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病院のネットワークシステムを改善することによる医療者と患者のメリットとは?|群馬大病院とNECネッツエスアイのケース




【目次】

■病院のネットワークシステムを改善することによる医療者と患者のメリットとは?|群馬大病院とNECネッツエスアイのケース

NEC-Monitor-292

by NEC Corporation of America(画像:Creative Commons)

<医療>高速ネットで瞬時にカルテ 患者対応充実

(2017/2/26、毎日新聞)

医療の高度化によって患者ごとの診療や検査のデータが増え、診察の際にデータを入力したり参照したりする時間が延びている。その時間を短縮し、医療者がタイミングよく、必要な情報を得られるネットワークを、群馬大病院(前橋市)とNECネッツエスアイ(東京都)が共同で構築した。

群馬大病院とNECネッツエスアイが共同でネットワークを構築しましたが、どのような問題点を抱えていて、どのような改善を行なったのでしょうか?

■病院が抱えていた問題点

<医療>高速ネットで瞬時にカルテ 患者対応充実

(2017/2/26、毎日新聞)

「これまで電子カルテや検査画像を見るにはダウンロードに時間がかかり、医療者のストレスになっていた」と鳥飼准教授。

病院内の通信が遅いことにより、電子カルテや検査画像をすぐに見ることができずに、それが医療者のストレスになっていたそうです。

なぜ病院内の通信は遅かったのでしょうか?

従来の病院内のネットワークは、元のサーバーから何度も分岐を経て、銅線のLANケーブルで端末につないでいた。通信速度は分岐のたびに遅くなり、外来や診療が立て込む時間帯は利用が集中して、さらに遅くなった。

病院内のネットワークが古いものであり、利用が集中するときにはさらに遅くなるという問題を抱えていたようです。

病院情報管理システム 導入事例 国立大学法人 群馬大学医学部附属病院 様|NEC

同院では医師・看護師・事務員などの職員間連絡にPHSを活用していました。1対1の音声によるコミュニケーションは可能でしたが、正確な情報伝達には文字メディアが不可欠でありながら職員全員に対するシステムとしての連絡能力が不足していました。また、電子カルテシステムの中にしかない緊急性の高い診療データは、これまで電子カルテシステムを閲覧できる端末でしか情報を参照することができませんでした。

PHSでは音声による伝達はできても、正確な情報伝達には文字のほうが良い場面でも音声で伝える必要がありました。

また、電子カルテを見るための専用端末でしか情報を見ることができなかったそうです。




■どのように改善を行なったのか?

●光ファイバーケーブル

<医療>高速ネットで瞬時にカルテ 患者対応充実

(2017/2/26、毎日新聞)

そこで、群馬大は病院がある地区のネットワーク全体を見直し、サーバーと病院、同じ敷地内の大学医学部のほぼ全部屋を、銅線より高速な光ファイバーケーブルで直接結んだ。

病院情報管理システム 導入事例 国立大学法人 群馬大学医学部附属病院 様|NEC

特に高速な処理が求められ、かつ特定の時間に処理が集中する外来などの端末は、サーバと端末を10Gbpsの光ファイバーで直接つなぐFTTDを採用しました

●アクセスポイントの設置

<医療>高速ネットで瞬時にカルテ 患者対応充実

(2017/2/26、毎日新聞)

光ファイバーケーブルとつなげた無線用のアクセスポイント(AP)も計約1800カ所に設置した。

●PHSからスマホ

<医療>高速ネットで瞬時にカルテ 患者対応充実

(2017/2/26、毎日新聞)

患者が鳴らすナースコールも、担当看護師のスマホへ「緊急」「トイレ介助」「点滴終了」などと具体的に伝えられ、多くの患者を抱える看護師が優先順位を付けて対応できるようになった。

PHSよりも安い価格でのスマホの導入ができるようになり、全職員への配布を行なったことで、看護師に具体的に連絡ができるようになり、また、電子カルテシステムとの連携ができることで、情報共有が可能になったそうです。

■改善の結果どうなったのか?

