歯周病・口腔細菌と大腸がんに関連はある?過去の研究から2026年の最新研究までわかりやすく解説

「歯周病は口の中だけの病気」と思っていませんか?

近年、「口の中にいる細菌」と大腸がんとの関係が世界中で研究されています。

特に注目されているのが、歯周病とも関連する口腔細菌の一種「Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム、以下F. nucleatum)」です。

実はHAKURAIDOUでは以前から「口と腸のつながり」に注目し、2017年の口腔細菌と腸管免疫についての研究や、2018年に発表された口腔内のF. nucleatumと大腸がんについての研究を紹介してきました。

それから約8年。

研究はどこまで進んだのでしょうか?

結論を先に言うと、

歯周病や特定の口腔細菌と大腸がんとの「関連」を示す研究はかなり増えてきました。

特にF. nucleatumについては、単に大腸がん組織に存在するだけでなく、炎症や免疫反応、腫瘍微小環境などに影響し、大腸がんの進行に関与する可能性について研究が進んでいます。

ただし大切な注意点があります。

「歯周病になると大腸がんになる」ことや、「歯磨きやフロスをすれば大腸がんを予防できる」ことが証明されたわけではありません。

現在分かっていることを、過去の研究から順番に見てみましょう。

■2017年|「口の細菌が腸へ行く」ことに注目した研究

HAKURAIDOUでは以前、

歯磨きなどで口の中をきれいに保つことが腸の病気の予防につながる!?|腸管に定着すると免疫細胞の過剰な活性化を引き起こす口腔常在菌がいる|早稲田大・慶大

という記事を紹介しています。

この研究は、本田賢也さん、服部正平さんらの研究グループによるもので、2017年に『Science』に掲載されました。

研究グループが注目したのは、炎症性腸疾患などの患者では、本来は口の中に多く存在する細菌が腸内で多く検出されることでした。

マウスを使った実験では、口腔に存在するKlebsiella(クレブシエラ)菌が、腸内細菌叢のバランスが乱れた状態では腸に定着し、TH1細胞と呼ばれる免疫細胞を過剰に活性化させることが確認されました。腸炎を起こしやすいマウスでは、この定着によって炎症が悪化しました。

ここで重要なのは、

「口の細菌は口の中だけにいるわけではない」

ということです。

口腔と腸は完全に独立した世界ではなく、口腔細菌が腸へ到達し、条件によっては腸管免疫に影響する可能性が実験的に示されました。

ただし、この研究の中心は炎症性腸疾患とクレブシエラ菌です。

「クレブシエラ菌が大腸がんを起こす」と証明した研究ではないことには注意が必要です。

■2018年|大腸がん患者の「口」と「がん組織」から同じ菌

そしてもう一つ、HAKURAIDOUでは重要な研究を紹介しています。

口の中の歯周病菌(F. nucleatum)が大腸がんの発がんに関与|横浜市立大学先端医科学研究センター

2018年、横浜市立大学などの研究グループが、大腸がん患者14人の大腸がん組織と唾液を調べました。

その結果、14人のうち8人(57%)で、大腸がん組織と唾液の両方からF. nucleatumが検出されました。

さらに、この8人について菌株レベルで調べたところ、6人から同一菌株が検出されました。これは全被験者14人の43%、大腸がん組織からF. nucleatumが検出された8人の75%に当たります。

これは非常に興味深い発見でした。

なぜなら、

口のF. nucleatum
↓
何らかの経路で大腸へ移動
↓
大腸がん組織に存在

という可能性が出てきたからです。

研究者らも、大腸がん組織のF. nucleatumが口腔由来であることを強く示唆する結果だとしています。

ただし当時の研究では症例数が14人と少なく、口腔内の菌がどのような経路で大腸まで移行するのかも明らかになっていませんでした。研究グループ自身も、その点を今後の課題としていました。

■では、その後の研究はどうなった?

