「認知症」タグアーカイブ

ドーパミン不足がアルツハイマー病の記憶障害を引き起こすことを発見/アルツハイマー病研究から考える記憶と脳の健康

最近、「ドパガキ」という言葉をSNSで見かけるようになりました。

ショート動画やSNS、ゲームなど次々に現れる刺激に慣れ、「もっと刺激がほしい」と感じる状態を表すネットスラングです。

こうした文脈では、ドーパミンはしばしば「快楽をもたらす物質」のように語られます。

ところが、2026年4月に東北大学が発表した研究から、ドーパミンにはそれとはまったく違う重要な側面があることが見えてきました。

「記憶をつくる」という働きです。

アルツハイマー病モデルマウスでは、記憶に重要な「嗅内皮質」のドーパミンが減少しており、その働きを回復させると記憶が改善したというのです。

ドーパミン不足がアルツハイマー病の記憶障害を引き起こすことを発見-ドーパミンを用いた新たな治療法の開発を目指す-

(2026年4月24日、東北大)

東北大学の五十嵐啓教授・中川達貴助教らの研究チームが、アルツハイマー病モデルマウスで、「嗅内皮質におけるドーパミン不足が記憶障害を引き起こしている」ことを発見し、既存の薬で記憶が改善する可能性を示しました。

■背景

アルツハイマー病は認知症の中で最も多く、記憶障害が主な症状です。

アルツハイマー病に関係するアミロイドβなどを標的とした治療が研究されていますが、発症後はなかなか記憶が戻らないのが課題でした。

研究チームは2021年に、「嗅内皮質(きゅうないひしつ)」という脳の領域で、ドーパミンが記憶を作るのに重要だと発見していました。

嗅内皮質は海馬の隣にあり、記憶の形成に関わり、アルツハイマー病で早くからダメージを受ける場所です。

■今回の発見

アルツハイマー病のマウスを使った実験で、以下のことがわかりました。

・匂いを覚えるテストで、健康なマウスは簡単に覚えられるのに、アルツハイマー病マウスは覚えられない。
・匂いを嗅いでいるときの嗅内皮質のドーパミン量が、健康なマウスの5分の1以下に減っていた。
・その結果、嗅内皮質の神経活動が乱れ、記憶が形成できなくなっていた。

つまり、「嗅内皮質にドーパミンを届ける神経細胞の機能低下 → 嗅内皮質のドーパミン不足 → 神経活動の乱れ → 記憶障害」という流れが明らかになりました。

治療実験では、既存のパーキンソン病治療薬「レボドパ」(脳内でドーパミンに変わる薬)などを使って、嗅内皮質のドーパミン量を増やしたところ、神経活動が正常に近づき、マウスの記憶も改善しました。

光でドーパミンを増やす方法でも同様の効果がありました。

■まとめ

この成果は、ドーパミンを増やすアプローチがアルツハイマー病の新たな治療戦略になる可能性を示しています。

現時点ではマウスでの結果ですが、人のアルツハイマー病患者でもドーパミンの働きが低下している示唆があり、今後の研究が期待されます。

■【補足】生活習慣でドーパミンを増やせば記憶を守れる?

