■宇野常寛「遅いインターネット」×家入一真「やさしいインターネット」「滑らかなお金の流れ」|#ハンプラ
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〈HANGOUTPLUS〉家入一真×宇野常寛 滑らかなお金の流れは社会をどう変えるのか
2018年2月23日放送の「HANGOUTPLUS」では、誰もがクラウドファンディングによって夢を実現させることのできるプラットフォーム「CAMPFIRE」代表であり、そこで生まれる「個人レベルでつながりを持ち、支え合うコミュニティ」を「小さな経済圏」と呼び、資本主義社会そのものをアップデートすると主張する家入一真さんと宇野常寛さんがインターネットやこれからの社会について議論していました。
■遅いインターネット
宇野常寛より、新年のご挨拶(全文無料公開)
(2018/1/1、Daily PLANETS)
いま世の中を変えるために必要なのは、もっと「遅い」インターネットだ。
評論家の宇野常寛さんは「遅いインターネット」が必要だと新年のあいさつで述べました。
今のインターネットが早すぎると感じているのは私だけではないようです。
最近起きている出来事の中には、インターネットによる「つながりすぎた世界」の影響が大きいと感じています。
英国のEU離脱後の経済危機をインターネット・SNSが増幅してしまう!? で紹介したインディアナ大学情報科学・コンピューティング学科でソーシャルメディアとマーケットの研究をする科学者ヨハン・ボレンによれば、「マーケットが下落し始めるとすぐに、それは市場のムードに、そして大衆の心情に影響し、次いでそれがオンラインで増幅される」そうです。
恐慌や取り付け騒ぎというのは、人々が抱えている不安や本当かどうかわからない噂などによって、不安の感情が増幅され、社会全体が混乱を起こした状態のわかりやすい例ですが、インターネットやソーシャルメディアはそうした不安を増幅させる可能性があるということです。
英国のEU離脱後の経済危機をインターネット・SNSが増幅してしまう!? で紹介した『つながりすぎた世界 インターネットが広げる「思考感染」にどう立ち向かうか』(著:ウィリアム・H・ダビドウ)によれば、インターネットが推し進める環境では、物事は超高速で進展するため、問題はもっと早くに積み上がり、頻度も高くなるそうです。
インターネットが物理的な結びつきをより強固で効率的なものにしている。
この21世紀の情報化社会の神経網は、情報を事実上ただで効率良く運び、かつて独立していたシステム同士を結びつけては相関関係を強めていく。
その結果、社会に存在する正のフィードバックは大幅に増幅される。事故が起きやすく、激しやすく、感染に対して脆弱な社会は、こうして生み出されるのである。
わたしたちはこの流れに適応しなければならない。現行の制度の多くはもっと結びつきの弱い社会を前提に築かれたものだ。
<中略>
カギを握るのはシステム内の正のフィードバックを減らすこと、つまり、結びつきを減じるか断ち切ることだ。
インターネット以前の社会では、情報の伝達スピードが遅いことが「ブレーキ」の役目を果たしていましたが、インターネット後の社会は情報の伝達スピードが速く、今出た情報もすぐに世界に広がってしまう可能性があります。
現代の世の中では、住宅ローンや学校、仕事、引っ越しの物流などの物理的な制限にさらされている。
だから人々が心情などによって分離していくプロセスは、きわめて緩慢に進行していく。
こうした制限が変化のブレーキになる。
だがインターネットのコミュニティではそうしたブレーキが効かない。
コミュニティに賛同するのも容易で、たとえば自分のブログの読み手をSNSのメンバーに加えるなど、リンクをクリックするだけでよい。
人間には自分と似た人間とつながりやすい傾向があるだけに、こうしたITのおかげで結びつきははるかに早く進行する。
そして、より甚大な結果をもたらす。(ニコラス・G・カー)
言い換えれば、インターネットは思考感染を促すということだ。
もし仮にスクープを出した側に誤りがあったとしても、インターネットのコミュニティではブレーキが効かないために、また、人間は自分と似た人間とつながりやすいために、思考感染を促してしまう恐れがあるのです。
ブレーキのような存在がなくなってしまった現代では、自らの判断力がそのブレーキの役目を果たす必要がありますが、世界的にパニックに陥った状況で、冷静な判断をするというのは大変難しいことだと思います。