ここからが今回の記事の本題です。

その後、研究はさらに進みました。

2012年ごろから、大腸がん組織ではF. nucleatumが高率に検出されることが報告され、その後、動物実験などでも大腸がんとの関係が研究されてきました。

そして現在では、研究の焦点は単なる

「大腸がん組織からF. nucleatumが見つかった」

という段階から、

「口腔由来の細菌はどのように大腸へ到達するのか?」

「F. nucleatumは大腸がんの環境の中で何をしているのか?」

「単にがん組織にいるだけなのか、それともがんの進行に積極的に関わっているのか?」

という、より具体的なメカニズムを調べる段階へ進んできています。2026年のレビューでも、F. nucleatumが単なる「傍観者」ではなく、大腸がんの腫瘍微小環境に能動的に関与する可能性を支持する研究が整理されています。

■2025年|複数の研究をまとめても関連がみられた

2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、歯周病または口腔病原菌への曝露と大腸がん発症を扱った5つの観察研究を統合した結果、HR 1.70(95%信頼区間 1.33~2.19)という関連が報告されました。

簡単にいえば、歯周病や特定の口腔病原菌への曝露が確認されたグループで、大腸がんとの関連がみられたということです。

ただし、これは「歯周病の人は大腸がんになる確率が1.7倍」という意味ではありません。

研究によって「歯周病」や「口腔病原菌への曝露」の評価方法が異なり、観察研究から直接的な因果関係を証明することもできないためです。

さらに、F. nucleatumの検出について解析すると、大腸がんとの関連はRR 3.20(95%信頼区間 1.76~5.82)でした。

ここだけを見ると、

「やっぱり歯周病になると大腸がんになるのか!」

と思ってしまいそうです。

しかし、それはまだ早いです。

このメタ解析に含まれた研究は観察研究であり、研究者らも対象研究が少ないことや、歯周病・細菌・大腸がんの評価方法が研究によって異なることを限界として挙げています。さらなる大規模な前向き研究などが必要だとしています。

つまり、

歯周病・口腔病原菌と大腸がんの間に関連は見えている。しかし「歯周病が原因で大腸がんになった」という因果関係とは別の話

なのです。

■2026年|F. nucleatumは大腸がんで何をしているのか?

2026年8月に公開されたレビューでは、さらに一歩進んで、F. nucleatumが大腸がんの「進行」にどのように関わる可能性があるのか、その生物学的な仕組みが整理されています。

現在研究されているのは、

慢性的な炎症
免疫反応への影響
遺伝子発現などの調節
がん細胞の性質の変化
腫瘍周辺の血管への影響
転移につながる変化
細胞死への抵抗

など、かなり広い範囲です。

つまりF. nucleatumは、

「大腸がんがあるから、たまたまそこにいる細菌なのか?」

それとも、

「大腸がんが成長しやすい環境を作る側にも回っているのか?」

という議論が続いてきました。

2026年のレビューは、これまでの実験的研究を統合すると、F. nucleatumが炎症、免疫調節、遺伝子発現、代謝、転移などを介して腫瘍微小環境に能動的に影響する可能性を支持する証拠が蓄積しているとまとめています。

■「F. nucleatumがいるか」だけでなく「どのタイプなのか」へ

最近の研究でさらに興味深いことも分かってきました。

F. nucleatumを単純にひとまとめにすることにも問題があります。

2024年に『Nature』に発表された研究では、F. nucleatum subsp. animalis(Fna)が「Fna C1」と「Fna C2」という2つの異なるグループに分かれ、大腸がん組織で特に多くみられたのはFna C2だったことが報告されました。

つまり、

「F. nucleatumがいるか・いないか」

だけではなく、

「どのタイプのF. nucleatumなのか?」

まで研究が進んできているわけです。

これは2018年にHAKURAIDOUで紹介した「口と大腸の菌を菌株レベルで比較した研究」から考えても、非常に興味深い進展ではないでしょうか。

■「口→腸→大腸がん」という一本道ではない

ここは今回の記事で最も大切にしたいところです。

話を単純化すると、

口腔環境の変化

↓

口腔細菌が消化管へ移動

↓

腸内細菌叢や腸管環境との相互作用

↓

炎症・免疫反応などへの影響

↓

大腸がんとの関連が研究されている

と説明したくなります。

しかし、現在の研究はそこまで単純ではありません。

2026年のレビューでは、口腔と腸の細菌叢は、細菌を飲み込むことによる継続的な移動などでつながっている一方、健康な腸内細菌叢は通常、口腔由来菌が持続的に定着することを抑えていると説明されています。腸内細菌叢や粘膜環境が乱れた場合には、口腔由来の細菌が定着しやすくなる可能性があります。

これは、HAKURAIDOUが2017年の研究を紹介した時点ですでに見えていた話でもあります。

つまり現在考えられているのは、

口腔細菌
↓
腸への移動
↓
腸内細菌叢との相互作用
↓
炎症・免疫反応
↓
腫瘍微小環境との相互作用

という、もっと複雑な関係なのです。

■では「歯周病を治せば大腸がんを予防できる」の?

