フィットネスクラブで怖い腎臓病が増加中…健康と美容のために摂取するとかえって”死を早める粉”の正体(2024/6/8、プレジデントオンライン)では、簡単にまとめると、プロテインの摂取が腎臓に悪いということでしたので、プロテインについて改めて調べてみることにしました。
間違いだらけの“プロテイン”摂取!?(2023/10/11、NHK)で解説されている鈴木志保子さん(神奈川県立保健福祉大学大学院 研究科長)の意見をまとめてみます。
1)たんぱく質が重要だという情報が広まったことにより、必要のない人が、必要以上に摂っていることにより、プロテインの摂り過ぎ(過剰摂取)が問題になっている
2)たんぱく質がないと人は生きていけないが、私たちの体に必要な栄養素には適正な摂取量があり、少なくても多くても困るという特性を持っている。(多すぎると過剰摂取、少なすぎると低栄養)
3)たんぱく質の処理は肝臓で行われる。摂取したたんぱく質は消化されてアミノ酸となり、体内で利用される。一方、余分なアミノ酸はそのまま体内に貯蔵されるわけではなく代謝されるため、必要以上に摂ればよいというものではない。
4)たんぱく質(プロテイン)を摂るからマッチョになるのではなく、いいトレーニングを前提に、足りない栄養素がある際に補充するという考え方
5)たんぱく質を含む食事をきちんと食べれば運動後にプロテインは必要ない(昔は言われていたが今はエビデンス上なくなっている)
※これは「運動後のたんぱく質摂取に意味がない」という意味ではありません。運動前後を含め、1日を通して必要なたんぱく質を十分に摂れているか、次の食事をいつ摂れるかなどによって考え方は変わります。
例:体重1kgあたり1gのたんぱく質が必要で、体重60㎏の人の場合一日60gのたんぱく質が必要となり、3食で割ると1食20gとなる。
朝ごはんの場合、食パン6枚切り1枚(たんぱく質6.2g)、卵1個(たんぱく質7.3g)、牛乳1杯(たんぱく質6.6g)→合計20.1g
■補足|たんぱく質と肝臓・腎臓はどう関係する?
ここで、「たんぱく質の処理」と肝臓・腎臓の関係について整理しておきます。
食事から摂取したたんぱく質は消化によってアミノ酸となり、体内で新しいたんぱく質の合成などに利用されます。余ったたんぱく質をそのまま「たんぱく質」として蓄えておく仕組みはないため、余剰分は代謝されます。
この過程で肝臓はアミノ酸やアンモニアの代謝に重要な役割を果たしています。
つまり、たんぱく質の代謝を考えるときには肝臓、最終的な窒素代謝産物の排泄を考えるときには腎臓という、両方の臓器の働きを考える必要があります。
そのため「プロテインを摂ると腎臓に悪いのか?」を考える場合にも、単純に「プロテイン→腎臓」という話ではなく、摂取したたんぱく質が体内でどのように利用・代謝・排泄されるのかという一連の流れから考えることが大切です。
この知識をベースに先ほどの記事に戻ってみます。
おそらく反感を買いやすいのは「プロテインによい効果は一切ありません」「プロテイン由来のタンパク質が筋トレの効果向上に寄与することはない」というところではないでしょうか?
適切な言葉に置き換えると、3食の食事ですでに必要なたんぱく質を摂取できている人が、さらにプロテインを追加する必要があるのか、まず普段の食事から見直してみようということではないでしょうか。
たんぱく質の代謝には肝臓が関わり、その窒素代謝産物の排泄には腎臓が関わります。ただし、こうした生理的な働きが増えることと、それによって健康な人の肝臓や腎臓が障害されることは同じではありません。健康な成人を対象にした研究では、高たんぱく食による明確な腎機能への悪影響が確認されていない報告もあります。
そのため、「プロテインは腎臓に悪い」と一律に考えるのではなく、自分の健康状態や運動量、普段の食事を踏まえて、本当に追加のたんぱく質が必要なのかを考えることが大切です。
たんぱく質を摂ることは重要なんだけれども、3食の食事の中にたんぱく質を含む食べ物が入っていれば、決してプロテインを摂る必要がないのに、たんぱく質を摂らないとよくないよーということを過剰に宣伝してしまって、誤ってプロテインを摂ってしまうことには注意が必要ということなんだと思います。
ただもう一つの見方として、フレイル・サルコペニアの人にとってのたんぱく質摂取の重要性の話があります。
高齢者は健康な状態から急に要介護状態になるわけではなく、食欲の低下や活動量の低下(社会交流の減少)、筋力低下、認知機能低下、多くの病気をかかえるといった加齢に伴う変化があり、低栄養、転倒、サルコペニア、尿失禁、軽度認知障害(MCI)といった危険な加齢の兆候(老年症候群)が現れ、要介護状態になると考えられます。
しかし、フレイルの段階で、適切な介入・支援を行なうことができれば、要介護状態に至らず、生活機能の維持・向上が期待できると考えられます。
ここで1つ考えなければならないことがあります。
それは、中高年における生活習慣病対策・メタボ対策とフレイル対策ではぶつかってしまうところがある点です。
例えば、これまでにも要介護者の中にはたんぱく質が不足する「低栄養」の人が多いということを紹介してきました。
適切な食物摂取ができず、栄養状態が悪化していることを「低栄養」と呼びます。
低栄養になると、免疫が低下したり、筋肉が減少したり、骨が弱くなったりすることで、感染症に掛かりやすくなったり、骨折するおそれが高くなるようです。
たんぱく質摂取と骨格筋|たんぱく質の関与|フレイルティ及びサルコペニアと栄養の関連|高齢者|厚生労働省によれば、高齢者はたんぱく質の摂取量が少ないと、フレイルティの出現リスクが増加するそうです。
なぜ高齢者になるとタンパク質が不足しがちなのでしょうか?