そして、人々は無自覚に誤っているかもしれないフェイクニュースのような情報を拡散していることも分かっています。
現代人は読まない…。リンク先を見ずにリツイートしまくる人が大半であると判明
(2016/6/22、ギズモード)
リツイートがリツイートをよんでニュースは拡散しても、そもそもツイートに含まれているリンクから元のニュース記事へジャンプして内容を確かめたりしない人が、全体の59%にも達することが示されています。
米国のコロンビア大学、フランスのFrench National Instituteのコンピュータ・サイエンス共同研究チーが、Twitterで拡散されていく、CNN、New York Times、Huffington Post、BBC、Fox Newsへのリンク(短縮URL)が含まれたツイートを分析し、どのようにニュースがSNSの力で拡散されていくかの研究調査を実施したところ、元記事のリンクを読まずにリツイートしている人が全体の59%をしめていることがわかったそうです。
同研究チームのArnaud Legoutさんはこのようなコメントを発表しています。
記事を読むよりもシェアするだけで満足する人が増えている。これこそが現代の情報活用の典型的なかたちだ。ただ要約か、その要約の要約を見ただけで、それ以上は深く調べようともせず、人々の思考が形成されていく。
無自覚にシェアした記事で無意識のうちに思考が形成されていくというのは怖いことですね。
流言蜚語|寺田寅彦
最初の火花に相当する流言の「源」がなければ、流言蜚語は成立しない事は勿論であるが、もしもそれを次へ次へと受け次ぎ取り次ぐべき媒質が存在しなければ「伝播」は起らない。従っていわゆる流言が流言として成立し得ないで、その場限りに立ち消えになってしまう事も明白である。
私たちは知らず知らずの間に間違っているかもしれない情報を拡散してしまい、その情報をもとに判断してしまう人もいるのかもしれません。
真実を見極める目を持つことが重要だといわれますが、これほど情報にあふれた世界では大変難しいことだと思います。
「魔王」(著:伊坂幸太郎)の中に
『おまえ達のやっていることは検索であって、思索ではない-。』
という台詞があります。
自分自身もこの台詞を読んだ後、何かわからないことがあったらすぐに検索してしまい、その情報が本当にあっているのかどうか考えることなくわかったような気になっているなと思わされました。
情報を知ることは大事ですが、その情報を選別し、そして自分の考えにまでするのには、長い時間がかかります。
「自分の中に毒を持て」(著:岡本太郎)ではこのように書かれています。
人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。ぼくは逆に、積みへらすべきだと思う。財産も知識も、蓄えれば蓄えるほど、かえって人間は自在さを失ってしまう。過去の蓄積にこだわると、いつの間にか堆積物に埋もれて身動きができなくなる。
情報にあふれる世の中だからこそ、情報を収集することに追われるのではなくて、反対に情報を捨てていくことがこれからの時代を生きる上では大事なことなのではないでしょうか。
評論家の宇野常寛さんが提案した「遅いインターネット」のように、情報を自分で咀嚼し、お腹に入れて、それでもいいと思ったものを出すようなスピード感にしていくことが必要なのかもしれません。
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■Twitterのインフルエンサー問題
漠然と頭に浮かんでいた人も多いと思いますが、現在のプラットフォームビジネスにはTwitter有名人であるインフルエンサーが大きな影響を及ぼしています。
Twitterで多くのフォロワーを抱えているインフルエンサーが次々と新しいプラットフォーム(note、VALU、Timebank、Voicyなど)の上位を占めてしまう現象です。
実際に行動力があるからこそそうしたプラットフォームで人気になり、そうした行動をすることがインフルエンサーとしての影響力を大きくしているのでしょうから、ここではいい悪いは別にします。
ただ、この議論の中でも起きていたように、インターネットは本来それを望んでいたのかということです。
