順天堂大学などの研究グループが、2026年7月にNature Communications誌で発表した論文によれば、大腸がんで、疲れたT細胞が出すIL-26が、がん細胞の核に直接入り込んで遺伝子のスイッチを変え、がんを攻撃するT細胞の働きを邪魔する免疫細胞を呼び寄せてがんを強くし、治療を効きにくくするという新しい仕組みがわかりました。
■背景:なぜこの研究が重要か?
大腸がんは日本でも患者数が多く、治療が難しいがんのひとつです。
特に「免疫チェックポイント阻害薬」(がんを攻撃するT細胞のブレーキを外して活性化させる治療)が効かない(治療抵抗性になる)ケースが少なくありません。
がん組織の周りでは炎症が起きやすく、この炎症ががんをさらに悪性にしたり、治療を効きにくくしたりすることが知られています。
しかし、「炎症がどうやってがん細胞の遺伝子の働きを変えてしまうのか」という詳しい仕組みはよくわかっていませんでした。
■主な発見
IL-26という分子が鍵です。
研究チームは、免疫治療に抵抗性のある大腸がん患者のデータを調べ、IL-26という炎症性サイトカイン(免疫細胞から出る情報伝達物質)に注目しました。
IL-26は、腫瘍の周りに集まった「疲弊した(働きが弱った)T細胞」(特にtype 17と呼ばれる特殊なT細胞)から多く産生されます。
大腸がん患者で全体的に発現が高く、胃がんや食道がんでも同様の傾向が見られます。
マウス実験でも、IL-26があると免疫治療の効果が大きく下がることが確認されました。
■IL-26ががんを悪性化させる仕組み
ここがこの研究の一番新しいポイントです。
通常のサイトカインは細胞表面の受容体に結合して信号を送りますが、IL-26はもっと直接的に働きます。
1)腫瘍特異的なtype 17 T細胞がIL-26を放出する(疲れたT細胞がIL-26を出す)。
2)IL-26ががん細胞の中に入り、核(細胞の司令塔)まで到達する。
3)核内で遺伝子調節因子(STAT1やBRD4など)と結合し、転写複合体を形成する(遺伝子のスイッチをコントロールする部品とくっつく)。
4)エピジェネティックな変化を起こす。DNA配列そのものは変わらずに、遺伝子の「オン・オフ」のスイッチが変わる。具体的には、BRD4やH3K27acが集まって遺伝子が活性化しやすい状態になる。
5)その結果、がん細胞がCXCLケモカイン(CXCL1、2、3など)を通常の数千倍も大量に産生する(「CXCL」という呼び寄せ物質を大量に作る)。
6)CXCLケモカインが好中球などの骨髄由来の免疫細胞を大量に呼び寄せる。
7)これらの細胞が、がんを攻撃するCD8陽性T細胞の働きを抑え込む。
8)結果として、免疫回避(がんが免疫から逃げやすくなる)、腫瘍の進行、免疫治療抵抗性が進む。
簡単に言うと、「疲れたT細胞が出すIL-26が、がん細胞の核に直接入り込んで悪性化のスイッチを押す」ようなイメージです。
T細胞由来の分子ががん細胞の遺伝子制御にここまで直接関与する現象は、これまであまり考えられていませんでした。
■治療への可能性
マウスモデルでIL-26やBRD4を阻害すると、がんの悪性化や免疫治療抵抗性が弱まりました。
つまり、免疫の薬も効きやすくなりました。
IL-26はマウスやラットには存在しない、人間にだけある分子のため、これまで見過ごされやすかったのですが、ヒト特有の標的として有望です。
今後、IL-26を標的にした治療法や、このエピジェネティックな仕組みを逆手に取った新しいアプローチが期待されます。
また、IL-26は自己免疫疾患や線維症、COVID-19感染時などでも上昇することが知られており、がん以外の慢性炎症疾患への応用も視野に入っています。
■まとめ
今回の研究でわかったのは、大腸がんで疲れたT細胞が出すIL-26が、がん細胞の核に直接入り込んで遺伝子のスイッチを変え、攻撃するT細胞の働きを邪魔する免疫細胞を呼び寄せてがんを強くし、治療を効きにくくするという新しい仕組みです。
「IL-26ががん細胞の中に入って直接スイッチをいじる」というイメージですね。
今後、IL-26を標的とした治療開発により、免疫治療が効きにくい大腸がんなどへの新しい道が開ける可能性が期待されます。
【参考文献】
- Itoh, T., Hatano, R., Hasegawa, Y. et al. IL-26-driven epigenetic remodeling promotes immune evasion in colorectal cancer. Nat Commun 17, 8764 (2026). https://doi.org/10.1038/s41467-026-75754-7
- 大腸癌の悪性化と免疫治療抵抗性をもたらす新たな分子機構を解明― 消化管癌の新たな治療へつながる可能性―(2026年7月23日、順天堂大学)
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