今回の研究を読むと、「普段の生活でもドーパミンを増やせば、記憶を守ることにつながるのでは?」と思うかもしれません。

しかし、ここは注意が必要です。

今回確認されたのは、アルツハイマー病モデルマウスの「嗅内皮質」という記憶に関わる特定の脳領域でドーパミンが不足していたことです。

そして、レボドパなどによってこのドーパミン量を増やすことで、神経活動や記憶が改善しました。

つまり、「脳全体のドーパミンをたくさん出せばよい」という研究ではありません。

ドーパミンは単なる「快楽物質」ではなく、運動、意欲、報酬、学習、記憶などさまざまな脳機能に関係する神経伝達物質です。

そのため健康な人が「ドーパミンを増やすこと」そのものを生活の目標にする必要はありません。

一方で、身体活動とドーパミン系との関係については研究されており、運動がドーパミン系に影響する可能性が報告されています。

ただし、人での「運動→ドーパミン→認知機能」という仕組みについては、まだ十分に解明されていません。

むしろ日常生活では、

・適度に体を動かす
・十分な睡眠をとる
・バランスのよい食事をする
・人と交流する
・新しいことを学ぶ
・趣味や好きなことを楽しむ

など、脳と体の健康を支える生活習慣を続けることを意識するのがよいでしょう。

今回の研究は「生活習慣でドーパミンを増やせばアルツハイマー病を予防・治療できる」と示したものではありません。

アルツハイマー病の治療や、レボドパなどの使用については自己判断せず、医師に相談する必要があります。

今回の研究からわかるのは、「ドーパミンは多ければ多いほどよい」という単純な話ではなく、記憶に関わる特定の脳回路でドーパミンが適切に働くことが重要だということです。

私たちの日常生活では、「ドーパミンを増やそう」と考えるよりも、運動、睡眠、食事、人との交流、学びや趣味など、脳と体の健康を支える基本的な生活習慣を無理なく続けていくことが大切なのではないでしょうか。







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

この街を初めて訪れた方へ

この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。

この街には、生活・料理・健康についての記事が、
同じ考え方のもとで並んでいます。

ここまで書いてきた内容は、
単発の健康情報やレシピの話ではありません。

この街では、
「何を食べるか」よりも
「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。

もし、

なぜこういう考え方になるのか

他の記事はどんな視点で書かれているのか

この話が、全体の中でどこに位置づくのか

が少しでも気になったら、
この街の歩き方をまとめたページがあります。

▶ はじめての方は
👉 この街の歩き方ガイドから全体を見渡すのがおすすめです。

▶ この街の地図を見る(全体像を把握したい方へ)

※ 無理に読まなくて大丈夫です。
 気になったときに、いつでも戻ってきてください。

この考え方の全体像(意味のハブ)

この記事で触れた内容は、以下の概念記事の一部として位置づけられています。

▶ 料理から見る健康

この街の考え方について

この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。

▶ この街の中心に置いている憲法を読む

【トリセツショー】MCI(軽度認知障害)のトリセツ/認知症に先手を打つ「もの忘れ」と健康習慣

2026年10月1日放送の「あしたが変わるトリセツショー」は「MCIのトリセツ」がテーマです。

■MCI(軽度認知障害)とは?

MCIは「Mild Cognitive Impairment」の略で、日本語では軽度認知障害と呼ばれます。

MCIは高齢者の7人に1人ほどとされ、番組が1000人に行ったアンケートでは63%がMCIを知らなかったとされています。

認知機能に低下がみられるものの、日常生活の自立はおおむね保たれている、正常な状態と認知症の間に位置する状態です。

大切なのは、

MCIになったからといって、必ず認知症になるわけではない

ということです。

MCIの状態から認知機能が正常域へ戻る人もいるため、「もう認知症になるしかない」と考えるのではなく、早い段階で変化に気づき、対策につなげていくことが重要になります。

今回の番組では「認知症になってから」ではなく、MCIの段階で気づき、対策をすることで、認知機能低下を遅らせたり、維持したり、回復したりする可能性があると紹介しています。