病院情報管理システム 導入事例 国立大学法人 群馬大学医学部附属病院 様|NEC

オールフラッシュ(SSD)化、RAID10、10Gbpsネットワークなど、現時点で最高レベルのレスポンスを発揮できる環境を整えた新システム。

その効果を電子カルテシステムの機能ごとに計測した結果、一覧表示部分では従来システムと比べて5-12倍、診療のレスポンスで高速化しているとの結果が出ました。

<医療>高速ネットで瞬時にカルテ 患者対応充実

(2017/2/26、毎日新聞)

国内の医療機関で初めて導入した新ネットワークは、患者のメリットも大きい。例えば、患者1人の看護日誌を作成するのに以前は約40分かかっていたが、今は約40秒に短縮。

従来とのシステムと比べて高速化したことにより、患者・医療者にとっての負担軽減につながり、また、データの確認がすぐにできることにより安全性もアップすることが期待されます。

また、患者と医療者がコミュニケーションをとる時間も多く取れるようになります。

女性医師の治療を受けた患者は生存率が高い!?|医師の患者に対する共感・コミュニケーションが重要な役割を果たしている?によれば、医療における医師と患者のコミュニケーションの重要性は高まっています。

コミュニケーションの重要性が高まっているのには以下のような理由があります。

  • 主たる病気が生活習慣病へ移行したことで、ケア(care)やマネジメント(management)が大きな位置を占めるようになった
  • 患者が医療情報に触れる機会が増えたが、その情報に混乱している患者も増加
  • 医学の進歩により市民の一部は医学を万能と考えるようになり、医療への過度の期待を生んでいる

患者に対して適切な医療を行うためには、医師が患者の言葉に耳を傾け(傾聴)、気持ちを受け入れ(受容)、そのうえで医師として適切な情報を患者にわかりやすい言葉で伝えることが重要になります。

また、患者が持っている間違った医学的知識を訂正することは重要ですが、そのやり方が重要だということですよね。

まずは、患者がどのような悩み・苦労を抱えているのか、患者の声に耳を傾け、それを受け入れることによって、医師と患者間での信頼関係が生まれ、その後のケアやマネジメントが良好になると考えられます。

しかし、従来のシステムではそうした患者とのコミュニケーションにかけられる時間が少なくなってしまったり、コミュニケーションにかける時間を増やそうとすると、労働時間が増えることにより、医療者の心身の負担が増加してしまっていたのではないでしょうか。







【関連記事】
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エストニア、医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用すべく試験運用中|日本で導入するにはどのようなことが必要か?




■エストニアでは医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用すべく試験運用が行なわれている

The promise of blockchain

by Sebastiaan ter Burg(画像:Creative Commons)

エストニアでは、医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用すべく試験運用が行なわれているそうです。

【参考リンク】

その前に、ブロックチェーン技術について簡単な説明を行ない、なぜ医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用するのか?について紹介したいと思います。

ブロックチェーンについては「ブロックチェーン・レボリューション」(著:ドン・タプスコット/アレックス・タプスコット)の著者であるドン・タプスコットさんのTEDでのスピーチが一番印象に残ると思い紹介します。

Don Tapscott(ドン・タプスコット):ブロックチェーンはいかにお金と経済を変えるか|TED

ブロックチェーン・レボリューション ――ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか

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簡単に言うと、ブロックチェーンとは、中央管理者を必要とせず、全ての取引履歴をみんなで共有して、信頼性を担保するシステムといえばよいでしょうか。

ブロックチェーンとは
ブロックチェーンとは

参考画像:平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料(2016/4/28、経済産業省)|スクリーンショット

ブロックチェーン技術とは
ブロックチェーン技術とは

参考画像:平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料(2016/4/28、経済産業省)|スクリーンショット

【参考リンク】

私たちが今利用しているウェブを「情報のインターネット」だとすれば、ブロックチェーンが実現するものは「価値のインターネット」とも表現されたりもしています。

【関連記事】

このブロックチェーン技術に個人や企業・政府による関心が集まっており、エストニアでは医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用しようと試験運用が始まっているのです。

医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用するとどう変わるのでしょうか?

Estonia prescribes blockchain for healthcare data security|Health Matters(2017/3/16、pwc)を参考にまとめてみます。

●個人の医療情報・健康記録を安全に保管することができる

First, health records can be stored securely in a ledger on which all participants (health professionals, patients, insurers) can rely.Doctors, surgeons, pharmacists and other medical professionals all have instant access to an agreed set of data about a patient.

