていく必要があります。
自分では変えられないリスク要因については必要以上に恐れるのではなく、「自分の体について知り、適切な検診につなげるための情報」として捉えるのがよいのではないでしょうか。
【参考文献・参考資料】
国立がん研究センター がん対策研究所「生理・生殖要因と乳がん罹患の関連について」:女性55,537人を対象としたJPHC研究。初潮年齢、閉経年齢、出産回数、初産年齢などと乳がん罹患との関連を報告。
Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer. Menarche, menopause, and breast cancer risk: individual participant meta-analysis, including 118,964 women with breast cancer from 117 epidemiological studies. Lancet Oncology. 2012;13:1141-1151.
Voon FL, Sim EUH. Early menarche and breast cancer risk: a systematic review and meta-analysis of 74 case-control studies. Cancer Causes & Control. 2026.
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