■MCIに気づくカギは「もの忘れ」

年齢を重ねると、

「人の名前がなかなか出てこない」

「何を取りに来たのか忘れてしまった」

といったことは珍しくありません。

そのため、「もの忘れ=MCI・認知症」ではありません。

注目したいのは、「どのように忘れているか」です。

例えば、

・食事をしたことは覚えているけれど、何を食べたか思い出せない
・人の名前がすぐに出てこない
・ヒントをもらうと思い出せる

といったもの忘れと、

・出来事そのものを忘れている
・同じ質問や話を繰り返すようになった
・ヒントがあっても思い出しにくい
・以前と比べて生活の段取りが難しくなった

といった変化では意味が異なります。

つまり、

「忘れた回数」だけではなく、「以前の自分と比べてどう変わったか」を見る

ことがポイントになります。

■「年齢のせい」で終わらせない

MCIについて知る意味は、必要以上に認知症を怖がることではありません。

むしろ、

「ちょっと変だな」という変化を、これからの生活を見直すきっかけにすること

ではないでしょうか。

もの忘れだけでなく、睡眠、運動、食事、人との交流、持病の管理など、日々の生活全体を振り返る機会にもなります。

なお、もの忘れだけからMCIを自己診断することはできません。

以前との違いが続いたり、本人や家族が不安を感じたりする場合には、かかりつけ医やもの忘れ外来など専門家への相談につなげることが大切です。

■まとめ:認知症対策も「毎日の健康習慣」から

今回の「あしたが変わるトリセツショー」から考えたいのは、

認知症対策は、認知症になってから始めるものではない

ということではないでしょうか。

・MCIについて知っておく。
・自分や家族の「以前との変化」に気づく。
・そして必要であれば専門家に相談するとともに、毎日の生活を見直していく。

認知機能の維持を考えるうえでも、運動・食事・睡眠・人との交流など、自分にできることを毎日の「健康習慣」として見直してみてはいかがでしょうか。

■MCIから正常な認知機能に戻る人もいる

MCIは、必ず認知症へ進行するわけではありません。

九州大のチームによる久山町研究では、MCIと診断され、5年後まで追跡できた高齢者380人のうち、119人(31%)が正常な認知機能に戻っていました。一方、102人(27%)はMCIのまま、106人(28%)は認知症へ移行していました。

また、正常な認知機能に戻った人では、糖尿病がないこと、血圧が低いこと、年齢が若いこと、握力が強いことなどとの関連がみられました。ただし、これは観察研究による結果であり、「これをすればMCIが改善する」という因果関係を示したものではありません。

国立長寿医療研究センターの「MCIハンドブック」でも、MCIは認知症そのものではなく、正常レベルに回復する人もいることが説明されています。また、運動や食生活など、日々の暮らしに取り入れられる対策についても紹介されています。

ここで大切なのは、MCIを必要以上に怖がることではなく、早い段階で自分の変化に気づき、生活を見直すきっかけにすることではないでしょうか。

生活習慣病の管理、運動、食事、睡眠、人との交流など、普段の生活を振り返ることも、認知機能の維持を考えるうえで大切な「健康習慣」の一つです。

【関連記事・参考リンク】

→ 認知症対策|認知症に良い食べ物・栄養 について詳しくはこちら







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

この街を初めて訪れた方へ

この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。

この街には、生活・料理・健康についての記事が、
同じ考え方のもとで並んでいます。

ここまで書いてきた内容は、
単発の健康情報やレシピの話ではありません。

この街では、
「何を食べるか」よりも
「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。

もし、

なぜこういう考え方になるのか

他の記事はどんな視点で書かれているのか

この話が、全体の中でどこに位置づくのか

が少しでも気になったら、
この街の歩き方をまとめたページがあります。

▶ はじめての方は
👉 この街の歩き方ガイドから全体を見渡すのがおすすめです。

▶ この街の地図を見る(全体像を把握したい方へ)

※ 無理に読まなくて大丈夫です。
 気になったときに、いつでも戻ってきてください。

この考え方の全体像(意味のハブ)

この記事で触れた内容は、以下の概念記事の一部として位置づけられています。

▶ ばあちゃんの知恵袋

この街の考え方について

この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。

▶ この街の中心に置いている憲法を読む

グルコサミンは認知症と関係する?2026年の研究から考える健康習慣の見直し

2026年に発表されたフロリダ大学などの研究で、関節サプリとして人気のグルコサミンが、アルツハイマー病など認知機能に問題を抱えている人の病状の進行と関連する可能性を示した研究がSNSで話題になっています。