みんなが好きなように集まって自分たちのコミュニティを作り上げるのを望んでいたはずなのに、なぜかインフルエンサーに寄っていってしまうということが起きてしまっているんですよね。
家入一真さんはプラットフォームからランキングや新着をなくしたほうがよいという意見を言っていましたが、脳の報酬系の話から考えると、プラットフォームのランキングや新着に表示されるという報酬が得られることによって、ドーパミンが出てハマってしまう設計がないと、ユーザーに使ってもらえるサービスとして成り立たずに、プラットフォームになりえないのかもしれません。
■なめらかなお金の流れ
●お金を持っていない人へのフィンテックが大事
最近のインターネットビジネスでは、「ZOZOツケ払い」(2カ月間内で都合の良い時に支払いができる決済手段)や「メルカリ月イチ払い」(月次で購入した商品の代金をまとめて翌月に支払うことのできる)、「CASH」(モノをスマホで撮影し、食事入金される質屋アプリ)、給料前払いサービスのような今やりたい・買いたいことを我慢することなく、将来入ってくるであろうお金を前借りしたり、モノを現金化する仕組みが増えてきていると感じます。
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こうした流れを受けて、日本のフィンテックは「貧テック」だと揶揄する(読み方「やゆ」意味:からかう)人もいますが、ただそういう人は現状で苦しんでいる人のことが見えていないのかもしれません。
例えば、給与前払いサービスとは?|給料前借りアプリが注目のきっかけ!?人手不足で悩む2018年以降は給与前払いサービスが求人に応募するポイントになる?
で紹介した大手求人サイトの検索キーワードによれば、常に日本全国で「日払い 」「週払い」がベスト10にランクインするほどなのだそうで、求職者にとっては、「前払い」「日払い」「週払い」ということは重要な求人募集の要素となっているそうです。
奨学金による貧困問題|大学生の仕送りは減少傾向、アルバイトの就労率・収入金額の増加、返済に対する不安も によれば、仕送り10万円以上をもらっている学生は減少傾向にあり、アルバイトの就労率・収入金額ともに増加傾向にあり、アルバイトを増やすことで暮らし向きを良くしようとしているのがわかります。
つまり、それだけ多くの人が現在の金融の仕組みからはじき出されているということではないでしょうか?
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●社会包摂(インクルージョン)
「OPTION B」(著:シェリル・サンドバーグ/アダム・グラント)では、日本(特に女性)の貧困に関する記述があります。
日本では6人に1人が相対的に貧困とされる。女性とひとり親の場合、割合はさらに高い。
<中略>
世界全体で2億5800万人いる寡婦のうち、1億1500万人以上が貧困のなかで暮らしている。女性の賃金格差をなくすことが重要な理由は、ここにもある。
【参考リンク】
貧困率の年次推移|グラフでみる世帯の状況|平成26年国民生活基礎調査(平成25年)の結果から|厚生労働省
参考画像:貧困率の年次推移|グラフでみる世帯の状況|平成26年国民生活基礎調査(平成25年)の結果から |厚生労働省|スクリーンショット
平成24年相対的貧困率は16.1%となっています。
子どもの貧困率|相対的貧困率の国際比較(2010年)|平成26年版子ども・若者白書|内閣府
参考画像:子どもの貧困|平成26年版子ども・若者白書 |内閣府|スクリーンショット
子どもの貧困|平成26年版子ども・若者白書 |内閣府
OECDによると,我が国の子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高く,OECD平均を上回っている。子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中最も高い
内閣府の「平成26年版子ども・若者白書」で紹介されているOECDのデータによれば、ひとり親家庭など大人1人で子どもを育てている家庭が貧困に陥っていることがわかります。
以上のデータを参考にすると、日本における特徴としては、子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中最も高いという点です。
