■世界初のデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite®)」 米国FDA承認|大塚製薬・プロテウス
by tr0tt3r(画像:Creative Commons)
世界初のデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite®)」 米国承認
(2017/11/14、大塚製薬プレスリリース)
「エビリファイ マイサイト」は、エビリファイの錠剤に摂取可能な極小センサーを組み込んだもので、同剤の適応である成人の統合失調症、双極性Ⅰ型障害の躁病および混合型症状の急性期、大うつ病性障害の補助療法において使用されます。この錠剤を服用するとセンサーが胃内でシグナルを発し、患者さんの身体に貼り付けたシグナル検出器「マイサイト パッチ」がそれを検出します。この検出器は、患者さんの服薬データだけでなく、活動状況などのデータを記録し専用の「マイサイト アプリ」に送信します。アプリには、睡眠や気分などを患者さんが入力することもできます。これらのデータはスマートフォンなどのモバイル端末に転送され、患者さんの同意があれば医療従事者や介護者との情報共有も可能になります。
大塚製薬とプロテウス・デジタル・ヘルスは、世界初のデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite® )」の承認を米国FDAから取得したそうです。
■背景
大塚製薬とプロテウス社が開発したデジタルメディスン(服薬測定ツール)の新薬承認申請を米国FDAが受理
(2015/9/11、大塚製薬プレスリリース)
慢性疾患を患った患者さんのうち、およそ50%が処方通りに服用していないと言われており、そのため処方された薬の効果が十分得られていないと考えられます。米国においては、服薬不良による影響によって直接的、間接的なコストが1,000億ドルから3,000億ドルも余計にかかっていると推定されています*1,*2。例えば、統合失調症など精神疾患の患者さんは、慢性的な疾患のため長期間の服薬が必要となりますが、実際には薬剤を飲まなくなる、あるいは飲み忘れるなど、服薬が規則正しくできない状態になりがちです。薬を定期的に飲まなくなると再発するリスクが増大します*3,*4。
薬の飲み忘れや処方された薬の効果が得られないといった問題について以前も取り上げています。
例えば、緑内障 患者判断で治療中断18.7%によれば、「大した症状がない」、「継続受診が面倒」、「治療効果が実感できない」など病気自体への理解度が低いことや治療効果についての理解が低いという理由で、患者判断で緑内障の点眼治療を中断してしまっているそうです。
糖尿病患者の治療継続は半数にとどまるによれば、糖尿病の合併症に不安を感じ、糖尿病の治療の重要性を認識していても、治療を継続できている人は半数なのだそうです。
高齢者宅には年475億円分の残薬(飲み残し・飲み忘れの薬)がある!?|解決する4つの方法で紹介した日本薬剤師会が2007年に薬剤師がケアを続ける在宅患者812人の残薬を調査したところ、患者の4割超に「飲み残し」「飲み忘れ」があり、金額ベースでは処方された薬全体の24%にあたり、厚労省がまとめた75歳以上の患者の薬剤費から推計すると、残薬の年総額は475億円になったそうです。
なぜ高齢者の薬のもらい過ぎという問題が起きるのか?によれば、次のような理由で高齢者の薬のもらい過ぎという問題が起きています。
- 高齢者になると複数の病気にかかることが多い
- 複数の医療機関・複数の薬局にかかる
- 薬剤師は「お薬手帳」で患者がどんな薬を飲んでいるか把握するが、薬の重複がわかっても、薬の整理までは手が及ばない
- 医療機関に問い合わせてもすぐに返事がもらえず、患者を待たせないため、処方箋通りに薬を渡せばよいと考える薬剤師がまだ多い
- 薬の情報が、医師や薬剤師間で共有されていない
処方された薬を適切に服用できずに、その結果、症状が悪化して薬が増えてしまい、また、その薬を飲み残してしまい、症状が更に悪くなっていく悪循環に陥ってしまうこともあるようです。
大塚製薬とプロテウス社が開発したデジタルメディスン(服薬測定ツール)の新薬承認申請を米国FDAが受理
(2015/9/11、大塚製薬プレスリリース)
デジタルメディスンは、エビリファイの錠剤に小型のシリコンチップ製の極小センサーが入ったもので、この錠剤を服用するとセンサーがシグナルを発し、患者さんの体表面に貼り付けたパッチ型の小型検出器でシグナルを検出します。 体に貼付するパッチ型の検出器は、患者さんが何時に薬を飲んだかなどの服薬データだけでなく、活動量(歩数)など様々なデータを検出することが可能です。集めたデータはスマートフォンやタブレット端末などに転送され、患者さんの同意のもと医師や看護師などの医療従事者に情報提供が可能です。この情報を元に、医療従事者や介護者が患者さんにより適した治療法を選定し、その結果として患者さんの服薬アドヒアランスを向上させることが期待できます。
今回紹介した「デジタルメディスン」は錠剤に胃液に接するとシグナルを発すセンサーを組み込み、患者さんの体に張り付けたシグナル検出器で服薬の日時や活動量などのデータを記録します。
そのデータをもとに、患者さん自身がアプリで服薬状況や活動量を確認したり、医師や看護師などの医療従事者と情報共有することにより、アドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)を向上し、治療効果を高めることが期待されます。
【参考リンク】
■まとめ
今回取り上げた「デジタルメディスン」のポイントは薬の飲み忘れによって生じる治療効果が下がってしまうという問題をテクノロジー(今回の場合はセンサー)で解決しようというものです。
ほかにも様々なアプローチがとられています。
●IoTを活用した服薬忘れ防止システム
その問題を解決する方法の一つとして注目されているのが、いま注目のIoT(モノのインターネット)を利用して、アプリや薬剤ケース・ボトルを連動させて薬を飲むタイミングを通知する飲み忘れ防止システムです。
【関連記事】
●PillPackのアイデア