■主な研究

1. マウス実験

アルツハイマー病様の症状を示すマウス(5xFAD)にグルコサミンを投与すると、「社会的記憶」(他の個体を認識・覚える能力)の障害が悪化しました。

タンパク質に糖が過剰に付くプロセス(N-グリコシル化/過剰な糖付加)が強まったためと考えられています。

この糖付加を抑えると、逆に記憶が改善しました。

健康なマウスでは、同じグルコサミン投与でも脳内の糖付加は増えず、記憶障害も起きませんでした。

→ 「すでに病気の脳では悪影響が出やすいが、健康な脳では問題になりにくい」可能性を示唆しています。

2. ヒトの脳組織

アルツハイマー病患者の脳標本では、正常な脳に比べてタンパク質への糖の付着が有意に増えていました。

この異常な「糖のタグ付け」が病気の進行に関与している可能性が指摘されています。

3. 診療記録の分析(約6.6万人規模)

フロリダ大学の医療システム(2012〜2024年)の電子健康記録を用いた後ろ向き解析も行われました。

・アルツハイマー病関連認知症(ADRD)患者:約2.4万人
・軽度認知障害(MCI)患者:約4.2万人
・両グループで約8%がグルコサミンを使用(ADRDで1,896人、MCIで2,750人)

●結果(年齢・性別・人口統計を調整後)

・MCIから認知症へ移行する割合が、グルコサミン使用者で約25%高かった
・すでに認知症と診断された人では、一定期間内の死亡リスクが約25%高かった
・MCIの人では死亡リスクの増加は見られなかった

重要な注意点として、これは関連であり、因果関係(グルコサミンが原因で進行した)は証明されていません。

サプリの使用量や期間の正確な把握が難しい、他の要因が影響している可能性など、限界があります。

著者らは「大規模な臨床試験が必要」と述べています。

■背景にあるメカニズムの仮説

グルコサミンは体内で「ヘキソサミン経路」に入り、タンパク質に糖を付ける材料になります。

アルツハイマー病の脳ではこの経路が過剰に働きやすく、グルコサミンがその燃料になって進行を加速させるのではないか、という考え方です。

健康な脳ではこの過剰な反応が起きにくいため、影響が出にくい可能性があります。

■過去の研究との比較(バランスを取るために)

以前の大規模な観察研究(主にUK Biobank)では、逆の結果や無関係という報告もあります。

2023年の BMC Medicine のUK Biobank研究では、研究開始時点で認知症のない人を対象としており、定期的なグルコサミン使用者では非使用者より、全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症の発症リスクが低いという関連が報告されました。

ところが別のUK Biobank研究では、グルコサミン使用と認知症発症には有意な関連が認められませんでした。完全調整モデルの認知症HRは1.06(95%CI 0.99–1.14)でした。

これらは主に「まだ認知症になっていない一般集団」を対象にしたもので、今回の研究のように「すでにMCIや認知症がある人」の進行を見たものではありません。

■まとめ

因果関係はわからないものの、MCIから認知症へ移行する割合が、グルコサミン使用者で約25%高かったという結果は心配になりますよね。

グルコサミンは、関節の健康を意識して長く利用している人もいるサプリメントです。

今回の研究は、「グルコサミンを飲めば認知症になる」と証明した研究ではありません。

一方で、アルツハイマー病モデルマウスではグルコサミン投与による認知機能への悪影響が示され、ヒトの電子健康記録の解析でも、すでにアルツハイマー病がある人について気になる関連が報告されました。

過去の一般集団を対象にした研究には、認知症発症リスクの低下との関連を報告したものもあれば、有意な関連を認めなかったものもあります。

つまり現時点では、「グルコサミンは認知症によい」「グルコサミンは認知症に悪い」と単純に決める段階ではなさそうです。

ここから私たちが健康習慣として考えてみたいのは、よいと思って始めた健康習慣でも、新しい研究によって見方が変わることがあるということです。

「健康のために始めたから、ずっと同じように続ける」のではなく、

「今の自分にも、この健康習慣は合っているかな?」

と、ときどき見直してみる。

新しい研究が出たからといって、一つの研究だけを見て「危険」と決めつける必要はありません。

一方で、すでに軽度認知障害(MCI)や認知症と診断されている人がグルコサミンを利用している場合には、今回の研究をきっかけに、継続について医師や薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