それは、肉料理が苦手だったり、以前は、家族のために栄養を考えて、肉や卵などを使って料理をしていた人が、一人暮らしになってから、自分が好きなものだけを食べることで食が偏るようになって、肉や卵を使った料理を食べなくなってしまったり、食事の量自体が減ってしまったり、中高年の頃からのメタボ対策のための粗食を継続してしまったりすることで、たんぱく質が不足してしまうということがあるからです。
つまりは、中高年(メタボ対策)から高齢者(フレイル対応)への食習慣の移行ができていないことが低栄養の原因の一つになってしまっているのです。
【ガッテン】大豆たんぱく質で筋力アップ(二川健)&心疾患予防(家森幸雄)!必要摂取量!によれば、筋委縮(サルコペニア)が進む寝たきりの方たちに「大豆たんぱく質8g」を30日間摂取してもらう実験を行ったところ、約7割の方に筋力改善(筋力が約40%アップ)の傾向が見られたそうです。
年代や性別で食事のやり方を変えていく必要があるという視点が大事であり、「たんぱく質は大事な栄養素」といっても、誰に言うかによって全然意味合いが違ってきます。
読者側(メッセージの受け取り手)も自身の健康状態を把握した上でこうした健康に関する記事を正しく読む姿勢が必要なのではないでしょうか?
■健康な人が高たんぱく食を続けると腎臓は悪くなる?
「たんぱく質を多く摂ると腎臓に負担がかかる」という表現をよく見かけますが、ここでは「腎臓の仕事量が増えること」と「腎臓が障害されること」を分けて考える必要があります。
2018年に発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、腎疾患のない成人を対象とした28研究、1,358人のデータが解析されています。
高たんぱく食では介入後のGFR(糸球体濾過量)がわずかに高くなっていましたが、介入前から介入後までのGFRの変化を比較すると、通常・低たんぱく食との有意な差は認められませんでした。研究者らは、健康な成人では高たんぱく摂取がGFRに悪影響を与えなかったと結論づけています。
また、2026年のメタ解析を紹介する資料でも、CKD(慢性腎臓病)のない成人を対象とした22件のRCTで、高たんぱく食による腎障害を示す一貫した所見はみられなかったとされています。一方、この解析に含まれる研究期間は7日~2年であり、長期間にわたる安全性まで証明したものではありません。
つまり現在の研究からは、「健康な成人が高たんぱく食をすると腎臓が悪くなる」と単純に言うことは難しいようです。
ただし、これを反対方向に広げて、「健康なら2g/kg、3g/kgといった大量のたんぱく質を何十年摂り続けても安全」とまで言うこともできません。
「悪影響が確認されていない」と「長期間の安全性が証明された」は同じ意味ではないからです。
【参考文献】
- Devries MC, Sithamparapillai A, Brimble KS, Banfield L, Morton RW, Phillips SM. Changes in Kidney Function Do Not Differ between Healthy Adults Consuming Higher- Compared with Lower- or Normal-Protein Diets: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Nutr. 2018 Nov 1;148(11):1760-1775. doi: 10.1093/jn/nxy197. PMID: 30383278; PMCID: PMC6236074.
- 高タンパク質の食事は腎臓に悪い?RCTメタ解析で検証
■では、子どもにプロテインを飲ませるのは危険なの?