ここは慎重に考える必要があります。

現時点で、

歯磨きやフロス、歯周病治療によって大腸がんの発症率が下がる

ことまで証明したわけではありません。

2025年のメタ解析でも、歯周病や特定の口腔病原菌と大腸がんとの関連が示されたのであって、口腔ケアによる大腸がん予防効果を実証したものではありません。

したがって、

「大腸がん予防のためにフロスをしましょう」

と直接つなげるのは、現在の科学的根拠を超えています。

一方で、今回見てきた研究から、

「口の健康は口だけの問題ではないかもしれない」

ということは、かなり興味深い研究テーマになっている、といえそうです。

■まとめ|約8年前に見えていた「口と腸のつながり」は、その後どうなった?

HAKURAIDOUでは2017~2018年の段階で、

口腔細菌が腸へ移動して免疫反応に影響する可能性

そして、

口腔と大腸がん組織から同じF. nucleatumが見つかった

という研究を紹介していました。

それから研究は進み、2025年には複数の観察研究をまとめたメタ解析でも、歯周病・口腔病原菌と大腸がんとの関連が報告されています。

2026年にはさらに、

F. nucleatumが炎症や免疫、腫瘍微小環境などにどのように作用するのか

というメカニズムの研究まで進んできました。

一方、

歯周病が大腸がんの原因である

歯磨き・フロスをすれば大腸がんを予防できる

というところまでは証明されていません。

今回の研究の流れから私たちがまず理解しておきたいのは、

「口」と「腸」をまったく別のものとして考える時代ではなくなってきた

ということなのかもしれません。

毎日の口腔ケアには、虫歯や歯周病を防ぎ、口腔の健康を守るという本来の大切な意味があります。

その先にどのような全身への影響があるのか。

「口腔-腸管軸(oral–gut axis)」の研究は、これからも追っていきたいテーマです。

■この記事のポイント

2017年、口腔細菌が条件によって腸に定着し、腸管免疫に影響することがマウスで示された。
2018年、大腸がん患者14人中6人で、大腸がん組織と唾液から同じ菌株のF. nucleatumが検出された。
2024年、F. nucleatumの中でもFna C2と呼ばれる特定のタイプが、大腸がん組織で特に多くみられることが報告された。
2025年のメタ解析では、歯周病・口腔病原菌への曝露と大腸がん発症にHR 1.70という関連が報告されたが、研究数などの限界がある。
2026年には、F. nucleatumが炎症、免疫、腫瘍微小環境、転移などに関与する仕組みについて研究が進んでいる。
ただし、歯周病が大腸がんを直接引き起こすことや、歯磨き・フロスで大腸がんを予防できることが証明されたわけではない。

【参考文献】

Atarashi K, et al. Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation. Science. 2017;358(6361):359-365. DOI: 10.1126/science.aan4526.

Komiya Y, et al. Patients with colorectal cancer have identical strains of Fusobacterium nucleatum in their colorectal cancer and oral cavity. Gut. 2019;68(7):1335-1337. Epub 2018 Jun 22. DOI: 10.1136/gutjnl-2018-316661.

高橋直紀、多部田康一. 「歯周病原細菌による消化器がん発症・進行メカニズム」日本歯周病学会会誌. 2021;63(3):151-157. DOI: 10.2329/perio.63.151.

Zepeda-Rivera M, et al. A distinct Fusobacterium nucleatum clade dominates the colorectal cancer niche. Nature. 2024;628(8007):424-432. DOI: 10.1038/s41586-024-07182-w.

Chauca-Bajaña L, et al. Periodontitis and Oral Pathogens in Colorectal Cancer: A Systematic Review, Meta-Analysis, and Trial Sequential Analysis. Dentistry Journal. 2025;13(12):595. DOI: 10.3390/dj13120595.

Leite HLA, Lopes FF. Host-Microbe Mechanisms of Fusobacterium nucleatum in Colorectal Cancer. Molecular Oral Microbiology. 2026;41(5):258-265. DOI: 10.1111/omi.70038.

【HAKURAIDOU関連記事】

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