2026年9月27日放送のNHKスペシャル「シリーズ 病への挑戦 第2集 うつ病 克服へのカギ」(司会:リリー・フランキー、ゲスト:南果歩)では、うつ病を「心の病」だけで捉える従来の見方ではなく、体の炎症がカギと紹介されました。
■ポイント:うつ病の「新たな原因」=体の炎症
世界で3億人以上、日本では生涯で約5人に1人がこころの病気を経験するとされるうつ病。
心のストレスだけでは説明しきれない要因として、肥満や糖尿病とも関わる「体の炎症」が鍵として取り上げられました。
●脳内炎症のメカニズム
心理的ストレスを受けると脳内の免疫細胞「ミクログリア」が過剰に活性化し、炎症物質を放出。
これが続くと神経ネットワークがダメージを受け萎縮し、うつ症状につながる(鳥取大学・岩田正明教授のマウス研究など)。
【参考文献】
ストレスが脳内炎症を介してうつ病を誘発する機序の解明と新たな治療法の開発
精神疾患の発症に重要な役割を果たしているストレスは、i ) 脳内の免疫システムにより感知されて脳内炎症を引き起こすこと、ii ) その中心となる分子はNLRP3と呼ばれる細胞内パターン認識受容体であることを突き止めた。
鳥取大学医学部精神行動医学分野の兼子幸一教授、岩田正明准教授、山梨豪彦助教らのグループは、人の体内でつくられる「βヒドロキシ酪酸(BHB)」に抗うつ作用があることを明らかにしました。
●全身の炎症との関連
エモリー大学のミラー博士らの研究では、うつ病患者の約4人に1人でCRP(炎症マーカー)の上昇が深く関与。
肥満で脂肪細胞が増大・死ぬと免疫細胞が炎症物質を大量放出する過程が指摘されました。
糖尿病(リスク1.3倍)、肥満・炎症性腸疾患・関節リウマチ(各1.5倍)など、炎症性疾患とうつ病の関連も紹介。
うつ病が肥満・糖尿病を悪化させる「悪循環」も指摘されています。
従来の「セロトニン不足」説も更新され、抗うつ薬の効果は神経細胞の接続ポイント(シナプス)の増加や神経ネットワークの回復に関わるという見方が示されました(ヘルシンキ大学・カストレン博士など)。
■炎症を減らす食事が予防・改善につながる可能性
食事改善は炎症を抑え、うつ症状の予防・改善に寄与しうるという最新研究が紹介されました。
●代表的研究(ディーキン大学・ジャッカ博士ら)
うつ病患者を「食事改善グループ」と「社会的支援(相談・傾聴)グループ」に分けて3か月実施。
食事改善グループの方がうつ症状の改善が大きかった。
この成果を受け、オーストラリアでは食事改善がうつ病診療ガイドラインに掲載されています。
●具体的な食事のポイント
・腸内環境を整える野菜・発酵食品などがうつ病リスクを抑制。
・加工食品の過剰摂取は腸内細菌に悪影響を与え炎症を発生させ、そのシグナルが脳に達して脳内炎症・神経ネットワーク萎縮を招く。
・腸内細菌の多様性が失われることがリスクになる、との指摘も。
●実際の改善例
オーストラリアのテレサさん(重度うつ病経験者)が食事改善を中心とした生活習慣改善の臨床試験に参加し、約3か月でうつ症状が大きく改善。
「良い食事は体の栄養になるだけでなく、心や精神も育んでくれる」と語っています。
食事改善には体の炎症を抑える効果が示され、予防法として注目されています。
番組出演の加藤忠史さんによると、日本のガイドラインでも「規則的な食事」を含む生活習慣改善は基本に位置づけられますが、食事だけで中等症以上のうつ病を治すことはできず、自然食品などの単体治療は提案しないと明記されています。
地中海食・日本食・ケトン食など「良い食事パターン」は複数あり、ジャンクフード・超加工食品の過剰を減らすことが重要です。
食事は治療の補助的な要素として捉えるのが適切です。
■まとめ
全体として、「うつ病は体の病気でもある」という理解を広げ、薬・カウンセリングに加え、炎症対策(食事・生活習慣)や脳刺激などを組み合わせた多角的なアプローチの可能性を示しています。
ただし、症状がある場合は自己判断せず、専門医に相談することが前提です。
■【補足】(番組外の参考情報)
うつ病は脳だけの病気ではなく、腸内細菌+環境汚染物質による炎症も原因の一つ!?によれば、慢性炎症はうつ病と深く結びついていることが知られており、これが「腸→炎症→脳」への影響の1つの説明になると考えられると紹介しました。
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【参考文献リスト】
1. 脳内炎症・ミクログリア関連(岩田正明教授ら)
Iwata M, Ota KT, Li XY, et al. Psychological stress activates the inflammasome via release of adenosine triphosphate and stimulation of the purinergic type 2X7 receptor. Biological Psychiatry. 2016;80(1):12-22. doi:10.1016/j.biopsych.2015.11.026
Iwata M. The neuroinflammatory hypothesis of depression. Japanese Journal of Biological Psychiatry. 2018;29(4):163-167. doi:10.11249/jsbpjjpp.29.4_163
(鳥取大学・岩田正明教授のストレス→ATP/P2X7R→NLRP3インフラマソーム→脳内炎症の研究。番組で紹介されたミクログリア暴走の基盤となる知見)
2. 全身の炎症とうつ病(CRP・約4人に1人)(ミラー博士ら)
Miller AH, Raison CL. The role of inflammation in depression: from evolutionary imperative to modern treatment target. Nature Reviews Immunology. 2016;16(1):22-34. doi:10.1038/nri.2015.5
Osimo EF, Baxter LJ, Lewis G, Jones PB, Khandaker GM. Prevalence of low-grade inflammation in depression: a systematic review and meta-analysis of CRP levels. Psychological Medicine. 2019;49(12):1958-1970. doi:10.1017/S0033291719001454
(うつ病患者の約25〜27%でCRP >3 mg/Lの低度炎症が見られるというメタ解析。ミラー博士らの炎症サブタイプ研究の基盤)
Miller AH. Advancing an Inflammatory Subtype of Major Depression. American Journal of Psychiatry. 2025;182(6):516-524. doi:10.1176/appi.ajp.20250289
(近年のミラー博士による炎症性うつ病サブタイプの提唱)
3. 抗うつ薬の作用機序(シナプス・神経可塑性)(カストレン博士ら)
Casarotto PC, Girych M, Fred SM, et al. Antidepressant drugs act by directly binding to TRKB neurotrophin receptors. Cell. 2021;184(5):1299-1313.e19. doi:10.1016/j.cell.2021.01.034
Castrén E, Monteggia LM. Brain-Derived Neurotrophic Factor Signaling in Depression and Antidepressant Action. Biological Psychiatry. 2021;90(2):128-136. doi:10.1016/j.biopsych.2021.05.008
(抗うつ薬がBDNF受容体TrkBに直接結合し、神経可塑性を高めるという最新の知見。従来のセロトニン仮説を超えた説明)
4. 食事改善とうつ病(SMILES試験・ジャッカ博士ら)
Jacka FN, O’Neil A, Opie R, et al. A randomised controlled trial of dietary improvement for adults with major depression (the ‘SMILES’ trial). BMC Medicine. 2017;15:23. doi:10.1186/s12916-017-0791-y
(ディーキン大学・Felice Jacka教授らによる食事改善群 vs 社会的支援群のRCT。オーストラリアのガイドライン掲載の根拠となった研究。テレサさんの事例もこの系統の介入に近い)
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