2026年に発表されたフロリダ大学などの研究で、関節サプリとして人気のグルコサミンが、アルツハイマー病など認知機能に問題を抱えている人の病状の進行と関連する可能性を示した研究がSNSで話題になっています。
■主な研究
1. マウス実験
アルツハイマー病様の症状を示すマウス(5xFAD)にグルコサミンを投与すると、「社会的記憶」(他の個体を認識・覚える能力)の障害が悪化しました。
タンパク質に糖が過剰に付くプロセス(N-グリコシル化/過剰な糖付加)が強まったためと考えられています。
この糖付加を抑えると、逆に記憶が改善しました。
健康なマウスでは、同じグルコサミン投与でも脳内の糖付加は増えず、記憶障害も起きませんでした。
→ 「すでに病気の脳では悪影響が出やすいが、健康な脳では問題になりにくい」可能性を示唆しています。
2. ヒトの脳組織
アルツハイマー病患者の脳標本では、正常な脳に比べてタンパク質への糖の付着が有意に増えていました。
この異常な「糖のタグ付け」が病気の進行に関与している可能性が指摘されています。
3. 診療記録の分析(約6.6万人規模)
フロリダ大学の医療システム(2012〜2024年)の電子健康記録を用いた後ろ向き解析も行われました。
・アルツハイマー病関連認知症(ADRD)患者:約2.4万人
・軽度認知障害(MCI)患者:約4.2万人
・両グループで約8%がグルコサミンを使用(ADRDで1,896人、MCIで2,750人)
●結果(年齢・性別・人口統計を調整後)
・MCIから認知症へ移行する割合が、グルコサミン使用者で約25%高かった
・すでに認知症と診断された人では、一定期間内の死亡リスクが約25%高かった
・MCIの人では死亡リスクの増加は見られなかった
重要な注意点として、これは関連であり、因果関係(グルコサミンが原因で進行した)は証明されていません。
サプリの使用量や期間の正確な把握が難しい、他の要因が影響している可能性など、限界があります。
著者らは「大規模な臨床試験が必要」と述べています。
■背景にあるメカニズムの仮説
グルコサミンは体内で「ヘキソサミン経路」に入り、タンパク質に糖を付ける材料になります。
アルツハイマー病の脳ではこの経路が過剰に働きやすく、グルコサミンがその燃料になって進行を加速させるのではないか、という考え方です。
健康な脳ではこの過剰な反応が起きにくいため、影響が出にくい可能性があります。
■過去の研究との比較(バランスを取るために)
以前の大規模な観察研究(主にUK Biobank)では、逆の結果や無関係という報告もあります。
2023年の BMC Medicine のUK Biobank研究では、研究開始時点で認知症のない人を対象としており、定期的なグルコサミン使用者では非使用者より、全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症の発症リスクが低いという関連が報告されました。
ところが別のUK Biobank研究では、グルコサミン使用と認知症発症には有意な関連が認められませんでした。完全調整モデルの認知症HRは1.06(95%CI 0.99–1.14)でした。
これらは主に「まだ認知症になっていない一般集団」を対象にしたもので、今回の研究のように「すでにMCIや認知症がある人」の進行を見たものではありません。
■まとめ
因果関係はわからないものの、MCIから認知症へ移行する割合が、グルコサミン使用者で約25%高かったという結果は心配になりますよね。
グルコサミンは、関節の健康を意識して長く利用している人もいるサプリメントです。
今回の研究は、「グルコサミンを飲めば認知症になる」と証明した研究ではありません。
一方で、アルツハイマー病モデルマウスではグルコサミン投与による認知機能への悪影響が示され、ヒトの電子健康記録の解析でも、すでにアルツハイマー病がある人について気になる関連が報告されました。
過去の一般集団を対象にした研究には、認知症発症リスクの低下との関連を報告したものもあれば、有意な関連を認めなかったものもあります。
つまり現時点では、「グルコサミンは認知症によい」「グルコサミンは認知症に悪い」と単純に決める段階ではなさそうです。
ここから私たちが健康習慣として考えてみたいのは、よいと思って始めた健康習慣でも、新しい研究によって見方が変わることがあるということです。
「健康のために始めたから、ずっと同じように続ける」のではなく、
「今の自分にも、この健康習慣は合っているかな?」
と、ときどき見直してみる。
新しい研究が出たからといって、一つの研究だけを見て「危険」と決めつける必要はありません。
一方で、すでに軽度認知障害(MCI)や認知症と診断されている人がグルコサミンを利用している場合には、今回の研究をきっかけに、継続について医師や薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
健康状態が変わったとき、新しい研究が出てきたときには、
「今の自分にも、この健康習慣は合っているかな?」
と、ときどき見直してみる。
健康習慣をただ続けるだけではなく、新しい情報に合わせてアップデートしていくことも健康習慣の一つなのではないでしょうか。
【参考文献】
- Hawkinson TR, Liu Z, Ribas RA, Medina T, Nielsen RS, Clarke HA, Ma X, Mueller AC, Plasencia AF, Sheer AL, Simpson ST, Soto CM, Sudderth J, Cai F, Cantrell AR, Colpaert MG, Shedlock CJ, Wu L, Young LEA, Kooser DD, Chen L, Ryan AM, Quinones S, Son J, Azadi P, Deberardinis RJ, Prokop S, Allison D, Yang S, Chen H, Huang Y, He X, Alonge KM, Guo J, Guo Y, Bian J, Vander Kooi CW, Gentry MS, Sun RC. Hyperglycosylation is a metabolic driver of Alzheimer’s disease. Nat Metab. 2026 Jun;8(6):1410-1425. doi: 10.1038/s42255-026-01538-4. Epub 2026 Jun 9. PMID: 42265388; PMCID: PMC13303091.
- Zheng J, et al. Association of regular glucosamine use with incident dementia: evidence from a longitudinal cohort and Mendelian randomization study. BMC Medicine. 2023;21:114. 認知症のないUK Biobank参加者を対象とし、グルコサミン常用と認知症発症リスク低下との関連を報告しています。 PMC掲載論文
- Ai B, et al. No Associations Between Glucosamine Supplementation and Dementia or Parkinson’s Disease: Findings From a Large Prospective Cohort Study. The Journals of Gerontology: Series A. グルコサミン使用と認知症発症との有意な関連を認めなかった研究です。 Oxford Academic掲載論文
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