認知症の前段階「MCI」、3割が5年後に「正常」に戻る…九州大調査・生活習慣病や筋力と関係か(2025年10月15日、読売新聞)で紹介された九州大のチームによれば、認知症の前段階と診断された高齢者の約3割は、5年後に認知機能が正常に戻ったそうです。
認知機能が正常に戻った高齢者のポイントとしては、生活習慣病がないことや、筋力が保たれていることなどが関係しており、認知症の発症予防につながる可能性があるそうです。
MCIハンドブック(国立長寿医療研究センター)によれば、MCIでは、1年で約5~15%の人が認知症に移行する一方で、1年で約16~41%の人は健常な状態になることがわかっているそうです。
【参考リンク】
認知症の一歩手前で踏みとどまるには:認知機能を鍛える運動「コグニサイズ」(2025年9月4日、nippon.com)で紹介されている、鶴川サナトリウム病院の小松弘幸医師(認知症疾患医療センター長)によれば、身体を動かしながら認知機能を鍛える「コグニサイズ」の医学的効果として「(身体活動の機能と認知機能の間に)新たな回路ができて、脳内のまだしっかり生きている部分が鍛えられて強化される。そのおかげで衰えている部分を補えるのではないか」と語っています。
まずここで大事なことは、認知症と健常な状態の「中間のような状態」である「軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)」はそのまま認知症に移行することもあり得るし、健常な状態に戻る可能性もあるということです。
そしてそのカギとなるのが、生活習慣病がないことや、筋力が保たれていること、体を動かしながら認知機能を鍛えることで脳内に新たな回路を作って衰えている部分を補うことができるのではないかということです。
〇生活習慣病と認知症
中年期においては糖尿病、脳卒中、高血圧、肥満、脂質異常症が認知症の危険性を高めることがわかっていますので、生活習慣病対策に取り組むことが大事です。
〇筋力が保たれていること
サルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)とは、筋肉が減り筋力が衰えた状態のことです。
近年中高年を中心に増加しているサルコペニアは、寝たきりや認知症を引き起こす原因とされ、健康寿命を縮める一因となっています。
サルコペニアの定義とは、筋肉量(骨格筋量)の減少に加えて、筋力の低下(握力など)または身体(運動)機能の低下のいずれかが当てはまる場合、サルコペニアと診断するというものです。
たんぱく質摂取と骨格筋|たんぱく質の関与|フレイルティ及びサルコペニアと栄養の関連|高齢者|厚生労働省によれば、最近のコホート調査でも、たんぱく質摂取量が少ないことは3年後の筋力の低下と関連し、さらに高齢女性の3年間の観察で、たんぱく質摂取量が少ないとフレイルティの出現のリスクが増加することが確認されているそうです。
また、日本人の高齢女性の横断研究でもフレイルティの存在とたんぱく質摂取量との関連が明らかにされています。
これまでにも要介護者の中にはたんぱく質が不足する低栄養の人が多いということを紹介してきました。
適切な食物摂取ができず、栄養状態が悪化していることを「低栄養」と呼びます。
低栄養になると、免疫が低下したり、筋肉が減少したり、骨が弱くなったりすることで、感染症に掛かりやすくなったり、骨折するおそれが高くなるようです。
今回紹介した厚生労働省のまとめによれば、高齢者はたんぱく質の摂取量が少ないと、フレイルティの出現リスクが増加するそうです。
たんぱく質並びにアミノ酸の介入研究|たんぱく質の関与|フレイルティ及びサルコペニアと栄養の関連|高齢者|厚生労働省では、サルコペニア予防および改善の観点から、高たんぱく質食品、プロテインやアミノ酸などのサプリメント、β─ ヒドロキシ─β─ メチル酪酸(beta-hydroxy-beta-methylbutyrate:HMB)を単独もしくはアミノ酸と配合したサプリメントを補給する介入研究が紹介されています。
→ アミノ酸の効果・効能・種類・アミノ酸を含む食べ物 について詳しくはこちら
→ なぜ筋肉をつけるにはタンパク質(アミノ酸)の摂取が必要なの?【論文・エビデンス】 についてくわしくはこちら
〇コグニサイズ
うつ病性仮性認知症対策|前頭葉の血流を増やす方法は有酸素運動(散歩など)+知的刺激(川柳など)|たけしのみんなの家庭の医学によれば、国立長寿医療研究センターでは、暗算やクイズなどの課題を解きながら速足で歩いたりするような、頭を使いながら有酸素運動する、「コグニション」(認知)と「エクササイズ」(運動)を組み合わせ「コグニサイズ」を勧めており、週1回90分の運動プログラムを10か月間参加したグループでは、認知機能や言語機能が維持されており、また脳の特定部位の萎縮傾向がなかったそうです。