ブロックチェーン技術を活用することで医療情報の偽造・改ざんを防止すると同時に、暗号化技術によって非常に重要な情報である個人の医療情報・健康記録を安全に保管することができます。

これまでは医療情報のような個人情報は巨大な仲介役が管理していましたが、ブロックチェーン技術を活用すれば、そのデータは自分が管理することができるようになります。

データを企業に受け渡すことでサービスを利用している現代ですが、ブロックチェーンが浸透すれば、自分の情報を自分でコントロールすることができるようになるのです。

「ブロックチェーン・レボリューション」(著:ドン・タプスコット/アレックス・タプスコット)では次のように表現されています。

ビッグデータの時代は終わり、プライベートな「リトルデータ」の時代がやってくるのだ。

●医療従事者が患者のデータに即座にアクセスできる

必要な情報だけを医療従事者が即座にアクセスすることができるようになります。

あまりなりたくはないものですが、病気や事故になったとしても、即座に医療従事者がそのデータにアクセスすることにより治療が受けられるようになるわけです。

Its Patient Portal gives citizens access to medical documents, referral responses, prescriptions, and insurance information.Individuals can also use the Portal to declare their intentions regarding blood transfusions and organ donation.

エストニアの患者ポータルでは、医療文書・処方箋・保険情報にアクセスができ、輸血や臓器提供に関する意向も宣言することができるそうです。

エストニアで行われているような動きは日本でも始まっており、福岡市では市民の医療データと東京海上日動火災保険のデータを連携させるための実証事業を開始しているそうです。

ブロックチェーン技術の活用領域拡大に向けた実証事業を開始

(2017/1/24、東京海上日動火災保険プレスリリース)

具体的には、FDCの協力を得て福岡市域の医療機関と連携し、傷害保険金請求書に記載の医療機関に対し、ブロックチェーンを通じて入通院期間などの医療情報の提供を要求し、データ連携基盤を通じて医療情報等のデータを受領することで、医療情報に対するセキュリティを確保しつつ、保険金支払業務の簡略化、迅速化が可能かを検証します。

保険業務で扱われる秘匿性の高いデータ(契約内容・医療情報)のやり取りに対して、ブロックチェーン技術を活用することによって、セキュリティを確保しながら、事務手続きを効率化・簡略化・迅速化していくことが可能か検証していくそうです。

【参考リンク】




■まとめ

医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用することにより、次のような変化が起こります。

  • 医療情報の偽造・改ざんを防ぐ
  • 個人の医療情報・健康記録を安全に保管
  • 医療情報などの個人情報が自分の手に戻ってくる
  • 患者や医療従事者が医療情報に即座にアクセスできる

また、ブロックチェーン技術を活用すると医療・ヘルスケア分野では次のような変化が起こると考えられます。

「ブロックチェーン・レボリューション」(著:ドン・タプスコット/アレックス・タプスコット)

医療情報管理や病院の運営にブロックチェーンが活用され、医療記録、設備管理、薬剤や器具の発注と支払いなどが全て自動化される。

ただ、気になるのは新しいテクノロジーに対する不安・セキュリティへの懸念によって普及が遅れてしまう可能性があることです。

モバイル決済の現状と課題(2017年6月、日本銀行)によれば、モバイル決済利用状況が日本🇯🇵、アメリカ🇺🇸、ドイツ🇩🇪が約5%である一方、中国🇨🇳98.3%、ケニア🇰🇪76.8%であるそうです。

その理由としては、新興国のほうがインフラが十分でないことや現金を持つことへのリスクがあることによって普及しているということと、先進国では既存の方法で満足していたり、セキュリティに対する懸念や新しいテクノロジーのメリットが感じられないなどが挙げられています。

しかし、もしかすると、新しいテクノロジーを受け入れるか受け入れないかの心理的背景には各国の平均年齢が関係しているかもしれません。

35歳以降に発明されたテクノロジーに対しては自然に反すると感じられるというダグラス・アダムスの法則によれば、日本の平均年齢は46歳であるため、新しいテクノロジーであるブロックチェーン技術に対して不安を感じる人も出てくるかもしれません。