最近、Xで「子どもにプロテインを飲ませること」について議論になっています。
「成長期だからたんぱく質はしっかり摂ったほうがいい」「スポーツをしている子どもならプロテインを飲ませてもいいのでは?」という意見がある一方で、「子どものうちから必要以上にプロテインを摂取すると、腎臓への負担が心配」という意見もあります。
では、実際のところ、子どものプロテイン摂取について何がわかっているのでしょうか?
ここで大事なのは、
「プロテインを飲むと腎臓が悪くなるのか?」
という問いと、
「そもそも、その子に追加のたんぱく質が必要なのか?」
という問いを分けて考えることです。
■子どもにもたんぱく質は必要。でも「多ければ多いほどいい」わけではない
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、子どものたんぱく質の推奨量が年齢・性別ごとに設定されています。
例えば1日の推奨量は、
3~5歳:男女とも25g
6~7歳:男女とも30g
8~9歳:男女とも40g
10~11歳:男子45g・女子50g
12~14歳:男子60g・女子55g
15~17歳:男子65g・女子55g
となっています。
さらに小児期では、1歳以降のたんぱく質について総エネルギー摂取量に占める割合として13~20%という目標量も示されています。
つまり、成長期の子どもにとってたんぱく質が重要なのは間違いありません。
ただ、
「成長期だからたんぱく質をできるだけ多く摂ったほうがいい」
という話ではないことにも注意が必要です。
■「○g以上摂ったら腎臓を壊す」という基準があるわけではない
ここが今回の議論で誤解されやすいポイントではないでしょうか。
「たんぱく質の摂りすぎが危険というなら、いったい何gから腎臓に悪いの?」
という疑問が出てきます。
しかし、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、たんぱく質について推定平均必要量、推奨量、目標量は設定されていますが、耐容上限量は設定されていません。
ここで注意したいのは、
「上限量が設定されていない」=「どれだけ摂っても安全」
という意味ではないことです。
反対に、
「推奨量を少し超えたら危険」
という意味でもありません。
食事摂取基準における「推奨量」は、対象となるほとんどの人が必要量を満たす量として設定されている指標です。
そのため、推奨量を「ここを超えたら危険になる上限値」として扱うのは適切ではありません。
■健康な大人の研究結果を、そのまま子どもに当てはめていいの?
もう一つ考えておきたいのがここです。
高たんぱく食と腎臓については成人を対象とした研究が数多くあります。しかし、「健康な成人で明らかな腎機能障害が確認されなかった」という研究結果があったとしても、それだけで、
「成長期の子どもが長期間、必要量を超える量のプロテインを摂っても安全」
と結論づけることはできません。
子どもについて調べた研究もあります。
「Generation R Study」では、2,968人の子どもを対象に、1歳時点のたんぱく質摂取量と6歳時点の腎臓の大きさや腎機能との関連が調べられました。
その結果、食事や生活習慣などの要因まで調整すると、幼児期のたんぱく質摂取量と6歳時点の腎臓の大きさや腎機能との間に独立した関連は認められませんでした。
これは少なくとも「子どもがたんぱく質を多く摂ると腎臓が悪くなる」と単純に言える研究結果ではありません。
一方で、この研究は「子どもがプロテインを長期間、多量に摂取しても安全か」を検証した臨床試験ではありません。したがって、この結果から「子どもはいくらプロテインを摂っても安全」と結論づけることもできません。
つまり、
「子どもの高たんぱく摂取が腎臓を壊すことが証明されている」
と言い切るのも慎重になる必要がありますし、その反対に、
「腎臓を壊すという証拠がないのだから、子どももたくさん摂って大丈夫」
と考えるのも飛躍があります。
「危険性が証明されていないこと」と「長期的な安全性が十分に証明されていること」は同じではないからです。
「プロテインが悪い」ではなく「食事+プロテイン」で考える
そしてもう一つ重要なのは、プロテインだけを切り離して考えないことではないでしょうか。
例えば、
朝食、学校給食、夕食、おやつなどからすでに十分なたんぱく質を摂っている子どもが、さらにプロテインを追加している場合、
「プロテインを何g飲んでいるか」
だけを見るのではなく、
「食事とプロテインを合わせて、1日を通してどれくらいのたんぱく質を摂っているのか」
を見る必要があります。
反対に、食が細い、偏食がある、競技スポーツをしているなど、個人によって食生活や必要性は違います。