PillPackは人の習慣を活用して薬の飲み忘れを防ぐリマインダーアプリを開発中によれば、患者の中には、積極的に治療方針の決定に参加し、治療を受ける人がいる一方で、そうではない人がいて、薬にお金を使いたくないという人や薬が効くと信じていないという人、また、物忘れではなくて習慣が影響している場合もあるそうです。
人の習慣を利用して「ちゃんと薬を飲む」ようにしてくれるアプリ
(2015/8/8、WIRED)
パーカーはもともとアドヒアランスをある程度理解していた。薬剤師である父親が、処方箋を患者にわたすのを少年時代に見ていたからである。薬を飲み忘れる理由は単なる物忘れだけでなく、習慣も関係する。
「薬を受け取る余裕がない、薬にお金を使いたくない、さらに、あるいは薬が効くと信じていないという人もいる」と、アーカンソー大学薬学部の准教授セス・ヘルデンブランドは言う。これは意図的な「ノンアドヒアランス(nonadherence、患者が治療に対して積極的でないこと)」と呼ばれる。
このアプリは、意図的でないノンアドヒアランスの人を対象に設計されている。「アプリを使うために多くの入力を患者に強いることで、アドヒアランスを更に高める必要はない」とヘルデンブランドは言う。
パーカーはコンテクスト・アウェアネスをアプリでより実現し、より直感的なものにしている。
Pillpackでは、薬局や保険給付のデータを集めて、誰にどのような処方箋が出ているかがわかる「データベース」をつくることで、基本情報を入力すれば、患者の処方箋を自動で設定できるようになっているそうです。
こうした仕組みをバックグラウンドで動かすことによって、アプリユーザーの入力の手間を省き、薬の飲み忘れを防ぐためのお知らせをするシンプルなシステムになっています。
また、コンピュータが状況や変化を認識!『コンテキスト・アウェア・コンピューティング』|コベルコシステムによれば、
今までのように、個人が必要な情報を検索したり、スケジュールを確認したりするのではなく、過去の行動履歴、現在の時刻・スケジュール・位置情報などに基づいて、次の行動に必要な情報がシステムの側から積極的に提供されます。
ということで、Pillpackでは、ユーザーの位置情報に基づいてアラートを設定できるそうです。
つまり、習慣の強力な力を活用して、薬の飲み忘れを防ごうというアイデアですね。
●自動的に薬を投与するインプラント
生体工学で健康管理|緑内障を調べるスマ―ト・コンタクトレンズという記事で、このブログでは、定期的にインシュリンを注射しなければならない糖尿病患者の皮膚に超薄型で伸縮自在の電子装置を貼り付け、自動的に注射できるような仕組みというアイデアを考えてみました。
妊娠をコントロールする避妊チップの開発に成功ービル・ゲイツ財団出資の企業によれば、海外では腕の内側などにホルモン剤を含んだ細長いプラスチック製の容器を埋め込む「避妊インプラント」が広く普及しているそうで、将来的には、糖尿病治療も同様の方法をとっていくことが予想されます。
糖尿病治療用「スマート・インスリンパッチ」が開発される(2015/6/24)によれば、米ノースカロライナ大学とノースカロライナ州立大学の研究チームは、血糖値の上昇を検知し、糖尿病患者に適量のインスリンを自動的に投与できるパッチ状の治療器具を開発したそうです。
糖尿病患者に朗報!?グラフェンを使った血糖値測定と薬の投与を行なう一体型アームバンドによれば、韓国の基礎科学研究院の研究者たちは、ユーザーの汗をモニターして、血糖値を測定し、血糖値が下がってきている場合には、極小の針で薬を注射するという血糖値の測定と薬の投与の一体型デバイスを糖尿病患者のためにデザインを行なったそうです。
「薬の飲み忘れ」を根本から解決!複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲルの開発に成功|東京農工大学によれば、東京農工大学大学院の村上義彦准教授の研究グループは、体内に薬を運ぶための入れ物である「薬物キャリア」として利用されている構造体(ミセル)に着目し、「物質の放出を制御できる機能」をゲルの内部に固定化するという新しい材料設計アプローチによって、「複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲル」の開発に成功しました。
「複数の薬を異なる速度で自在に放出できる」というアイデアが実現することになれば、「残薬(飲み残しの薬)が減ることによって医療費削減」「認知症などの人が飲み忘れることがなくなる」「治療継続の負担がなくなる」といったことが期待されます。
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今回取り上げたように、現状の方法では治療を継続していくのは難しいということがわかっているのですから、継続しやすい新しい治療方法を考える必要があるのは間違いなく、すでに世界的にも自動で数値を検知して、適量の薬を投与するという方向に進んでおり、今後はこうした研究がどんどん出てくるのではないでしょうか。
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もう一つ気になる点があります。
それは、本当にその薬に効果があるかという問題です。
ゲノム解析が一般的なものになった時、AIが過去の文献や医学論文、データベースを探索するようになる!?では、抗がん剤は高価で、かつ副作用の生じることから、薬が効かない患者に副作用のリスクを負わせ、高額な医療を施す必要があるのかという問題があり、ゲノム情報を活用して、どの薬が効果を発揮できるのか、ということを事前に調べて投与する「プレシジョン・メディシン(Precision Medicine)」に注目が集まっているという話題を取り上げました。
薬の飲み忘れ問題も大事ですが、そもそもその薬の効果があるかどうかがわからない場合もあり、今後は、遺伝子を調べて、その薬で対応できるのかを判断してから投与するということが常識となっていくのではないでしょうか?
【参考リンク】
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