健康状態が変わったとき、新しい研究が出てきたときには、

「今の自分にも、この健康習慣は合っているかな?」

と、ときどき見直してみる。

健康習慣をただ続けるだけではなく、新しい情報に合わせてアップデートしていくことも健康習慣の一つなのではないでしょうか。

【参考文献】







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

この街を初めて訪れた方へ

この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。

この街には、生活・料理・健康についての記事が、
同じ考え方のもとで並んでいます。

ここまで書いてきた内容は、
単発の健康情報やレシピの話ではありません。

この街では、
「何を食べるか」よりも
「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。

もし、

なぜこういう考え方になるのか

他の記事はどんな視点で書かれているのか

この話が、全体の中でどこに位置づくのか

が少しでも気になったら、
この街の歩き方をまとめたページがあります。

▶ はじめての方は
👉 この街の歩き方ガイドから全体を見渡すのがおすすめです。

▶ この街の地図を見る(全体像を把握したい方へ)

※ 無理に読まなくて大丈夫です。
 気になったときに、いつでも戻ってきてください。

この考え方の全体像(意味のハブ)

この記事で触れた内容は、以下の概念記事の一部として位置づけられています。

▶ 料理から見る健康

この街の考え方について

この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。

▶ この街の中心に置いている憲法を読む

妊娠〜2歳までの砂糖制限が、60年後の認知症リスクを大幅に下げる可能性(アルツハイマー病リスクを46%下げる?)




英国の戦時・戦後の砂糖配給制度を「自然実験」として活用した研究で、妊娠中から生後2歳頃までの砂糖制限が、中高年期の認知症(特にアルツハイマー病)や精神疾患のリスク低下、脳の老化ペースの遅れと関連することが示されています。(この記事は2026年に発表された研究に基づいています)

■背景

人生最初の約1000日(受胎から生後2歳頃)は、脳が急速に発達する時期です。

この時期の栄養環境が、その後の長い人生の健康に影響を与える「代謝プログラミング」の重要な窓と考えられています。

英国では第二次世界大戦中から戦後にかけて砂糖が配給制限されていました(成人1日約41g程度、2歳未満はほぼ追加の砂糖なし)。

1953年9月に制限が終わると、消費量はほぼ倍増(約80g)しました。

この急激な変化を「自然実験」(準実験)として利用し、出生時期によって「制限を受けた期間」が異なる人々を比較した研究です。

■結果

胎児期から生後約2歳までの制限を経験したグループは、制限を受けなかったグループと比べて、

・全原因の認知症リスクが約27%低い
・アルツハイマー病リスクが約46%低い
・うつ病リスクが約11%低い
・不安症リスクが約20%低い

という結果が出ました。

脳の画像検査では、制限を経験した人の脳が実年齢より平均約0.39歳「若く」見える傾向があり、海馬や視床などの体積が大きく、灰白質・白質の構造も良好だったと報告されています。

また、類似の研究では、発症が平均約2.5〜2.6年遅れる傾向も指摘されています。

■【仮説】考えられるメカニズム

1)インスリン抵抗性と脳内インスリンシグナルの障害(「タイプ3糖尿病」仮説)

早期に糖を過剰に摂取すると、胎児期・乳幼児期の代謝が「プログラム」され、生涯にわたってインスリンが効きにくくなる可能性があります。

・脳はインスリンの信号に強く依存しているため、これが乱れると神経細胞のエネルギー代謝が悪化し、アミロイドβの除去が難しくなり、タウの異常な変化が進みやすくなります。