また、腎臓病など疾患がある場合には、健康な子どもとは同じようには考えられません。厚生労働省の食事摂取基準自体も、疾患を持つ人の治療を目的とする場合には、関連する治療ガイドラインなどの栄養管理指針を用いるという考え方を示しています。
■「必要なのか?」を最初に考えてみよう
今回改めて調べてみると、「子どもにプロテインを飲ませていいか?」という議論は、
プロテインは安全か危険か
という二択だけではうまく整理できないように思います。
考える順番としては、
その子が普段の食事からどれくらいたんぱく質を摂っているのか
年齢や性別、体格、活動量などを考えると不足しているのか
食事で補うことができるのか
それでも不足する場合にプロテインなどで補う必要性があるのか
という順番で考えたほうがわかりやすいのではないでしょうか。
これはこの記事の最初に紹介した、
「プロテインを摂ればよいのではなく、食事を基本として、足りない栄養素がある場合に補う」
という考え方ともつながります。
■まとめ|「たんぱく質は大事」と「たくさん摂ればいい」は違う
今回の子どものプロテイン論争を見ていると、健康情報を読むときには、
「科学的にわかっていること」と「まだ十分にわかっていないこと」を分けて考えることが大切
なのだと思います。
現時点では、健康な子どもについて「プロテインを飲めば腎臓を壊す」と単純に断定するのは難しい一方、「健康なら必要以上にたんぱく質を摂取しても問題ない」と断定できるわけでもありません。
そして何より、たんぱく質は子どもの成長に必要な栄養素です。
大切なのは、
「プロテインは危険か、安全か?」
だけを見るのではなく、
「この子に必要なたんぱく質はどれくらいで、普段の食事からどれくらい摂れていて、追加する必要があるのか?」
という視点ではないでしょうか。
この記事で紹介したように、高齢者では逆にたんぱく質不足による低栄養やフレイルが問題になることがあります。
子ども、成人、高齢者、運動をする人、腎機能が低下している人。
同じ「たんぱく質は大切」というメッセージでも、誰に向けて言っているのかによって、その意味は変わります。
だからこそ、「たんぱく質は腎臓に悪い」「プロテインはいくら摂っても大丈夫」といった一言だけで判断するのではなく、自分の年齢や健康状態、食生活まで含めて考えることが大切なのではないでしょうか。
■なぜ「プロテイン論争」は噛み合わないのか?
今回、Xでの議論を見ていて感じたのは、プロテインを肯定する側と慎重な側では、そもそも答えようとしている質問が違うのではないかということです。
「健康な人が高たんぱく食をすると腎臓が悪くなるのか?」という問いと、「必要量を食事から摂れている人が、さらにプロテインを摂る必要があるのか?」という問いは別です。
前者については、健康な成人を対象とした研究では、高たんぱく食による明確な腎機能への悪影響が確認されていない研究があります。
しかし、それは「必要量を超えて摂取することを積極的に勧めるべき」という意味ではありません。
反対に、「必要以上に摂る必要はない」という栄養学的な考え方も、「一定量を超えたら健康な人の腎臓が壊れる」という証明ではありません。
さらに子どものプロテインについて考えるのであれば、健康な成人の研究結果をそのまま当てはめられるのかという問題もあります。
「害があるのか」「必要なのか」「どこまで安全なのか」「その研究結果を誰に当てはめられるのか」。
これらを分けて考えないと、同じ「プロテイン」について話していても、議論はなかなか噛み合わないのではないでしょうか?
「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」
この街を初めて訪れた方へ
この記事は、例えるなら「ばあちゃんの料理教室(ハクライドウ)」という街の中の「ひとつの家」です。
この街には、生活・料理・健康についての記事が、
同じ考え方のもとで並んでいます。
ここまで書いてきた内容は、
単発の健康情報やレシピの話ではありません。
この街では、
「何を食べるか」よりも
「どうやって暮らしの中で調整してきたか」を大切にしています。
もし、
なぜこういう考え方になるのか
他の記事はどんな視点で書かれているのか
この話が、全体の中でどこに位置づくのか
が少しでも気になったら、
この街の歩き方をまとめたページがあります。
▶ はじめての方は
👉 この街の歩き方ガイドから全体を見渡すのがおすすめです。
▶ この街の地図を見る(全体像を把握したい方へ)
※ 無理に読まなくて大丈夫です。
気になったときに、いつでも戻ってきてください。
この考え方の全体像(意味のハブ)
この記事で触れた内容は、以下の概念記事の一部として位置づけられています。
▶ 料理から見る健康
この街の考え方について
この記事は、
「人の生活を、断定せず、文脈ごと残す」
という この街の憲法 に基づいて書かれています。
▶ この街の中心に置いている憲法を読む
投稿日: 2024年6月10日 11:36
