今回紹介する記事は、オランダ人のレイモンド・フェルハイエンが提唱するサッカーのコンディショニング理論「ピリオダイゼーション/PTP」に関する記事です。
バルセロナの選手たちが、激しいショートスプリントを90分間続けられるのは、「ピリオダイゼーション/PTP」によるコンディショニング理論が受け継がれているからなのだそうです。
■どうすれば90分間を通してハイテンポなプレーができるのか?
by Jeroen Bennink(画像:Creative Commons)
Jリーグが進歩するために学ぶべき、世界最高のコンディショニング理論。~【第1回】 バルサも採用するPTP~
(2012/1/1、Number)
サッカーの試合において、チームのパフォーマンスが低下してしまうのには、大きく分けて2つの理由がある。
ひとつは「疲労で選手が動けない」ということ。試合の終盤によく見られる現象で、攻撃から守備の切り替えの場面で戻れなくなったり、プレスをかけに行くべきときに足が止まってしまうということが起こる。こういう選手が増えると、もはやチームの組織はズタズタだ。
もうひとつは「体力をセーブして選手が動かない」。試合の前半によく見られ、90分間のペース配分を重視しすぎるがゆえに、立ち上がりのテンポが遅くなってしまう。
1.疲労で選手が動けない
試合の序盤からハイプレスをかけると、試合の終盤になり、疲労で選手が動けないということが起こります。
例:「2002年W杯の韓国代表」
ヒディンクは韓国代表の選手が、試合の60分をすぎたあたりからガクっと動きの質が落ちることに気がついた。
W杯で驚くような結果を残すには、何としても前半の激しさを90分間保ちたい。
そこでヒディンクはオランダからレイモンドを呼び寄せ、肉体改造を依頼。
レイモンドは意図的に練習の量を減らし、さらに“特定の条件”を満たす11対11のトレーニングをすることで、選手たちに90分間戦える能力を身につけさせた。
ベスト4という結果が、この理論の正しさを証明した。
2.体力をセーブして選手が動かない
90分間のペース配分を重視するあまり、力を出し切れずに終わったり、立ち上がりのテンポが遅くなったりしてしまいます。
例:ユーロ2008のロシア代表
ヒディンク就任当初、ロシア代表は90分間の中で波はあまりなかったが、それは前半のペースをセーブしているからだった。レイモンドはヒディンクにこんな冗談を言った。
「これなら3日間サッカーを続けても疲れない」
“特殊”な少人数のトレーニングによって、ロシアの選手たちは立ち上がりから激しくプレーできるようになり、ベスト4という好成績を残した。
■ほぼすべてのフィジカルトレーニングにボールを使用する。
レイモンド・フェルハイエンが提唱するサッカーのコンディショニング理論の特徴についての部分を抜き出してみます。
レイモンド理論の特徴は、ほぼすべてのフィジカルトレーニングをボールを持って行なうことだ。
たとえばレイモンドは基本的に、選手たちにランニングや持久走をさせない。「サッカーは持久力のスポーツではない」と考えているからだ。彼にとって、グラウンドを何十周もするような練習はまったく意味がない。
「マラソンや持久力のスポーツは、酸素を使ってエネルギーを生み出している。だが、サッカーは瞬間的なアクションが多く、主に筋肉の状態を回復させるために酸素を使っているんだ。酸素の使い方がまったく違う。だから、サッカー選手に対して、長く持久的なトレーニングをさせることは意味がない。逆に速筋が減ってしまうと言えるくらいだ。サッカーにおいて重要なのは、回復のスピードを鍛えることなんだ」
また、練習量が少ないのも特徴のひとつだ。「能力の限界を少しだけ超えた、101%の状態で練習する」(オーバーロード・トレーニング)という概念が根底にあり、疲れているときに練習しても能力は伸びないと考えている。
「これまでのコンディショニング理論には、サッカーを正しく分析するということが欠けていた。サッカーにどんな場面があり、どんな動きが必要かを考えれば、自ずとやらなければいけないことが見えてくる」
まとめてみます。
- ほぼすべてのフィジカルトレーニングをボールを持って行なう
- 基本的に、選手たちにランニングや持久走をさせない
サッカーは持久走のスポーツではない。瞬間的なアクションが多く、長く持久的なトレーニングをさせると、かえって速筋が減ってしまうおそれがある。 - サッカーにおいて重要なのは、回復のスピードを鍛えること
- 「能力の限界を少しだけ超えた、101%の状態で練習する」(オーバーロード・トレーニング)
疲れているときに練習しても能力は伸びないという考え - サッカーにどんな動きが必要かを考えた上で、トレーニングを考える。