国全体で医療データの記録・管理にブロックチェーン技術を活用していくためには、テクノロジーに対するセキュリティやプライバシーに対する信頼性を上げる、簡単に利用できるように設定を簡単にしたりする、新しいテクノロジーであるブロックチェーン技術を使った医療管理システムのほうが便利であるということを認識させることが重要になってくるでしょう。







【参考ツイート】
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目の病気への理解を深めるためにスマホやVRビューワーで疑似体験できるアプリ「ViaOpta Simulator」「ViaOpta EyeLife」

> 健康・美容チェック > 目の病気 > 目の病気への理解を深めるためにスマホやVRビューワーで疑似体験できるアプリ「ViaOpta Simulator」「ViaOpta EyeLife」




■目の病気への理解を深めるためにスマホやVRビューワーで疑似体験できるアプリ「ViaOpta Simulator」「ViaOpta EyeLife」

目の病気への理解を深めるためにスマホやVRビューワーで疑似体験できるアプリ「ViaOpta Simulator」「ViaOpta EyeLife」
目の病気への理解を深めるためにスマホやVRビューワーで疑似体験できるアプリ「ViaOpta Simulator」「ViaOpta EyeLife」

参考画像:ViaOpta Simulator|iPhone(itunes)|スクリーンショット

以前電気通信大学の「失禁研究会」が開発した失禁体験装置「ユリアラビリンス」とは?|教育や医療・介護の現場で役立つ可能性では失禁を疑似体験できる装置を紹介しましたが、スマホやVRビューワーで目の病気を疑似体験できるアプリが登場しています。

「ViaOpta Simulator」では、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、近視性脈絡膜新生血管、網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症、緑内障、白内障などの症状による視力低下を疑似体験することができるそうです。

ViaOpta Simulator|iPhone(itunes)

ViaOpta Simulator|Android(Google Play)

「ViaOpta EyeLife」は、VRビューワーを使い、糖尿病黄斑浮腫、近視性脈絡膜新生血管、網膜静脈閉塞症によってどのくらい見えにくい生活をしているのかを疑似体験することができるそうです。

ViaOpta EyeLife|iPhone(itunes)

ViaOpta EyeLife|Android(Google Play)

【参考リンク】

→ 目の病気・症状 一覧 について詳しくはこちら




■まとめ

病気の中には本人にとっては深刻なものでもうまくその症状を伝えられず、どれくらい深刻な症状なのか周りからするとよくわからないものもあります。

このようなスマホアプリやVRを活用して、自分では体験することができない病気やけがの症状を体験する機会が増えれば、病気に対する理解が深まり、もう少しやさしい目で世界を見ることができるようになるのではないでしょうか?







【関連記事】
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#ソニー と #オリンパス、4K・3Dビデオ技術を搭載した手術用顕微鏡システム「ORBEYE(オーブアイ)」開発




■ソニーとオリンパス、4K・3Dビデオ技術を搭載した手術用顕微鏡システム「ORBEYE(オーブアイ)」開発

参考画像:4K 3D ビデオ技術搭載の手術用顕微鏡システム ORBEYE を発売(2017/9/19、オリンパスニュースリリース)

高精細デジタル画像かつ立体的な視野で、緻密な手術をサポート 4K 3D ビデオ技術搭載の手術用顕微鏡システム ORBEYE を発売 ソニー・オリンパスメディカルソリューションズが技術開発を担当

(2017/9/19、オリンパスニュースリリース)

今回発売する ORBEYE は 4K 3D の高精細デジタル画像を実現したことで、組織や血管の微細な構造を高精細かつ立体的に観察でき、緻密な手術をサポートします。本機種では 55 型の大型モニターを見ながら手術が行えるため、接眼レンズを長時間覗く必要がなく、術者の疲労軽減に貢献することが期待できます。また、デジタル化により顕微鏡部が従来機種 ※2に比べ体積約 95%減 ※3を実現したことで、広い手術空間の確保やセットアップ時間の短縮をサポートします。さらに本体も従来機種 ※2に比べ重量約50%減 ※4の軽量化を図り、手術室間での移動の容易化に貢献できます。