・結果としてアルツハイマー病のリスクが高まる、という考え方です。

糖尿病や高血圧がこの関連の約25%を媒介していると報告されており、残りは脳への直接的な影響が考えられています。

【関連記事】

2)慢性的な低度の炎症

高糖質の環境は、体全体や脳内の炎症を促します。

脳の免疫細胞であるミクログリアが過剰に働き、シナプスの調整がうまくいかなくなったり、神経を傷つけたりします。

特に発達期にこれが起きると、脳の「予備能(cognitive reserve:余裕)」が低下し、年を取ってから弱くなりやすい可能性があります。

腸内細菌の変化を通じた全身の炎症(gut-brain axis)も関わっているかもしれません。

【関連記事】

3)糖化(Advanced Glycation End-products: AGEs)とその蓄積

糖(特にフルクトースや高血糖状態)は、タンパク質や脂質と非酵素的に反応してAGEsを作ります。

AGEsは脳に蓄積しやすく、アミロイドβやタウの固まりを進め、酸化ストレスや炎症を強め、ミトコンドリアの働きを弱めます。

発達期に過剰な糖にさらされると、AGEsの土台が早く作られ、年を取るにつれて「糖化ストレス」が加速して神経が傷みやすくなる、というシナリオです。

RAGE(AGEの受容体)を介した信号も重要です。

→ 糖化とは|糖化の症状・原因・チェック・糖化を防ぐ方法 について詳しくはこちら

4)エピジェネティックな変化

早期の栄養がDNAのメチル化やヒストンの修飾を変え、インスリン信号や炎症、神経発達に関わる遺伝子の働きを、生涯にわたって変えてしまう可能性があります。

【関連記事】

5)酸化ストレスとミトコンドリアの機能障害

過剰な糖の代謝は活性酸素(ROS)を増やし、発達期の神経細胞やミトコンドリアにダメージを与えます。

その結果、後年になってエネルギーを作る力が低下しやすくなります。

6)フルクトース特有の経路

フルクトースの代謝が脳内でエネルギー不足や尿酸の増加を招き、アルツハイマー病に似た変化を促す、という進化的な「生存経路の誤適応」仮説もあります。

7)神経発達そのものへの直接影響

シナプスの成熟や髄鞘の形成、海馬などの体積・構造がうまく進まず、認知の予備能が低下します。

MRIで制限を受けたグループの灰白質体積が大きく、白質の病変が少なかったという結果と一致しています。

【関連記事】

8)味覚の好みや生涯の食習慣のプログラミング

早期に甘いものに慣れると、大人になってからも高糖質の食事を好みやすくなり、リスクが積み重なります。

9)血管・血流への影響

早期の代謝の変化が動脈硬化や脳の血流低下を早め、血管性認知症のリスクを高める可能性があります。

■まとめ

これらの仮説は互いに関連し合っています(例:インスリン抵抗性 → 炎症 → AGEs増加 → 酸化ストレス)。

単独ではなく、複合的に作用すると考えられています。

研究では「最初の1000日間」が脳の急速な発達期で、栄養の影響を特に受けやすいため、この時期の制限が長期的な保護効果につながる可能性がある、と強調されています。

お子さんをお持ちのママとしては、こうした研究が出ると「子供が甘いものを欲しがることにストレスを感じてしまう」気持ちと、「子どもの健康のために知っておきたい」気持ちが交錯して、悩ましいところです。

完璧を目指しすぎず、できる範囲で意識していくのが現実的かもしれません。

【参考文献】







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

この街を初めて訪れた方へ

この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。

この街には、生活・料理・健康についての記事が、
同じ考え方のもとで並んでいます。

ここまで書いてきた内容は、
単発の健康情報やレシピの話ではありません。

この街では、
「何を食べるか」よりも
「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。

もし、

なぜこういう考え方になるのか

他の記事はどんな視点で書かれているのか

この話が、全体の中でどこに位置づくのか

が少しでも気になったら、
この街の歩き方をまとめたページがあります。

▶ はじめての方は
👉 この街の歩き方ガイドから全体を見渡すのがおすすめです。

▶ この街の地図を見る(全体像を把握したい方へ)

※ 無理に読まなくて大丈夫です。
 気になったときに、いつでも戻ってきてください。

この考え方の全体像(意味のハブ)

この記事で触れた内容は、以下の概念記事の一部として位置づけられています。

▶ 料理から見る健康

この街の考え方について

この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。

▶ この街の憲法を読む

週4回6カ月の玄米食で認知症リスク低下/東北大




東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授の研究によれば、週4食玄米を食べた高齢者は認知機能(特に遂行機能)が改善する可能性があることがわかりました。