人によっては貧困は自己責任ではないかという人もいるかもしれませんが、重要なのは、人は離婚や死別、病気などのアクシデントが重なれば誰でも貧困に陥る可能性があるということです。
【参考リンク】
ひとり親家庭など大人1人で子どもを育てている家庭には母子家庭が多いというデータがあり、そのデータを踏まえて考えると、アクシデントでひとり親になってしまった母子家庭がなぜ貧困に陥りやすいのか、その原因を探り、どのような対策を行なっていく必要があるのかを考えていく必要があると思います。
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そこで、役立つと考えられるのが「インクルージョン」という考え方です。
「インクルージョン」という考え方を知れば、あなたの周りの世界はやさしくなる!? によれば、「インクルージョン(Inclusion)」とは、包含・含有・包括性・包摂・受け入れるといった意味を持ち、誰も排除せず、様々な人を受け入れる考え方です。
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「ブロックチェーン・レボリューション」(著:ドン・タプスコット+アレックス・タプスコット)
貧しい地域の人たちにとって、銀行口座を持つための最低残高や、決済の最低支払い額、システム手数料といった壁はあまりに高すぎる。金融機関のインフラにコストがかかりすぎるせいで、貧しい人たちのささやかな経済活動は犠牲になっているのだ。p66
今の仕組みではある程度のまとまった金額を貸さないと企業としては合わない計算であるため、貧しい人々向けに少額の貸し出しなどをするマイクロファイナンス(小規模金融)の分野は手つかずのままでいるのではないでしょうか。
技術の最先端にいる人たちだけを考慮していたのでは、分散ネットワークの力を十分に活用できない。もっと厳しい利用環境も考慮してあらゆる側面をデザインすることが必要だ。インフラが十分に整っていない地域の人たちをも含めて設計する時、初めて本当の意味でのインクルージョンが可能になる。p69
金融の仕組みから外れた人が一定層いて、その人たちがさらに悪い状況にならないための手段として何らかのテクノロジーで解決するというのは考えるべきではないでしょうか。
そして、そうした問題を解決するための根底にある考えとして「インクルージョン」があればサービスのあり方が変わってくると思います。
●生きていくために必要なお金をできるだけ下げていくことと新しい稼ぎ方
「〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則」(著:ケヴィン・ケリー)では「シェアリング(Sharing)」という項目の中で、未来のライフスタイルの中で複数の自動支払いが受けられる世界が描かれています。
例えば、エンジニアの人は設計したものが別のものに採用・応用されると支払いが流れてきて、そのものが売れれば売れるほど少額決済(マイクロペイメント)が増えていきます。
また、写真や様々な素材も同様に、コピーされたり、利用されると、少額のお金が入ってくるのです。
これからは「富の再分配」を考えるのではなく、複数の自動支払いを受けるサービスが求められるような時代になっていくのではないでしょうか。
そう「富の再分配」から「富の分配」という考え方への転換です。
そのためには、マイクロペイメント(送金コストがほぼゼロ)、創作物(写真や文章、コードなど)に個人の認証情報を埋め込みトラッキング(追跡)可能にすること、支払いに関しては、自動化するために、当事者間の契約条件を再現し、取引の実行や支払いのための価値の移動を(ブロックチェーン上で)自動的に遂行するスマートコントラクト(契約の自動化)、ブロックチェーンテクノロジーの発展が必要になってくるでしょう。
【追記(2018/9/4)】
「ライジングセラー」「オーナーズ」の小さな経済圏が社会を変えていく! で取り上げた「ライジングセラー」や「オーナーズ」という考え方に代表されるように、これまでの社会の問題点であったり、ひずみのようなモノであったものから生まれたプロダクトやサービスを提供する個人や企業が生まれています。
こうした流れは「遅いインターネット」「やさしいインターネット」「滑らかなお金の流れ」に通じるものがあるのではないでしょうか?
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