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社とオリンパス株式会社の医療事業に関する合弁会社であるソニー・オリンパスメディカルソリューションズ株式会社は、4K 3Dビデオ技術を搭載し、高精細かつ立体的なデジタル画像で手術をサポートする手術用顕微鏡システムを開発し、オリンパス製の手術用顕微鏡「ORBEYE(オーブアイ)」として販売するそうです。

■背景

これまでの手術用顕微鏡は接眼レンズを長時間覗く必要があり、かつ時に術者に負担がかかることもあり、術者の負担軽減が長年の課題でした。また、術者が接眼レンズ内で観察する高精細な立体映像(3D)を、モニター上で共有することは困難な状況でした。

以前、HoloEyes VR|HoloLensをつけた医師がVRで患者の3Dモデルを見ながら手術方法を共有するでは、HoloLensをつけた医師がVRで患者の3Dモデルを見ながら、スタッフと議論し、手術方法を共有するというニュースをお伝えしました。

また、3Dプリンタで作った肝臓のモデルを使えば、手術のシミュレーション・トレーニングに役立つでは、神戸大学医学部附属病院で杉本真樹医師が3Dプリンタで作った生体モデルを使うことで、手術中に生体モデルと照らし合わせながらスタッフと議論し、最適な方法を選択するというニュースをお伝えしました。

ポイントは、細かい点でいえば、手術中と手術前との違いがありますが、大きな意味での共通点としては、術者とそのほかのチームとの情報共有の問題を解決しようという共通点があります。

レンズを長時間覗き込む必要がなく、楽な姿勢で手術を行うことが可能なため、術者の疲労軽減に寄与します。また、55 型の大型モニターを採用したことで、チーム全員で同じ映像を共有できるため、複数の術者により執刀する手術スタイルの実現や、他手術スタッフとの情報共有による手術の効率化をサポートできます。




■3つの特長

特長としては、3つ。

1..4K 3D の高精細デジタル画像により、緻密な手術をサポート(フルハイビジョンに比べて 4 倍の画素数を実現したことに加え、広色域に対応した画像処理回路を搭載し、高精細なデジタル画像による手術が可能)

2.モニターによる観察を採用したことにより、レンズを長時間覗き込む必要がなくなったため、術者の疲労軽減

3.デジタル化したことにより、顕微鏡部が従来機種に比べて体積が約95%減り小型化したことによって、広い手術空間を確保することができるようになった

テクノロジーの進歩によって、手術方法もどんどん進歩しています。

術者にとって使いやすくなることは手術の安全性にもつながるでしょうし、また、チームで同じ情報をタイムラグなく共有できることも安全性の確保につながることでしょう。

■まとめ

カメラメーカーがこれまでの技術を活用していて新しい分野にどんどん取り組んでいる印象を受けています。

カメラが本業だったメーカーが「昔はカメラメーカーだったんだよ」といわれるようになる日も近いのかもしれませんね。







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年間720億円分の抗がん剤が廃棄されている!?|廃棄される抗がん剤を減らすアイデアとは?




■年間720億円分の抗がん剤が廃棄されている!?|廃棄される抗がん剤を減らすアイデアとは?

Prescription Prices Ver3

by Chris Potter(画像:Creative Commons)

廃棄される抗がん剤、年間720億円分 慶大教授が試算

(2017/11/17、朝日新聞)

岩本さんは国立がん研究センターなどと共同で、薬の使用回数や瓶の数から1病院あたりの廃棄率を計算。国際的な医療情報データベースも使い、廃棄量を推定した。それによると、2016年度の抗がん剤の市場規模約9745億円の約7・4%にあたる約720億円分が捨てられていた。

慶應義塾大学の岩本隆・特任教授による試算によれば、年間720億円分の抗がん剤が廃棄されているそうです。

【関連記事】

なぜ使用量の約7%もの抗がん剤が使い切れずに残り、廃棄されてしまうのかがこの問題のポイントです。

2017年6月27日のNEWS23でも取り上げられたこの問題ですが、なぜ抗がん剤の廃棄が行なわれているのでしょうか?