■背景

日本は超高齢社会で、認知機能の低下や認知症が大きな社会問題になっています。

特に「遂行機能(実行機能)」と呼ばれる、計画を立てる、注意を向け続ける、状況に応じて行動を切り替える、衝動を抑えるといった能力が低下すると、日常生活がしにくくなり、要介護リスクが高まります。

これまで、玄米には食物繊維・ビタミン・ミネラル・γ-オリザノールなどの機能性成分が多く含まれ、動物実験では脳の老化に関わる物質(アミロイドβ)の減少や記憶機能の改善が報告されていました。

■介入試験

認知症や軽度認知障害のない60歳以上の高齢者56人を対象に、週4回・お茶碗1杯程度の玄米(または白米)を6ヶ月間摂取してもらい、介入前後で認知機能検査を実施しました。

■結果

玄米を週4回食べるだけで、遂行機能が向上する効果が統計的に確認されました。

■メカニズム

玄米の栄養成分が脳の炎症を抑えたり、血流を改善したりする可能性が考えられます。

■補足

これまで、玄米に含まれる「γオリザノール」が糖尿病や肥満の改善・予防に効果があるという研究を紹介してきましたが、認知症予防にも期待できるとは驚きですね。

【家庭料理の視点から】日本人が認知症リスクを下げるための3つのポイントを改善すれば認知症の4割は予防できる!/認知症の14のリスク要因とは?によれば、食生活を改善することで高LDLコレステロール血症や糖尿病、高血圧を予防することが、認知症の予防につながることが期待できます。

炎症を引き起こす食事をしている人は認知症のリスクが高い!によれば、地中海式ダイエット(野菜、果物、魚、オリーブオイルなどが中心)など健康的な食事をしている人は認知症のリスクが低く、反対に炎症を引き起こす食事をしている人は認知症のリスクが高いことがわかりました。

認知症予防のために毎日食べたい!抗炎症力や抗酸化力を持つ○○科の野菜とは何?によれば、認知症リスクを減らすために毎日食べたい食材としてアブラナ科の野菜を紹介しています。

その理由としては、アブラナ科の野菜には、認知症予防に欠かせない「抗炎症力」「解毒力」「抗酸化力」という3つの力が備わっているから。

ブルーベリーやイチゴなどフラボノイドを豊富に含むベリー類を摂取すると、高齢女性の記憶力低下を2.5年遅らせることができる!では、ブルーベリーやイチゴに含まれるフラボノイド(特にアントシアニン)が活性酸素(細胞を傷つける物質)を減らし、脳の神経細胞を老化やダメージから守る抗酸化作用があり、また、脳の炎症を抑え、認知症やアルツハイマー病のリスクを下げる抗炎症作用があると紹介されています。

つまり、認知症リスクを下げる方法の一つとして、抗炎症作用のある食品を選択するといいのではないでしょうか?

【関連記事】

■まとめ

玄米を食習慣の一つに取り入れることで認知症予防につながることが期待されます。

→ 玄米の健康効果 について詳しくはこちら

→ 認知症対策|認知症に良い食べ物・栄養 について詳しくはこちら

【参考文献】







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

この街を初めて訪れた方へ

この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。

この街には、生活・料理・健康についての記事が、
同じ考え方のもとで並んでいます。

ここまで書いてきた内容は、
単発の健康情報やレシピの話ではありません。

この街では、
「何を食べるか」よりも
「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。

もし、

なぜこういう考え方になるのか

他の記事はどんな視点で書かれているのか

この話が、全体の中でどこに位置づくのか

が少しでも気になったら、
この街の歩き方をまとめたページがあります。

▶ はじめての方は
👉 この街の歩き方ガイドから全体を見渡すのがおすすめです。

▶ この街の地図を見る(全体像を把握したい方へ)

※ 無理に読まなくて大丈夫です。
 気になったときに、いつでも戻ってきてください。

この考え方の全体像(意味のハブ)

この記事で触れた内容は、以下の概念記事の一部として位置づけられています。

▶ 料理から見る健康

この街の考え方について

この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。

▶ この街の中心に置いている憲法を読む