→ 「走り込み」はサッカーのトレーニングメニューとして必要なのか? について詳しくはこちら
1RMの80%の重さで筋トレ
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Jリーグが進歩するために学ぶべき、世界最高のコンディショニング理論。~【第2回】 PTPの2つの基本認識~
(2012/1/2、Number)
レイモンドは理論を構築する際、サッカーの試合を徹底的に分析し、必要とされるパフォーマンスを次の2点に絞った。
「爆発力」と「アクションの頻度」だ。
◯爆発力
たとえば試合で守備をするとき、一口にプレスをかけると言っても、猛烈な勢いで相手に詰め寄るのと、緩慢な動きで近づくのでは、まったく効果が違う。
守備から攻撃への切り替えでも、一気に前線に飛び出すのと、反応が遅れるのとでは、得点の可能性が大きく変わってくる。
こういう瞬間的なパフォーマンスを、レイモンドは「爆発力」と呼んでいる。
◯アクションの頻度
一方、「アクションの頻度」とは、パス、ドリブル、プレス、パスカット、攻守の切り替えといったアクションを、試合の中でどれだけたくさんできるかということだ。
何か激しいアクションをしたあとに、回復に30秒かかる選手もいれば、15秒で大丈夫な選手もいる。
「アクションの頻度」が多いほど、そのチームはハイテンポなサッカーができることになる。
これは言い換えると、瞬間的な「回復力」が高いほどいいということだ。
回復が速ければ、すぐに次のアクションを行うことができ、アクションの頻度が増す。
そこで、レイモンド理論の発想のベースとなるのが、4つのポイントです。
<レイモンドの理論の4つのポイント>
(1)爆発力の向上
(2)爆発力の持続
(3)アクションの頻度の向上 (=回復力の向上)
(4)アクションの頻度の持続 (=回復力の持続)
では具体的にどのようなトレーニングメニューが良いのでしょうか?
◯爆発力の向上のためのトレーニングメニュー
まず(1)を鍛えるのに適しているのが、「フットボールスプリント」だ。レイモンドは次の3つの状況を設定し、どれが一番速いかという実験を行った。
a. 1人だけで15m走る
b. 2人で同時に15m走る
c. コーチがボールを15m前方に蹴り、2人が同時に追い、先に取った選手がシュートそしてタイムを計測した結果、陸上の常識ではありえない結果が得られた。最も速かったのは「c.」のボールを追ってシュートする場合だったのだ。
レイモンドは言う。
「この実験からわかることは、サッカーの局面を作ることで、選手に刺激を与えられるということ。100%の力で走れと言われても、なかなか自分の意識だけではその限界には達せられない。だが、外部からの刺激を使えば、限界を超えられる。ライオンから追われたら、誰でも本気で走るだろ(笑)」
この実験は面白いですよね。
一人で走るよりも二人で走るほうが競争することで速くなるというのはよく言われていたことですが、さらに、外部からの刺激を与えることで、限界を超えて走ることができるというわけです。
「爆発力の能力値を上げるというのは、100%を101%にすること。その唯一の方法は、どのスプリントも100%で走ることだ。90%で走っても、爆発力はなかなか高まらない。だから、疲れている状態でやっても意味はなく、たっぷりと休息を取ることが鍵になってくる」
100%でフットボールスプリントを行い、十分な休憩の後、また100%でフットボールスプリントを行う。そして、また休憩。このサイクルを繰り返すことによって、爆発力を鍛えられるとレイモンドは考えている。
ここで書かれていることは、自分の限界を超えた状態を作り出すこととたっぷりと休息をとることというサイクルを繰り返すことによって、爆発力を鍛えられるということです。
◯爆発力の持続のためのトレーニングメニュー
「爆発力の持続」能力を鍛えるためには、逆に休息を短く設定する。
もうスプリントをできない……というぎりぎりのオーバーロードの状況を作り、爆発力の持続力を高めるためだ。
オーバーロードの状況を作り、少しずつ休息を短く設定していくということみたいです。
Jリーグが進歩するために学ぶべき、世界最高のコンディショニング理論。~【第3回】 PTPのメニューと実践~
(2012/1/3、Number)
◯アクションの頻度を向上させるためのトレーニングメニュー
「アクションの頻度」を向上させるには、4対4や3対3といった少人数のゲームが最もふさわしい。
4対4なら1分間のアクションの数は12~13回にもなり、高い頻度を体に覚えさせられるからだ。
少人数のゲームを行うことで、短時間にたくさんのアクションを起こせるようになるようです。