その理由は、安全性の確保にあります。

余った薬剤には菌などが混入する恐れがあるため、余った薬剤を捨てることで安全性を確保しているそうです。

これまでにも残薬に関する問題についてこのブログでも取り上げてきました。

【関連記事】

余った薬剤を捨てることで安全性を確保することは理解できますが、そうなるときになるのが、なぜ薬剤が余ってしまうのかという点です。

抗がん剤の注射薬や点滴薬の多くは、瓶単位で売られている。患者ごとの使用量は体格によって違い、1回で使い切れないこともある。

抗がん剤の多くは瓶単位で売られていて、患者さんによって使用量が違うため、使いきれないこともあり、抗がん剤が残ってしまうそうです。

2017年6月27日のNEWS23でコメントした岩本特任教授によれば、日本では原則は使用量での保険請求なのですが、それが徹底されておらず、実際に使われていなくても全体量で請求できる仕組みとなっているという「医療界の暗黙のルール」があることも背景にはあるようです。

この問題を解決するために、厚生労働省も動きを始めています。

抗がん剤の残薬活用へ 厚生労働省が安全基準策定へ 数百億円単位の医療費削減も

(2017/8/12、産経ニュース)

ただ、1瓶から同時に複数の患者へ投与することは認められている。残薬を活用できるケースはあるものの、今のところ安全基準がなく、そのまま廃棄されることが多い。

残薬は一つの瓶に入った抗がん剤を複数の患者に使うことで減らすことができるため、欧米では、余った薬剤を複数回使用する取り組みが進んでいるそうですが、大事なポイントは複数回使用することで安全性を確保できるかどうかです。

そこで、厚生労働省は、使いきれなくなった抗がん剤の残薬を他の患者に活用できるよう安全基準づくりに乗り出す方針を固めたそうです。

安全基準を作ることで残った抗がん剤を複数回他の患者に有効活用するというのは良い方向だと思いますが、この問題を根本的に解決するできる限り使用量に合わせて抗がん剤を購入できる仕組みにするということではないでしょうか。

最近AI(人工知能)や IoT といったテクノロジーによる未来社会として掲げられた「超スマート社会」というコンセプト「Society5.0」について考えています。

Society5.0 Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」
Society5.0 Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」

参考画像:Society5.0・Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」(2017/5/30、経済産業省)|スクリーンショット

Society5.0・Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」
Society5.0・Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」

参考画像:Society5.0・Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」(2017/5/30、経済産業省)|スクリーンショット

Society5.0・Connected Industriesを実現する「新産業構造ビジョン」(2017/5/30、経済産業省)

「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の⾼いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、⾔語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会。」(第5期科学技術基本計画)

これまでの社会は、あらゆるものを標準化することによって、人間がその標準化された社会に合わせて生活をすることで問題を解決してきましたが、Society5.0では、多様な違いを持ったままで、必要なサービスを、必要な時に、必要な分だけ提供される社会になっていくことを目指しています。

【関連記事】

この必要なサービスを、必要な時に、必要な分だけ提供される社会という考え方をもとにすれば、標準化された規格品サイズの瓶での購入をするのではなく、必要な分量だけを購入しながらも安全に利用できるシステムが必要になってくるはずです。

そこで、思い出したのが、Matternet Station|自律型ドローン配達ネットワークが配備されることで医療に革命が起こる!?|スイスで取り上げた、自律型ドローン配達ネットワークで医療用アイテムを届けるシステムです。

The Matternet Station

Matternet Station|自律型ドローン配達ネットワークが配備されることで医療に革命が起こる!?|スイス

Matternet Stationは、ドックとドローンが装備されていて、医療サンプルなどを荷物を積載し、離陸し、ステーションに着陸する仕組みになっています。

Matternetシステムを使用して、技術者はQRコードをつけたボックスに血液サンプルなど医療に関するものを格納し、ドローンは信号で案内されたステーションに飛び立ちます。

受け取る側は荷物が届いたことがアプリで通知され、スマホでQRコードをスキャンしてロックを解除することで安全に医療用アイテムを受け取ることができます。

このネットワークシステムが全国だけでなく全世界につながれば、通信機能を持った端末同士が相互に通信を行うことにより、網の目状に作られる通信ネットワークであるメッシュネットワークのようにノードからノードへ転送を行うようにした医療用アイテムの配送が可能になるかもしれません。

How Mesh Networks Work

ROBIN CHASE ロビン・チェイスによるZipcarと更なるビッグアイデア

ただ、ドローンの医療応用に対しては、乗り越えなければならない法の壁がいくつもあるようですので、実証実験を続け問題を解決していく必要がありますが、検討に値するアイデアではないでしょうか?

【参考リンク】

世界初のデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite®)」 米国FDA承認|大塚製薬・プロテウスでは、薬の飲み忘れによって生じる治療効果が下がってしまうという問題をテクノロジー(今回の場合はセンサー)で解決しようというものでしたが、そもそも残薬が出ない仕組みにするというアイデアとして、自動的に薬を投与するインプラントというアイデアはどうでしょうか。

●自動的に薬を投与するインプラント

生体工学で健康管理|緑内障を調べるスマ―ト・コンタクトレンズという記事で、このブログでは、定期的にインシュリンを注射しなければならない糖尿病患者の皮膚に超薄型で伸縮自在の電子装置を貼り付け、自動的に注射できるような仕組みというアイデアを考えてみました。

妊娠をコントロールする避妊チップの開発に成功ービル・ゲイツ財団出資の企業によれば、海外では腕の内側などにホルモン剤を含んだ細長いプラスチック製の容器を埋め込む「避妊インプラント」が広く普及しているそうで、将来的には、糖尿病治療も同様の方法をとっていくことが予想されます。

糖尿病治療用「スマート・インスリンパッチ」が開発される(2015/6/24)によれば、米ノースカロライナ大学とノースカロライナ州立大学の研究チームは、血糖値の上昇を検知し、糖尿病患者に適量のインスリンを自動的に投与できるパッチ状の治療器具を開発したそうです。

糖尿病患者に朗報!?グラフェンを使った血糖値測定と薬の投与を行なう一体型アームバンドによれば、韓国の基礎科学研究院の研究者たちは、ユーザーの汗をモニターして、血糖値を測定し、血糖値が下がってきている場合には、極小の針で薬を注射するという血糖値の測定と薬の投与の一体型デバイスを糖尿病患者のためにデザインを行なったそうです。

「薬の飲み忘れ」を根本から解決!複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲルの開発に成功|東京農工大学によれば、東京農工大学大学院の村上義彦准教授の研究グループは、体内に薬を運ぶための入れ物である「薬物キャリア」として利用されている構造体(ミセル)に着目し、「物質の放出を制御できる機能」をゲルの内部に固定化するという新しい材料設計アプローチによって、「複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲル」の開発に成功しました。

自動的に必要なだけの量の薬を必要なタイミングで投与することができれば、残薬がなくなり、「残薬(飲み残しの薬)が減ることによって医療費削減」「認知症などの人が飲み忘れることがなくなる」「治療継続の負担がなくなる」といったことが期待されます。

【関連記事】

そして、最後にもう一つ気になる点があります。

それは、本当にその薬に効果があるかという問題です。

ゲノム解析が一般的なものになった時、AIが過去の文献や医学論文、データベースを探索するようになる!?では、抗がん剤は高価で、かつ副作用の生じることから、薬が効かない患者に副作用のリスクを負わせ、高額な医療を施す必要があるのかという問題があり、ゲノム情報を活用して、どの薬が効果を発揮できるのか、ということを事前に調べて投与する「プレシジョン・メディシン(Precision Medicine)」に注目が集まっているという話題を取り上げました。

薬の飲み忘れ問題、残薬の問題も大事ですが、そもそもその薬の効果があるかどうかがわからない場合もあり、今後は、遺伝子を調べて、その薬で対応できるのかを判断してから投与するということが常識となっていくのではないでしょうか?




■まとめ

医療費の動向|平成28年版厚生白書
医療費の動向|平成28年版厚生白書

参考画像:医療費の動向|平成28年版厚生白書|スクリーンショット

平成28年版厚生白書

国民医療費とは、医療機関等における保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を推計したものであり、具体的には、医療保険制度等による給付、後期高齢者医療制度や公費負担医療制度による給付、これに伴う患者の一部負担などによって支払われた医療費を合算したものである。

高齢化や医療の高度化により、国民医療費は増加傾向が続いています。

【関連記事】

医療の仕組みを抜本的に変えることは、医療費の増加という問題を解決するためには必要になるはずですので、廃棄される抗がん剤を減らすアイデアだけでなく、予防医療にもぜひとも積極的に取り組んでほしいものです。







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