「サッカーのアクションでは、酸素を取り入れている余裕はないから、筋肉内に溜め込まれた物質が使われる。回復とは、再びその物質を筋肉内に溜め込むこと。この機能を鍛えることで、回復時間が速くなり、短時間に何度もアクションを起こせるようになる」
◯アクションの頻度を持続させるためのトレーニングメニュー
レイモンドの場合、11対11(もしくは8対8)のゲームで監督がコーチングすることによって、「体はきついが、指示で動かなきゃいけない」という状況を作り、アクションの頻度をオーバーロードさせる練習を行なっている。
たとえば1セット10分間の11対11のミニゲームを、2分間の休憩をはさみながらやったとしよう。もし4セット目の6分の時点で、選手の息が切れていたり、攻守の切り替えができないといった状況になったら、それが回復力の持続の限界のポイントだ。
そのときにあえて「今、プレスをかけろ!」といったコーチングをすれば、選手は体力の限界を超えて動かざるをえない。
アクションの頻度を持続させるために行うことは、回復力の持続の限界を超えて動かすために、「体はきついが、指示で動かなきゃいけない」状況をあえて作るということである。
■選手の能力とコンディションを把握して、それぞれに合ったやり方をしなければいけない
ちなみにレイモンドは、従来のフィジカルトレーニングを完全に否定しているわけではない。
選手の能力に応じて、例外的にジムでマシーンを使ったメニューや体幹トレーニングを課すこともある。
「一番やってはいけないのは、指導者が理論にこだわりすぎて、理論を実行することが目的になってしまうこと。選手の能力とコンディションをきちんと把握して、それぞれに合ったやり方をしなければいけない」
先ほどまでの記事の内容を読むと、従来のフィジカルトレーニングは必要ないと思う人もいるかも知れませんよね。
しかし、選手の能力によっては、マシンを使ったトレーニングや体幹トレーニングをかすこともあるそうです。
それは、選手個々によってその能力は違うのであるから、理論にこだわり過ぎることなく、選手の能力とコンディションをきちんと把握して、それぞれに合ったやり方をしなければいけないというのが、大事なポイントです。
ここまで紹介してきたオーバーロード・トレーニングは、レイモンド理論の一部分に過ぎない。
こういうトレーニングをベースに、コンディショニングを6週間のスパンで向上させて行くサッカーの「ピリオダイゼーション」こそが、彼の真髄だ。
たとえば土曜日に試合があったら、日曜日はリカバリーの日に当て、月曜日はオフとする。そして火曜日は戦術トレーニング、水曜日に「フットボールスプリント」、「4対4」、「11対11」といったコンディショニング・トレーニングを行い、木曜日と金曜日に再び戦術トレーニングをする。
これまで紹介してきた内容はレイモンド理論の一部であり、こうしたトレーニングを試合のスケジュールに合わせて、コンディショニングを6週間のスパンで向上させて行くのが、最も大事なことみたいです。
そして、レイモンド氏が考える理論と同じ考えでたどり着いたのが、モウリーニョ監督なのだそうです。
by Aleksandr Osipov(画像:Creative Commons)
実はレイモンドの「ほぼすべてのコンディション・トレーニングを、ボールを使って行う」という結論に、まったく独立に達した指導者がいる。
レアル・マドリードを率いるモウリーニョ監督だ。モウリーニョはシーズン前の合宿でも、走りこみといった従来のフィジカルトレーニングは一切行わず、ボールを使ったメニューだけで体作りを行う。
レイモンド氏も言っていますが、サッカーのことを分析し、コンディショニングのことを考えると、そうした結論に行き着くのかもしれません。
「私の理論どおりに、他のコーチが指導するのが大事だとは思ってない。大事なのは監督自身が、自分のやり方を見つけること。サッカーを分析し、自分のやり方を生み出してほしい。やり方をコピーするのではなく、その国の文化にあわせたやり方を見つけることが必要だ」
もちろんレイモンド理論が全て正しいわけではないでしょうし、さらによい理論が生まれてくるだろうと思います。
大事なことは、「サッカーを理解して、そのためのトレーニングを行なう」ということです。
このことはその他のスポーツについても言えるかもしれません。
今回紹介した記事では、具体的なメニューも紹介されていましたので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
→ サッカーにおけるコンディショニングの大切さ|栄養補給のポイント(試合前日・試合当日・キックオフ前・ハーフタイム) について詳しくはこちら
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